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『ゴミ』スキルだと思われている『虫使い(蜂)』が結構使えるんですけど!<異世界冒険食べ物学園ダークファンタジー(仮)>  作者: コヨコヨ
王都の学園 ~学園の雰囲気を味わいに行っただけなのに編~

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バレルさんの過去

「別に舐めているわけじゃありませんよ。少しばかり現実味がなさすぎて驚いているだけです」


 マルチスさんはキースさんに言い返した。


「ま、そう思われても仕方ないかもしれません。でも正教会が質が悪いウトサを全世界に送ったらどうなるでしょうか」


 私はぼそっと呟いた。


「質が悪いウトサ……。ここでその話が出てくるのか?」


 マルチスさんは手を顎に当てながら呟く。


「質が悪いウトサは正教会が作っているはずなんです。これから質が悪いウトサを魔造ウトサと呼称します。魔造ウトサは危険な魔法を粉状にしたもので、甘味を感じる代わりに幻覚作用や催眠作用が確認されています。アレス王子とマルチスさんは見ていないかもしれませんが、そこにいるバレルさんは魔造ウトサを口にし、悪質な魔力で汚染されていました。そのまま暴走し、市場を崩壊させています」


「なんと……。カビが生えたパンでも余裕で食すバレルが腹を壊したのか?」


「お腹が壊れているかどうかは知りませんが、頭に問題が起こるんです。普通にお腹も下しますね。とにかく知っておいてほしいのは正教会が危険な粉を他国に普通のウトサとして売り出し、高額な資金を得て、他の国を薬漬けにした場合、世界は間違いなく崩壊します。私が持っている薬を使えば効果を消すことができますが、表立って売り出すことは出来ません。そんなことをしたら私が確実に消されます」


「なるほど……。キララが言うことは理解できた。つまり、正教会をこのまま放っておいたら危険だと言うことだな」


 アレス王子は頭の回転が速いからか、難しい話をあっという間に砕いて説明してみせた。


「そ、そうです。さすがアレス王子、頭がいいですね」


「別に頭は良くない。少し思考するのが得意なだけだ」


「少し疑問に思ったんだが、アレス王子が言う、キララとは誰かね?」


 キースさんはアレス王子に質問した。


「誰って……、今目の前にいる少女の名前ですよ。そう考えると、ラッキー君って誰ですか?」


「いや、そこにいる少年……。ん、少女?」


 キースさんは目を丸くし、口をあんぐりと開け、言葉が出てこない。そこまで驚くことじゃないと思うんだけど……。


「えっと……。キースさん、マルチスさん。改めて初めまして。キララと言います。ラッキーは偽名です。少し分け合って名前を使いたくなかったんですよ。でも、ここまで来たら言わざるを得ませんね」


 私は後頭部に手を当てて苦笑いをする。


「いやはや……、男かと思っていたら女だったとは……。人間の両生類もいるのだな」


 キースさんは驚きを隠せないのか、おろおろしながら呟く。


「それ、意味違いますからね。と言うか、普通に失礼ですからね」


「はははっ、キース殿は女子に眼がないからな。自分の目で女と見抜けなかったのが悔しいのだろう。ま、わしはキララが男だろうが女だろうが気にはせんよ」


 マルチスさんは大笑いしながら、キースさんの背中を叩いていた。こういうおじさんはいいよな。でもキースさんはやはり変態のにおいがする。お爺さんだからと言って気を抜いたら危険だ。


「これで、皆さんは私の正体を知ったわけですが、他言無用でお願いしますね」


「わかった」


 アレス王子とマルチスさん、キースさんは息を合わせ、頷いた。


「これから、ちょっとした作戦会議を始めます。私は何の権限もないので、皆さんの頭で考えてください。王に一番近いアレス王子が国の政治、商業を担うマルチスさんが物流の流れ、学業や顔の広いキースさんが学生たちや保護者に呼びかける作業。この三角形が成り立っていれば、国が崩壊することは無いと思います。ただ、どこかが崩れれば、国が崩壊する可能性があります」


「うむ……。私は第一王子と言う立場だが、まだ政権を持っているわけではない。大した抑止力にはならないぞ」


「まあ、アレス王子は弟さんとの戦いに勝たず、いざこざをずっと続けてください。正教会が政権を握る時間が伸びるはずです。アレス王子が弟さんに勝てると言うのなら、勝ってもらったほうが政権を握る可能性が高まりますから良いと思いますけど、その後の正教会の動きがわかりません。無理やり暗殺してくるかもしれませんし、近寄ってくるかもしれません。一番面倒な立ち回りが必要です」


「はぁ……。本当に面倒だな。父上に話すのが一番楽だが……、あの方は大胆過ぎるからな、最悪、正教会の解体を言い渡す気さえする。そうなったらどっちみち国が揺らぐ。正教会は勇者と剣聖を保持し、他国に対して抑止力になっているのも確かだ。消えれば、他国との戦争も避けられないだろう」


「戦争……。嫌な響きですね。昔は獣国と戦っていたそうですけど、国の仲を国王が何とかしたと噂を耳にしました。賢王の名は半端じゃありませんね」


「はは……。ほんと、偉大な父だ。私は到底及びそうもない」


 アレス王子は謙遜しているが、普通に優秀な方だ。きっと良い王様になれる。


「物流に関しても、同じだ。確かにわしは多くの国に道がある。だが、商人がいる限り、決まった道はない。先人が作った道を行かず、新たな道を開拓する者すらいる。そのあくなき探求心を止められる訳がない。全てを見て他国にウトサを売りつける者を見つけるのは至難の業だ」


 マルチスさんは顎に手を置き、考えながら喋る。


「はい……。確かにそうですね。加えて、マドロフ商会は正教会に目を付けられています。自分たちに歯向かう危険因子として目の仇にされている状況です。逆に、相手もマルチスさんの行動を恐れている。だから、バレルさんを上手く使い、家を壊そうとした」


「な……、バレルが何かしたのか?」


 どうやら、マルチスさんはバレルさんに絶大な信頼を置いていたようで完璧に足下を掬われる形となった。私がいなかったら、王子やマルチスさん、何ならマドロフ商会もろとも消されていただろう。


「バレルさんは市場を崩壊させました。加えて、アレス王子の暗殺も正教会から受けていました。その報酬が、マドロフ商会の鎮圧です」


「そ、そんなバカな……。バレルが市場を壊しただと? アレス王子の暗殺? バカなこと言うんじゃない。バレルは情に厚く義理の硬い男なんだ。そんなでたらめを……」


 マルチスさんが額に静脈を上げ、血圧を上昇させたのを見たキースさんが肩に手を置く。


「落ち着け、マルチス。キララ君の話しは事実だ。わしもこの眼で見てきた。だから断言できる。わしもバレルが悪事を働いたなんて思いたくなかったがな……。まあ、市場を壊したのは本人の意志じゃない。だが、アレス王子の暗殺は本気だったようだ」


「そんな……。バレルが……」


 マルチスさんは大親友のバレルさんが悪事を働いたことが信じられないのか、眠っている本人をよく見て、うなだれる。


「マルチスさん。バレルさんのような強い人間でも、魔造ウトサの精神攻撃は耐えきれません。きっと、過去の辛い経験を掘り起こされて正教会に利用されたんです」


「過去の辛い経験……。妻が魔物に殺され、子が病に倒れた二八年前のことか……」


 マルチスさんは表情を暗くし、ぼそぼそと話す。


「妻が魔物に殺され、子が病に倒れた……。あまりにも悲惨すぎますね。えっと……、ルドラさんが言うにはマルチスさんとバレルさんは不仲と聞いたんですが、実際はどうなんですか?」


「不仲……。まあ、最近はそうだったかもしれないな」


「なにが原因で……」


「昔、バレルの妻と子が魔物の大群に襲われた時があってな。その時、バレルは仕事中だった。だが、若かったバレルはすぐに駆け付けた。子は妻と共にいたんだが、妻はバレルに子を託し、逃げるように諭したそうだ。戦ったら三人纏めて死ぬかもしれない。だから、子を連れて逃げてほしいと言われたそうだ。だが、囮役は自分がやるべきだったと何度も後悔していた。もう、病むほどにな」


「そりゃあ……、病みますよね」


「ほどなくして、子が病に倒れた。その頃、わしは正教会ともめとってな。剣聖だったバレルの名も轟いていた。だから正教会に行って病を治すと言う選択を取るに取れなかった。わしらはどちらも嫌われていたからな。わしは多くの医者を当たって最も効果が高い薬を子に飲ませた。だが発熱は止まらず、苦しみ出してな……。バレルは殺されるのを覚悟で正教会に頼み込み、治療してもらったそうだ。だが間に合わなかった……。その時からバレルと会話らしい会話をしていなかったな」


 マルチスさんはまっさらな遠くの空を見て、瞳の膜を潤わせる。


「何とも……、無慈悲な世界……」


「キララ君、これが現実だ。何事も美談とはいかないのだよ」


 キースさんはバレルさんの肩を叩き、弟子の不運に心を痛めるような温かい瞳を向ける。


「バレルさんにそんな過去が……。私の剣術指導の時はそんな顔一切見せなかったのに」


 アレス王子もバレルさんを見つめた。


「そりゃあ、バレルだからな。剣を学ぶ者の前に立てば、自分の過去を切り離して教える。きっと、アレス王子を教えている時は気分が良かったんだろう」


 キースさんは、同じ教え子のアレス王子の方を見て呟く。


「そう言うことですか……。なんか、憎めないですね。殺されそうになって言うのも何ですけど」


「そうですね……」


 皆、バレルさんの方を見て、死刑が確実していると言う事実に目を背ける。


「皆さん、バレルさんは死亡したと正教会の者が呟いていたと私の部下が言っていました。なので彼を私に預けてくれませんか? 田舎での暖かい健やかな暮らしをさせてあげたいんです」


「…………」


 アレス王子とマルチスさん、キースさんの三名の賢人はじっくりと考えていた。そりゃあ、超危険人物をこんな子供に預けるとか正気の沙汰じゃない。悩むのもわかる。

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