アンデッドには奇跡か聖水が必要
パンの個数は限られていたが、冒険者さん達が持ってきてくれた食料なども一緒に配ることで、ネ―ド村の人に満遍なく食料を配ることが出来た。
今の所、1人の死者も出ておらず、聖職者さん達が到着しだい瘴気の浄化を行い、リーズさんの病院へと運ばれるらしい。
事態は着々と解決されているように思えたが…問題が起った…。
「おい!聖職者はまだか!このままじゃ、俺たちの魔力が持たねえぞ!」
冒険者さん達は到着してから、休むことなく風魔法を使用しており、どうやら…そろそろ限界が近づいてきているみたいだ。
冒険者さん達が行っているのは瘴気の進行を食い止めているだけであり、実際の原因を消し去っている訳ではない。
その為、未だに瘴気の発生は止まっておらず、先ほどよりも、瘴気の濃度が刻々と増していく。
既に瘴気の中が見えない…、元から見えなかったが…もうそこに地面があるのかさえ分からない…。
「はぁはぁはぁ…こちらも、アンデッドを鎮圧するので精一杯です…」
冒険者さん達の風魔法をかいくぐってはい出てくる、アンデッド化した動物たちが我々に押し寄せてくるのも変わらない…。
『グラァアア!』
「クソ犬が!!さっさとあの世に行っとけ!!」
冒険者さんの振りかざす一撃によって、アンデッドの首が吹き飛ぶ…黒く紫色の体液をまき散らしながら地面を転がり、目玉の無い黒い空間がこちらを向く…。
舌がだらし無く垂れているかと思えばそれは舌ではなく吐き出された腸だった…。
アンデッドの動物は体毛ではもう見分けが付かず、全てが黒く染まり、光が当たる部分は微妙に紫がかって見えていた…。
「クソ!こいつら…首を切ってるのに動きやがる…気持ちわりいな…」
首を撥ねられたアンデッドは地面を叩くように撥ねる…、活〆で魚がまな板を叩くようにアンデッドは未だに生きているのだろうか。…いや生きてはいないのだろう…体が勝手に動かされていると言ったほうが正しいかもしれない。
聖職者の奇跡又は聖水が無ければアンデッドを浄化させることが出来ないため、一時的に行動を停止させるため頭部を切り落とすが…、次第に再生するので実際の所未だに1体も倒せていない事になる。
「グ…」
「リーズさん!少し休まないと…」
「いえ…私が休んでいては、アンデッドの進行を許してしまします。倒せはしませんが…微量の回復魔法でも、アンデッドにとっては猛毒と同様…。今、この場で回復魔法を使えるのは私しかいません…、あと持って数回ですが…、聖職者の到着まで何としてでも持たせて見せます!」
「回復魔法を使うと、アンデッドが弱くなるんですか?」
「実際はアンデッドの肉体を回復させることによって、瘴気の発生を防いでいると言ったほうが正しいのですけどね。アンデッドは瘴気自体を消さなければ本体にダメージを受けません。アンデッドが苦しんでいるように見えるので、弱っていると勘違いされる方が多いんです。回復魔法では全く弱まっていないんですよ…ただ時間を伸ばしているだけで…」
「えっと、それじゃあ…、瘴気を消滅させることが出来れば、アンデッドは動かなくなるってことですか?」
「そうですね…。死んだ肉体は空気中の微量な瘴気を増やす良い媒体となります…。その瘴気さえなくなってしまえば、元の死体へと戻るのでアンデッド化は止まりますね…。しかし、今の私にそのような力もなければ、回復魔法は瘴気を消すことはできません。その為、聖職者の奇跡か聖水が必要なのです」
――瘴気は…毒や細菌のようなものなのかな…そうだとしたら…。
「リーズさん!私!自分の村に行ってきます!ここからは比較的近いのですぐ帰ってこれるはずです!」
すぐさまレクーにまたがり、私の村へと向かう!
「ちょ!キララちゃん!もしかすると、そちらの村に瘴気が行く可能性がありますので、すぐ避難できる準備を!」
「はい!分かりました!レクー行くよ!」
「はい!」
「キララ様!私にも何かできることはありませんか!」
ベスパが私の頭上を飛行する。
「そうだな…すぐに村の人を街まで運べるよう、他の場所からビーたちをできるだけ集めておいて!」
「了解しました!」
私とベスパは別々の方向に別れ、すぐさま家のある村へと戻る。
お母さんに何言われるか分からないけど、今はそんなことを気にしている場合じゃない。
「こっちの空気はやっぱり美味しいな…、あっちの空気がどれだけ汚いかが分かるよ…」
環境の有難さに気づかされ、自然に感謝する。
「この自然を壊される、わけにはいかない…!」
全速力で走り、何とか村まで到着した。
周りの状況を見る限り、瘴気の影響は無いように見える。
すぐさま家に向い、目的の人物を見つけた。
「ライト!お願い!今すぐ来て!」
「ね!姉さん!今まで何してたの!僕達ずっと心配してたんだよ。全く連絡も無しに…何処か行ったっきり帰って来ないから」
「ごめん!あとでお説教はいくらでも聞くから、今すぐ私と来て欲しいの!」
「ちょ!キララ!今まで何してたの!手紙にはすぐ帰るって書いてあるのに全然帰ってこないじゃない!」
お母さんは鬼の形相で起こってくるが今そんな時間は無い。
「ごめんなさいお母さん!帰ってきたら嫌って程、私を叱っていいから、今は時間が無いの。この村の人たちを避難させないと!」
「どういうこと?避難?」
私は出来るだけ簡潔にお母さんに話した。
「瘴気が…この村に来るかもしれない…それは大変だわ…今すぐ村の皆に伝えないと!」
「あれ?お姉ちゃん。帰ってきてたの?それなら牧場の仕事手つだ…」
「シャイン!お母さんと一緒に村の人たちを避難させるわよ!」
「え?何?避難、どういう事!ねえ、ちゃんと説明してよ!」
お母さんはシャインを抱きかかえ、家から飛び出していった。
「ここはお母さんに任せるとして…お願いライトあなたの魔法が役に立つかもしれないの!」
「え…僕の魔法が役に立つ…てどういう事?」
「とりあえず、今すぐレクーに乗って!ライト、レクーに乗りたいって言ってたでしょ。丁度よかった!最速のレクーに乗れるなんてなかなかできないよ!」
「え…ちょ、ちょっと待って」
「ちょっと待つ?そんな時間無いから!…良し!」
「うわ!ね、姉さん!」
ライトを無理やりレクーの背中に乗せ、私もすぐさま跨る。
そして、レクーの全速力を出し、ネ―ド村まで止まることなく走った。
「うわぁぁああぁああああ!」
「ライト!叫ぶと舌嚙んじゃうよ!!」
レクーのあまりに早すぎる移動によって、ライトの眼から大粒の涙が零れ落ちるが、その場に留まることが出来ず、重力に逆らいながら斜め上方向へと飛んで行く。
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