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『ゴミ』スキルだと思われている『虫使い(蜂)』が結構使えるんですけど!<異世界冒険食べ物学園ダークファンタジー(仮)>  作者: コヨコヨ
王都の学園 ~学園の雰囲気を味わいに行っただけなのに編~

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長かった四日間

「……すまなかった。バレル。キラリが助けられなかったのは私の判断が甘かったからだ」


「マルチス殿……。今、謝られても困ります……。私はもう、罪を犯してしまった。謝られても何も言えません……」


「だが、謝らなければ気が済まない。当時は正教会に向ったバレルを憎んだ。わしを信じてもらえなかったのだと。だが、あの場で正教会に行ったお前は間違っていない。わしはお前の行動を罵った。その点をもう一度謝らせてくれ。お前は父親として正しい判断をした。わしが意地を張っていたのが悪かったんだ。許してくれ」


「…………」


 バレルさんは無言になり、口をつぐむ。何かを言おうとしているのか頭の中で一語一語言葉を紡ぐ。


「私はマルチス殿に感謝しています。孤児だった私にはかけがえのない楽しい日々でした。本当の弟のように慕って頂き、ありがとうございました……。私はあなたのもとを去らなければなりません。私にも謝りたいことが沢山有りますが、怒られてしまうので言うのはやめておきます。あなたを許さないことが、あなたへの一番の罰になるのではないかと思い、これでこの話はやめにしましょう」


「はは……。ほんと、嫌な性格をしておるな。仕方ない、わしは残りの時間、不甲斐なさを感じながら、生きるとしよう。なんせバレルに人生の半分以上、辛い思いをさせてきたのだからな。わしも同じ目に会わなければ割に合わない。こうなればっ! 一一八歳まで生きて見せるぞ!」


 マルチスさんは非現実的な目標を掲げ、叫んだ。


「バレル。体は動かせるか?」


「そうですね……。一日寝れば、剣は振れるでしょう」


「なら、問題ないな。ふぅ……。バレル、長い間、マドロフ家のために尽くしてくれてありがとう。この家を潰そうと考えていたのは理解した。だが、それでも尽くしてくれたのは感謝しない理由にはならない」


「ほんと、何度切り殺そうと思ったか……。でも、出来なかった……。自分はまだまだ甘い人間のようです」


「では、バレル・アルレルト。今日を持ってマドロフ商会から解雇させてもらう。退職金でもくれてやるから、田舎でさっさと隠居生活でもするんだな」


「…………私は処刑されるのでは?」


 バレルさんはマルチスさんの言葉が理解できていないようだった。


「キララが言うには、バレルはすでに死んでいるそうだ。正教会の者が言うんだから間違いない。お主は死んだことにされる」


「はは……。私はもう死んでいたのですか……。じゃあ、死刑などするわけありませんね」


 バレルさんは少し悲しそうに笑った。どうやら、まだ死ねないことに落ち込んでいるようだ。


「明日にでも、キララは田舎に帰るそうだ。そのさい、クレアも田舎に疎開する。バレル、お前は二人の護衛として田舎に行ってもらいたい。わしが命令するわけじゃないから、お前が決めればいい。仕事から身を引けば、少しは気がまぎれるはずだ」


「…………キララさんの護衛ですか」


 バレルさんは私の方を見て呟く。


「私としては元剣神と言う称号を持っていた方なら大歓迎で雇用しますよ。マドロフ商会ほどの大企業ではありませんが、田舎にしては珍しく、寝床、食事が付いてきます。私が言うのも何ですけど、王都にも負けないくらい綺麗な場所なので自然が大好きなら、是非来てください」


「…………私はまた暴走するかもしれませんよ」


「その時はまた止めてあげますよ。なんせ、バレルさんの暴走を止めたのはこの私ですからね!」


 私は無い胸に手を置き、胸を張って言い放った。


「はは……。ほんと、元気なお嬢さんだ……。ふぅ……、一度死を望んだ身。今更望みなんて有りません。護衛の仕事を受けましょう」


 バレルさんは震える手を差しだしてきた。私は左手でバレルさんの左手を掴み。右手も添えて満面の笑みで感謝を伝える。


「ありがとうございます! バレルさんがついて来てくれるだけで、すごく心強いです!」


「はは……。子供にしては少々大人びすぎているな……」


 バレルさんは私の笑顔につられて微笑み、静かに眠った。病み上がりなのに、三時間以上も話をしたから疲れたんだろう。


 私はバレルさんの左手を布団の中に戻し、肩まで布団をかける。


「ま、と言うことだ。これから、バレルのことをよろしく頼む。これからの余生、楽しく過ごさせてやってくれ」


 マルチスさんは私に頭を深々と下げてきた。


「任せてください。私はバレルさんが毎日笑顔になれるくらい元気を与えられる自信があります。相手を笑顔にすることは私の得意なことなんです!」


 私は満面の笑みを浮かべ、マルチスさんに視線を向けた。


「そうだな。キララを見ていると、本当に楽しそうだ。これからまだまだ長い人生が待っている。君が、バレルのような顔にならないことを祈っているよ」


「人生谷あり山ありですからね。辛い時もありますし、楽しい時もあります。でも、私は人生を全力で楽しむと決めているので、辛い時こそ楽しんでやりますよ!」


 私はマルチスさんに一八〇パーセントの笑顔を見せた。

 マルチスさんも大きな声で笑い、バレルさんを起こしかける。


 私達は部屋を出て、夕食を得た。ルドラさんがいないと緊張したが、マルチスさんやクレアさんが優しく接してくれたので乗りきれた。


 夕食後、お風呂に入る。もちろんクレアさんも一緒だ。


「クレアさん。明日、バレルさんも一緒に私の実家に向かいます。よろしいですか?」


「ええ。全然かまわないわよ。逆にバレルが来てくれるのなら、絶対安全じゃない。はー、緊張してたのが嘘みたい。悠々自適な旅が出来そう~」


 クレアさんはお湯にぷかぷか浮きながら心を軽くしていた。彼女はバレルさんの境遇や今日の出来事を何も知らない。でも、こういう方がいた方がバレルさんも過ごしやすいはずだ。


「クレアさん。もう、出発の準備は出来ましたか?」


「もちろんよ。大きな旅行鞄がパンパンになるくらい荷物を詰めたわ。何が起こっても良いようにね」


「そんなに荷物はいらないと思いますけど……。まあ、いいでしょう。では、明日の午前八時にこの屋敷を出発します。それまでに玄関の方にいらしてください」


「わかったわ。はー、社会見学、楽しみ~!」


 クレアさんはちゃぷちゃぷと浮かび、髪をお湯に漂わせている。この大きなお風呂に入れるのも今日が最後だ。彼女はお風呂の無い生活に耐えられるだろうか。まあ、慣れてもらうしかない。


 私とクレアさんはメイドさんに体を洗ってもらい、お風呂から出る。全身揉み解されて疲労が抜けた体で部屋に向かう。


 私は部屋に入り、ベッドに倒れ込んだ。


「はぁー。やっと帰れる……。今日まで長かったなぁ。王都に滞在していたのは四日間だったのに、ものすごく長い間、住んでいた気がするよ」


「お疲れさまです、キララ様。今日も大変な一日でしたね」


 ベスパは花瓶に活けられた花に座り、話し掛けてくる。


「ほんと、大変な一日だった……。でも、この一日が世界の命運を分けた気もする。私が拘わっていいことじゃないんだけど、ほんと事件続きで嫌になっちゃうよ……」


「キララ様が首を突っ込むからですよ。ほどほどにしておかないと、いずれ身を滅ぼしますよ」


「そうだね……。私もそう思うよ。だから、早く寝て明日に備えないとね」


「はい。しっかりと休んでください。キララ様に必要なのは心の余裕です」


「はは……。ほんと、そうだね……」


 私は眠りについた。バレルさんと殺し合った経験は今後に生きるだろう。そんなことを思いながら、深い深い眠りに入って行く。


 四月二六日。

 私は午前五時に眼を覚ました。ググっと伸びをして目を覚ますために水を一杯飲む。そのままテーブルに向かい、開きっぱなしのドラグニティ魔法学園の過去問題集を解く。

 午前七時、朝食を得て出発の最終準備を整える。


「荷物は全部持った。忘れ物はないな……。って! お土産を買ってない!」


 私は出発前に家族へのお土産を買っていないことを思い出した。


「あ、危ない、危ない。シャインとライトの誕生日の二の舞になるところだった。でも、市場は破壊されちゃったから、買い物に行くにしてもお店がやってない。何を買って行ったらいいか、わからないし……。どうしよう」


 私はシャインとライトに何をあげればいいのか考えた。だが、全然思いつかない。


「んー、んー、んー」


 私は部屋の中を八の字で歩きまわっていた。時間だけが過ぎていく。


「仕方ない。ウルフィリアギルドの出店に行こう! まだ間に合うはず……」


「キララ様、午前八時まで八分を切っていますが……」


「もう間に合わない! はぁ、仕方ない。皆で行くか……」


 私は荷物をすべてビー達に荷台に運ばせ、忘れ物がないことを再確認し、屋敷の玄関から外に出た。

 玄関の前にレクーと荷台がすでに待っており、燕尾服姿ではなく、少々古臭い冒険着を着たバレルさんが立っていた。


 最近の流行は革製の鎧を体の外に出し、脱ぎやすさを重視した衣装だそうだがバレルさんが着ている服は動きやすさを重視して防具を胸当てしかつけていない。

 あと伸縮性が良い生地の長袖長ズボン。すべてベルトのような拘束器具で止められており、服の大きさは変えられるようだ。

 左腰に剣が掛けられており、柄がささくれている。もっといい剣があっただろうにと言いたいくらい、太古の剣にすら見える骨董品を携えて、バレルさんは満足気味だ。足元は革製のブーツを履いていた。軍用ブーツにそっくりで山地や沼地でも踏み込みがよく効きそうだ。

 肩に黒味が掛かったローブをかけ老骨冒険者と言う名が相応しい恰好になっている。だが、たたずまいが歴戦の猛者。話しかけるのすら躊躇する威圧感を放っていた。


「お、おはようございます、バレルさん。体調の方はどうですか?」

最後までお読みいただき、ありがとうございます。


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