褒めるのは照れる
「では、アレス王子。あなたは地図に描かれた地点に向かい、敵を一掃してください。一人で可能ですか?」
「愚問だ。バレルほどの敵がいるのなら話は別だが、数が相手なら問題ない。テザーロの名を使って私をおびき出したこと、後悔させてやる。あとバレルの処遇だが、死んだ者に課す罰はルークス王国に無い。マルチスが下した判断に私も従う」
「わかりました。アレス王子、ありがとうございます」
マルチスさんはアレス王子に頭を下げる。
私はアレス王子を地上に戻した。その後、地図に記されていた箇所に向ったアレス王子は不意打ちを仕掛けたと思っている敵兵を一掃した。
アレス王子のスキルは戦いを見たところ相手の未来が見えるっぽい。まあ、スキル云々よりアレス王子が普通に強すぎて忠告する必要すらなかったかも。
「じゃあ、わしは地上に戻って市場で人助けでもしてくるか。わしが戦っていたんだ。相手は誰かわからなかったと言えば、マドロフ商会の不評も少なからず減るじゃろう」
「ありがとうございます、キース殿。この御恩は必ず返します」
マルチスさんはキースさんにも頭を下げ、涙ぐんでいた。
「気にするな。わしはマルチスに何度も助けられたからな。金銭的な面で……」
キースさんは苦笑いを浮かべ、箒で下に向かう。
「ふぅ……。さてと、わしも後処理をするか。取締役を辞任する準備をしなければな」
「マドロフ商会の取締役を止めるんですか?」
「何かしらの誠意を見せんと民衆は納得しない。何も無ければいいが、準備をしておけばすぐに辞められる。熱くなりすぎる前に冷ます。そうすれば大きな痛手にはならない」
「なるほど……」
「じゃあ、わしは本部に戻って準備を進める。バレルはわしの部屋にでも寝かせておいてくれ。目を覚ましたあとのバレルと話しがしたい」
「わかりました」
私はマルチスさんをマドロフ商会の本店に送り、バレルさんを屋敷に送る。ブラットディアとビーの二重構造にすることで、魔法の干渉と目視での確認をできないようにしてある。敵は正教会に加え、悪魔もいるのだ。気は抜けない。
空にいるのは私一人になった。加えて、ブンブン飛んでいるベスパと糸にぶら下がっているネアちゃん、後から合流したディアは一緒だ。
「はぁ……。大変なことに巻き込まれちゃってるなぁ……。お母さん、怒るだろうな」
「キララ様は強大な敵よりもお母さんの方が恐ろしいのですね」
ベスパは私の視界に入って来て、話かけてきた。
「そりゃあ、地震雷火事親父、なんて言うくらい親は怖い存在なんだよ」
「親父ではなく親母なのでは?」
「語呂が良いからそう言っているだけ。まあ、お父さんの方が怖い家庭もあると思うけど、私の家はどう考えてもお母さんの方が強いでしょ」
「そうですね……」
ベスパは苦笑いを浮かべ、頷いた。
「キララ女王様。市場にて発生した斬撃事件により、死亡した者は一人もおりませんでした。重傷を負ったものはいるものの、全て助け出し、病院に搬送されたもよう」
翅を使って飛ぶことを思い出したディアは頭脳指数が三〇〇まで跳ね上がっているため、いつものバカな大声と異なり、賢い話方で私に情報を知らせてくる。
「ありがとう、ディア。人助け、お疲れ様」
私はディアに手を差し伸ばし、手の平に乗せる。
「ありがとうございます! 私、沢山頑張りました!」
ディアはバカに戻り、手の平の上でクルクルと回っている。ブローチに擬態してもらい、胸に付ける。
「キララさん、私、お役に立てたでしょうか?」
ネアちゃんはビーにくっ付いている糸にぶら下がって私の前にやって来た。
「うん、大活躍だったよ。バレルさんの脚もしっかりとくっ付いているし、アレス王子が暗殺されないように厄介な罠を沢山張ってくれてありがとう。私が空にいるのだってネアちゃんの糸があるからだよ」
私はネアちゃんを手の平の上にのせ、頭を撫でる。
「あ、ありがとうございます。私、もっと頑張って働きます!」
ネアちゃんもやる気十分。ヘアピンに擬態してもらい、前髪を止めるために使う。
「ふんふん~、ふんふん~ふんふん~」
ベスパは自分も褒められると思い込んでいるのか、まだかまだかと待っていた。
「…………ベスパ、お疲れさま」
「それだけー! でも、ありがとうございます!」
私は一番頑張っていたベスパにそっけなく感謝し、相棒だからこその感謝のしづらさを知る。ニマニマした顔を見るのがうざいと言うのもある。まあ、親しい仲だとほめるのも難しいのだ。
「さ、ベスパ。私達はクレアさんとルドラさんのもとに戻って村に帰る準備をするよ」
「了解です!」
私はエレベーターのように横方向の振動もなく下の方へとすーっと降りて行った。周りにビーが飛んでおり、光学迷彩で周りから見えないようになっている。
クレアさんとルドラさんがいたのは王都の病院だった。クレアさんは怪我人を病院に運んでいたところ、ルドラさんが運び込まれていると知ったようだ。
王都の病院だけあってあまりに大きい。ここにいたら確実に流行り病にかかりそうだ。でもライトの特効薬を飲めば大丈夫と腹をくくり、私はルドラさんがいると言う病室に向かう。
「ああー! ルドラ様、死なないで、死んじゃいや!」
綺麗な病室の中に入ると、クレアさんがベッドで眠るルドラさんに抱き着き、叫んでいた。
「く、クレア。私は死なないよ……。少し殴られて動けなくなっているだけだ」
ルドラさんは呟き、クレアさんを離させる。
「ルドラさん、体調はどうですか?」
「ラッキー……。無事だったんだね。よかった」
「はい、見ての通り無事です」
「えっと体調の方は悪くない。鳩尾を殴られて気絶してしまったんだ。その時、内部に損傷が出たらしくて魔法で治療してもらったら何とか会話が出来るくらいまでには復活したよ」
「そうですか。えっと、クレアさん。少しの間だけルドラさんと話をさせてください」
私はクレアさんの肩に手を置いて言う。
「私は聞いていたらいけないの?」
「はい……。少し師弟での話し合いがあります」
「そう……。わかった」
クレアさんは病室を潔く出て行ってくれた。
「えっと、ルドラさん。結界は張れますか?」
「ま、まあ。あまり強くないですけど」
ルドラさんは手を腰に当て、魔法の杖を取り出すと詠唱を唱え、かまくら程度の結界を張った。私の魔力で少々強化しておく。魔法の干渉は少なからず出来ないはずだ。
「私と各方々が色々話し合いまして三つの柱で正教会と戦います」
「各方々とは?」
「アレス王子とマルチスさん、キースさんの三名です」
「えっ! いたたたたっ……」
ルドラさんは驚きすぎたのか、胸あたりを押さえ、折れた骨を庇う。
「はぁ、はぁ、はぁ……。な、なんて人物たちを集めているんですか。ほんと、なんでそうなったんですか?」
「えっと……、気づいた時にはそうなっていたというか、必然的に会ってしまったと言うか。まあ、こうなる運命だったんだなと思います」
「運命……。何とも、運が強いですね。アレス王子なんて滅多にお会いできる方ではないのに……、あ、暗殺の件で話す機会があったわけですか」
「ま、そんなところです。少し前にも、面識がありまして忠告して避難してもらいました。今から、話合った内容を簡潔にまとめるので聞いてください」
「は、はい」
「アレス第一王子が政治の件でキアン第二王子と争い、時間を稼ぎます。正教会がぼろを出すまで粘れたらいいんですけどね。マルチスさんが他国の検問で魔造ウトサの侵入を少しでも抑制してもらいます。キースさんが教育の面で正教会からの攻撃を備えてくれます。政治、物流、教育の三点を守り、攻撃を耐えるんです」
「なるほど……。丁度いい三名が集まったわけですか。キララさんは何を?」
「私は勉強ですね。王都の学園に入って国に守ってもらいながら調査を続けます。あと、人生も楽しみます」
「はは……、キララさんらしい考えです。では、私は祖父と同じ動きをすればいい訳ですね」
「そうなりますね。でも、ルドラさんはマドロフ商会を守る必要があります。一番大変な役割です。家の存続が掛かっていますからね。今回、バレルさんが市場を破壊したことで王国の敵と見なされた可能性があります。正教会がどのように発表するかわかりませんが、マドロフ商会を少なからず攻撃してくるでしょう。でも、アレス王子曰く、最悪の場合、牛乳を売っているマドロフ商会は国王が買収してくれると言っていたので首の皮一枚でも繋がっていれば生き残れます。頑張ってください」
「はぁ……、本当に首の皮一枚繋がっているような状態ですよ。牛乳が無かったら国王とのつながりもなかったわけですし、ほんと、キララさんには感謝してもしきれません」
ルドラさんは寝たきりの状態でお辞儀をしてきた。
「えっと、バレルの方はどうなりましたか?」
ルドラさんはバレルさんのことが気になったのか、質問してきた。
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