巨大なモンスター
「……………」
「――反応が無い…」
ベスパがドームに入ってからどれくらい経っただろうか…、流石に『クリア』の魔法も効果が薄くなっているだろう。
「ベスp‥‥」
私が、中の事が気になり、話しかけようとした…その瞬間だった。
「キララ様!!!今です!!『視覚共有』を!!!」
相当、慌てた声でベスパは合図してきた…いったい何があったのか。
私はすぐさま、その声に従う。
「『視覚共有!』」
――目の前にはドロドロに溶けた…液体…?いや…足か!ベスパ、いったい何処にいるの!!返事して!、もっと良く見えるように出来ないの!!
「キラ…様!やば…です!これは、や…いですよ!ブ…ック…アーが!!!」
」
――視界が暗くてよく分からない…。それに、雑音も酷い…やばいってどうやばいのもっと説明…。し…て、え…?何…これ…。
私の目前に、見覚えのある生き物の顔がある…。頭の片隅にすら入れておきたくない存在が…。そこに居た。しかし、その顔は実物よりもはるかに大きい…。
――怖気が走る…寒い…、いや熱い…分からない、どうしよう、どうしよう……狂ってる…あのデカさは…。全身から汗が噴き出して止まらない…、瞳孔が定まらない…、心臓大丈夫…動いているよね…。分からない…うっ。
私は、あまりの恐怖にその場で吐いてしまった。
「ね!姉さん!どうしたの!」
「キララちゃん!」
ライトとリーズさんが駆けつけてくれたが…私の体が震え、視界が揺らく、息…ちゃんとできてる…かな。
「『視覚共有』が切れたという事は…、ベスパが消えたってこと…」
「『視覚共有?』…キララちゃん、もしかしてあの中を見てきたのかい。何かの眼に変わって」
「は…はい…中を見てきました…」
「何が居たんだ、どれだけの数が居たか分かるかい?」
「暗くて分かりにくかったですが…私の恐怖心と…トラウマが教えてくれました…」
「それはいったい…」
「『ブラックベアー』です…しかもデカイなんてもんじゃありません…私を軽く呑み込めるくらい…の!!リーズさん!あれ!」
風魔法で瘴気の進行を食い止めているが地面から何か黒い液体が流れ出してきている。
「聖職者たちよ!聖水を散布するのだ!!」
リーダーらしき人物が指示を出すと、散らばっていた聖職者さんたちが一斉に聖水を流れ出す黒い液体に向って散布し始めた。
聖水の色は何とも綺麗な透明…どす黒い液体とは大違い。
きっとあれは瘴気なのだろう、地面に聖水を掛ける聖職者さんたちもいる。
流れ出続ける瘴気の液体は聖水に阻まれ進行を止める。
「これは…まずいぞ…」
リーズさんはドームの方を見上げ、何かを見つける。
それにつられて私も顔を上げた。
「ブラックベアーの顔…いや…鼻…」
ドロドロ状態で分かりにくいが、さっき私が『視覚共有』をした時に、目の脳裏へ焼き付けられた、姿そのものだった。
通常時の10倍いや20倍はあろうかという大きさの巨体が…ドームから鼻…そして…顔を出して来た。
「キララちゃんが見たのはあれかい!いや、あれしか考えられないが!」
「そうです!確かに私が見たのはあの顔です!」
[『「グぉォぉォぉォぉォぉオオオオオオオオ!!!!」』]
「ぐ!!!」
ブラックベアー(瘴気)は、脳裏にガンガンと響く雄叫びを上げ、その存在を証明しようとする。
あまりの巨大さ、そして轟音に匹敵する雄叫びが、周りの冒険者たちへ、その存在を気づかせた。
「ライト!!早く!!」
「言われなくても分かってる!!あの、デカブツをぶっ殺せば、いいんだね!!」
私が声を掛けるより先に、ライトは『クリア』魔法の準備をしていた。
一発目の時よりも濃い光がライト自身を…魔法陣そして、体内部から照らす。
ライトも興奮しているようだ、ぶっ殺すなんて言葉どこで覚えたんだろうか。
「場所さえ分かれば…。僕の魔法で無駄にデカい巨体を!消し飛ばしてやる!!」
ブラックベアーであろうデカブツの頭上に、魔法陣が現れ、緑色の光を放っている。
初めは小さかった魔法陣が一気に展開され、青い空を埋め尽くすほどの巨大な魔法陣へと変化した。
「さあ…くらえよデカブツ!!耐えられるもんなら耐えてみろや!!『クリア!』」
魔法陣の緑光が纏まり、光の柱となった、光線がデカブツ目掛けて落ちる。
あたり一帯を眩しい光が覆いつくし、現状が判断ができない。
「ぐっぁぁあ!!!!」
「へ…!ライト!」
ライトがいきなりその場に倒れてしまった。
私は一目散に駆けつける。
「ライト!大丈夫!」
「ご…ごめん姉さん…あれは…今の僕じゃ、消しきれなかった…」
ライトの魔法がデカブツを囲んでいる瘴気に飲み込まれ消えてゆく。
その際、多少なりとも消え去った瘴気の間から、デカブツの全体像が垣間見えた。
村全体を埋め尽くすほどの巨体…。ドロドロに溶けた前足、体、頭部、後ろ脚…瘴気が体を蠢いている。
目に映った…モンスターは、ブラックベアーの面影など…、全くない。
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