元盗賊を鍛える
「あー、それは絶対にありえません。なんせ……。ウォーウルフ達、お座りっ!」
「わうっ!」
ウォーウルフ達は私の命令に従い、一斉にお座りした。
「伏せっ!」
「わうっ!」
皆、一斉に伏せした。黒い絨毯を敷いたような景色が広がる。
「お回りっ!」
「わうっ!」
皆、一斉にお回りする。グルグル回り過ぎて目が回って来た
「う、うわぁ……。な、なんか気持ちわりい……」
ハンスさんはあまりに綺麗な団体行動を見て、もう笑っていた。
「ここまで私の言うことを聞く忠犬たちですよ。あなた達が殺そうとしなければ、殺してきません。良いですか。殺そうとしなければ、殺そうとしません。大切なので、二回言いました。万が一、殺そうとすれば、彼らのおやつになることをお忘れなく」
「は、はい!」
盗賊たちは自分の体より二回りも大きなウォーウルフの団体行動を見て、律儀に返事した。
「じゃあ、ハンスさん。五人から三人の小隊を作り、それぞれ仲間意識を持たせてください。一人ずつより、小隊で動いたほうが効率が良いです」
「そうだな。じゃあ、使用する武器ごとに小隊を編成する。遠距離、中距離、近距離の順に並べ!」
ハンスさんが大声をあげると、盗賊たちは自分が使う武器を把握して並んだ。
遠距離は弓やボウガンっぽい武器。
中距離は投げナイフに槍など。
近距離は剣や双剣、斧だ。
八〇人のうち、近距離が最も多く、遠距離が少なかった。
でも、五人編成なら、近距離三人、中距離一人、遠距離一人、と言う具合で丁度よさげだ。皆、自分の力を最大限生かせるよう、小隊の中で力を尽くしてもらおう。
八〇人の盗賊が五人一組に分かれ、一六組できた。
こうすれば、ハンスさんが一六人に指示を出すだけで、八〇人全体に素早く伝令が回る。
伝達は戦いの中で最も重要な力なので、早めるに越したことはない。
「じゃあ、皆さん。切れない木剣、斧、刺さらない槍、刺さらない矢を作成しますから、ウォーウルフ達と対等に戦えるよう、訓練していてください。訓練が終了次第、仕事をしてもらいます」
「は、はいっ!」
盗賊とはいえ、元は心優しい無垢な子供達だったはずだ。綺麗な心を取り戻してくれたのなら、悪さはもうしないだろう。
私はブラック企業のように、仕事に着いたらさっさと働かせたりはせず、研修をしっかりと受けさせる。力を付けてもらってから仕事をさせた方が失敗や不手際が起こりにくい。始めに手を抜くと後から面倒なのはよく知っていた。そのため、効率を最大に高めさせてもらう。
「ハンスさん。あなたはこの中で一番強いと言っても良いですか?」
「ああ、そうだな。俺はそう思っている」
「ハンスさんが死んだ場合、周りの者も死にます。なので、絶対に死んではいけません。それが上に立つ者の責任です。わかりますか?」
「それくらいはな。まあ、俺はいつも運よく生き残る人間だ。そう簡単には死なねえよ」
「そう言っていても人は簡単に死ぬんですよ。なので、ハンスさんには特別訓練を受けてもらいます」
「特別訓練? なんだそりゃ」
「私が住んでいる村に、とても強いおじさんがいるんですけど、その方に稽古をつけてもらってください」
「稽古だ? そんなもん、実践でやった方が良いだろ。おっさんなんかに俺は負けね」
「残念ですが、ハンスさんでは勝てません。普通にひねりつぶされます。その方は魔物八八八体とぶつかっても死ななかった猛者ですからね」
「ああ……、そりゃやべえな……。勝てる気がしねえや」
「勉学も必要でしょうから、超賢い子共に教えてもらいましょう。ハンスさんは地頭が良さそうなので、必要事項はすぐに覚えられそうですね」
「勉強か……。嫌いじゃないが、面倒ではあるな。まあ、覚えろと言うなら、覚える」
「物分かりが良くて助かります。じゃあ、明日の朝から、早速開始しましょう。今日は家でしっかりと休んで、寝てください」
「家?」
ハンスさんや元盗賊たちは首を傾げているように見えた。
「ベスパ、八〇人が寝られる仮設住宅を作って」
「了解しました!」
ベスパは森の空で輝き、大量のビー達を呼び寄せた。八〇分後……。
「嘘だろ……。まさかとは思ったが、ありえねえ……」
森の中に、合わせて八〇部屋ある仮設住宅が完成した。
構造はいたって質素で、二階建て長方形型が四軒。
高さは六メートルから七メートルほど。横の長さはざっと四〇メートル。階段までついており、何と完璧なつくりだろうか。
「えっと、トイレが無いので共有便所を三つほど置いておきます。ベッドは木製なので硬いかもしれませんが、メークルの毛で作ったマットレスが敷かれているので硬さは軽減されているはずです。ぐっすりと眠ってください」
「はは……、ははは……、はははは……」
ハンスさんはいったい何を笑っているのだろうか。まあいいか。
「じゃあ、私は今日はもう帰りますね。明日、また会いましょう。では、お休みなさい」
私はフルーファの背中に乗り、クロクマさんを護衛に付けながら、村まで帰る。
「キララ様、皆さん、嬉しいのか恐怖しているのかわかりませんでしたが、笑っていましたね」
ベスパは元盗賊たちの心がわからないのか、顎に手を置きながら考えていた。
「そうだね。まあ、これくらいで怖がってもらっちゃ、明日、どうにもならないんだけど……」
私はおじさんと子供の恐怖を知っているので元盗賊たちが耐えられるのか心配だった。まあ、耐えられなかったら耐えられるようになるまで、扱くだけだ。
私達は村に到着し、クロクマさんは檻の中に戻っていく。
私は家の前に到着し、フルーファの足を拭いて家の中に入った。夕食時にギリギリ間に合い、お父さんとお母さん、ライト、シャインの四名と食事をとる。
「いやぁ、角が生えた狼かと思ったら、まさか魔物を連れてくるとは思わなかったよなー」
「ほんとねー。まさか、さすがに、そんなことはしないと思っていたけど、またやったらしいわね」
お父さんとお母さんは木製の皿に入った残飯を貪るフルーファの体を撫でながら言っていた。もう、フルーファはペットとして周りの者にしっかりと認められていた。
「フルーファ、私がブラッシングしてあげるー」
シャインがブラシを持ち、フルーファに近づいた。
「ちょ、ちょっと待て。お前は痛いから嫌だ」
フルーファはシャインから逃げ、私の後方に走ってきた。
「もう、なんで逃げるのー。私がせっかく綺麗にしてあげるって言ってるのにーっ」
シャインはブラシの持ち手を反動もつけずに握りつぶした。
私達はため息をつきながらシャインを宥める。
「ムムム……。フルーファは雄なのに、生殖器はどこにあるのかな。体内に埋もれているのだろうか……。魔物の生殖行動は他の生き物と同じなのか。体毛の色が変わるのはなぜ? どうして、頭から角が生えているの、この角は折ったら生えてくるの? 牙は? 爪は? 欠けたら治るの?」
ライトはフルーファの体をこねくり回しながら、目を見開き、ブツブツと呟いていた。
「き、キララ様」
フルーファはライトから離れ、私に寄り添って来た。やはり、ライトの顔はフルーファから見ても、恐怖だったらしい。
「もう、姉さんばかり懐かれてずるい。僕も懐かれたいよー」
「なら、もっと穏やかで優しい顏をしなきゃ。心は魔物にも通じるっぽいし、ねー。フルーファ」
私はフルーファの頬をモニモニしながら、微笑みかける。
「なんか気持悪い」
フルーファは目を細め、私の善意を無碍にする。
「おい……」
私は頬を無理やり上げさせ、牙をむきだしにしながら笑わせる。そのまま抱き着き、レスリングのように転がした。
「あー、私も抱き着く! モフモフしたいっ!」
シャインは私に続いてフルーファに抱き着く。
「なら僕だって!」
ライトまでもフルーファに抱き着いた。
「ああ……、ベスパ様。この人たち、面倒臭いです……」
「仕方ないですよ。人間とは面倒臭い生き物なんです。我慢してください。あなたはキララ様の従順なるペットなんですからね」
「何気に酷いこと言ってるんですけど……。はぁ……、何で俺がこんな目に……」
フルーファはなんだかんだ言いながら、尻尾がめちゃくちゃ振られているので、喜んでいることが誰の目から見ても明らかだった。
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