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『ゴミ』スキルだと思われている『虫使い(蜂)』が結構使えるんですけど!<異世界冒険食べ物学園ダークファンタジー(仮)>  作者: コヨコヨ
受験まであと半年 ~仕事ではなく勉強に本腰入れる編~

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エッグルの容器

「じゃあ、次の品に行きますね」


「まだトゥーベルを全て食べてないんですが……」


「ああ、そうでしたね。すみません、早とちりしてしまいました」


 ルドラさんはフォークとナイフでトゥーベルバターを口にした。


「う、うまい……。バターが加わるだけで味のまろやかさが違う。これは良い買い物をしました」


 トゥーベルがルドラさんのおめがねにかなったようで何よりだ。彼はトゥーベルバターを全て食し、両手を合わせ神に感謝を込めていた。


「では次をお願いします」


「了解です」


 私は台所に行き、小さなエッグルが入っている木製のエッグルパックを取り出し、ルドラさんの元に持って行く。


「次はこれです」


 私はやっと販売できるくらいの個数が生まれるようになったブラッディバードの卵、通称エッグルをルドラさんに見せた。


「これは……、なんの卵ですか?」


「ブラッディバードの卵です。ルドラさんも昔に見たと思いますが、養ブラッディバード場が結構広がり、個体数が一気に増えたのでエッグルもやっと売り出せるようになりました」


「ああー、あの小さなブラッディバード達の卵ですか。つまり、この大きさのエッグルなわけですね」


 ルドラさんはエッグルを手に取り、宝石でも眺めるかのように見つめていた。傷はどこにもなく、白い殻が窓から入ってくる日差しを反射し、キラキラと光っているように見える。


「普通の卵はいくらくらいですか?」


「そうですね、ガッルスの卵がこの大きさととてもよく似ています。村で売られている相場は一二個で銅貨二枚くらいですかね。王都だと金貨一枚などもざらです」


「村と王都で全然違いますね……。と言うか、ガッルスとは何ですか?」


「ガッルスは主によく使われる卵を産む生き物ですよ。ブラッディバードに似てますが、動物で人を襲うことはありません。主にこのエッグルと同じくらいの卵を産みます。オスは大きくなったら肉や羽が売れるので重宝されている動物ですね」


 ルドラさんはエッグルを持ちながら教えてくれた。


「なるほど、多くの者はガッルスの卵を使って料理をしているわけですね」


「はい、お菓子作りなどもよくガッルスが使われます。ですが、高級店になればなるほど、エッグルの使用頻度が高くなります。まあ、ガッルスの卵を一言で表すなら、エッグルの代用品です。美味しいですけど、やはりエッグルには勝てないんですよ」


「へえー、魔物が生み出した卵の方が美味しいなんて珍しい……。じゃあ、もう一度聞きますけど、なんで村と王都で値段が五〇倍近く違うんですか?」


「ガッルスの卵はとても割れやすいんです。運ぶのが用意ではありません。荷台に積んでいたガッルスの卵が軒並み割れていたなんてざらにあります。その点、エッグルの殻は比較的硬く、運びやすい。味も美味しとなれば選ばれるのはエッグルの方でしょう」


「運び憎さがガッルスの卵を高くしている要因と言う訳ですか。なら、一種類売る品が増えました」


 私はエッグルの卵を入れる容器を手に取ってルドラさんに見せる。


「エッグルが入っていた容器。それがどうかしたんですか?」


「この容器、凄いんですよ。ちょっとした振動を与えても中身を守ってくれるんです。圧縮にも強くて沢山詰んでも潰れません。もちろん限度がありますけどね。ガッルスの卵は、今はどうやって運んでいるんですか?」


「えっと……、木箱の中に木くずを入れ、バートン車の振動に少しでも耐えられるようにしています。でも、ちょっとした段差を乗り越えただけで、全滅することもよくありますよ。そうなったら、すぐに腐ってしまって夏場は本当に最悪です。思い出したくもありません……」


「そんなもったいないこととはもうおさらばしましょう。ガッルスの卵を安く売りだせば、その分、マドロフ商会の資金が増えるはずです。他が金貨一枚で売っているところに銀貨一枚で売っている商会があれば、ほとんどのお店がその商会を選ぶでしょう。原価も安いですし、結構儲けられますよ」


「うむむ……、その容器の性能を一度を見ないと何とも言えませんね……」


「じゃあ、実践しましょう」


 私は木製のエッグルの容器に一二個の小さなエッグルを詰める。蓋を閉め、魔法で端を接着し、売り出す形を作った。


「ルドラさん、この上に乗ってください」


 私は床にエッグルの容器を置く。木製とは言え、軽さ重視のために厚みが一ミリメートルから二ミリメートル程度しかない。


「え……。乗る?」


「はい。頑丈なので、大丈夫です。あとエッグルが割れても気にしないでください」


「ほ、本当に良いんですか?」


「本当に良いんです」


「じゃあ、失礼します」


 ルドラさんは床に置かれた卵容器に足裏を乗せ、立った。


「ええ……。本当に潰れない。すごいですっ! これはどういう仕組みですか!」


「まあ、簡単に言えば、重さを分散しているんです。あと、容器の材質も強度が高いので簡単に壊れません。再利用できるので使い終わった品は回収し、もう一度新しい卵を入れることも可能ですよ。まあ、衛生面を考えるなら使い回しはお勧めしませんけどね」


 私がベスパに作らせた卵容器はプラスチック製とは違い、木製だ。そのため、とても強度が高い。軽いうえに再利用可能だ。開いて重ねておけばかさばらないし、要らなくなったら自然に捨てても勝手に土にかえる。もちろん原価はゼロなので、銅貨一枚で売っても利益が出てしまう優れものだ。


「ルドラさん、この容器を買えばガッルスの卵を買い放題売り放題ですよ。今ならおやすくしておきますけどどうしますかー?」


 私は壊れていない木製のエッグル容器を手に取って笑顔で訊いた。


「い、いくらですか……」


「いくらくらいすると思いますか?」


「ええ…………。もったいぶりますね。んー、こんな複雑な品を木材で作るのは難しいので金貨一枚くらいするんじゃないですか?」


「はははっ、金貨一枚で買ってくれるのならとてつもなくありがたいですけど、そんなお金使っている暇ありませんよね。もう、クーラーボックスよりも簡単に売れる品なので、銅貨一枚で構いません。なんなら、五パックで銅貨一枚とかでもいいくらいですよ」


「ええ……。こわぁ……」


 ルドラさんは引いていた。相当怖かったようだ。自分が先ほど乗っていた品に価値がほぼ無いと言うのだから当然怖がるだろう。

 日本人に卵パックを超安いパン一個と同じ値段で買うかと言われたら買わないはずだ。でも、ルドラさん達にとってはとても価値が高い品に見えている。

 卵だけを運ぶ容器なんて考えている人がいないのかな? 作るのが難しいのかも。


「か、買わせてください! 何個買えますか!」


「好きな数を言ってもらえればその数売りますよ」


 エッグル容器の素材は倒れた木や伸びすぎて切られた枝、乾燥した草などで作っているので、材料は無限にあると言っても良い。


「じゃ、じゃあ。一二個入りのエッグル容器を一〇〇〇個お願いします!」


「了解しました」


 ――ベスパ、一二個入りのエッグル容器を一〇〇〇個作って荷台に入れておいて。


「了解です!」


「本当にこの品が金貨一〇枚で一〇〇〇個も買えて良いんですか……」


 ルドラさんは中金貨一枚を私の前に出してきた。


「良いんですよ。私はもう十分儲けられているので。容器が壊れたり、破損したら迷わず買い換えられるのもいい点ですよね。たとえ盗まれても銅貨一枚なら構わないでしょう」


「はは……、そうですね。痛手は小さいです。えっと今、エッグルの話をしていたのに、いつの間にか容器の話になっていましたね……。ほんと、キララさんは人に買わせるのが上手い。商人の才能がありますよ」


 ルドラさんはエッグルを持ちながら言う。


「まあ、商人になる気はないですけどね。じゃあ、エッグルを食べてみますか?」


「はい、ぜひ。何なら、生で直飲みしても良いですか?」


「え……、直飲みですか。珍しいですね。そんなことする人、中々いませんよ。腐っていないので衛生上問題ないですけど……」


 私が売り出している品は全てスグルさんに審査してもらい、王都で売りだしても問題ないと言うお墨付きをしっかりともらっている。なので直飲みしても問題ない。後から訴訟を起こされても面倒なので、お金を払ってでも審査してもらったほうがいい。


「なら、本来の味を確かめます」


 ルドラさんはエッグルの殻をテーブルに叩きつけて軽く割り、口を開けて上を向きながら殻を綺麗に割り、白身と黄身を直飲みした。日本人でも直飲みする人なんてごくわずかなのに……。


「う、ううん……。うっまあ……」


 ルドラさんは口の中でしっかりと味わい、飲み切ってから呟く。


「よかったです。私は直飲みした経験が無かったので、貴重な発言ありがとうございます」


「えっと、この味はエッグルで間違いありませんね。じゃあ、調理してもらっても良いですか。焼いた後の味も確かめておきたいです」


「わかりました。焼き加減はどうしますか?」


「半熟でお願いします」


「了解です」


 私はエッグルを焼き、目玉焼きにしてルドラさんに提供する。さっとミグルムを掛け、香りと味を深めた。

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― 新着の感想 ―
エッグルは4ヶ月前に直飲みしてもらってますよね? まるで初めて食べたかのような話になるのはおかしいです。
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