一年の集大成
「こんな高い品はもらえませんよ。フロックさんの靴ですらギリギリなんですから。ちょっとは自重してください」
「そ、そんなー。せっかく買って来たのに……」
カイリさんは落ち込んでいた。そんな姿を見たら、受け取らないわけにもいかず、潔く受け取る。着れるのかと思ったら、こちらも体の大きさに合わせてある程度調節できるらしい。あんまり目立ちたくないのに絶対目立つじゃん……。
「キララさん、いつもありがとう。お誕生日おめでとうっ!」
クレアさんとセチアさん、メリーさんは私に髪飾りをくれた。皆の手編みなのか、三名の好きな花が作られており私の髪につけてくれた。
「ありがとうございます。すごく嬉しいですっ!」
――こういうので良いんだよ! こういうので。お金で晦ませてくるんじゃない!
私は子供達の花束同様に手作りの品に感動し、涙もろくなった。
「んんっ、今年はちゃんと品を買ってきましたよ」
ルドラさんは去年、お金を私に送って来た。あまりにも現実的過ぎて逆に皆に引かれていた。
「私が買ってきたのはこれです」
ルドラさんは革袋を取り出した。私は一瞬、アイテムボックスか魔法の袋なのではと思ったが、そうではなかった。
「この中に花の種が入っています。ビーが好きな花の種が入っているので、キララさんにぴったりだと思ったので買ってきました」
「ビーが好きな花……。あんまり綺麗な花じゃなさそう……」
「はは……、まあ、育てて見てからのお楽しみと言うことで、どうぞ」
ルドラさんは花の種が沢山入った袋を私に渡してきた。
「ありがとうございます。育ててみたいですけど……、ちょっと勇気がいるのでいつ頃育てるか迷いますね……」
私はビーが好きな花と言う嫌な言葉を聞き、育てる気が少々そがれた。後々、さっさと育てておけばよかったと後悔する……。
「キララさん、お誕生日おめでとうございます」
硬い挨拶をして来たバレルさんは私に剣の手入れ道具を渡してきた。砥粉に油、刷毛、その他諸々が入った箱だ。私も剣を持つことになったので、用意してくれたのだろう。
「ありがとうございます。大切に使わせてもらいますね」
その後、お爺ちゃんからバートンが好きな野菜の種を貰った。育てるのが難しいらしく、結構放置されていたらしい。お爺ちゃんは動物達の世話をすることは出来るが野菜を育てる力はないらしく、私に託してきた。
「どんな野菜が育つの?」
「バートンに食べさせたら、もうその野菜が無いと走れなくなるくらい好物らしい。見かけは……緑色の細い葉に橙色っぽい根が出来るそうだ。作るのが難しくてな。葉は育つんだが、根が全く育たん。キララになら育てられるんじゃないかと思ってな」
「なるほど。わかった。育っててみるね」
――お爺ちゃんの話しからして人参っぽいよな……。もし人参が育てられたら、バートン達はさぞ喜ぶんだろうな。レクーに食べさせてあげたい。今度作ってみるか。
お爺ちゃんから種を貰ったあと、シャインが私のもとにやって来た。
「お姉ちゃん、どうぞ」
シャインは私にキラキラした石が埋め込まれている岩石をくれた。
「この石はどうしたの?」
「お姉ちゃんに似合う品が無いかなと思ってライトと一緒に街を探してたの。そうしたら古びたお店に売ってた。綺麗に磨いたら見かけが良くなるかなと思って」
シャインは私に綺麗な透明の石が埋め込まれている岩石を渡してきた。私は岩石を受け取り、少々観察してみる。まあ、インテリアにしたら結構いい気はするが、宝石と言われたら宝石な気がして来た。この世界の宝石の価値は知らないが、魔石の方が需要が高いと思うのであまり見かけない。チキンこと、チャーチルさんの剣についていた宝石も魔石だった。
王都にいる方が身に着けていた品のほとんどが魔石だったことを考えると、ただの宝石にはあまり興味が無いのかな? まあ、宝石はバートン車の装飾品に使われている気がするものの、魔石とどちらが欲しいかと言われたら多くの者が魔石と答える世界だ。それでも、宝石の価値が無いと言う訳ではないはず。
「ありがとう、シャイン。大切にするよ」
私の手の中にある岩石は見たところ炭素が超圧縮された物質。ダイヤモンドだったりして……。まあ、そんな美味しい話があるわけないので、ただの水晶かもしれない。どちらにしろ、私のために選んで買って来てくれたのでありがたく受け取る。
「姉さん、一年かけてやっと完成したんだ!」
ライトは私に箱を手渡してきた。
「あ、ありがとう」
私はライトから箱を受け取り、開けて中を見る。
「は……?」
箱の中にはいっていたのは見間違いじゃなければ開閉式の懐中時計だった。チェーンもついており、どこかに引っかけておけば落としたりしない。金属製の蓋を開けると長い針と短い針、加えて秒針まで付いており回っている。あまりにも衝撃的過ぎて私は言葉を失った。
「えっと……。ライト君、買ったんだよね?」
私の手に持っている懐中時計を見て、カイリさんは何か最悪の事態を思ったのか、聞いた。
「なにを言っているんですか。作ったんですよ」
ライトは私達を追い詰める一言を放ち、胸を張った。もう、ヤダ。
「か、懐中時計を作った……。そ、そんな馬鹿な」
ルドラさんは自身が持っている懐中時計を手に取り、時間を見る。すると、時間のズレは無く秒針まで一緒だった。現在の時刻は午後九時八分。ルドラさんの懐中時計も全く同じだ。
「いやー、楽しかった。機械を作るのは魔法を作るより大変だったよ。魔道具を作る人は大変だね。でも逆に興味が湧いてきちゃったよ」
ライトは後頭部に手を置き、微笑みながら言った。
懐中時計などと言う超精密機器は魔法やスキルで生み出すことが不可能で、スキルで生み出した小さな小さな歯車などを人の手で組み合わせてようやく作れる代物なのだ。スキルを持たないライトが作れて良い品じゃない……。
「内部に小さな魔石を組み込んで魔力を通すと振動するんだけど、その振動が常に一定なんだ。その振動数を考えて一秒を刻んでるんだよ」
ライトは時計屋さんに教えてもらった技術を一度だけでものにしていた。加えて勝手に歯車を魔法で生み出し、懐中時計などと言う超高い品を自らの手で作り出したのだ。
「はぁ……。どうしよう、こんな弟、困ってしまうよ」
私は懐中時計を握りしめながら、ライトを抱きしめる。時計と言うとても高価な品を買うには勇気が必要だった。現代日本人だった私は時計や時間に縛られていた。だが、仕事をする上で時間はとても大切だ。なので、時計はどうしても欲しかったのだ。そんな時、ライトが作ってくれた。嬉しくないわけがない。
「ちょ、姉さん、痛いよ。でも、喜んでくれてよかった。ほんと大変だったけど、凄く楽しかったから、壊しても気にしないで。また改良した時計を作るし」
「ほんと、その頭はこの世界のために使わないと駄目だからね。変な嘘に騙されちゃ駄目だよ」
私はライトが何か悪いことに利用されないよう、言っておく。
「大丈夫。僕は姉さんの弟だし、悪い輩は許せないから。自分が悪者になったりしないよ」
ライトは自信満々に言うが、私は信用しない。信じているが、心の底から信じはしない。何かあっても対処できるようにしなくては……。相手の絶対は信用に値しないと知っている。
「そうだね。ライトなら、大丈夫だよね。ありがとう、凄く嬉しいよ」
私はライトに再度抱き着き、感謝した。
「で、聞きたいんだけど、この魔法陣は何?」
私は蓋の裏に掛かれた魔法陣が何か聞く。
「それは今、自分がどこにいるのか知らせる魔法陣だよ。だから、姉さんが王都のどこにいるのか、世界のどこにいるのか、僕が持っている地図に出てくるんだー」
ライトはヤンデレ彼氏かと言うくらい恐ろしい魔法陣を作っていた。ほぼGPS(衛星測位システム)なのだが……。
「ど、どれくらい正確なの?」
「その魔法陣しか映し出さないから、結構正確だよ。この地図に映しだせる魔法陣の位置は懐中時計に記された魔法陣しかない。だから、魔力の反応があれば、感知できる」
「そ、そんなものを作ってどうするの……」
「姉さんが誘拐されても助けに行けるでしょ。万が一、何日も動かないことがあったらおかしいじゃん。落としたのかもしれないし、捕まって動けないのかもしれない。いきなり変な場所に現れたら、盗まれたのかもしれない。そんなことまでわかるんだよ」
「いや、そんな観測されているような魔法陣いらないよ……。ん、えっと、その魔法陣。どれだけ反応を感知できるの?」
「え? そうだな……。しっかりと観測できるのは八八八個くらい。どれだけ増えても観測できるけど、観測のブレが出てくるかも。でも、どうしてそんなことを聞くの?」
「そりゃあ、便利だからに決まってるでしょ。ライトの作った魔法陣があれば、私達が離れていても無事かどうかわかるってことでしょ」
「まあ、そうだね」
「じゃあ、私やフロックさんやカイリさん。ルドラさんに渡しておけば何かあった時、すぐに駆け付けられるじゃん。なんなら、冒険者に渡せば死亡率が一気に減るんじゃ……」
「あ、ああ……。確かに、死亡したなら魔力の供給も止まる。消えるわけか。でも、生きていたら残って見えるから、探し出せる……。ライト、もっと縮小した地図でも使えないのか?」
フロックさんはライトの発明した魔法陣に興味津々だ。
「簡易版ならありますよ」
ライトは村の地図を出した。牧場に一個だけ、反応がある。光が強すぎて眩しいくらいだ。
「この点が、姉さんが持っている懐中時計の魔法陣です。この光量は残りの魔力量をしめしています。姉さんの魔力量が膨大すぎてほぼ最大光量を発していますね」
「はぁ……。ほんと天才って怖いな。カイリって天才じゃなくて秀才だったんだな」
「ほんとほんと。私はこれから天才じゃなくて秀才と名乗るようにするよ」
フロックさんとカイリさんは見つめ合い、笑いあった。もう、頭がバグっている。




