数学と国語、外国語
――まあ、私はあと二学園受けるですけどね。
私は気分を落ち着け、腹式呼吸をする。
「では、何か質問がある者は手を上げてください」
平民の者達は誰も手を上げなかった。皆、質問がないようだ。
なら、私が聴こう。
「はい」
「そこの、少女。なんですか?」
「試験時間が余ったら退室してもいいですか?」
「余るようなら、試験中、退出してもらっても構いません。ですが、再度記入したら、不正行為と見なします」
「わかりました。ありがとうございます」
私は頭を下げ、感謝した。机の上に置かれている懐中時計の時間を見るに八時四八分を過ぎた。残り一二分。
試験開始五分前、試験監督の方は試験問題が書かれていると思われる薄い冊子を持ってきた。一人、一人着実に渡していく。私の前にも冊子が置かれた。
冊子の表紙に書かれていたのは『入試問題(数学)』と言う質素な文面だけ。だが、それだけでも明らかに威圧感がある。
問題が配られた後、答案用紙も配られた。問題数はたったの八問。だが、単純な問題は数問だけで後は文章問題が多いのだろう。中間点も貰えるっぽい。
――ふぅ……。頑張るぞい!
私は心の中で叫ぶ。額にハチマキを付けていたらもっと気持ちが上がると思うが、そうもいかない。さすがに頭にハチマキを撒いている人はいなかった。
「では、数学の試験開始時刻の九時になりました。回答を始めてください」
試験監督が懐中時計を見ながら言う。すると、紙をめくる音が部屋の中で一斉に響いた。今、八万人の受験者が王都で一斉に紙を開いたのだ。何ともわくわくする瞬間である。
私は名前を回答用紙に書き、数学の問題を解く。難易度は中学生くらいかな。でも、数学は問題を解いた回数で出来るか出来ないかが変わる。
私は何度も何度も冊子の問題を解き、公式や解き方を完全に覚えていた。ライトとまではいかないが、スラスラ解ける。羽根ペンの勢いは止まらず、大問七まで二八分で解けた。良い調子だ。そのまま、大問八に取り掛かる。すると……出てきた。
『この問題は現在、未回答の問題である。過去の偉人が残した難問を解け』
――出た……。満点のさらに上を目指せる未解決問題。大問七までで一〇〇点分あるのに、さらに上を目指せと……。つまり、特待生を狙うのならこの問題をある程度解かなければならない。
大問八の問題は去年や一昨年と全く同じだった。なので、私はこの回答をすでに知っている。なんせ、天才のライトに答えを教えてもらったからだ。
だが、回答を全て書いてしまえば、私が天才呼ばわりされてしまう。王都で出来るだけ目立ちたくない私にとって完璧な回答は最悪の選択。だが、特待生は取りたい。そんな私の取る選択はいたって単純。
――半分解いて、半分不正解にする。
私は回答を丸暗記した学生が良く行う荒業を使う。馬鹿な学生がいきなり一〇〇点を取ったらおかしいと思われる。そのため、答えを丸暗記しているのにも拘わらず、わざと間違えた箇所を作って誤魔化す作戦だ。
成功するかわからないが、何か言われたら適当に解いていただけと言おう。別に殺されるわけじゃない。
そもそも、数学の未解決問題が解けたところで何の役に立つのかわからない。私は問題の意味も理解できないので、いつかぼろが出るかもしれない。そうなったら、無理やり誤魔化す。アイドルは嘘をつくのが上手いのだ。あんまりつきたくないけどね。
――さて……。そうこうしているうちに回答が半分解けたぞ。あとはライトが教えてくれた偽の回答を書いてっと。
ライトにお願いしたら似非の回答まで作ってくれた。考えがおかしくないようにしっかりと補正されており、まるで本物の答えのように見えるそうだ。
――よし、書き終わった。
私は数学の問題をやり切った。見直しを行い、書き間違いがないか調べる。書き間違いは無く、計算ミスを数カ所見つけた。横線で回答を消し、新しい回答を書く。すべてを終えたころ、四五分が過ぎた。
「では、手を止めてください。解答用紙と問題用紙を集めます」
試験監督は一人一人の机に移動し、回答用紙と問題用紙を集めていった。枚数を見て、問題がないと判断し、私達につかの間の休み時間が訪れる。
「はぁー。疲れた疲れた」
「くわあーー」
フルーファは暇すぎて大きな口を開きながらあくびをしていた。
「あ、あの。この子、触っても大丈夫?」
私の近くにいた少年がフルーファを見ながら言う。
「問題ないよ。大人しいから、噛みついたりしない」
「じゃ、じゃあ。触っていてもいい! ウォーウルフに触れる機会なんて無いからさ!」
「うん、良いよ。でも、試験まで一五分しかないからあまり、触りすぎないようにね」
「ありがとうっ!」
少年はフルーファのもこもこした毛皮を撫で、微笑んでいた。魔物に触れたいと言う意欲があるのは中々研究者気質のある子供らしい。まあ、平民が学園を目指している時点で何かしらの特徴があるのだろう。
その後も、フルーファに触れたいと言う子供達が後を絶たなかった。フルーファは皆の玩具に成り代わり、大量の子供達にもみくちゃにされ、いら立っていた。だが、私の命令は絶対なので、渋々聞いている。
「えっと……。私も良いでしょうか」
試験監督の先生すらもフルーファに触りたがった。まあ、魔物と触れ合えると言う経験は簡単に出来ない。ウォーウルフを使役しているテイマーの方にお願いして触らせてもらうくらいしか、方法がないはずだ。
――フルーファ、人気ものだね。
「め、面倒臭いから、早く終わってほしい……」
フルーファは尻尾をブンブン振りながら、舌をだらんと出し、情けない恰好で脚をぴくぴくと痙攣させていた。嘘が下手なペットだな。
一五分間の休憩中、子供達は皆、フルーファに触れ心を休めていた。逆に緊張が解れ、試験結果は良いものとなるだろう。
「では、続いて国語と外国語の試験を行います。時間配分は自分で決め、時間内に両方とも終わらせてください」
試験監督の先生はルークス語で書かれた問題冊子と外国語の問題冊子を配った。解答用紙も二枚ある。
「どっちから解こうかな……。まあ、問題を見てからでいいか」
外国語の問題冊子の方が分厚い。どうやら、多くの言語の中から一つ選び、解いてく形式のようだ。
――これだけの紙を作り出し、インクを刷ることができるなんて……。
「キララ様、これはスキルで生み出された品だと思われます。このような冊子を作るスキルと、印刷するスキルを使い、作成したんでしょう。やんわりと魔力が見えますよ」
ベスパは冊子の上に乗り、文字を撫でながら言った。
「なるほど。それなら、大量に作れるね」
私は冊子を撫で、大量に作ってくれた見知らぬ人物に感謝を込める。
懐中時計を見ると、午前一〇時になった。
「では回答を始めてください」
試験監督の方も懐中時計を見ながら、言う。
私はルークス語で書かれた問題冊子を開き、問題を見る。
大問一に書かれていたのはルークス語の意味を答える問題だった。単語が書かれており、その意味を答えると言う感じで、漢字を読んで意味を答えさせるようなものだ。
大問二に書かれていたのは記事の一面と内容を理解しているか問う形式だった。以前貰った冊子と同じような問題形式で一安心。文章をしっかりと読んで理解し、答案用紙に記入していく。
大問三、四、五と解かせる問題の形式は変わらず、世論や小説などの一部分を切り取り回答者に問うような形が多かった。大問六と七で過去のルークス語が出てきた。まあ、古文みたいな感じだ。私にとっては何ら問題なく解ける。
最後の大問八。解かせる気がない超難問。今回の問題は……。
『古代の人物が考えた呪文の一文である。解読し、内容を書け』
「へいへい、わかりましたよー」
最後の大問八は私が貰った冊子と同じ問題だった。つまるところ、天才少年、ライトの回答を私は知っている。この呪文はルークス語の語源となった天界語を経由しないと解けないそうだ。そんなの誰がわかるんだって感じだが、
ライトは文字の配列や感覚で察知し、組み合わせていったら理解できたらしい。もう嫌だよね、天才は。
私は当たり前のように半分回答。もう半分は嘘の回答を書く。
――よし、国語終わり。あー、結構時間使っちゃったな。
私は国語を解くのに四〇分使っていた。残り五〇分。外国語の方にさっさと取り掛からなければ間に合わない。出来れば六〇分欲しかったが、仕方がない。
「さっさとやるぞ……。えっと、えっと、ビースト語の問題は八八からと」
私は表紙裏に書かれていた問題ページを見て、ビースト語の問題が表示されている八八ページを開く。
外国語の問題数は国語と同じく大問八まである。だが、国語よりも文字数は少ない。帰国子女や親が他国の者だったらある程度簡単に解ける問題だろう。
ビースト語の大問一はビースト語で書かれた単語をルークス語に翻訳する問題。ざっと八問あり、これだけで点数が貰えるなんてありがたいかぎりだ。
大問二はビースト語の文章が書かれている間に、四択が示され一つだけの正解を選ぶ問題。これも簡単。正しくない単語は明らかに不可思議だ。
大問三は並び替え問題。ビースト語の単語が読みにくいように並べられた文章を正しく治す問題だ。
大問四と五は中文読解。大問六と七は長文読解。こんなの時間制限にやらせる量じゃない。でも、私はビースト語が話せるだけ、会得している。ただ読むだけなんて余裕だ。残り八分を残して大問八に取り掛かる。
「はぁ、はぁ、はぁ……。き、きつい……」
――最後の問題は……。えっと、ビースト語で書かれた文章を読み、四〇〇字以上の感想を書け。おお、面倒臭い……。
私はビースト語で書かれた文章を読んだ。内容はビースト共和国とルークス王国の平和協定についてどう思うかと言う論文のような難しい文章だった。
『ワタシハビーストキョウワコクトルークスオウコクガヘイワニナッテクレタラウレシイデス。ドチラモオナジイキトシイキルモノ。ナラバ、ミンナ、オナジヨウニイキルケンリガアリ、シアワセニナルケンリガアル。ドチラガユウレツヲキメルヒツヨウハナイトオモウ……』
私はビースト語で感想を淡々と書いていき、五分ほどで全て書き終えた。その後、ばばばっと見直しを行い、出来るだけ間違いが無いか見ていく。最初の問題がずれているとか言う災厄の結果にならず、一問、間違いを見つけ修正。名前も書いていることを確認した時、試験監督が立ち上がる。
「では、試験が終了いたしました。問題冊子と、回答用紙を集めます」
試験監督は途中から入って来た二名で冊子と用紙を集めていった。問題がないとわかると、口を開く。
「これで国語と外国語の試験は終了です。一五分間、休憩してください」
試験監督は別の先生に冊子と用紙を渡し、部屋を出て行く。




