デカブツの後処理2
「君がフロック君か、よく来てくれた。君が居なかったら、今頃我々は瘴気の海に飲まれていた所だ」
「いえ、たまたま街で起こったブラックベアー暴走事件の調査をしてた所に…、たまたまギルド長が連絡してくれただけですから」
フロックさんは、嫌味な顔でこちらを向く。
「また会ったな。お前は、どうやらブラックベアーに好かれているようだ。俺と同じようにな…」
「あんな化け物に好かれたくありません!金輪際、全く、絶対、一生、関わるのは、ごめんです!もう人生で、ブラックベアーに関わって3回も死にかけました!しかも、2回目と3回目の間が狭すぎます!」
「先日、助けたと思ったら…、まさかこんな早く、死にかけるなんて…」
口元を手で隠し、笑いを我慢する黒服の男…名をフロック…。
「何笑っているんですか!こっちは死にかけてたんですよ!」
「いや、悪い悪い…、だがちゃんと生き残っていると言う事は、神に見放されてねぇみたいだな。俺とは違って…」
「それって、どういう…」
私がフロックさんに質問しようとした時、カイリさんが話に割り込んできた。
「フロック、お前も早く聖水を飲め。体全身にドロドロの瘴気が付いて環境に悪い。それに瘴気を大分吸っているだろ。あと、いったい何時になったらその身長は伸びるんだ…」
「おい!最後のは全く関係ねえだろ!さっさとよこせ!」
「大丈夫だったかいレディー、何とか間に合ってよかったよ。こいつ、ブラックベアーと聞いた瞬間に飛び出していったからな。『またあいつが関わってるかもしれね!』って、こう見えてもレディーのことを心配してたんだよ」
「ふ~ん…そうなんですか?」
「んなわけねえだろ。俺は、悪に染まったブラックベアー殺しつくすことが目標なんだ。ただ、ここに着いたら敵がブラックベアーの姿をしてたから、ぶった切っただけだ」
フロックさんは私から眼をそらし、そっぽを向く。
そう言っている間に、空気中の瘴気は肉眼では見えなくなるほど、消滅していった。
「この液状になった瘴気を政府に持って行きます。瘴気発生の原因を調べなくては」
司教様は、空の試験官を取り出し、少量の瘴気を掬い取った。
「うわ…試験管から見ても、どす黒くて気持ち悪い…」
私の心の声が漏れてしまった…、周りも同じことを思っていたのか、首を縦に振る。
「では、残った瘴気を全て消滅させる。皆…儂の後に続け!」
掌を瘴気に向け、最後の一滴まで瘴気を消滅させた。
「フゥ…今日の所はこれでいいだろう。明日また魔力が回復次第更なる浄化を試みる。それで、この村と山も元に戻るであろう」
「本当ですか…良かった…」
「何とかなりましたね…。後は、私に任せてください。村人を街の病院へと送ります」
「うむ、よろしく頼む。リーズ殿であったな、この度は迅速な対応ごくろうであった。我々も到着が遅れてしまい申し訳ない」
「いえ、私はほとんど何もしていません。では、これで」
既に、危険な状態の村人は、ベスパとビーたちに運んでもらった、その方が速いし効率もいい。
リーズさんには、バレないようにしたつもりだけど…、まぁ人助けだからいいよね。
「それじゃ、俺達もそろそろ行きます。まだ調査が残ってますから」
「またどこかで会おうレディー」
――この人たちに会うと、ろくなことが無いから…出来るだけもう会いたくは無いな。
そう思いながらも、歩いてゆく彼らに手を振る。
枯れた木の木陰でライトは眠っていた。
「ん…ん…は!デカブツ!」
「わ!びっくりした…大丈夫?」
ライトは、頭に柔らかい感触を覚え起き上がる。
「もうちょっと寝てても、良いのに…疲れてるんでしょ?」
「き…君は誰…、どうしてここに居るの…。それにあのデカブツは…」
「私の名前はデイジー。倒れた貴方をキララさんに『見ててほしい』って言われたから、こうして膝枕をしてあげてたの。それにあの大きな熊さんは、もう真っ黒な服を着た人が倒してくれたよ」
デイジーは満面の笑みを困惑するライトに向ける。
「ぼ…僕の名前はライト…、ライト・マンダリニア。姉さんの弟です…」
「ねえ、あの緑色をした魔法を使ったのって、ライト君?」
デイジーは、正座をして自己紹介しているライトに思いっきり近づき、質問した。
「は…はい…、そうですけど…」
「やっぱりそうなんだ!ライト君があの魔法使ったんだよね。緑色の光がぴかーてしたやつ!」
「は…はい、それは僕の魔法です。あのデカブツには効きませんでしたけど…」
「ううん!あの光を浴びたら私、凄く元気になったの。だから凄く感謝してる、ありがとうライト君!」
デイジーはライトの手を優しく握り、太陽と間違えそうなほどの笑みで、ライトにお礼を言う。
ライトは、枯れ木や枯れ草…周りの景色が目に留まらないほど、その笑顔にひかれたのだ。
「べ…別に、お礼を言われるほどのことは、してませんし…。それに僕は、まだまだです。もっと練習しないと」
「なら私も、ライト君を応援するよ。いつかもっとすごい魔法を見せて!」
「ええ、アッと驚く魔法を見せてあげます!今回のより、もっとすごいものを!」
2人が出会ったのは、この時が初めてだった…。