自分の強み
「さて、家で話すわけにもいきませんし、バレルさんの素性をここで話しますか」
私は丸谷座りながら同じく丸谷座るバレルさんの方を向き、言う。
「そうですね。フロック君とカイリ君はどこまで知っているのかな?」
バレルさんはフロックさんとカイリさんの方を向き、話しを振った。
「俺はバレルさんが仕事を辞めて、急激にボケて自暴自棄になったあげく王都で暴れそうになって倒されたと言うくらいしか知らないです」
「はは……、まあ、だいたい合っている。私は正教会と繋がり、娘の仇であるマルチス殿が作り上げたマドロフ商会を潰そうと考えていた。そんな時、正教会の者からアレス王子を暗殺してほしいと依頼がはいった」
「な……。バレルさんがアレス王子の暗殺……。確かにバレルさんなら出来そう……」
「正教会はアレス王子を殺したあかつきにはマドロフ商会を潰すと約束した。その時、私はすでに魔造ウトサなる物質で意識がおかしくなっていた。意識がもうろうとした状態でアレス王子を待ち伏せし、殺しにかかった。だが、失敗した。ここにいるキララさんのおかげでね」
バレルさんは私の頭に手を置き、優しく呟いた。
「私はバレルさんの行く先々に多くの罠を貼り、アレス王子を安全圏に逃がしたあと暗殺に失敗したバレルさんをルドラさんと遭遇させて時間を作り、ドラグニティさんとぶつけました」
「……キララさん、あれ全てキララさんの作戦の内だったんですね」
バレルさんは苦笑いを浮かべ、なにもかも私の手の平の上だったと思い知り、少し引いていた。
「ドラグニティさんって、学園長の爺かよ」
「はい。彼なら、バレルさんを止められると思ったんです。ただ……」
「ただ?」
「悪魔の声が聞こえた瞬間、バレルさんの体が黒く染まり、別人のようになってしまったんです。悪魔の力を得たバレルさんは今のドラグニティさんが撤退を余儀なくするほど強力でした。なので私がドラグニティさんを強化し、一対一で戦ってもらったんです。その間に人々の避難をしていたんですけど、狭い空間にとどめておくことが出来ず……」
私はバレルさんがどのようにしてこの場に来たのかと言う経緯をフロックさんとカイリさんに全て話した。
「つまり、バレルさんは正教会が保護している勇者に殺されたことになっているわけか。国を滅ぼそうとした存在を勇者が倒したなんてあまりにもできた話しだな……」
「ああ、そうだね。きっと正教会は暴走したバレルさんの排除に加え、マドロフ商会の排除、うまく行けば今後、王位継承の際に確実に阻んでくるアレス王子も同時に倒せていたわけか。ほんと、最悪の結果にならなくてよかった。レディー、そんなすごいことをしていたんだね。そりゃあ、王家の記章を貰っていてもおかしくない」
カイリさんは私の方を見て、苦笑いを浮かべながら呟いた。
「王家の記章……?」
バレルさんは初耳だったらしく、私の顔を見ながら耳を疑っていた。
私はポケットから王家の記章を取り出し、バレルさんに見せる。
「なっ! ほ、本物……。とんでもない方ですね……」
バレルさんはますます頭が低くなった。元から子供に対する姿勢じゃないのに、だいぶ私を敬ってくれている。
「まあ、私はちょっと縁があっただけです。以前にアレス王子と合い、牛乳のことで話しをしたので知り合いだったから、事がうまく運んだんですよ」
「キララの何でも即行動が色々良いように回っているわけか。なら、バレルさんはこの村からあまり身動きが取れないと言うことですね」
「ああ、そう言うことになる。私はすでにこの村に永住することを決めているし、何ら不自由はない。逆にこの村の方が王都よりも住みやすいくらいだ。マルチス殿には本当に感謝してもしきれないな……」
「そうですか……。元剣神のバレルは村人に転職したわけですね」
「ああ。出来るのなら、私も皆の力になりたいが、歳に加え国籍上死人となると、うまく動けん。だから、今は未来に希望を持っている子供達の剣術指導をしているわけだ」
「バレルさんから剣術指導を受けられるなんて、王都の学園よりも待遇が良いですね」
カイリさんは明るい表情で笑いながら言った。
「まあ、私の教え子たちは皆、優秀だからか、すぐに吸収してしまう。もう、恐ろしいぐらいだ。フロック君も気を抜いたらすぐにお抜かれてしまうぞ。精進するように」
「はい。もちろんです。また今度、俺にも剣術の指導をしてください!」
「もちろんだ。いつでも聞きに来なさい」
バレルさんとフロックさん、カイリさんはお酒が抜けて来たのか、呂律の回った話合いで意見を交換していた。
「バレルさん。聞きたいんですけど、キララと共に新種の魔物に遭遇したんですよね?」
「遭遇した。あれは中々の強敵だったよ。大量の魔物の処理も含め、強敵一体。老いぼれの私だけでは全ての魔物を倒すことは不可能だっただろう」
「やっぱり、新種は強かったですか?」
「強かった。全盛期の私の攻撃で倒せるくらいだ。フロック君とカイリ君の二人が掛かりで倒せるかどうか……怪しい所だな。Sランク冒険者だからと言って油断は禁物だ」
——あの魔物、相当強かったんだな。バレルさんがバカみたいに強かったのは置いておいて、フロックさんとカイリさんが戦ってギリギリって……。
「バレルさん、俺とフロックも新人ほやほやの五年前とは違います。力と経験、色々身に着けてきました。今の俺達でも倒すのは難しいですか?」
「難しいだろう。二人の活躍は記事で知っている。巨大なブラックベアーを狩ったり、瘴気で汚染された村を救ったりしているようだが……、どちらも情報が曖昧で、実に奇妙だ。どう考えても二名で倒したと言う気がしない。何かしら他の手助けがあったはずだ」
「そ、その通りです……」
カイリさんは目を丸くし、バレルさんの姿を見ていた。やはり歴戦の猛者には何か感じるものがあるのだろう。
「二人は確かに強い。だが、まだ若い。経験や力量がまだまだ足らない。私はそう思う。まあ、経験や力量などいつまでたっても足らないのだがな。言っておくが、二人が弱いと言っているわけじゃない。自信過剰にならず、自分は常に修行の身だと言うことを忘れないよう厳しく言っているだけだ」
「いや……、バレルさんの言う通りです。俺達がSランクになった一年前、巨大なブラックベアーが現れた時、俺とカイリだけでは倒せなかった。なんなら、死んでいた……。とある者が力を貸してくれたから倒せたんです。今、俺とカイリだけで、あのブラックベアーを倒せるかと聞かれたら倒せると自信が持てません。どうやったら今以上に強くなれますか?」
フロックさんはバレルさんに自分の弱さをさらけ出し、真剣な表情を浮かべながら訊いていた。
「フロック君の強みは戦いの仕方や魔力の使い方にある。スキルを使えば、敵をさらにほんろうした戦い方が出来るだろう。君の師匠はそりゃあもう豪快な少女だった。大剣を持たせたら私も止められない。聞くが、君が大剣を使う理由は何だ? なぜ、大剣にこだわる?」
「お、俺は……。師匠に認めてもらいたいと言うか……。師匠への憧れと言うか……」
フロックさんは先生に叱られている学生のように俯きながら呟いた。
「フロック君の体に大剣は確実に合わない。だが、それでも使い続けられていると言うことはそれなりの理由がある。強くなるために必要なのは自分の強さをとことん知ることだ」
「自分の強さを知る……」
「そうだ。自分の強みを知り、理解することで更なる躍進が得られる。どんどん探求してどこまで自分の力を開花させられるかが強さを得る近道だ。私のスキル『剣速上昇』は初め、剣にのみ付与可能だと思っていた。だが、私自身が手を剣だと認識し、探求し続けた結果、手の動きまで『剣速上昇』の範囲に入るようになったんだ」
「な、なるほど……」
「だから、フロック君も自分の一番の強みであるスキルをさらに深堀し、使い方や能力の上昇を目指すといい。一番身近にある強さがスキルだ。この点を深く深く理解できれば、君はもっと強くなれる」
「あ、ありがとうございますっ! 俺、もっと自分の強さを見つめますっ!」
フロックさんは胸の内にあった不安が解消されたような表情をしていた。清々しい良い顏で、私の胸がドキリと跳ねる。
やはりバレルさんは教師としての才能があるのか、フロックさんに的確な助言をした。フロックさんのスキル『武器操作』をどこまで深められるのだろうか……。私も気になる。
「カイリ君も同じことが言える。君のスキルは『バリア』と言うとても単純明快で使いやすいスキルだ。だが、単純がゆえに深堀することが難しい。君はスキルをどこまで理解している?」
「わ、私のスキルについてですか……。えっと……、魔力を消費して硬い透明な壁を作る……。足場になる、閉じ込められる……。そんなくらいです」
「なら、もっと深く知る努力をしなさい。自分のスキルの中で強みを一つでも増やせたらそれだけで儲けものだ。スキルほど簡単に発動できる魔法はない。だからこそ、強味になる。もう一度言う。自分の強さを見つめ、さらに深く掘り下げるようにすれば強くなれる。ここにいるキララさんが良い例だろう。彼女のスキルは誰が見ても弱い。だが、私を負かすほどキレる頭と合わされば、強力なスキルとなる」
「た、確かに……」
「両者とも強みを更なる強みへと昇華させなさい。私は一八年かかった。二人は私を確実に越えなさい。一年後、あなた達がより強くなっていることを私は願う」
「はいっ! ありがとうございますっ!」
フロックさんとカイリさんは頭を深々と下げ、バレルさんに感謝の意を表した。




