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『ゴミ』スキルだと思われている『虫使い(蜂)』が結構使えるんですけど!<異世界冒険食べ物学園ダークファンタジー(仮)>  作者: コヨコヨ
受験まであと半年 ~仕事ではなく勉強に本腰入れる編~

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麦飯

「遊び終わったら家の中に入ってくるでしょう。二人の分も作らないといけないから、五人前だね。イーリスさんも手伝ってください」


「は、はい!」


 私とイーリスさんはパンケーキを作り、一〇枚焼き上げた。

 一枚はイーリスさんが使っていた小麦粉。もう一枚は今回作った小麦粉のパンケーキを皿に乗せ、生クリームが乗っているかどうかで見分けてもらう。乗っている方が美味しいパンケーキだ。


「おまちどおさま。キララ特製普通の小麦を使用したパンケーキとネード村小麦を使用した食べ比べ、パンケーキセットです。美味しい紅茶と共にお召し上がりください」


「う、うぉぉ……。お店だ……」


 ライトはぽつりと呟き。笑った。


「はぁ、はぁ、はぁ……。もう、我慢できないよ……」


 シャインはナイフとフォークを握りつぶすほどの握力で持ち、息を荒らげる。


「凄い凄いっ! こんなおいしそうな食べ物、初めて見ました!」


 デイジーちゃんは元気よく悦び、良い顏をする。


「じゃあ、皆。普通の小麦粉を使ったパンケーキの方から食べてくれる。生クリームが乗っていない方のパンケーキだよ」


「はーいっ!」


 ライトとシャイン、デイジーちゃんは生クリームが乗っていない方のパンケーキを食した。


「お、美味しい……。姉さん。こっちでも十分すぎるくらい美味しいよ。ショウさんのお店に並んでいてもおかしくない」


 ライトはお菓子屋のショウさんのお店に牛乳を卸していたので、味がわかるのか、ありがたい言葉をくれた。でも、普通の小麦を使っているので、ショウさんには遠く及ばない。


「美味しい美味しい! これでも十分美味しいよ!」


 シャインはパンケーキを一口で食べてしまった。もう、どれだけお腹が空いていたんだと言うくらい勢いが良い。


「はむ……。うう……、お、美味しい……」


 デイジーちゃんは先ほどのイーリスさんと全く同じ反応をした。瞳に涙を浮かべ、潤わせているように見える。


「じゃあ、皆。もう一方のパンケーキを食べて」


「はーいっ!」


 ライトとシャイン、デイジーちゃんはパンケーキを一口の大きさに切り、口に運ぶ。


 ――ど、どうかな。


 私は唾を飲み、三名がどんな反応をするのかじっと待つ。


「美味しいいいいいいいいいいいいいいいいいっ!」


 ライトとシャイン、デイジーちゃんの声はブラックベアーの咆哮にも負けないほど大きく、建物が軋みそうなほどうるさかった。


「ああ……。すごい、凄いよ……。なんて美味しいんだ……。こんなの、美味しすぎて美味しすぎるよ……」


 ライトですら語彙力が無くなり、手を止めずにパンケーキを口に入れていく。


「あ、あれ? 私のパンケーキはどこに行ったの。う、嘘……。もう、全部食べちゃった……」


 シャインは無意識のうちに全てのパンケーキを食していた。とんだ食いしん坊だ。


「うわああああああんんっ! 美味しいよぉっ!」


 デイジーちゃんは大声を出しながら、パンケーキを口内に含み、嬉しそうな顔で口をもごもごし、泣き始める。


「よし。子供に受けた。デイジーさん。小麦粉の味は上々です。最高の出来栄えですよ」


「ありがとうございます、キララさん。もう、何もかもキララさんのおかげです……」


 イーリスさんは私に向って頭を下げて来た。


「いえいえ、違いますよ。私は月に数回様子を見に来ていただけです。イーリスさんが毎日お世話していたんじゃないですか。だから、イーリスさんが作ったのも同然ですよ」


 イーリスさんとデイジーちゃんが作った小麦はとんでもなく美味しかった。こりゃ、王都でも他の商品と肩を並べられる。それくらい、良い出来栄えだった。


「はてさて、あとは大麦の方だけど……。しっかりと炊けているかな」


 私は大麦の方も調理していた。

 鉄製の鍋に大麦二〇〇グラムと水二〇〇ミリリットルを入れ、三〇分ほど炊いていた。

 麦飯と言う日本人の私はそそる料理なわけだが、この地域はパンが主食なので、大麦を炊いて食べる者はいない。

 まあ、(ソウル)が無いし、飯のお供が無いから仕方ない。

 大麦はだいたい家畜の餌になるか、エールの原料になるそうだ。なら、とてつもなく元気な家畜と美味しいエールが誕生するかもしれない。素材から本気で作るのが良い商品を生み出す基本だ。ほんと、何もかも素材がよくないと良い品は作れない。


「ふふふっ、麦飯ちゃん……。私が食してあげるよ……」


 大麦はすでにベスパが食べられるようにしてくれていた。

 籾殻や細断、圧縮、など行程が色々あるわけだが、ベスパに頼めば大概出来ることだったので、あとは水で炊くだけの状態にまで商品を作る。

 業者に行ってもらうとその分お金が掛かるはずなので、出来ることは自分達でやった方が得られる利益は大きい。


 私は木製の蓋を外すと、水分を吸い、見た目はまさしく米っぽい麦飯が完成した。

 戦時中、お米ばかり食べていたせいで日本陸軍の大人数がカッケと言う栄養失調症にかかった。だが、海軍が麦飯を使用したところ、栄養価が高く、病気にかかるものが少なかった。

 そのことからもわかるように、米より大麦の方が、栄養価が高い。ただ……、味は米の方が美味しい。でも、今この場に米が無いのなら、麦飯でも私の欲求を十分満たせるのではないか。


 鉄製の鍋で炊きあがった麦飯を一度混ぜ、木製の蓋を乗せてコンロから外し、一〇分蒸らす。あとは器に盛り、完成した。


「おお……。す、すごい……。ご飯っぽく見える」


 私は麦飯がよそわれた木製の容器を掲げ、瞳に熱がこもる。

 肉に卵液を付け、パン粉をまぶし、油で揚げたカツを乗せれば、カツ丼の完成なわけだが、肉はない。

 今、この場にある肉と言えば、干し肉くらいだ。


 物寂しい干し肉丼を完成させた私は、後方でパンケーキを美味しい美味しいと食べている子供達を横目に、家の角に正座する。

 両手を合わせ、食のありがたみを噛み締めながら、木製の器を持つ。一粒一粒がしっかりと炊きあがり、なぜか輝いて見えた。

 本当は米が食べたかったが、自分で作った麦飯の味を堪能させてもらおう。


 私は即席の箸を使い、麦飯を三センチメートルほど摘まむ。白い水蒸気が熱によって昇っており、炊き立ての良い匂いが鼻に入ってくる。

 米が炊けた時と似た香りで、涙が出そうになるのを堪えた。


 以前、ウロトさんのお店で、王食料理を食べた時、オムライス風の料理が出て来た。その時に使われていた麦飯も美味しかったので、よく覚えている。と言うか、味が濃すぎて麦飯の味は覚えていないが、触感や舌触りなどは記憶の中に残っていた。


「よし……。食べるぞ」


 私は麦飯を口の中に入れる。プチプチと言う触感がしっかりと残っている。米とはデンプン量の違いから、味が違う。でも、米っぽい品ではあるため、元日本人の私にとっては懐かしい雰囲気を十分味わえた。

 干し肉を齧り、麦飯との相性を確かめる。引き締まった干し肉の感覚が、焼きすぎてしまった肉と似ており、何とも言えぬ合わさり具合。

 薄味すぎるが、自然のうま味をしっかりと感じられる今の私にとっては十分すぎる美味しさだった。


「ああ……。大地の神よ、このような美味しい食事を与えてください、誠にありがとうございます……」


 窓の隙間から伸びて輝く夕日が私に差し込んだ。すると、脳内にどういたしましてと言う綺麗な声が聞こえた。神に感謝の気持ちが届いたようだ。


 デイジーちゃん宅はパンケーキが美味しすぎて大泣きする子供三名と大人一名。干し肉丼を食し、過去の食を思い出し、涙する者一名。

 家の中が騒々しいと思ったのか、汗だくの少年と幼児が戻って来た。

 何ともカオスな状況で、ベスパは部屋の中で光源に捕らわれた哀れな虫のように円を描きながらブンブンと飛んでいた。


 私は落ち着きを取り戻し、炊いた麦飯をベスパ特製木製ラップでおにぎりにする。

 トップアイドルのキラキラキラキララお手製おにぎりと言ううたい文句で売り出したら一日八万食は余裕だろう。

 まあ、八万個もおにぎりを作れるわけがないので、製造機のボタンを押すという最低限の仕事でうたい文句に信憑性を作るしかない。でも今は、私がしっかりとおにぎりを作り、時間経過の味の変化などを調べる。

 おにぎりを作るさいは米同士の空気感を大切にし、手の中の圧力を強めすぎず、三角形を作っていく。


 パンケーキの生地が全て無くなったころ、私は鍋内にあった大麦を全ておにぎりにした。

 中ぐらいのおにぎりで、ざっと八個。大量に炊いたわけではないので、この個数が限界だった。

 おにぎりは日本人のソウルフードと言ってもいいのではないかと思っているが、最近はどうなのだろう……。

 まあ、おにぎりを知らないという日本人はいないくらいなじみ深い料理だ。この世界の人に受け入れてもらえるかわからない。

 パンよりも麦飯の方が、栄養価が高く、食物繊維も豊富なので、健康になれる。ただ、その地に根付いた食文化を変えるのは難しい。どれだけ美味しいとしても、納豆や生魚が海外で流行るかと言われるとそうでもないのと同じで、食は生活に強く結びついている分、わかり合えない世界なのだ。

 なんせ、虫が主食と言う国もあるくらいだからね。

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