2名の人命救助
――デイジーちゃんが言うには昨晩遅くに冒険者の女性と聖職者の男性が訪ねてきたらしい。ギルドから連絡を受けて瘴気の調査をしに来たのだと。そして2人で山に入って行ったきり…一向に戻ってこず、物凄い嫌な空気が流れ込んできたのだという。その嫌な空気とは瘴気のことだろう。お母さんと弟君は既に避難させたとのことだった。
「ベスパ…早く見つけてあげて…」
ベスパは、デイジーちゃん発見後、再度黒い靄に飛び込んで一帯を捜索しており、2人の人物を探していた。
デイジーちゃん発見から結構時間が立っているのだが…未だに見つからない。
やはり山の中を小さな虫一匹で探すには、限界があるのだろうか…。
そう思っていた矢先、べスパからの連絡が届いた。
「キララ様!2人の人物を発見しました!」
――え!今どんな状態なの。ちゃんと生きてる!
「白い服を着た男性が大怪我をした女性を背負っています…。しかし、2名とも相当弱っている模様、今にも地面に倒れてしまいそうです!」
――2人とも生きてるんだね!
「はい!そのようです。どういたしますか?」
――生きているのなら…、助けに行くしかないじゃない!
「分かりました、私がキララ様を案内いたします!」
――お願い!
ベスパは黒い靄を突き抜け、こちらの方に戻ってきた。
ベスパの色が少し黒ずんでいる。
「キララ様!こちらです」
「レクー相当辛い思いをするかもしれないけど、私たちを助けてくれる」
「愚問ですよ、キララさん!僕はいつでもキララさんをお助けします!」
「ありがとう…よし!レクー、ベスパ、行くよ!」
「はい!」×2
「キララ様!こちらです!!」
「分かった!」
ベスパの体から淡い魔力の光が見える…この暗闇の中だと、前に進むにもベスパの羽音と光しか頼りになるものが無い…。
しかし、べスパには、暗闇の中でも良く見えているようで、私達が衝突しそうな物があるとしっかり避けながら先導してくれている。
――どんどん瘴気が濃くなっていく…ここまで来ると息するのも難しい…。出来るだけ吸わないように意識しても…吸っちゃうよ…。
山に差し掛かり、地面が柔らかく、前に進みずらい。
しかし、レクーのパワーで何とかゴリ押す。
風は吹いておらず、山の中だというのに音が全くしない。
殆どの木の葉が枯れ落ち、地面は灰色になっている。
一歩踏み出せば、灰色の木の葉が舞い、レクーの後を追いながら地面へと戻って行く…。
「キララ様!もうすぐ其処です!」
ベスパの言った通り、灰色に塗れながらも白い信徒服が目に入ってくる。
「な…何だ…」
白服の男性がこちらに気が付いたようだ。顔色は悪いなんてものじゃ無い…、地面と同化しており体が枯れているように見える。
「すみません!大丈夫ですか!!」
「た…助けてください…僕の魔法力は、もう空になってしまいました…奇跡で瘴気を消滅させようとしたんですが…。ガハッ!」
その男性は口から吐血し意識を失った後、その場に倒れ込んでしまった。
吐血した血液も間近で見ると黒っぽく変色している。
「急いで運ばないと!」
しかし…少女の力では大人、2人を持ち上げるなど到底できなかった。
魔法で2人を浮かせるなど、今の私には到底できない芸当だ。
「この状況じゃ…『ビー』達もいないし…」
「キララさん!どいてください!」
「レクー何を!」
レクーは男性の服に噛みつき、思いっきり持ち上げる。
そのまま自身の背中に乗せた。
同様に女性の方も自身の背中に乗せると
「キララさん!早く!乗ってください!」
「う、うん!ちょっと待って、2人を縛り付けるから」
私はレクーの背中から2人が落ちないように、持っていた予備の縄で何とか縛り付ける。
「良し…何もしないよりは大分落ちにくくなったはず…。レクー行こう」
「はい!全力で行きます!」
2人の大人を乗せているとは思えない程の速度を出し、黒い靄を抜ける。
レクーのお陰で何とか2人を山から降ろすことに成功した。
「はぁはぁはぁ…な…何とか…」
――私もレクーも相当疲弊してる…。今の所は大丈夫だけど…あの瘴気がさらに悪化してこちらの方に流れてきたら…。
確認できる人物を全員救出した為、この場からやっと逃げられる…そう思っていた矢先だった。
「キララ様!大変です!動物たちが『アンデッド』に!」
「え!アンデッド…アンデッドて何…?」
「動物たちは死んでから数日経つとアンデッドと呼ばれる魔物になってしまうのです!本来は他の動物や昆虫達が死骸を食べ処理してくれるのですが…。その死骸を処理してくれる、動物や昆虫達がこの山には居なかったのです!しかも、今回はそこに瘴気が混ざっていますから私にもどうなるか分かりません!」
――このままじゃ…、不味いってこと…。
ネ―ド村に充満していた黒い靄…瘴気が少しずつ、こちら側へと漏れ出してきている…。
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