から揚げの評価
「えー、皆さん。今日はカイリさんとフロックさんが無事に帰って来てくれました。拍手っ!」
私は司会進行役を務め、手を勢いよく叩く。すると、皆、手を叩き二名の帰還を心から喜んだ。
「はは……、そんな大したことじゃないんだが……」
「皆、フロックさんとカイリさんが帰って来てくれて嬉しいんですよ」
「一番喜んでいるのは姉さんでしょー」
「そうそう、こんな会まで開いちゃうなんてフロックさんに会えて嬉しがりすぎー」
ライトとシャインが私をおちょくって来たので、二名の料理を魔法で空中に浮かばせる。
「ああ、おちょくってごめんなさいっ!」
二名は私に頭を何度も下げて謝り、料理が乗った皿を抱きかかえるようにして持つ。
「じゃあ、皆さん。神に祈って感謝を込めてから、食事にしましょう」
私は両手を合わせ、神や食材に祈る。この場にいたほとんどの人が両手を握り合わせ、神に祈っているように見えた。
「いただきますっ!」
「いただきますっ!」
私の声と共に全員が大きな声を出し、フォークを片手に持ってから揚げを突き刺しソウルに少し付け、勢いよく齧り付く。
「うっまあああああああああああああああああああああああああああああああっ!」
子供達はあまりの美味しさに星が輝く空に咆哮を放った。あまりにも大きな咆哮で空島が落ちてこないか心配だ。きっと同じように咆哮を放つクロクマさん達も驚く威力だろう。
「お、お姉ちゃん……。こ、これ、美味しすぎる……」
シャインは美味しすぎて泣いていた。そりゃあ、ソウルをしっかりと使ったから揚げなのだから美味しいに決まっている。下味は香辛料程度だが、やはりソウルの汎用性が高すぎる。
「う、ううぅ。ううう……。姉さんの弟に生まれて良かった……」
ライトも号泣し、服を濡らしまくっていた。唐揚げを一口食べるたび、涙の量が増える。ソウルを食べて体の中にミネラルを補給してもらわないとね。
「あ、ああ……」
フロックさんは言葉を失い、あまりにも幸せそうな顔だった。放心状態になり、心がから揚げの美味しさにとらわれて、当分戻ってこないだろう。
「れ、レディー。これはいったい……」
カイリさんも子供のようにから揚げを食しており、口の周りが油っぽくなっていた。貴族らしい食べ方はどこへやら……。
「ただのから揚げです。ブラッディバードの肉を食べやすく切って小麦粉に眩し、油で揚げると外はサクサク内側は火が入り肉汁が閉じ込められてふっくらと仕上がります。今回はソウルという万能調味料を使えたのでより一層美味しく仕上がっているはずです。王都で揚げ物は出ないんですか?」
「揚げ物は滅多に出ない。そうだな……。ドーナッツくらいか」
「ドーナッツ。輪っかのようなお菓子ですか?」
「ああ。そうだよ。たまに食べたくなるあの味がたまらないよね」
「じゃあ、デザートにドーナッツでも作りますか。油もせっかく出したので、使わないともったいないですし、小麦粉、バター、牛乳、エッグルなどなど、素材は十分ですからね」
ドーナツの作り方は結構簡単なので、デザートで皆に食べてもらおう。
「その前に、私も食べよっと!」
私は自分のから揚げポテトプレートを手繰り寄せ、木製の椅子に座り、再度手を合わせる。
「いただきます」
私は再度感謝を込め、神に祈った。フォークを持ち、出来立てのから揚げに突き刺す。ざくっという触感が木製のフォークから指先に伝わり、空気の振動を受け取った耳が心地いい。刺し口からすでに肉汁があふれ出ており、ブラッディバードの柔らかい肉が簡単に裂けてしまう。ブラッディバードのモモ肉を使ったのは大正解だったな。
「ふー、ふー、ふー」
私は舌が火傷しないようにしっかりと冷ます。その後、匂いを嗅いだ。油の香りがするものの、出し立てなので臭くない。なんなら、揚げ物特有の食欲をそそる香りをしっかりと放っていた。
レモネを添えているだけで酸っぱい香りと合わさり、ご飯を掻き込みたくなってくる。だが、生憎ご飯は無く、麦飯ならあるので冷凍していた品を解凍、温めし、ホカホカにした。
パンも悪くないが、から揚げにはやはり飯だろう。ソウルもついているのだから、飯が進むはず。
私は口の中にから揚げを入れた。唐揚げが舌についた瞬間、ソウルのうま味が舌から脳まで電撃のように走り、これを求めていたのだと言わんばかりに唾液が大量に分泌される。水分と混ざり合うことで塩味がうま味に変わり、頭の中はすでに『幸せ』を感じていた。
歯を使い、から揚げを噛む。ざくっという衣が裂かれる音と触感が最高に心地よい。加えて噛めば噛むほど肉汁があふれ出てきて止まらず、植物性油と動物性油が混ざり合い、舌の上をコーティングしていく。そのせいで口の中が油っぽくなり、何かを入れたくて仕方がなくなった。
おにぎり状のホカホカ麦飯に食らいつく。粒上の柔らかい大麦が口内に入ってきて噛み締めると……油やソウル、肉と一緒に踊り出す。美味すぎて美味すぎて、食レポしている場合じゃない。
口の中身をいったん全て胃に落とし、冷えた水が入ったコップを持ってグイッと一杯飲み干した。
「ぷはーっ! 美味いっ! 幸せぇえええー!」
私は居酒屋のおっさん張りに良い声を出し、身に沁みるから揚げとソウルの味を体と心に覚え込ませる。手は止まるところを知らず、から揚げを全て平らげ、麦飯すらなくなっていた。無我夢中に食べ進めていたと知り、本当に美味しい品は考えが追い付かないんだなと悟る。
「き、キララさん。これ、美味しすぎませんか……。エールが飲みたくなります」
バレルさんはから揚げポテトプレートをほぼ食べきっており、最後の揚げトゥーベルを摘まんでいた。すでに老体なのに、胃は大丈夫なのだろうか。普通に胃もたれすると思うんだけど……。
「バレルさんはあまりたくさん食べない方が良いと思いますよ。脂っこい品を食べると胃もたれすることが多いんです」
「こ、こんなおいしい品を食べるなと言われる方が辛いんですが!」
バレルさんは揚げトゥーベルを食し、イケオジの雰囲気と真逆の可愛らしい顔ではにかんでいる。最後の一本を食べきってしまったら、無性に落ち込んでいた。
「食べ物は体の健康があってこそ美味しくいただけますから、少しずつ食べるようにしてくださいね」
私は元剣聖で激強のバレルさんが胃もたれして苦しそうにしている姿を見たくない。バレルさんが、うぅ、胃がぁ……、とか言っていたらあまりにも情けないから……。
「わかりました……」
バレルさんは渋々了承してくれた。
「キララさんっ! おかわりはあるかしら!」
クレアさんはカイリさん以上に口の周りをテカテカにしながら目を輝かせ、私のもとにやって来た。
「すみません、おかわりはありません。今ので終了です」
「ええー、もっと食べた方のに……。コロッケと同じくらい美味しかったわ」
「コロッケと同じくらい美味しいと言うことはコロッケと同じくらい太りやすい品ですから、あまりたくさん食べるとぶくぶく太ってしまいます。節度をもって楽しみましょうね」
「ああーもうっ! 何で美味しいものは全部太るのっ! 神様のバカっ!」
クレアさんは頭を抱えながら、神様に怒鳴った。神様も予想外だったと思うよ。『人族が肥えるほど美味しい料理を作れるようになるなんてね』って。だから、無駄に油を溜めこみやすい体にしちゃったんだよ。昔は食べ物を得るのが難しかったし……。
「キララさんっ! キララさんっ! すっごくすっごく美味しかったです。ありがとうございます!」
誰もが認める天使のテリアちゃんが私のもとにやって来て頭を下げてきた。ライトボールの光が髪の毛に天使の輪を作り、本当に背中から白い翼が生えているんじゃないかと錯覚してしまうくらい天使だ。抱きしめて持ち帰りたい。
「キララさん。これ、どんな人でも絶対に喜びますよ」
テリアちゃんの兄であるガンマ君は目をギンギンにしながら料理を食していた。それだけ美味しいと言うことだろう。両者共に、美味しいと言ってくれて嬉しい限りだ。
「うわーん、キララちゃん。こんなおいしい品、どうやったら作れるの!」
メリーさんは私の顔面から抱き着いてきた。大きな胸に顔が埋もれ、息がしにくい。汗の臭いがぷんぷんしているのに、なんでこんなに良い匂いなんだ……。彼女に抱き着かれて私の体力が回復していく。スキルか本人の実力なのかわからないが、とにかく疲れが癒えた。
「も、もう、メリーさん。抱き着かないでください。でも、そんなに喜んでくれてよかったです。料理はまたおいおい教えますから、安心してくださいね」
「うわーん、ありがとうっ! 私もキララちゃんくらい美味しい料理を作れるようになりたいっ!」
メリーさんは私の両手を握り、花嫁修業でもするかの如く頼み込んできた。私は軽く引き受け、彼女に料理を教えることになる。まあ、調理方法さえわかれば後は勝手に上手くなっていくだろう。
「この料理! バートンにも食べさせてあげたいですっ!」
メリーさんと義理の姉弟のカイト君がから揚げを残しながら言って来た。美味しい料理を我慢し、大好きな者達と共有したいと言う姿勢があまりにも素晴らしい。
だが、残念ながらバートン達は肉食動物ではないので肉が食べられない。肉なんて食べたら、お腹にガスや微生物が溜まりすぎて死んでしまうだろう。
「カイト君は優しいね。でも、バートン達は肉が食べられないの。だから、こっちを上げてきて。バートン達と料理を一緒に食べたらもっとおいしくなると思うよ」
私は生のトゥーベルをカイト君に渡した。綺麗に洗浄されておりバートンも生で食べられる。




