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『ゴミ』スキルだと思われている『虫使い(蜂)』が結構使えるんですけど!<異世界冒険食べ物学園ダークファンタジー(仮)>  作者: コヨコヨ
受験まであと半年 ~仕事ではなく勉強に本腰入れる編~

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トゥーベルの値段交渉

「キララさん、クレアとバレルさんをかくまってくれてありがとうございます」


「いやいや。私は自分の意志で匿いたかっただけなので、感謝されるようなことじゃありませんよ。にしても、ルドラさんが王都から出ても大丈夫なんですか?」


「ええ。ここ三カ月でマドロフ商会の改革を行ってきました。正教会からの攻撃は依然として行われていますが、全て掻い潜っています。ほんと骨が折れる作業でしたが、行えてしまう私の技量も恐ろしいですね」


 ルドラさんは小さな眼鏡を上げ、にやりと笑いながら強者風に言う。


「まったくカッコ付いてないですからね」


「あれ? そうですか。いやはや、強者感を出すのは難しいですね。祖父のように睨んだだけで相手が震えあがるくらいまで風格を出したいのですが、中々難しいものです」


「ルドラさんはマルチスさんの息子であるケイオスさんよりもお母さんのテーゼルさん似ですから、威圧感を出すのは難しいと思いますよ。顔が綺麗めなので、威圧には向いてません」


「はは、言われてみたらそうですね。ほんと、キララさんと話していると安心できます。もう、キララさん自体が安全地帯のような感覚ですよ」


「まあ、そう言われてもいいくらい、私の周りはガッチガチに厳重ですからね。どんな生き物でも見逃したりしません。この村にいる限り、天才のライトが生み出した魔法陣に守られています。数万匹を超える目が何者も見逃しませんから暗殺も不可能です。安心してください」


「はい、ありがとうございます……」


 ルドラさんは肩の力を一気に抜き、椅子の背もたれにグデーッと倒れこんだ。ここまで来るのに神経を相当すり減らしてきたのだろう。そりゃあ、疲れるはずだ。なんせ、彼は次期マドロフ商会の会長だ。金品を狙う盗賊に狙われてもおかしくない。


「この珈琲の香りと魔力の満ちた空間にいるだけで、心が穏やかになります。久しぶりに心休める時間です……」


 ルドラさんはここ三カ月、ずっと死ぬ思いだったようだ。自分の力量を最大限利用し、死地を脱した。もう、今、私の目の前にいる彼は三カ月前の彼を逸脱している。それくらい成長しているはずだ。今の彼が、巨大なブラックベアーを見ても……、まあ、さすがに逃げるか。


「ルドラさん。今、村にフロックさんとカイリさんがいますから、帰りは楽できますよ。えっと、何日間滞在するつもりですか?」


「そうですね。キララさんの誕生日を祝った次の日に出発しようと思いますから、今日合わせて二日ですかね」


「わかりました。じゃあ、この家ではなくクレアさんが住んでいる家で泊まりますよね」


「そ、そうですね。そうしないと妻は怒るでしょうし」


「はは……、ですね。じゃあ、布団とベッドを増やしておきます」


「ありがとうございます」


「なんなら、一人用のベッドを二、三倍にしてもいいですけど、どうしますか?」


 私は新婚夫婦が一緒に夜を過ごしたらどうなるかくらいわかるおませな少女なので、一応訊いた。


「…………部屋からの音漏れ防止とかもできますか?」


「可能ですよ。もう、やる気満々ですね」


 ——ベスパ、クレアさんの家にダブルベッドを置いて。もちろん柔らかいマットレス付きね。あと、寝室を防音に改築して来て。


「了解です」


 ベスパは窓から外に出て行き、クレアさん宅に飛んで行った。


「キララさんはすでにそう言った知識があると言うことで……」


「私のお父さんとお母さんは今でもラブラブでして。あと家の壁が結構薄いんですよ。毎晩、天井にアンデッドでも住み着いているんじゃないかというくらいギシギシと響きます」


「ああ……。なるほど……、察しました」


 ルドラさんは頷き、苦笑いを浮かべていた。


「じゃあ、二日間は休暇と言うことですね?」


「休暇と言っても仕事はしますよ。私はキララさんと同じく仕事人間なのでね」


「そんなことを言っていたらいつか倒れちゃいますよ」


「でも、この村にやってくると、いつもいつもお金の匂いがぷんぷんするんですよね。嗅いだ覚えが無いお金の匂いです。新しいお金を発生させる品を隠しているのでしょう」


 ルドラさんは鼻をスンスンと鳴らし、商人の勘をさえわたらせながら私に言った。


「ほんと、お金に関する嗅覚は犬以上ですね」


「そりゃあ、私はお金を生み出す品に目がありませんからね」


 ルドラさんは先ほどよりも強者感がでていた。やはり、お金が絡むと目が鋭くなり強者感が増している。


「なにから見たいですか?」


「そうですね……。キララさんの自信の無い品から見たいです」


「すいません、ルドラさん。私が作った品に自信の無い品なんてありません」


「わーお、なんて強者感」


 ルドラさんは道化師のように両手や口、目を大きく開きながら驚き、笑った。


「なら、売りにくい品からお願いします」


「わかりました」


 私は一番売りにくいと思われるトゥーベルを台所から持ってくる。

 紙に包まれており、芽は未だに出てきていないのか、形をそのまま保っていた。その品をルドラさんの前に差し出す。


「この紙の包は?」


「開けてみたらわかりますよ」


「では、失礼して……」


 ルドラさんは紙を剥がし、中身を見た。


「こ、これは……。トゥーベル!」


 ルドラさんは包み紙を開いた瞬間、目を見開きながら商品名を叫んだ。


「はい。トゥーベルです」


「こ、こんなに大きなトゥーベルは初めて見ました。なんでこんなに大きくなっちゃったんですか?」


 ルドラさんは両手で包み込むようにしてトゥーベルを持っていた。


「魔力と日差し、土、環境が最適だったからじゃないですかね。本当に大きく育ってくれました。でも、王都の人はトゥーベルを食べる習慣が無いんですよね?」


「は、はい。一般的にはありません。ですが、調理されて出てくる場合もあります。えっと、食べられるように簡単に調理してもらえますか」


「わかりました。一番簡単な蒸かしトゥーベルにしますね」


 私はルドラさんが持っているトゥーベルを蒸して柔らかくしたあとバターを乗せ、皿に移し替えた品を差し出す。皿の左側にナイフを、右側にフォークを一つずつ置いた。


「どうぞ、トゥーベルバターです。ソウルを持っているのなら、一つまみ振りかけていただけると、より一層美味しくいただけますよ」


「ま、まずは素材の味を確かめなければいけないので、そのまま食べさせてもらいます」


 ルドラさんはナイフとフォークでバターがついていない部分のトゥーベルを食す。皮をはがして中身だけを食べようとしていたので、私は言う。


「ルドラさん。そのトゥーベルの皮は食べられるので、無駄にしないようお願いします」


「え、そうなんですか。硬く食べにくい部分かとばかり……。キララさんが言うのなら、食べられるのでしょう」


 ルドラさんはフォークにトゥーベルの皮も乗せて口に運ぶ。


「んんんんんんんっ!」


 ルドラさんの細めの目がまたしても大きく見開かれる。


「どうでしたか?」


「お、美味しいです。何の味付けもしてないのにこんな甘味に近しい優しい味がするなんて……。ほくほくで柔らかく簡単にほぐれてしまう。ガリガリやじゃりじゃりとした味がしない。これ、本当にトゥーベルなんですか?」


「そうですよ。ガリガリやじゃりじゃりとした味がするのは調理法が間違っているか、食べられない品種、砂でも混じっているんじゃないですか?」


「いやいや、トゥーベルとはそう言うものなんですよ。食べにくい品の代表格です。比較的安価で作りやすく腹持ちが良いので村などではよく食されていますが、ここまで美味しい品は見た目同様に初めてですよ」


「なるほど。この品を買うとしたらいくらで買いますか?」


「そうですね、私なら銀貨数枚を出しても文句は言いません。王都の者はトゥーベルを食べようとしないので、その分価値は低いですが村で売ろうと思えば確実に売れます。でもそうなると値段を低くしなければ儲けが出ないので買い取り価格は銅貨五枚と言ったところですかね」


「じゃあ、一キログラムで金貨一枚は高いですかね?」


「その値段で売るなら王都でしか無理でしょうね。でも、この味なら遜色ない値段です」


「となると、ルドラさんに買ってもらうよりも自分で売った方が儲けになりそうですね」


「キララさんの手腕なら十分可能でしょう。今、マドロフ商会は規模縮小により、多くの商品を止めています。なので、今、このトゥーベルを買い取るのは難しいですね」


「わかりました。じゃあ、残りの二〇〇〇キログラムくらいは自力で売ります」


「…………二〇〇〇キログラム。そんなに取れたんですか?」


「はい。本当は四〇〇〇キログラム近くあったんですけど、食事と種イモ、村での販売、他の村への販売で半分は消える計算をしています。あと半分は街にでも売り出そうと思ってます。市場で卸売りをすれば多少は減るでしょう」


「そ、そんなにあるのなら、買わせてもらっても……」


 ルドラさんは一瞬で手の平を返した。


「別にいいですけど、じゃあ、一キログラムを銀貨八枚でどうですか」


「銀貨五枚なら買います」


「なら、銀貨七枚にしましょう」


「……銀貨六枚。王都まで大量に運ぶ必要があるので、これまでしか出せません」


「…………わかりました、銀貨六枚で売ります。たの村にも卸してくれれば楽に運べるはずですから、味で勝負してみてください」


「そうですね。では、とりあえず一〇〇キログラムほど買わせていただきます」


 ルドラさんは中金貨六枚をテーブルの上に出した。


「ありがとうございます」


 ――ベスパ、一キログラムのトゥーベルが入った袋を一〇〇袋荷台に積んでおいて。


 私は頭の中で仕事中のベスパにお願いする。


「了解です」


 ベスパは私の頭に返事を送って来た。

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