黒い靄
「よし!もう少しだ。待っててデイジーちゃん」
私たちは、道を走っている時に気づいたのだが…ネ―ド村に近づくにつれて、異様な雰囲気を放っていた。
昨日までは見えていたはずの道先が靄っていて上手く見えない。
決して霧が掛かっているわけでは無い。
青い空が広がっているにも関わらず、先が見通せないのだ。
このまま全速力で走っていては危険だと判断し、すぐに止まれる速度で移動する。
少しすると、恐れていた事態がその場で起こっていた。
「え…なにこれ…」
そこに居たのは道端に苦しみながら倒れている人々の姿だった。
苦しんでいる人はまだ生きていると確認できたが…動かない人もいたため、私はすぐさまレクーから降り、動かない人が生きているか確認する。
「大丈夫ですか!大丈夫ですか!」
肩のあたりを弱くトントンと叩く。
「う…う…」
――よかった生きてる。でも相当弱ってるよ。何とかここまで移動しているのに…ここで体力の限界を迎えちゃったってことかな…。そう言えば…デイジーちゃん…デイジーちゃんは何処!
あたりを見回したが…どこにもいない。
倒れている人の中にデイジーちゃんらしき人物は紛れていなかった。
「もしかしてまだあの村に…」
目前には黒い靄の掛かった、柵が見えている。
「キララ様!おかしいです!昨日よりも瘴気とやらの量が多い気がします!これ以上は危険です!」
ベスパは警報機レベルの騒音を羽音で鳴らしながら私の周りを飛び回る。
「でも!まだ村にデイジーちゃんが居るかもしれないんだよ!それに冒険者と聖職者の人がまだ頑張ってるかもしれないのに…」
「キララ様!私が見てまいります。私と『視覚共有』を行ってください!もし、デイジーさんを見つけることが出来たら、迅速に救出しましょう。その方が無駄に瘴気を吸い込まなくてよくなります」
「ベスパ…分かった。何とか耐えてみる」
「では行ってまいります!」
ベスパはロケットスタートをきめ、ネ―ド村の方に飛んで行った。
『視覚共有!』
黒い靄に飛び込んで行くベスパの視覚と繋がる。
――デイジーちゃん…デイジーちゃん何処…何処にいるの。
ベスパが先に向ったのは、デイジーちゃんの実家だった。
しかし、中はもぬけの殻となっていた。
私の作った皿が無造作に転がっている。
どうやら、相当急いで家を出たのだろう。
続いて、お爺ちゃんの家に入るが…ここにもいない。
「キララ様、ここにもおられません。もう避難したのではないでしょうか…」
――そうだと良いんだけど…。でも、もう少し探してみよう。
ベスパはお爺ちゃんの家を退出し、ネ―ド村の家よりも高い位置からデイジーちゃんを探す。
三半規管の限界が近しくなってきたころ…見覚えのある服装が見えた。
――ん…ちょっと見て!川岸の所!
「デイジーさん!」
そこにはレモネの木下で倒れ込むデイジーちゃんが居たのだ。
「キララ様!デイジーさんを発見いたしました!急いで救出を!」
「分かった!行くよレクー!」
「はい!」
重いサイドバックを下し、レクーの体は身軽になる。
「全速力でお願い!」
「了解!!」
地面に倒れている人の隙間を綺麗に走り抜けていく。
私たちは他の物には目もくれず、一直線に川岸へと向かった。
「く!…昨日よりも相当ひどい空気になってる…視界も大分悪い…どうして」
デイジーちゃんを見つけた時はまだ見えていた視界が、もう既に数m先すら見えない状態になっていた。
こうなってしまっては頼りになるのはベスパの警報音と発光、レクーの反射神経のみ…。
幾度となく建物に衝突しそうになるが、レクーがギリギリで踏みとどまり、事なきを得ている。
うろ覚えの道順で何とかレモネのある川岸まで到着し、ベスパが目印となっている、デイジーちゃんのもとに駆け寄る。
「デイジーちゃん!デイジーちゃん!大丈夫!返事して、ねえ!」
すぐさま声を掛け、意識の確認を行った。
「う…うう…キララさん…。私…」
――意識がある…こんな所で倒れていたのにほんとにタフなんだなデイジーちゃんは…。ネ―ド村の外で倒れていた人でも意識が無い人が居たのに…。
「良かった!デイジーちゃん!」
私はデイジーちゃんに抱き着き、すぐさま立ち上がらせた。
非力な私でもデイジーちゃんの支えに成るくらいはできる
「早く安全な所に移動するよ!」
「私…レモネを取りに…ここに…」
――大分意識が朦朧としてる…、呂律がちゃんと回っていない。結構な危険状態なんじゃ…。早くこんな場所から離れないと。
「レクーお願い!」
レクーにしゃがんでもらい、デイジーちゃんを背中に乗せる。
私はデイジーちゃんを支えながらレクーに跨り、何とか走り出した。
「はぁはぁはぁ…」
――息を止めながら走るのはほぼ不可能だな…
人々の倒れている所までデイジーちゃんを運んだ。
「デイジーちゃん、デイジーちゃん、大丈夫?」
「は…はい…大丈夫です」
「何があったか話せる?」
「はい…昨日の夜…」
デイジーちゃんは少しずつ話し始めた。
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