トゥーベルの使い道
「お姉ちゃん、さっきの料理はコロッケって言うんだね。私、コロッケ八〇〇個食べたい! なんなら、八〇〇〇個でもいいよ! 私、頑張って働くから、もう、コロッケの揚げられたザクザクと同じくらいバリバリに働くから!」
シャインは目を燃やし、擬音語を多用しながら話した。何を言っているのかよくわからないが、とにかく美味しかったということだろう。
「皆が喜んでくれてよかった。でも、喧嘩の最中申し訳ないんだけどさ、最後の一個は私のなの。だから、喧嘩しないでくれる」
「…………」
子供達の無言の圧力が物凄く痛い。どう考えても私が嘘をついて二個目を食べようとしていると思われていた。
「み、皆。私はまだ一個も食べていないんだよ。ほんと、ほんとだから」
「姉さん、嘘をついたら神様から見放されるよ」
「嘘じゃないって。ほんとなんだってば。ね、クレアさん。私はまだ一個も食べていませんよね」
「そうね。確かにキララさんはコロッケを一個も食べていないわ」
クレアさんが言うと、子供達ははぁ、とため息をついて最後のコロッケとコロッケパンを私のもとに持ってきた。どうやら、クレアさんが正直者だというのは多くの者に浸透しているらしい。私よりも信用されているなんて……。私って信用無いのかな。
「ありがとう、皆。月に数回、夕食に出るから、楽しみにしていてね」
「うわああああああいっ! やったー、ありがとう、キララさん! ほんと大好きっ!」
さっきまで私に疑いの目を掛けていた子供達は、すっかりキラキラした瞳に戻っていた。ほんと調子のいい子供達だ。
私はコロッケとコロッケパンを手に持ち、神に祈った。コロッケパンだけではなくコロッケの方も紙に包まれており、お肉屋さんで売り出されているような見た目になっている。ビー達が、手を汚さないように紙で包んでくれたのだろう。
「もう、揚げてから数分経っているから、少し冷めちゃってるね」
手で触った感じ、温度はかなり下がっていた。出来立てほやほやを食べたかった気持ちはあるが、仕方が無いので数分間置いたコロッケを食す。匂いは油っぽい。まあ、パン粉が油を擦っているので仕方がないか。
私は口を開けてコロッケを食す。
揚げたパン粉が砕かれると、揚げ物特有のガリガリザクザクと言う快音が心地よく、水分が残りでんぷんの影響でねっとりとしたトゥーベルと野菜独特の風味と甘みがアクセントになっているビーンズ、うま味と出汁がよく出たブラッディバードの肉。
食材がしっかりと混ぜられているため、一口噛んだだけでもすべての感覚を得られた。
味はバターのみ。だが、もとから甘味が強いトゥーベルにブラッディバードの肉の出汁が染みわたり、とても美味しい。薄味だが、逆に濃すぎなくて私には食べやすかった。
――ああ、こんなに美味しコロッケが食べられる日が来るとは……。努力はしてみるものだな~。
ざくざくと言う音を何度か聞いていると、手に持っていたコロッケが無くなっていた。無我夢中で食べすぎてしまい、気づかぬ間に食べきっていたようだ。だが、私にはまだコロッケパンが残っている。
コッペパンのような白パンにコロッケを挟み、食すという何とも贅沢な品だ。チーズにミグルムも入っていると思うと、先ほどよりも美味しい可能性は十分ある。
「ふぅ、いただきます」
私は魔法の『加熱』で温め、パンを柔らかくしてから食べる。大きな口を開け、齧り付いた。少し溶けたチーズのうま味が舌に乗り、ミグルムの香辛料の刺激が鼻に抜ける。
口の中でパンとコロッケが混ざり合い、油によってしんなりとしたパンが甘味を増している。食べれば食べるほど食が進み、もう止まらない。
「ああ。またなくなってる……」
私はコロッケパンまでも、すぐに食べてしまった。お腹が空いていたというのもあるが、品の完成度が高すぎて無我夢中になってしまう。
「こりゃ、売ろうと思えば売れるよな……」
私はキッチンカーでもするかなんて考えてしまうほど、美味しい品だった。ウロトさんのお店でもぜひ出してもらおう。人気が出るのは間違いない。うま味が凝縮されたソラルムソース(トマトソース)があるなら、味付けも問題ないはずだ。
「じゃあ、皆。午後からの仕事も頑張っていくよ!」
「おおおおおおおおおっ!」
子供達は牧場の仕事を始める。私とベスパは残ったトゥーベルの収穫だ。
☆☆☆☆
「う、ううう……。うううう……」
私達が畑に行くと、立ちながら泣いている人物がいた。見かけからしてバレルさんなのだが、いったいなぜ泣いているのだろうか。
「えっと……、バレルさん。どうかしましたか?」
「ああ、キララさん。えっと、この品はキララさんが作ったんですか?」
バレルさんはコロッケとコロッケパンの食べ掛けの品を見せてくる。
「まあ、私が作ったと言えばそうですね」
――ビーが全自動で作ってくれたから、私自身が作ったとはいいがたいか。
「この品、ものすごく美味しいです。どことなく、妻が作ってくれた料理のような味がして……。まあ、ただトゥーベルを使った品だと言う点しかあっていませんが、懐かしくなって……」
バレルさんは昔を思い出しながら涙を流し、コロッケを食べていた。何とも笑ってしまいそうな光景だが、彼は本気で感動しているらしい。逆にその真剣さが、私のツボに入りそうになってしまった。必死でこらる。バレルさんにとっては大切な思い出を笑う訳にはいかない。妻との思い出を笑うとか、ありえない。
「バレルさん、もう、皆さんは仕事をはじめましたよ。バレルさんも仕事に向ってください」
「わかりました」
バレルさんは涙をぬぐい、牧場に向って走った。
「じゃあ、ベスパ。トゥーベルをすべて収穫してくれる」
「了解です!」
ベスパは光り、大量のビー達を集める。地面を掘り起こし、トゥーベルを集めていった。ただ、大量すぎて保管しておくのも一苦労だ。
「ベスパ、食べ物って転移魔法陣の中に入れておいても腐ったりしないかな?」
「そうですね……。腐る心配はないと思いますが、長い間、異空間の中にいると魔力が吸い尽くされてしまうので、味が落ちる可能性があります」
「確かに、ありえるね。じゃあ、倉庫に保管しておくしかないか。八分の一は種芋として置いておきたい。半分は料理や食事で消費するとして残りの半分は売りに出そう」
「そうですね。全体でざっと四八〇〇キログラムはありますから、二四〇〇キログラムは売りに出せますね」
「一キロ金貨一枚で売っても金貨二四〇〇枚……。うひょー、とんでもないね。大儲けだ。でも、トゥーベルはすぐに芽が出ちゃうとか言ってほとんど市場に出回らないみたい。そんな中、私のトゥーベルを売ったらどうなるんだろう……」
「一キログラム金貨一枚で買う者がどれだけいるかわかりませんし、一個銅貨一枚とかで売った方が良いのでは?」
「その方が売れるかもしれないけど、得られるお金は少なくなるよ」
「そうですよね。まあ、一般人に売るのではなく、お店の人に売るのが一番定価で買ってもらえそうです」
「でも、ウロトさんだって金貨二四〇〇枚も使ってすべて買い取ってくれるわけじゃない。よくて五〇キログラムだから、残り二三五〇個、ルドラさんが来てくれたら買ってくれるかな。忙しそうだし、大量すぎてバートンで運ぶのも大変だ。最悪、モークル達の餌にするしかないね」
「モークル達はトゥーベルを食べられるか調べましょうか」
「うん。一度食べてもらおう」
私は綺麗にしたトゥーベルを持ち、モークル達がいる厩舎に向かう。トゥーベルのソラニンなどが発生しそうな芽は全て取り、食べやすいように切った。
「ふわー、暖かい時期になって来たなー。そろそろ交尾の時期か―。楽しみだなー。一杯食って体力をつけておかないと、キララに切り刻まれて肉にされるぞ」
厩舎で干し草をもしゃもしゃと食べていたウシ君が視界に映た。彼なら、何でも食べてくれそうだ。
「ウシ君。ちょっといい」
「キララ……。なんだ、その目……。俺で何か調べようとしている目だな」
「あら、わかっちゃう? 今日はとれたてほやほやのトゥーベルを持ってきたよ。食べてみて」
私は餌箱に食べやすいように切ったトゥーベルを入れる。
「トゥーベル。何気に初めて食べるな。不味そうな匂いはしないし、食べるぜ」
ウシ君はトゥーベルを食した。むしゃむしゃという咀嚼音が聞こえ、すぐに飲み込む。
「うま……。普通に美味いぞ、このトゥーベルって食べ物」
「お、いけそうだね。いや、ちょっとトゥーベルが収穫出来すぎちゃってさ。少し、困ってたの。余ったら、皆に食べてもらうから、そのつもりで」
「わかった。あの味なら、全然食べられるぜ」
ウシ君は尻尾を振りながら喜んでくれた。牧草よりも摂取できる燃料が多いので、体力も付きやすいだろう。彼には種モークルとして頑張ってもらわないと行けないからね。
私は畑に戻り、トゥーベルの収穫を見続ける。ビー達がせっせと動き、トゥーベルの土を払って紙で包み、一キログラム事にベスパお手製の網袋に入れている。もう、売り出す準備が進められていた。いや、仕事が速いな……。




