私のヒーロー
フロックさんは、既にデカブツよりもはるか上空へと跳躍している。
その身長から、どうしてそんな高く飛び上がれるのか、全く原理が分からない。
――風魔法でも使っているの?…それか、身体能力が化け物なのかも…。
どっちにしろ、デカブツとフロックさんの大きさは、人と蟻レベル…。大剣が有るおかげで多少大きく見えるが、それでも小さい。
――いったい何時から、そこに居たのだろうか…。もしかして…飛んできた…。いや、それは無いか…。
フロックさんは、右手に大剣を掲げ、左手には、何か瓶のような物を持っている。
「なあ!おい…デカブツ…。聖水の付いた、この大剣でその太い首を、ブッタ切ったらどうなるんだ!!」
ブラックベアーもフロックさんの存在に気付いたのか、残っている左前足で攻撃を試みる。
しかし…
「はい『バリア』惜しかったね…デカブツ君、もう少しでハエを叩き落とせたのに」
フロックさんの前に、巨大な魔法陣と『バリア』が出現し、デカブツの左前足攻撃は弾かれた。
『バリア』に弾かれた、左前足が飛散し山へ、どす黒い瘴気の雨を降らせる。
「カイリさんまで!どうしてここに…」
高そうな杖を持ち、決め顔をしながら、白い歯を見せている。
あまり話しかけたくないが…、どうしてここに居るのか、気になって仕方がない…。あと、そのウザイポーズを止めてほしい。
何処かの写真集で表紙を飾れるくらい、カッコいいが…、何故かウザイ…。私は嫌いなタイプだ…。
「やあ、レディーよく頑張ったね。もう大丈夫さ、あいつがあれだけ怒ってるんだ、もう心配はいらない」
――あいつ…フロックさんの事かな…。あの身長なら怒っていてもそれほど怖く無さそうだけど…。
しかし…カイリさんの言葉通り、デカブツの攻撃を防がれて、どうやらご立腹のようだ。
「おい!カイリ!何勝手に『バリア』してるんだ!あれ位、俺の大剣でブッタ切れたわ!」
「何?もっと感謝の言葉を掛けてほしいんだけど。それに、あの攻撃を受けてたら、フロックの体重じゃ吹っ飛んでるだろ。それを防いでやったんだ」
「バカにするなよ!俺に切れない相手はいねえ!吹き飛ぶのは、こいつの方なんだよ!」
空中を落下するフロックさんは、そのままブラックベアーの首元を狙う。
フロックさんの体が光始め、その光は大剣へと流れてゆく。
そして叫んだ。
『「巨大化!!」』
光りが大剣を包み込み、姿を変えていく。
「は…は…、何あれ…。デカすぎない…」
大剣は、まだ明るい時間にも拘らず、周りを呑み込むほどの眩い光を放つ…。
剣身からは、魔力が溢れだし、留まるところを知らない。
あまりの巨大さに、目線を剣先に向ける事が難しい…。
やっと魔力が安定し、纏まった状態で巨大化した大剣の全体像を露にした。
その大きさは、空を埋め尽くし、デカブツに匹敵するほどの大きさだった…。
――私は…いったい何を見ているのか…。巨大な化け物と…巨大な剣を持つ青年…。ファンタジーの世界…に来て、早5年…ここまでのファンタジーを見たことが無い…。
それはまるで、アニメ最後のクライマックスシーンを見ている…そんな感覚と同じ。
固唾をのみ…その情景に目を奪われる…。
真っ白で巨大な大剣が、真っ黒で巨大な怪物に向かって行く…そのシーンが…唯々カッコいい…。
フロックさんは軽々と持ち上げている、しかし…その情景は豆が大木を持ち上げている状態と大差ない…。
『「斬首巨撃」』
フロックさんは、そう口ずさみ、自身が持っている大剣を薙ぎ払った。
『ドッガドゴゴゴゴゴゴ!!!』
薙ぎ払われた、剣身の光が元の位置に戻り、昼間にも関わらず、巨大な満月が空に出現した…。
――綺麗…、私の爆発よりも…ずっと…。
「って、思っている場合じゃない…。くっ!!風が…!うわぁあ~」
大剣によって地面が抉れ、薙ぎ払った風圧で台風並みの強風が私達にまで届く。
私は、その場に座り込んでいたのだが、突発的な強風が体を吹き飛ばしてしまった。
「おっと!危ない、大丈夫だったかい?レディー」
「あ…ありがとう、ございます…。カイリさん…」
カイリさんは空中に飛んでしまった私の腕を掴み、抱きかかえてくれた…が…。
あまりにもそのドヤ顔がうざすぎる…。きっと今心の中で自分が紳士だと感動しているに違いない…。
――此処で口にバラでも咥えていたら、少女漫画のワンシーンなのだが…。私は、少女漫画よりも、少年漫画の方が好みなので…大分、目の前にいるカイリさんの表情がしんどい…。出来れば見ないでほしい…。
私はそっと地面に下され、その情景を眼に映す。
デカブツの動きが止まり…巨大な頭部が…ズルズルと体から落ちて行く…。
顔の鼻先から地面へと落下し、デカブツの動きは完全に止まった。
「す…凄い…あんなに大きな物体を切り裂いた…」
「カイリ!足場!!」
「了解!」
フロックさんは、巨大な大剣を元に戻し、上空から落ちてくる。
『バリア』で作られた足場が、空中へと浮かびあがった。
その上にフロックさんが、肩に大剣を担ぎ、両足と左手で力を逃がしながら着地したのだ。
「か…カッコいい…」
登場から、最後の着地まで…全てが、カッコよく…、昔見ていたヒーローアニメを思い出してしまった。
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