盗賊と出会う
盗賊のせいで、時間が食われてしまったので到着がまた遅くなってしまった……。ほんと、困るな。
私は開いた穴を土属性魔法で埋め、移動に支障が出ないように配慮しておく。
バートン車に乗っていた三名は眠っていたので何が起こっていたのかすら、知らないだろう。
「はあ、盗賊なんてしても、いつかは捕まるだけなのに……」
盗賊が飛んで行く姿を見ながら、呟いた。
でも、そうしなければ生きていけないと言うか、そう言うのがまがり通ってしまう世界なのだと、今になって思い出す。
日本で盗賊をやろうとしたら確実に捕まる。もう、あっと言う間だ。防犯カメラに警察、周りの人などの協力のかいあって防犯率は高い。まあ、海外に行けば盗賊紛いな行為が出来るかもしれない。ただ、殺しはもちろん犯罪だ。
でもこっちの世界は普通に殺しもあり得る。誰が殺したのかわからないのに加え、死んだのは死んだほうが方が悪いと言う考え方だ。捕まった方が悪いともなる。
法律の話はわからないが、盗賊の者は懲役刑になるのか、罰金になるのか……。同じようなことを繰り返せば、重い罰が下されると思われる。
私はレクーに荷台を引いてもらい、村に帰った。村に到着したのは午前二時。さすがに時間が掛かりすぎた。
ビー達にお願いしてクレアさんとメリーさん、セチアさんの三名を家に送り返す。
私は牧場に向かい、レク―を厩舎に戻して寝かせる。そのまま眠い目を擦りながら家に帰ると、玄関のお母さんが立っていた。
「ほんと、遅いわね」
「すみません……」
私はお母さんに抱き着くように眠り、朝、ベッドの上で目を覚ます。
たった二時間の睡眠をとっただけだが、魔力が多い体と子供と言うおかげで、無理なく起きられた。
「うう……。昨日はきつかった……。今日はお休みにしてほしいくらいなんだけどな」
私はブラック企業務めかと言うくらい働きっぱなしだ。
でも、それが楽しいと感じられるのは私が仕事中毒だからだろう。抜けたくても抜け出せない沼にハマったような気持ちだが、お金は手に入るので、とてもやりがいがある。
もう、半分眠っている状態で、運動や剣の鍛錬、勉強をこなし、仕事に向かう。
起きて四時間経った頃、眠気が最高潮に達し、コーヒー豆を挽いてお湯だしする。カップの中に黒色の液体が入り、光の反射によって私の寝不足の表情が水面に映った。
苦笑いを浮かべながら、ブラックコーヒーを体の中に入れ込む。すると、カフェインの力は凄いもので眠気が飛んだ。
覚醒時間は甘く見積もって三時間くらい。昼にもう一杯飲んで、今日は何とかなるかなと言うくらい仕事が大変だ。
「うう……。仕事仕事……。もう、仕事ばかりで大変大変。えへへ、えへへ……」
私は眠気をカフェインで何とか、消し、無理やり働いていた。
「姉さん。さすがに働きすぎだよ。今日は寝た方が良い。二時間しか寝てないんでしょ。顔が老けてお婆ちゃんみたいになっているよ」
弟のライトは私に言い放つ。
「そ、そんな……。まあ、寝不足だとそうなっちゃうか。じゃあ、お言葉に甘えて寝てくるよ」
「そうした方が良いよ。午後は僕に任せて」
ライトは私の代わりに午後の仕事を請け負ってくれた。
私は草原に向かい、寝転がる。梅雨が近づいており、夏の暑さがすぐそこまで来ているんだとしみじみ思うと、今の春風が尊く感じる。
春風に吹かれながら、爆睡した。もう、寝過ぎて口もとが涎だらだら……。起きた時に長袖でぐしぐしと擦りながら落とす。
もう午後五時の鐘が鳴るころだった。
私は家に帰り、すぐに夕食の準備して家族全員で食事をとった後、すぐに勉強して眠る。何とかいつも通りの生活に戻せたので、明日からは睡眠負債を返せるように、規則正しい生活を心がけていくつもりだ。
五月の中旬。
私とライト、シャイン、ガンマ君の四名でネード村に向かう。
目的は小麦と大麦の収穫だ。
すでに、大きな穂をつけた麦たちが畑一面に広がっているのを先月見て、私が王都から戻ってきたのと同時に収穫していく予定だった。
「姉さん、早く早く! 今日こそ僕の良い所をデイジーさんに見せる時だ」
デイジーちゃんが大好きなライトは朝いちばんに私の部屋にやって来て扉をこじ開けて入ってきた。
全裸で寝る私の姿を細めで見てきたあと、魔法で服を一瞬で着せてくる。もう、魔法少女のそれだ。
「うう……。体感的にまだ四時前だよ……」
「早く行けば仕事を終わらせて遊ぶ時間が増えるでしょ」
「そうだけど……。さすがに、デイジーちゃん達も起きてないよ」
「デイジーさん達は午前五時頃には起きているはずだから、バートン車で移動したら丁度いい時間帯になるはずだよ」
「いや、普通に早いから。一〇分前でも早いのに、三〇分くらい時間が空いちゃうかもしれないよ」
「三〇分前行動は当たり前でしょ」
「当たり前じゃないよ……」
私はライトに連れられ、牧場にやってきた。八分遅れで寝ぼけたベスパが飛んでくる。
フルーファは家で寝ているらしい。もう、寝坊助なんだから。
「キララさん、おはようございます」
ガンマ君は朝からシャキッと起きており、すでにやる気満々だ。ほんと、そんなに仕事がしたいのかと思うが、彼は普通に生活しているだけなのがすごい。
「おはよう、ガンマ君。今日も元気だね」
「もう、ガンマ君は行かなくてもいいって言っているのに、師匠と鍛錬でもしていてよ」
ガンマ君が大好きなシャインは、ガンマ君の手を握りながら言う。
「いえいえ、今日は麦の収穫ですからね。人手が必要なはずです。僕は沢山動けますから、力になれると思います。一緒に頑張りましょう」
ガンマ君はシャインの手を握り返し、屈託のない笑顔で共に頑張ろうと伝える。
「も、もう……。仕方ないな……」
シャインはいつも通りガンマ君に甘く、ほくそ笑みながら呟く。手を握られているだけでも彼女のドキドキは止まらないのだろう。
私はレクーを厩舎から出して縄で荷台を繋ぎ、三人を乗せる。
「じゃあ、出発するよ」
「おーっ!」
私は三名と共に、ネード村に向かった。すると……。
「おいおい、嬢ちゃん。こんな朝早くから、どこに行く気なんだい~?」
移動中、目の前に盗賊が現れた。もう、目があったらバトルと言わんばかりに、私が通ったら普通にバートン車の前に飛び出してきた。危ないっての。あんたが。
「えっと、朝から面倒臭いんですけど……」
「へへへ、可愛いガキンチョじゃねえか。売れば高い値が付くだろうな~」
山賊か盗賊かわからないが、私を攫おうとしているのだから、悪い人物だと思う。
「嬢ちゃん、おじさんと楽しい所に行こうぜー」
「はははっ。あなたは豚箱行きですけどね……」
「なに? へぶっ!」
盗賊は何かに押し潰されるようにして地面にハンコされた。頭上にライトの魔法陣が展開されており、おじさんの周りの空気が圧縮され、もの凄い重力になったと思われる。空気も密集するととんでもなく重くなるわけだ。
「ああ……。ライト、殺していないよね?」
「デイジーさんに会いに行くのを邪魔するなんて……。このまま地の底まで沈めてやってもいいんだ……」
ライトは完全にメンヘラ化していた。朝から張りきりすぎなんだってば。
私はライトの杖に触れ、闇属性魔法の初級魔法「吸収」で魔力を吸い取る。
「うわっ……。姉さん、吸い過ぎ」
「ごめん、でも、やり過ぎもよくないよ。ベスパ、お願い」
「了解です」
ベスパは盗賊を地面から引き揚げ、ビー達にアラーネアの糸で拘束させる。そのまま、騎士団へと連れて行った。
「あれでいいんだから。ライトなら『拘束』だけで充分でしょ」
「そうだけど……。イライラしちゃって……」
ライトも思春期なのか、はたまた寝不足かわからないが、朝は機嫌が悪い。なので、いつも怒らせないと言うのが得策なのだが、山賊や盗賊が機嫌を取ってくれるわけがない。
少し進むと……。
「うえーい。ガキのバートン車みっけー」
盗賊が現れた。どうやら、エンカウントしたら強制バトルが開始されるようだ。なんて面倒臭い……。
「あの、悪いことは言わないので、逃げた方が……」
「うえい?」
「さっさと騎士団に飛んでけっ!」
ライトは無詠唱で『拘束』と『浮遊』を使用し、盗賊を捕まえて浮かばせる。そのまま、杖を思いっきり振り、ロケットを発射するかの如く、光の速さで街の騎士団の方まで飛ばした。
あの速度で地面に直撃したらさすがに死ぬだろう。
「ライト、着地のことも考えてあげてね……」
「多分、死なないよ」
「多分って……」
――ベスパ。配慮して。
「了解しました」
ベスパは光り、騎士団付近のビー達に命令を送る。飛んできた盗賊を編み込まれたアラーネアの網で受け止め、即死を回避した。
私は一安心し、レクーを走らせる。すると、盗賊がまたまた現れた。
ネード村に移動するまでに八人以上の悪人に絡まれ、全員騎士団に送る。
「さすがに、盗賊が多すぎない?」
「うん……。もしかしたら、ネード村に何かあったんじゃ……」
「考えすぎだと思うけど……」
私達はネード村に向かう。すると、盗賊がうじゃうじゃうろついていた。もう、ネード村を囲っているらしい。
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