神の加護
「キララさん、あなたのスキルは他の者が知ったら笑うでしょう。なんせ、使役スキルは大抵一体しか使役が出来ないスキルなんです。だから、ビーを一匹しか使役出来ないと思われる可能性が高い。でも、キララさんは違いますよね」
バレルさんは私の方を向きながら言う。
「は、はい。私の場合は一匹、司令塔がいてその子を経由すると多くのビーや他の虫達を使役出来ます。これが、深堀することと何か近しいんですかね?」
「そうなります。きっと他にも深堀出来る点はまだまだあるでしょう。スキルは神の加護。神がその者の能力にあった能力を授けている。単純なスキルでも使用方法を深堀すると案外使えていなかった能力に目覚めることがあります。私の場合は手以外でも体全身を剣ととらえれば身体強化以上の速度で動けるようになるんです」
「なるほど……。考えようですね。私も色々考えているんですけど、最近はちょっと怖くて考えないようにしていました」
「怖い、何がですか?」
バレルさんは私の顔色を窺いながら訊いてきた。
「なんか……。スキルの力が膨大になりすぎていると言うか……。私が思っている以上に広がりすぎていると言うか……、力の範疇が見えなくて怖いんです」
「なら、なおさら知る必要があります。キララさんは賢い方ですから、自分の力を理解すれば今以上の力が手に入るはずです。どれだけ大きな力が手に入ろうとも、キララさんなら間違った使い方をしないでしょう。自分の力に溺れ、悪人となった者は数知れず。私はどんなスキルでも外れは無いと思っています。針の穴に糸を確実に通すスキルや転ばないスキル、紙で手を切らなくなるスキル。どんなスキルでもその名の通りの効果しかないと言うのはあり得ません」
「じゃ、じゃあ。木を切るスキルとか袋を生み出すスキルにも何かしら深堀する要素があるってことですか?」
「深堀すれば必ずあります。神は人の成長を促している。スキルはその糧であり、人と共に成長していく。人が成長を拒めばスキルも成長しません。成長したいと言う強い意志こそが、スキルの成長に最も必要なことだと私は考えます。自分に限界を作らない。これが重要です。ま、キララさんには必要の無い話しかもしれませんがね」
バレルさんは私の頭を撫で、微笑んだ。イケオジが過ぎる……。なんか、超カッコいい上司に褒められている感覚なんですが。
「は、はい! 頑張りますっ! 自分の限界は突破するためにある。限界なんて無い!」
「その意気です。どれだけ優秀な学園でも、その気持ちを持っている学生は少ない。すでに、キララさんはドラグニティ学園の生徒よりも先を行っている。自信過剰にならず、常に挑戦者の気持ちをもってこれからも生活してください。そうすれば、キララさんは私の予想できないほど先へと行けることでしょう」
私はバレルさんに努力することの大切さを再確認させられた。私やフロックさん、カイリさんはバレルさんの話がとてもためになった。先人の知恵をこの歳で知れたのは大きすぎる。これが、学びの効果かと言わんばかりに成長度合いが飛躍するだろう。
私とフロックさん、カイリさんはバレルさんにお礼を言い、家に帰る。
「俺のスキルを深堀しろか……。確かに身近にありすぎて何でも知っていた気になってた」
「そうだね。私もバレルさんに聞いて何となく察したよ。自分の力の限界はここじゃないって……。ほんと、長年生き残っていきた人が言うことは違うね」
フロックさんとカイリさんはバレルさんの偉大さに心打たれていた。
「フロックさんの師匠も剣神なんですよね。やっぱり強いんでしょうね」
「まあ、俺の師匠も、もとはバレルさんの弟子なんだ。だから、師弟共に剣神になってる。そうなると、俺も剣神にならねえと……」
「フロックさんの師匠って女性なんですよね。何歳くらいなんですか?」
「ざっと四〇歳手前くらいじゃないか? 全然そう見えないけどな」
「よ、四〇歳……。すごいそんな歳で剣神をしているなんて……」
「衰えを知らない婆だぜ、全く。俺はいつ剣神を名乗れるかわからねえな」
「まあ、フロックは師匠に勝たないと剣神を絶対に名乗らせてもらえないだろうね」
カイリさんはフロックさんの肩を叩き、はにかみながら言った。
「そうだな。はあー、俺のスキルにはいったいどんな力が眠っているんだろうか。考え続けてやっと一個見つけられるかどうかなんだろうな……」
「でも、その一個が大事だって言っていたじゃないですか。諦めずに頑張りましょう!」
「そうだな……。諦める時は俺が死んだ時だ。自分の力を探求し続けてやる。それで強くなれるのなら、万々歳だ」
フロックさんは両手を握りしめ、気持ちを引き締めているように見える。やる気十分だった。
「フロックの方はまだ開拓の予知があるけど、私の方は難しいな。『バリア』をどうやって深堀したらいいんだ……」
「『バリア』を常時展開しておくとか? 魔力が切れた後も残り続ける『バリア』とかになったり……。魔力が無い時にバリアを使った経験はありますか?」
「な、無いな……。でも、そんなことを試したらいったいどれだけの苦痛を得るか」
「苦痛を得ずに良い思いをしようとするのは甘えですよ。辛い思いをして後々楽な思いをした方が良いに決まっているじゃないですか」
「そうだぞ、カイリ。お前は温室育ちでぬくぬくしすぎなんだよ。もっと血みどろになりながら修行しやがれ」
私とフロックさんは甘えているカイリさんに向って言い放った。
「手厳しい……。確かに、言われて見たら辛いことから逃げている節はある」
カイリさんもフロックさん同様に決意を固めたらしく、二名の力がより一層上がると期待された。元から強い二名が今以上に強くなれば、死ぬ確率もぐんと下がる。
私達は話し会いながら歩いていると、いつの間にか家に到着していた。家の中に入ると、お父さんとお母さん、ライト、シャインの四名がテーブル席に座って牛乳を飲んでいた。
「お帰りなさい。手洗いうがいをしなさいね」
「はーい」
私はお母さんに言われ、清潔な水で手洗いうがいをしっかりと行ったあと椅子に座る。
同じように手洗いうがいを終えたフロックさんとカイリさんも椅子に座り、家族会議が始まった。
「もうすぐキララの誕生日だな。はあ、一年は早いな。あっと言うまに一二歳か」
お父さんは両手を組みながらしみじみした表情を浮かべていた。
「そうね。キララが生まれてきてもう一二年も経つのね……。長かったような短かったような。でも、ここまで成長してくれて本当に良かった。このまま普通の生活をしていれば、大人になっても十分楽して暮らしていけるわね」
お母さんは息を吐き、心を落ち着かせながら牛乳を飲む。
「まあ、人生の中で一二年なんてあっという間だよ。すぐに成人の一五歳になっちゃうだろうし、私は長く生き続けたいから、危険なことをしないよ」
——すでに危険なことに全身がどっぷり浸かっちゃっているから、今更危険なことをしても意味ないけどね。
「さて今日のお題だけど、もう今月でブレーブ平原に牧場を作る。その最終意見を聞きます。ライト、今の状況で牛乳パックを王都の王城に月一〇〇〇本を輸出できる?」
「んー、可能だけど、先を見るなら平原に大きな牧場を作るのが良いと思う。そうすれば、もっと多くの場所に牛乳を届けられるよ」
「なるほど。えっと牧場を作ることに反対の人はいる?」
私が手を上げると、誰も手を上げなかった。
「じゃあ、決まり。すでに、牧場の草木は生態系が壊れない程度に毒物を駆除した。ビー達の見回りやウォーウルフ達を使って魔物の被害も最小限に抑えられる。モークル達の散歩で森の中を移動させた結果、のびのびできてうれしいと言う声が多数だった。よってブレーブ平原に牧場を作ります」
「異議なし!」
家族からの同意を貰い、早速準備を始める。
「ベスパ。モークル達の牧場を平原に作って。管理棟がいるから、今、ハンスさん達が寝泊まりしている宿がある近くが良いかな。モークル以外に養ブラッディバード場も作って」
「了解です。平原が広いので施設を大きめに作っておきます」
ベスパは私の命令を聴き、仕事に早速取り掛かった。モークル達に快適な生活を送ってもらうためには広い土地が必要不可欠だ。だからこそ、広い土地に施設を作った方が良いに決まっている。
ベスパは窓から外に飛び出していき、森の方へと向かった。
「これで、王様からの命令は守れそうだね」
「うん。平原に数を移動させて増えて行けば、余裕で達成できる。その分、お金が入ってきて僕達の生活も豊かになるわけだ」
ライトは微笑みながらウキウキ気分で牛乳を飲んでいた。
「はー、お姉ちゃんが一二歳になったら、来年、学園に行っちゃう……。寂しいよー」
シャインはテーブルにグデーッと倒れ込み、涙目になりながら呟いた。
「仕方ないよ。僕も寂しいし、父さんと母さんだって寂しいはずだ。かくいう姉さんも寂しいと思ってるよ。でも、姉さんが学園で学びたいと言うのだから僕達にはどうすることもできない。応援してあげようよ」
ライトは私の意見を尊重し、背中を押してくれる。ほんと頼もしい弟だ。




