一目瞭然の食事
「にしても、ドラグニティ学園長は凄いですね。無詠唱でいろいろな魔法が使えて箒も自由自在に操っていましたし、特にスキルがぶっ飛んでいました」
「はは……、そこまであの爺さんと仲良くなったのか」
「あとあと、勝負して倒してきました! 褒めてください!」
私は腰に手を当てて無い胸を張り、背中を反らせながら堂々と言う。
「…………」
フロックさんは目を丸くしていた。カイリさんも口をぽかんと開けている。そのまま八秒ほどの沈黙の後……。
「は、はは……。なにかの冗談だよな。あの爺さんが負けるとかあり得ないだろ」
「そ、そうだよ。フロックが勝負を何度挑んでも、いつの間にか吹き飛ぶところしか見ていないし、一一歳の少女があの人に勝てるなんて、天地がひっくり返ってもあり得ない」
フロックさんとカイリさんは私の発言を嘘だと思っているようだ。まあ、倒したと言ってもブラットディアを見せて気絶させただけなんだよな。ブラットディアが苦手と言うのは秘密だし、言わない約束だから必勝法は言えない。なんか残念。あの何ものにも動じなさそうなドラグニティ学園長が一匹のブラットディアを見ただけで悲鳴を上げて気絶するなんて、誰が思うだろうか。
「まあ、お二人が信じてくれないのなら別に構いませんが、戦ったのは事実です。三年生の実習で一瞬の間に皆を倒したドラグニティ学園長を見てスキルを把握した後、私のスキルを使ってなんやかんやして倒したんです」
「なんやかんやの部分を教えてほしいんだが……」
「ここは必勝法なので教えられません」
私は腕でバツ印を作り、口を割らない。
「姉さん、ドラグニティ魔法学園の学園長も倒せちゃうくらい凄いんだ。やっぱり姉さんだなー。僕も見習わないと!」
私の軽い発言で、ライトの中で私の位がまた上がってしまった。まあ、今回は嘘じゃないし、少しずるをしたけど……。姉の威厳は保てたかな。
私は朝食の用意ができるまで学園の中でルドラさんの弟とカイリさんの妹が一緒の部活をすることになった話をした。
「な、な、なな……。リーファがバートン術の試合に参加する! あんな危険な試合に出るなんて、いったい何を考えているんだ!」
カイリさんは形相を変え、その場で円を描きながら早歩きしていた。
「カイリ、落ち着け。リーファはバートンに乗るのが上手いから問題ないはずだ。そう簡単に落ちる貧弱な体じゃない。乗バートンの方も、上手かっただろ」
「リーファはバートンに愛され、バートンを愛する、あくなき天使なんだ。バートン術など男が出る野蛮な競技……。だが、国で最も盛り上がる競技と言っても良い。そんな競技にあんな天使が舞い降りたら、多くのバートン場が盛り上がってしまう!」
カイリさんは身振り手振りで自分の美しさを無駄に自慢しながら、リーファさんへの愛を語り始めると言う、ガンマ君以上に面倒くさい性格をしていた。彼の奥さん大変すぎないかな。
「カイリさん、あまりうるさいと朝食を上げませんよ」
「あ、ああ。すまない。血が頭に少し上ってしまった」
カイリさんは私の一言で、ぴたりと止まり椅子に座る。
「今日の朝食は白パンと野菜と干し肉が入ったスープ、エッグル焼きです」
私はお母さんが作った料理をテーブルに運ぶ。白パンは数日おきにやってくる物売りの行商人から買っている普通の品。スープにはビーンズとトゥーベル、干し肉などの具材がしっかりと入った品だ。エッグル焼きは殻からフライパンに落としてただ焼いただけの品、見た目はまさに目玉焼き。
昔の料理と比べたら、一目見ただけで違いがわかるだろう。味は牛乳の甘味とバターの風味、舌がピリッとする香辛料程度だが、具沢山と言うだけで許せてしまう。
「このスープには何が入っているんだ……?」
フロックさんはスープが入った器を持ちながら、頭を動かして様々な方向から見つめる。
「村で取れたビーンズとトゥーベルです。どちらも美味しいので、安心して食べてください」
「ビーンズとトゥーベル。どちらも村ならありふれた食材だ。他の村に滞在していた時も食べてきたからわかるが……、美味しいとは言えなかった……」
「まあまあ、文句を言わず、神に祈って食べてみてください」
「ああ、そうだな。いただいているのに、失礼なことを言った」
フロックさんは手を握り合わせ、神に祈る。私達も食事をとる前に神に祈った。
「じゃあ、いただかせてもらう」
フロックさんは木製のスプーンを持ち、スープが入った器を持ち上げる。ごろっと入ったトゥーベルをスプーンですくったあと、口に運んだ。
「あ、あっつ……。ほ、ホフホフ……。……んっま! なんだこりゃ。トゥーベルじゃねえだろ!」
「正真正銘のトゥーベルですよ。美味しいと言ってもらえてよかったです」
フロックさんはスプーンが止まらず、トゥーベルを掬っては口に含む。
「ほくほく、トロトロ、ふわふわ……。しっとりしててなぜか甘い。なんだ、このトゥーベル。何をしたらこんなにうまくなるんだ。カイリ、早く食え! 食わないなら俺が食う!」
「食べる食べる。だから、体を揺らすな」
カイリさんもスプーンでトゥーベルを掬い、口の中に入れた。
「あ、ああ、あああ……。こ、これは、トゥーベルじゃない。別の何かだ」
「だろ、だろ! どう考えてもトゥーベルじゃないだろ。ほんと、どうかしてる」
「はぁー、トゥーベルじゃないとか、たわ言をほざかないでください。ほら、これをしっかりと見てください。どう見てもトゥーベルでしょ」
私は台所の影に置いてあるトゥーベルを二名に見せる。紙で包まれているので、剥がしたあと、差し出す。
「こ、これがトゥーベルだと……。通常に二倍、三倍はあるぞ。こんなにどでかいトゥーベルは初めて見た」
「王都ではトゥーベルを食べることがほぼ無いけど、ここまで美味しいなら、料理をぜひ出してほしい。多くの者が舌をうならせるよ」
「カイリさんのお墨付きももらえてとても安心しました。でも、王都でトゥーベルを食べる習慣が無いと言うことなので、売り出しても簡単に売れそうもないですし、今年は村と街だけに売らせてもらいます」
「キララ、そのトゥーベルは一個いくらなんだ? 金貨一枚とかか?」
「そんな高いトゥーベルは誰も買いませんよ。一キログラムで金貨一枚です」
「一キログラムで金貨一枚……。買った! と言うか買う以外の選択が無い!」
「レディー、こんなに美味しいトゥーベルが一キログラム、金貨一枚は流石にやりすぎじゃんじゃ……」
「仕方ないじゃないですか。根菜ですし、放っておくと芽が出て食べられなくなってしまいます。今年は大量に取れて四〇〇〇キログラム以上もあるんですよ。売らないと消費できません」
「キララ、お前はトゥーベル農家か?」
「いえいえ、私はあくまでもモークルの乳を売っている農家ですよ。趣味で育てていたら大量に取れて、食べたら美味しかったので、売ろうかなと思っただけです。牧場の販売所では二個で銅貨一枚で売っていますよ。よかったら買って行ってください」
「このトゥーベルが二個で銅貨一枚……。キララ、とんでもない値段で売っているんだな」
「皆さんが喜んでくれているので、万々歳です。ささ、スープのおかわりはまだまだありますよ。沢山食べてください」
「ああ。そうさせてもらう!」
フロックさんは元気よく食事した。寝不足なのに、よく食べるこった。でも、その姿を見ると少々癒されている自分がいた。元気よく食事している者を見ると、こちらも元気になってしまう現象を体験している。
「レディー。トゥーベルだけに眼が行っていたが、この緑色のビーンズもとんでもなく美味しい。皴が無くパンパンに張っている。ここまでしっかりしたビーンズも珍しいよ。あと……、この焼かれた黄色と白の品だが……、鶏卵かい?」
「いいえ。鶏卵ではありません。エッグルです」
「エッグルって。でも、エッグルならもっと大きな卵のはず。こんな皿に乗る大きさじゃない。なのに、この品はエッグルなのかい?」
「はい。説明すると長くなるので、簡単に言うと小さなエッグルを生むブラッディバードを大量に飼育しているんです。まあ、見た目はほぼ鶏卵と同じですけど、味は抜群に美味しいですよ」
「い、いただこう」
カイリさんはナイフとフォークで貴族らしくとても綺麗に食事をした。
「んんんんっ! 通常の鶏卵じゃ出せない濃くと深みのある黄身、淡泊だが、食べ応えとエッグル本来の味わいが楽しい白身、これは紛れもなくエッグルだ……。ただ焼いただけの料理なのに美味しすぎる……」
「ソウルがあればよかったんですけど、買えないので全て食材本来の味で勝負しています」
「キララ、こんなうまい品を作ってどうするつもりだ? こんな村で納まっていていい味じゃねえぞ。王都に行って調味料をそろえて店を出せば、必ず売れる」
「そこまで言ってくれてありがとうございます。でも、私は王都で料理屋を出したいわけじゃありません。お金儲けはしたいですけど、皆が楽しんで嬉しがってくれれば十分です。お二人がまた来たいと思えるような場所だと、知れば村人たちも安心できるでしょう」
「そうか……。じゃあ、この村に来れば、美味い料理が食べられると言うことだな! 俺とカイリだけが知る、秘密の店みたいだ。なんかわくわくするぜ!」
「そう思ってもらえたら私も嬉しいです。頑張って来た二人を暖かく迎える場所。そう思ってもらっても構いませんよ」
私は温泉の女将風に二名に伝えた。沢山の仕事をこなして疲れている二名に安らぎを与える場所があってもいいだろう。安らぎを求めているのならこの村は最適だ。温泉は無いが、休憩すると考えれば九八点くらい貰えると思う。銭湯も作ろうと思えば作れるし。




