牧場見学
「おいおい、皆。メリーさんを追いかけるのはやめなさい!」
ひときわ大きな雄モークルが走ってきて、他の雄モークルを叱る。
「あ、パパー」
モークルの子供達はメリーさんから体を離した。
「ほんと、誰に似たんだか……。ああ、いい香りいい香り」
大人の雄モークルで最も強い、ウシ君はメリーさんのお尻を鼻で突き、尻尾をブンブン振っていた。子供達とあまりにもそっくりが過ぎる。
「ウシ君……。なにしてるのかなー」
「あ……。き、キララさん……。あ、あははー、ちょ、ちょっとした体調管理を……」
ウシ君が後方に下がると、二頭の雌モークルが行く手を挟んでいた。
「ウシ君、ウシ君。メリーさんばっかり構ってるよねー。どうしてどうしてー」
「最近、ウシ君が冷たくて悲しいなー、もう、私達に興味がないのかなー」
ウシ君の可愛い嫁である、ミルクとチーズがウシ君の体に体当たりしながら鬼嫁と化していた。
「あ、あははははっー」
ウシ君は八メートル以上突き飛ばされながら、ミルクとチーズに根性を叩き直されていた。
「パパー!」
雄モークルたちはメリーさんから離れ、ウシ君のもとに走って行く。
「な、なんかにぎやかな牧場ね……。モークル達の言葉は全然わからないけれど、ドタバタしている感じがひしひしと伝わってきたわ……」
クレアさんは苦笑いを浮かべ、一部始終を見ていた。
「まあ、いつもあんな感じです。えっと……、あなたは?」
メリーさんはクレアさんの方を見て呟いた。ふわふわの長髪が靡くと牧場なのにいい香りがする。これが彼女の体臭なら男を呼び寄せるフェロモンが強すぎるだろ。
「初めまして、クレア・マドロフよ」
「マドロフってことは……。もしかして、ルドラさんの妹さんですか?」
「違うわ、私はルドラ様の妻よ」
「えええっ! そ、そでしたか。すみません。なんか、凄く子供っぽかったので」
「まあ、あなたから見たら私はまだまだ子供っぽいかもしれないわね。これでも一応一六歳の大人なのよ」
クレアさんは胸に手を当て、胸を張りながら年齢を言う。
「えっと、私はメリー・ポーシャと言います。一四歳です。今年で成人の一五歳になります」
「…………え」
クレアさんは至極同然の反応をした。
メリーさんが成人していないなんて、誰も思うまい。
私だって未だに信じられない。胸は未だに大きくなっているし、お尻までふっくらとしている。顔も大人らしく成長しており、身長も伸びていた。ほんと世の中の男性の欲求をすべて詰め込んだような方で、私の嫉妬心も爆発しそうになっている。
「あ、危なかった……。まさか成人していないとは……。んんっ、えー。この村に移住してきたバレルと言います。よろしくお願いします」
あのバレルさんが動揺し、震えていた。彼も、メリーさんが成人している女性だと思っていたようだ。彼はメリーさんの胸をガン見しながらお辞儀をする。
このまま行くと、確実に犯罪に巻き込まれそうなメリーさんだが、街の方に行けば頼もしい彼氏がいるとかいないとか…。まあ、あれは彼氏と言うより、片思い中の男性って感じかな。叶わぬ恋をしている悲しい男の心を溶かすにはこれくらいグラマーにならなければいけないようだ。
「はい、よろしくお願いします」
メリーさんが頭をさげると、大きな胸まで下を向き、作業服の上ボタンが外れているせいで、大きなI字の谷間が見えていた。バレルさんはいけないと思いながらも、男の本能には耐えられず、鼻の下を伸ばしている。
「キララちゃん、牧場を広げる計画は進んでいるんだよね?」
メリーさんは私に話しかけてきた。
「はい。進行しています。モークル達を番犬に慣らさせたあと、少しずつ移動させていきますね。まあ、仕事としてはあまり変わりませんから、気難しく考えず、動物達といつも通り接してあげてください」
「わかった。じゃあ、仕事に戻るねー」
メリーさんは私に手を振りながら、牧場の仕事に戻っていった。
「凄いエロっちいい方ね……。私も負けていられないわ」
クレアさんは胸に手を当てながら意気込む。
「あそこまで大きくならなくても大丈夫だと思いますよ……」
私はクレアさんに助言し、牧場の中に入って行く。まず、モークルの厩舎を見てもらった。
「あー、キララさん、お帰りなさーい」
天使こと、ガンマ君の妹ちゃんのテリアちゃんが私を見つけ、駆け寄ってきた。長い茶髪を後頭部で結び、ポニーテールにしていた。そのおかげでいつも以上に小顔で、ぱっちりと大きな瞳が映えている。
「ただいま、テリアちゃん。元気だった?」
「はい。元気モリモリでしたー。私も仕事をたくさんして皆の役に立っていましたよ」
テリアちゃんは両手を持ち上げ、力こぶを作る。細腕だが、子供の体力は計り知れず、私でも勝てない。ガンマ君の妹ちゃんなだけあって体力が存分にある。
テリアちゃんにもバレルさんとクレアさんを知ってもらい、自己紹介しあってもらった。
「バレルさん、クレアさん。ようこそ、牧場へ。歓迎しますっ!」
テリアちゃんは私を勝るほどの笑顔をバレルさんとクレアさんに向けた。お日様がさんさんと照らすような満面の笑みで、あまりにも可愛く、両者とも直視出来ていない。
彼女はあまりにも眩しすぎるのだ。背中に天使の羽が生えていても何んらおかしくない。
「バレルさんとクレアさんと仕事ができる日を楽しみにしていますね。私は仕事が残っているので、これで失礼します」
テリアちゃんは頭を大きく下げ、厩舎の中に走って戻る。
「な、なかなかかわいい子供ね……。あんな子共、始めて見たわ」
「ええ。天使のような可愛さでした……」
クレアさんとバレルさんはテリアちゃんの天使笑顔に当てられ、心が浄化されている。それほどまでテリアちゃんの笑顔は強力なのだ。
私は厩舎での仕事をクレアさんとバレルさんにさっと教え、次に搾乳の小屋に向かう。
「あ、キララちゃん。お帰りなさい」
搾乳の小屋にはセチアさんがモークルの雌のお乳を搾っていた。セチアさんのいつも通りぺったんこな胸を見ると安心する。背丈はセチアさんの方が大きいが、胸のでっぱりは私とどっこいどっこいだ。彼女の胸が大きくなり始めたら私は泣ける……。
「セチアさん。ただいま帰りました。仕事の方はどうですか?」
「順調そのものだよ。もう、生乳が取れて取れて仕方ないね」
「それは何よりです」
私はセチアさんにバレルさんとクレアさんを紹介した。
「セチアさん、剣の鍛錬なんですけど、ここにいるバレルさんに教わってください。シャインとガンマ君も教わる予定です。彼は物凄い実績を持った方で、公には言えないんですけど、腕は確かですから」
「キララちゃんがそう言うなら……。えっと、私は冒険者になるのが夢で、スキルを貰ってからシャインちゃんと一緒に鍛錬をしています。私を強くしてください。よろしくお願いします」
セチアさんはバレルさんに頭を下げながらお願いする。
「頑張るのはセチアさんですから、私はあなたが努力出来るよう尽力します。一緒に頑張りましょう」
バレルさんはセチアさんの要望をやんわり応える。
セチアさんが頑張れば、強くなれると言う訳だ。バレルさんの修行はきっと辛い時間になると思うが、強くなるための指導者として彼以上の適任者はいない。
私は搾乳の仕事に関してバレルさんとクレアさんに教えた。
「じゃあ、工場見学と言う訳じゃありませんが、施設の中を見てもらいましょうか」
私はバレルさんとクレアさんをライトが描いた『消滅』の魔法陣の上に立たせ、全て除菌する。
風で髪の毛や塵、埃などを飛ばし、ベスパとアラーネアたちが作った作業服を着てもらって建物の中に入ってもらう。
牧場内に建てられた工場……と言ってもいいのかな。
工場の施設は牛乳を作るための流れ作業を魔法でほぼ行い、最後の商品管理だけ人の手が加わる。
ライトが責任者だ。昔は全ての牛乳を『クリア』で綺麗にしていたが、最近は高温殺菌という方法で細菌を死滅させる方法も行っている。
理由は単純にライトがどこかへ行っても牛乳を出荷できるようにするためだ。チーズの作成工程もライトの魔法陣が管理し、コンベアーを流れてくるチーズを梱包するのが子供達の仕事だ。昔はチーズ作りも手作業で作っていたが、魔法陣によって作業効率が各段に上がり、出荷できる数も各段に増えた。
同じ要領で、生クリームやバター、バターミルクなどもビーやライトの魔法陣による自動化で、大量に作れるようになった。
でも、モークルの乳で量を制御できるので特に困っていない。なんせ、自動化する際の初期費用はゼロなのだ。高額な機械の購入が無いお陰で、牧場のお金が無くなることはない。
自動化することで作業効率だけを上げることができ、牛乳の出荷本数をもう少し上げられそうだ。そうなれば、多くの牛乳を世に送り出せるわけなのだが……。そうなると、他の牧場が大打撃を受けるので自重する予定になっている。
まあ、国王が牛乳大好き人間なので、毎月牛乳パック一〇〇〇本を送るのはもうじき達成できそうだ。
お金がどんどん舞い込んでくるので、子供達への給料も上がる。そんな話を建物の中を移動しながら、バレルさんとクレアさんに話していた。
面白いかどうかはさておき、どんな場所で仕事をするのかと言うのはわかってもらえたはずだ。成長途中の牧場だが、成果はしっかりと出しており、まだまだ成長段階にあると言う働きたくなる要素満載の牧場だと、これでもかと言うくらい見せる。
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