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『ゴミ』スキルだと思われている『虫使い(蜂)』が結構使えるんですけど!<異世界冒険食べ物学園ダークファンタジー(仮)>  作者: コヨコヨ
受験まであと半年 ~仕事ではなく勉強に本腰入れる編~

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麦を街に売りに行く

「いや……、なんでどれもこれも美味いんだ。ただのパンなのに、ぼろぼろごわごわしていないし、トゥーベルだって土臭くないし、芋虫食って美味いと感じるとか訳がわからん」


 ハンスさんは沢山動いていたので、タンパク質をしっかりと取ってもらおうと思い、乾燥しビーの子とビーンズを粉砕して作った粉を牛乳に入れ、飲んでもらう。これで、午後も持つはずだ。


「バレルさんは何であんなに強いんですか?」


 ハンスさんは食後、バレルさんに話を食い気味に訊いていた。


「経験の差だろう。ハンス君は筋が中々良い。多くの死地を乗り越えられれば、大きく成長するはずだ」


「死地……。なるほど、死地を潜るぬけてきた数が違うからか……」


「死地に行けと無理に言わないが、経験している者としていない者とでは越えられないほど大きな差が出る。恐怖に打ち勝つために精神力や忍耐力、己の力を全て出し切らないと死地は潜り抜けられない。恐怖を受けながらも全力が出せるかどうかが強くなれるかどうかの違いだ」


 バレルさんは紙コップに入れられた紅茶を飲みながら、呟いた。


「うん、美味い。いやはや、キララさんは紅茶を入れるのも上手いんですね」


「いやいやー、紅茶が美味しいんですよ。私は手順通りに入れただけです」


 私は暖かい紅茶を紙コップに注ぎ、頑張って鍛錬していた元盗賊たちにも分けていく。心を落ち着かせてもらい、疲れを癒してもらうのだ。


 昼食の後、三〇分ほど休憩時間を取り、午後の鍛錬を再開した。

 鍛錬が終わったのは午後六時頃。


 バレルさんやシャイン、ガンマ君、セチアさんも、さすがに疲れたのか、息を荒らげていた。

 彼らが息を荒らげているのに、元盗賊たちが息を荒らげていないわけが無く、そこらへんで嘔吐する者や気を失っている者、倒れている者が多数見受けられた。


「はぁ、はぁ、はぁ……。こりゃ、出発までに何カ月かかることやら……」


 ハンスさんは両手両足を広げ、草原に寝転がっていた。そのまま、握り拳を作り、空に向ける。やる気は十分あるようで、笑顔がとても凛々しく見える。


「じゃあ、ハンスさん。明日からも頑張ってくださいね」


「ああ、簡単に死ぬわけにはいかないからな。力が付けられる時に付けておかねえと」


 ハンスさんは上半身を起こし、無理やり立ち上がった。

 私が強くなろうとしている彼を微笑みながら見ていると、彼はどうも不思議がっている様子だった。


「なんでかわからないが、俺を見るキララが姉目線っぽいんだ?」


「えー、別にハンスさんを弟だなんて思いながら見ていませんよ」


 私からすれば、ハンスさんはただの可愛らしい高校生くらいの感覚なので、姉っぽく見えたのは仕方がないのかもしれない。

 今のハンスさんは教えられた技術をどんどん吸収できる体なので、沢山努力してもらわないとな。



 麦の収穫と盗賊たちの鍛錬によって六月が終わり、熱くなり始める七月がやってくる。


 七月七日はシャインとライトの誕生日なわけだが、去年の反省を生かし、事前に贈物を用意しておいた。

 シャインには良い匂いがする香水、ライトには筋トレグッズだ。どれもこれもお金はかかっておらず、ビーに作ってもらった。香水は揮発性のあるアルコールに花の香る成分を混ぜて作り、筋トレグッズは脳内に残っていた記憶から作成した。


 どちらも、思い人に少しでも振り向いてもらえるように、努力してもらいたいから渡したのだが……。


 七月七日、朝、居間にて……。


「わ、私が香水なんて早すぎるよ!」


 シャインは香水が入った木製の容器を握り、赤面しながら呟いた。


「この道具、体に負荷が掛かりすぎて今の僕じゃ使えないよ」


 ライトは腹筋ローラーを持ちながら腹部を押さえていた。


「なんか、ごめん……。去年はちょっとやりすぎたかなと思ってさ……」


 去年送った品の元値が金貨二〇枚もする良品なので、今でも十分使えている。

 ただ、今年はどちらも金貨ゼロ枚なので、露骨に差が出たっぽい。


「別に贈物が貰えるのは嬉しいから良いんだけど、なんか……お姉ちゃんに心が見すかされているみたいで……」


「う、うん……。確かに、姉さんの考えがわかると言うか、これで僕に筋肉を付けさせようとしているんだろうなって言うのがわかると、逆に使いにくいと言うか……」


 シャインとライトは苦笑いを浮かべていた。


「私、贈物が下手だからさ。多分、これからも超良い品か、微妙な品になると思う。だから、許して」


 私は両手を合わせ、シャインとライトに謝った。両者は謝る必要ないと言っていたが、お金を使った品でも渡した方がよかったかもと思い返す。


 ――来年は私も学生だし、二人の誕生日に帰ってこられないかも……。にしても、二人は九歳になったのか。時間の流れが早いな。


 シャインとライトは今日で九歳になった。

 九歳にしては大人っぽい雰囲気に加え、ものすごく可愛い女の子とイケメンの男の子に育った。

 来年はスキルを貰える年なので、いったいどんなスキルが貰えるのか楽しみではある。すごいスキルかとても弱いスキルかわからないが、どちらでも二人ならしっかりと使いこなせるようになるだろう。


「お姉ちゃんお姉ちゃんっ! 今日は歌ってくれるの!」


「そうそう、それが一番大事! 姉さんは歌って踊ってくれるの!」


「ど、どうしようかなー。まあ、踊る気満々だったけど……、二人への贈り物が微妙だったから、ちょっと本気で歌って踊っちゃうよ」


「やったー!」


 ライトとシャインは贈物を受け取った時以上に飛び跳ねながら歓喜していた。


 私はライトとシャインの誕生日に家の中で歌って踊った。大っぴらに行う訳じゃなく、小さな遊びと言うことで、二人をお祝いする。

 神様たちへ見せるわけじゃないので、大がかりな仕掛けは無く、服を着替え、ただただ歌って踊るだけ。それだけでも、ライトとシャインは大変喜んでくれた。



 七月八日、私は街に牛乳を運びに行くわけだが、今日はネード村にもよっていた。


「き、キララさん。とうとう行くんですね」


 私とイーリスさんは荷台に大麦と小麦が入っている袋をそれぞれ一〇袋乗せ、出発の準備を整えた。


「はい、行きましょう!」


 今日はイーリスさんと街のお店に穀物を買わないかと営業に行く。


「お母さん、頑張って! 私はルイとキララさんの村に行って遊んでくるから!」


 デイジーちゃんは手を振り、ライトと手を繋いでいた。そのまま、ライトはふわりと浮きあがり、三人で空を飛び、村の方に移動する。


「ほ、本当に飛んで行っちゃいましたね……」


「まあ、魔法なので、気にしないでください」


「魔法であんなに、ぴゅーと飛んでいけるんですか?」


「ライトなら出来ちゃうんですよ……。私は万が一落ちるのが怖いのでしませんけどね」


 イーリスさんは荷台の前座席に座った。

 私は麦が乗った荷台を自分たちの荷台と縄で結びつけ、連結した。レクーにとっては屁でもないため、外れなければ問題ない。


「よし! 街で大型契約をしっかりと取りましょう!」


「は、はい!」


 私とイーリスさんは七月八日の早朝に街へと向かった。


 イーリスさんが作った麦が売れれば、その分デイジーちゃんが学園に行けるだけの資金が得られる。

 イーリスさんはそのために一生懸命働いているのだ。


「キララさん、私、上手くできるでしょうか……」


「できますよ。イーリスさんは野菜を売るだけで月、金貨八枚を稼いでいたんですよね。私のお父さんなんて、一ヶ月で、金貨二枚しか稼げなかったんですよ。その時点でイーリスさんは優秀です。自信を持ってください」


 ――ごめんなさい、お父さん。また、お父さんを出汁に使ってしまいました。


「そ、そうですかね。よ、よし! 頑張るぞ!」


 イーリスさんは両手を握りしめ、意欲を高めていた。彼女の年齢は低く見積もっても二○歳前半だ。

 私と息が合うのは、前世の私が彼女と同じくらいだったからだと思う。なんか、凄く友達っぽい関係なのだ。

 一一歳の私と二〇代のイーリスさんはあまりにも違うが、田中真由美とイーリスさんの波長は合い、一緒にいて楽しい。ただ……。

 イーリスさんが両手を握りしめ、意欲を高めている時、同時に胸を両腕で挟むような独特な癖がある。わざとなのか、無意識なのかはわからないが、この点だけはどうしても羨まずにはいられない。


 ――なぜ、両腕で挟んでむちっとなるんだ! もう服がぱっつんぱっつんじゃないか! うわああーっ!


 私は来月で一二歳にも拘わらず、胸が一向に成長していなかった。あの駄女神、今度会ったらとっちめてやる。

 

 私達は四時間ほどかけて、街にやってきた。


「ひ、久しぶりに来ました。だ、大丈夫ですかね。以前はなんか辛気臭い場所でしたけど」


「大丈夫です。もう、以前の街とは全くの別の場所ですよ」


 私は門番のおじさんに挨拶しに向かう。今日は女騎士のトーチさんの姿は無く、おじさん一人だった。


「おじさん、おはようございます」


「おお、おはよう。って、今日は偉い別嬪さんを連れとるな……」


 おじさんはイーリスさんの姿を見て呟いていた。熱っている視線が、大きな胸に向いているので、何ともまあ、男だなと思わされる。


「そ、そんな、別嬪だなんて…………。私は田舎者の普通の女ですよ。でも、ありがとうございます」


 イーリスさんは謙遜し、頭を下げながら感謝していた。

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