王都の冒険者ギルドは社会的組織
多くのお店が露天。つまり八百屋さんや肉屋さんのように品を見せながら商売をしている。加えてポーション専門店、武器専門店、防具専門店のように一つの品で勝負していた。
マドロフ商会の場合、お店の中に入らないと品が買えないと言う欠点と入ればある程度何でもそろうと言う利点がある。
一つの品では勝てないが、お店の質で勝負すれば勝てるかもしれない。言わば、売る品と買う者が合致すれば勝ちなのだ。
私達は熟練冒険者を狙わず、新人冒険者。また他国や地方からやって来た者に商品を買ってもらうと言う方針を考える。勝手に経営をしてしまって申し訳ない。でも、私もマドロフ商会のお店が繁盛していないのが納得いかなかった。
「ヤスイヨ、ヤスイヨ。シツガヨクテ、ツカイガッテガイイシナガソロッテルヨ~」
(安いよ、安いよ。質が良くて、使い勝手が良い品がそろってるよ~)
私は勉強したビースト語を使い、ビースト共和国からやって来た冒険者さん達を呼び込んだ。
冒険者の中に多くの獣族さんがいるのに、なぜお店の人達がビースト語を使っていないのか考えた。
――獣族さんは切り捨てられている。
ルークス王国に出稼ぎに来ている貧乏な獣族さんに誰も期待していなかった。なら、根こそぎ貰おう、その収益。
「ア、アノ……。ビーストゴガハナセルンデスカ?」
(あ、あの……。ビースト語が話せるんですか?)
獣族の冒険者パーティー、見かけからして素人の方々が話しかけてきた。
「ハイ、ハナセマスヨ」
(はい、話せますよ)
「ホッ……、ヨカッタ。カタコトノルークスゴジャゼンゼンツウジナクテ、コマッテイタトコロダッタンデス」
(ほっ……、ほかった。かたごとのルークス語じゃ全然通じなくて困っていたところだったんです)
「ソウデスカ、ワタシデヨケレバ、ヨウボウヲキキマスヨ。ナニヲオサガシデスカ?」
(そうですか、私でよければ、要望を聞きますよ。何をお探しですか?)
「デキルダケヤスイボウケンドウグガホシイデス」
(出来るだけ安い冒険道具が欲しいです)
「ワカリマシタ、ゴアンナイイタシマス」
(わかりました、ご案内いたします)
私は獣族の冒険者さん達をお店の中に連れていき、安い品を見せていった。すると、獣族さん達に滅茶苦茶感謝された。いや~、ビースト語を勉強しておいてよかった。
その後、獣族の冒険者さんが他の獣族の冒険者さん達を呼び、マドロフ商会のお店にわんさか入ってくる。加えて、お店の前に出した商品をクレアさんに銀貨一枚払って買ってもらうと言う方式の方も大盛況だ。
「す、すごいわ! ラッキーさん、あなた、商人の素質があるわよ! さっきまでガラガラだったのに、もう、こんな沢山のお客さんが入ってる!」
クレアさんは大声で私の凄さを表しているのか、興奮しまくっている。
「いえいえ、私は買いたい者の気持ちを考えていただけです。新人さんは安い品が欲しい。だから、この店に来た。それだけのことです」
「だとしても凄いわよ。ビースト共和国の方がもうたくさん入って来てるもの」
「きっとルークス語がしっかりと聞き取れなかったので、人々の噂で悪い印象を持っていなかったんでしょうね。これはいい情報です。国際企業化もありかもしれません」
「マドロフ商会、ビースト共和国支店……。面白そうね!」
クレアさんはやる気満々だ。まあ、決めるのはルドラさん達なのだが、見てみたところ、悪い話しでもなさそう。
まぁ、周りの人たちが繁盛しているマドロフ商会のお店を見て悔しそうにしている者達がとても滑稽だ。
別にあなた達は他の冒険者さんに高い品を買ってもらって儲けているのだからいいじゃないかと言いたい。
「まあ、今回、お店を人でいっぱいに出来たのは私がビースト語を話せたからです。やっぱり言葉の壁は大きいですね。逆に取っ払えば、ルークス王国とビースト共和国の二か国のお客さんを手に入れられることになりますから、ビースト語を話せる方を雇うのもありかもしれません」
「ふむふむ……。この反響を見たら入れざるを得ないわね」
私達はまだウルフィリアギルドの建物内に入っていないのに、もう一時間たとうとしていた。
私はやっぱり仕事病なのか、楽しくて仕方がなかった。
「キララ様、お楽しみのところ申し訳ないのですが、アレス王子とバレルさんが接触しそうです。そろそろ作戦を開始した方がいいかと」
ベスパは私の前に飛んできて呟く。
――わかった。じゃあ、アレス王子を上手く誘導してバレルさんを拘束する罠に何度も嵌るように仕向けてくれる。最悪、罠が全く効果なしと判断したら、キリがいい所でバレルさんを市場に出してルドラさんに鉢あわせて。そのまま時間をとらせてアレス王子の保護と、罠の補充、剣の没収を検討する。
「了解です。では『ネズミを追っかける猫捕獲作戦』を開始します」
ベスパはわかりやすい作戦名を立て、光った。
バレルさんの方はベスパに任せておけばいいだろう。まぁ、私の出番があれば、駆け付ける必要があるが、今のところ様子見と言うことで。
「じゃあ、クレアさん。建物の方を見に行きましょう」
「そうね。ここばかりに目を向けていても意味ないものね」
私とクレアさんは大きなウルフィリアギルドの本部に入る。入口は大きな扉が開きっぱなしになっており、出入り自由だった。なので、出てくる人が左、入る人が右と言うふうに分かれている。
私達は右側から建物に入って行った。まず、広い。もう、大企業や巨大なホテルの広間と同じかそれ以上に広い。
役所かと声を上げたいくらい多くの女性が受付に並び、冒険者さん達と話し合っていた。
冒険者ギルドと言っても簡単に言えば仕事を紹介してもらう場所だ。
もっと簡単に言えば派遣会社。
冒険者さんは戦えますよと言う資格を持った社員なのだ。もちろん回復魔法が使えますよ~、だったり、身体強化できますとか言うと、自分に合った仕事を持って来てもらえたりするらしい。もちろん自分から行きたい依頼を見つけて向かうと言う方法もある。
「なんか……、仕事見学をしている気分……」
「なにを言っているの? そのために来たんでしょ」
クレアさんは私が仕事見学に来たと思っていたようだ。まあ、それもあるが、私はもっと異世界のファンタジーを想像していたので、結構社会的な構造に面食らっていた。
これなら、街にあるバルディアギルドの方が異世界っぽい。
――まあ、冒険者と言っても仕事だもんな。あと、ここはルークス王国。しっかりとした体制が作られているからこそ、ここまで発展しているんだ。頭脳明晰なルークス王の手腕がわかるよ。
「はわわわ……。ど、どうすれば……。あっち、こっち、どっち?」
獣族の冒険者さんがかたごとのルークス語を話しながらあたふたしていた。
他国から来た方はやはりこの社会的な仕組みに慣れていないからか、戸惑いを感じているらしく、建物内で迷子になっていたり、何をしたらいいかわからなくなったりしていた。
――働き方が他国と違うんだな。地方のバルディアギルドの方が他国の仕事環境と似ているのかも。
私は迷っている獣族の冒険者さんに話しかける。
「スミマセン、ドウカシマシタカ?」
(すみません、どうかしたんですか?)
「エ……、ビーストゴ。ハナセルンデスカ?」
(え……、ビースト語。話せるんですか?)
「ハイ」
(はい)
「エット、マモノトウバツノイライヲウケタインデスケド、ドコニイケバイイノカワカラナクテ、コマッテイタンデス」
(えっと、魔物の討伐依頼を受けたいんですけど、どこに行けばいいのかわからなくて、困っていたんです)
私は天井からぶら下がっている文字を見る。ルークス語が書かれており、仕事が場所ごとに区切られていた。
「トウバツノイライナラ、イチバンカラハチバンノウケツケニナランデモラエタライイデスヨ」
(討伐の依頼なら、一番から八番の受付に並んでもらえたらいいですよ)
「ホントウデスカ。オシエテクレテアリガトウゴザイマス。ミナサンイソガシソウデハナシカケヅラクテ」
(本当ですか。教えてくれてありがとうございます。皆さん忙しそうで話しかけ辛くて)
獣族の冒険者さんは受付が一番多い討伐の部署に歩いて行った。
「ビースト語って喋れる人、本当に少ないんですね」
「そうね……。まあ、人型とはいえ、姿が違うとねぇ……」
クレアさんも獣族さんにあまりいい印象を持っていないようだ。
私からしてみれば、獣族さんは人の体に獣耳や尻尾が生えている姿なのでものすごく可愛く見える。でも、それは私が元日本人でアニメ文化に慣れ親しんだからかもしれない。
クレアさんにとって獣族は外国の方だ。
私もアメリカ人やイギリス人、中国人の方に話しかけろと言われると気が引ける。クレアさんもそんな感じだろう。
きっとルークス王国全体がそうだ。戦争が起こり、戦ってきた相手。それが国の中にいる。
もう、仲が悪くなって仕方がない。でも、そこを乗り越えないと経済成長は見込めないのだ。
正教会やその上の五大老などは、ルークス王国の古い歴史を変えたくないと言う凝り固まった頭の持ち主であることは間違いない。ルークス王はその部分をわかっているから、国同士の関係を改善していったのだろう。
――うん、ルークス王、やっぱりすごい人だ。ルークス王の長男であるアレス王子も凄いんだろうな。だから狙われているんだろうけど……。
私とクレアさんは冒険者さん達にもまれながら歩いてた。どうも、Sランク冒険者パーティーが帰還するとのことで、ギルド内が騒ぎ立っている。
フロックさんとカイリさんもSランク冒険者なので、特に気にしていなかったのだが周りの雰囲気が国民的アイドルを迎え入れるような大きな道を中央に作り、受付まで一直線に移動できるようにした。
――Sランク冒険者ってこんな待遇なの……。じゃあ、昨日話をしていたドラグニティ学園長も相当やばい人なのか。
「おい! 『聖者の騎士』が帰って来たぞ!」
一名の冒険者が声をあげた。
「うおおおおおおおおおおおおおおおお~!」
会場の冒険者たちは建物が吹き飛びそうなほどの大声を上げ、盛上った。
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