応援は力
「お嬢さん!全員避難させたよ!」
聖職者さんがやり切ったような顔をしてこちらに戻って来る。
「はぁはぁはぁ…あ、ありがとうございます…はっきり言ってもう、あと1回しか撃てません…。この魔法を放ったら…多分私、気絶します…その時は、何とか運んでください…」
「わ…分かった!絶対に運ぶから心配しないで」
「キララ様…。まだ、…増援は、来ないようです…。このままでは…例え避難したところで…」
「『ごちゃごちゃうるさい!!!』今は…、あれを…何とかすることだけ考えて…!」
「す…すみません!」
「い…いえ、聖職者さんに言ったわけではないので…」
私達の目の前には…今にも爆発してしまいそうな程、どす黒い瘴気の靄がドーム状に膨れ上がっていた。
少しの風がこちらに向って、吹けば即座にドームが破壊され瘴気の靄が津波の様に襲い掛かってくるだろう。
先ほどまで何とか咲いていた木が…すでに灰色になり枯れてしまっている…。
少し触れればそのまま灰になってしまいそうだ…。
そんな時…私の細い髪ですら動かない…そよ風が私の頬を撫でる…。
ドームが揺らぐ…これは視界のせいか…それともそよ風のせいか…。
どうやらその両方らしい…。
そよ風によって破壊されたドームは一気に瘴気の津波となりキララ達へ襲い掛かる。
――ヤバイ…ヤバイ…ヤバイ…もう、立ってられない…視界が揺らぐ、待って…これベスパに当てられる…視界共有をした時くらい視界がグラッグラなんだけど…。
既に瘴気はネ―ド村の柵を超え、流れる水が下へ下へと流れていくように、瘴気の重い空気は下へ下へと勢いを増しながら全てを呑み込んで行く…。
弱っていた草木が一気に枯れていき、先ほどよりも瘴気の濃さが高まっているのがその光景を見れば即座に理解できた。
――分かる…。あんなのをまともに吸ったら…。絶対に死ぬ…。
『死ぬ』…そんな事、言われるまでもなく、全身の細胞がかってに反応してしまうほどだ。
唇の震えが止まらない…。
全身の毛が逆立つのを感じ…冷や汗も止まらない…。
効率が良くなるように即席で作った魔法杖を持つ手が震え、瞳の焦点すら揺らぐ…そこに居るはずのベスパを…しっかりと狙えない…。
「だ…大丈夫…お嬢ちゃん」
震える私を見て…話しかけてくれたのか…其処に聖職者さんが居た…。
「あの…応援してもらってもいいですか…」
「お…応援?ですか…」
――くじけそうなとき…、力が出ないとき…、諦めそうになったとき…、どんな時だって私は…ファンの皆がくれる応援の声で乗り越えてきた。ファンの応援が無かったら…、アイドルだった頃の私は、きっとステージで踊って歌うことはできなかっただろう。
応援には人に力を与えることが出来る。
私はそれを、身をもって知っているのだ。
「あの…キララ!って叫んでもらっても、いいですか…」
――こんな事を今言うのも恥ずかしいが…危機を脱するには、これしか思いつかない…。
「キ…キララ…、それは君の名前かい?」
「はい…そうです…私の名前…キララ・マンダリニアのキララです。お願いします…」
「キ…キララ…」
――なんとも恥ずかしそうな声で言ってくれちゃって…。こっちまで恥ずかしくなってしまうでしょうが。こういうのは…世界最大の大声って言うのが定番なんですよ!
「もっと!大きな声で!!」
「き!キララ!」
「もっともっと!大きな声でお願いします!!!」
「キララ!!!!ファイト!!!!!!」
「よっしゃぁあああああああ!!いくぞぉぉぉおおおおおおお!ベスパ!!」
「はい!!!!」
私は今できる最大魔力を胸のうちに込める…。体から魔法力が沸き立ち…汗が熱せられ、体中の汗が一瞬で蒸発していく…。まるで体からオーラを発しているように気化した汗の蒸気が空中へと立ち昇る…。
私に流れてくる…そよ風は、『死』を宣告してくるように、耳元を過ぎ去っていく…。
どす黒い瘴気が…すぐそこまで迫る。
自分の心臓の音しか聞こえない、それほどまでに集中しきった状態で溜め…そして練り上げた魔力…。
私に残る最後の魔力を魔法陣に最大出力で解き放つ。
『ファイ!!!アアアァァァァア!!!』
応援の力によって…高められた『ファイア』これが、今の私にできる最大火力。
闘技場で放った時よりも、きっと威力は高いだろう。
魔法を放つときには手の震えが収まり、しっかりとベスパを狙うことが出来た…。
これも応援の成果だろうか。
見事ベスパに命中し大爆発が起こる…。
ちゃんと見る事は出来なかったが…巨大な火の玉が爆発し強烈な爆風を起こした。
私は…その場に崩れ落ちる。
もう、足にも手にも…唇にすら力が入らない…。
瘴気の津波に『ドカッ』と大きな穴が開き、瘴気の進行が止まった…。
「こ…これで、あと少しは…時間が…」
しかし…地面に流れていた、どす黒い瘴気が揺らぎ…顔の崩れたシカのような動物…顎の無いオオカミ…、それとも犬…見た目じゃ判断できないが…どうやら来てしまったようだ…。
私が倒れているの何てお構いなしに、アンデッド化している大量の動物たちが瘴気から飛び出してきた。
「!」
咄嗟に立ち上がろうとするが、立ち上がることなどもう到底不可能なのは自分でも分かっている。
しかし、目の前にいるアンデッドたちを目の前にし、脳が逃げろと叫ぶのだ。
――逃げろ!逃げろ!!逃げろ!!!逃げろ!!!!逃げろ!!!!!
「キララちゃん!」
私に覆いかぶさるように、聖職者さんは身を挺して守ってくれる。
だが…あれだけの数、どうなるかなんて…そんなのもう分かってしまうよ…。
『逃げてください』と言いたかったが…、言葉を出す余力も残っていない…、脳だけが活発に働いているだけで、もう一歩も動けない。
――アイク…ごめんなさい。フロックさん…私強く生きられたでしょうか…お母さん、お父さんライト、シャイン…お姉ちゃん…先に…。
私の瞳とアンデッドの瞳が合う…。
口からは黒い血を流し…ドロドロに溶けた体を地面にまき散らしながら私目掛けて全速力で走ってくる。
――ああ…やっぱり、走馬灯なんて見えないんだ、そう言えば…蜂に殺されたときも走馬灯なんて見えなかったな。
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