鉄の心
「ちょ、ファニー。どうしちゃったの。普段はそんなに暴れないじゃない」
リーファさんはファニーの体を摩り、宥めた。
「はぁ、はぁ、はぁ……。す、すみません。えっとえっと私の名前はファニーシア。気軽にファニーって呼んでください。れ、レクーさんの子供を産ませてください!」
ファニーはあまりに早い求婚をした。出会って八〇秒も経っていない。まぁ、動物の世界ってそんなものか。
レクーはウシ君と違い、性欲を完全に掌握できるすごい子だ。なので、超可愛い子に求婚されても舞い上がらない。
「ファニーさん、今はそう言う時間じゃありませんよ。僕も何をするか聞かされてませんけど……」
「そ、そうですよね。すみません、舞い上がってしまって」
ファニーさんは頭をペコペコと下げながら謝り、レクーの体に首を擦りつけるよう挨拶をする。まあ、人で言う握手みたいなものだ。
「えっとラッキー君のバートン、すごいね……。見た目がすでに別格と言うかなんというか……」
リーファさんは眼を丸くして呟いた。
「いや……、この子のお母さんが大きかったので、この子も大きくなっただけですよ。特に理由はありません。あと、大量に干し草を食べるので筋肉質になったんです」
「筋肉質と言うか……。もう、別の生き物みたいになっちゃってる気がするんだけど」
「まあ、よく走る子ですからね。今回の競バートンも経験してますし、助言をしてもらおうかと思いまして」
「バートンが助言?」
「ま、まぁ、バートンはバートンに、私がリーファさんに助言します」
「なるほど。わかりました、お願いします」
リーファさんは頭を下げる。
「じゃあ、私の横を並走してもらってもいいですか」
「はい、わかりました」
私とリーファさんは手綱を動かしてレクーとファニーを動かす。
「まず一周普通に走って心臓を慣らします。いきなり全力で走ると心臓が最悪の場合止まってしまうので、バートンはなるべく走らせてから全力を出させましょう」
「そうですね。いきなり走るのは人間でも危ないですし」
私は一周一八〇〇メートルの芝をリーファさんと一緒に並走した。
「レクーさんの走り……、優雅……、凛々しい……、逞しい……」
ファニーさんはレクーのことばかり気にして走りに集中できていなかった。このままでは怪我をしてしまうかもしれない。
――レクー、ファニーさんにしっかり走るよう注意してくれる。なるべく優しくだよ。
私はベスパに頼んでレクーの頭に直接話し掛けた。
「は、はい。えっと、ファニーさん。走る時は前方を見て走りましょう。怪我をしてしまいます。ファニーさんの綺麗な体に傷がつく姿を僕は見たくありません」
「きゃぁあああああああ~! すみませ~ん! しっかりと走ります~!」
ファニーさんは叫び、鬣を靡かせながら前を向いてしっかりと走った。
「きゃあああっ~! あの方、カッコよすぎるわっ! 駄目、直視できない!」
「あぁぁ、あの瞳、ゾクゾクしちゃう。見てるこっちが吸い込まれちゃいそうっ!」
「好き好きっ! 愛してるわ~っ!」
休憩所にいる雌バートンがレクーの姿を見て物凄く興奮していた。
――レクーって本当にイケメンなんだな。出会って数秒で雌バートン達のハートをずっきゅんずっきゅんって射抜いちゃってる。人に例えるとどれだけイケメンなんだろう。
バートンと人間では感性が違うだろうから、イケメンの考え方が変わってくる。私にはわかりえない世界だ。
第一コーナーに差し掛かり、私達はリーファさんに助言する。
「競バートンではどれだけ内側を走れるかが勝負の鍵になります。内側の方が、距離が短いですし、体力の温存が可能です。でも、内側が必ずいいと言う訳でもありません。小回りが利く子じゃないと、失速します。バートンの速度が速いので外側に向かう力も強くなり、曲がりにくいのが原因です。個体の特徴を把握して走りましょう」
「は、はい!」
直線を走り、第二コーナーに差し掛かる。
「一週目なので流してもらって結構です。今回は二頭しかいないので、背後につくか、内側に入って距離を短くするかの二択になるので、好きな方を選んでください。本来はもう一周あるんですけど、今回は助言なのであと直線の説明をして終わります」
「わかりました」
私達は最後の直線に差し掛かる。
「ここで全力を出させてください。今まで溜め続けた脚を解放して白線に向って全速力です。もう、ここまで来たら体力気力、精神力の勝負になります。絶対に勝つと言う気持ちの強い方が勝てるので、ファニーさんのお尻を杖で叩いて全力を出す瞬間を合図してあげてください」
「わ、わかりました。頑張ってみます」
リーファさんは顎に手を置いて試合を想像している。どのように戦ったら勝てるのかを考えているようだ。一方ファニーは……。
「レクーさん! 私が勝ったら交尾をお願いします!」
――ん~、野生の本能が理性を飛ばしちゃってるよ。
「はは……、ファニーさん。試合に集中してください」
レクーは冷静に返した。やはり鉄の心を持っているようだ。豆腐みたいな理性のウシ君とは格が違う。
「すみません!」
ファニーは大声で謝り、鼻息を荒くして気合いを入れる。
リーファさんに助言したのでマルティさんにも助言をしようと思ったのだが……。
「このやろ~! 俺のファニーを奪いやがって~!」
イカロスがレクーに向って駆けてくる。
私は危ないと思ったので、杖を出し、地面に魔法陣を展開する。
「『フロウ』」
「うわっ!」
イカロスは宙に浮き、走れなくなった。
「す、すみません、ラッキー君。イカロスがいきなり走り出しちゃって」
「えっと……、問題ないです。ただの嫉妬ですから」
「嫉妬?」
イカロスが落ち着いたら、地面におろし、レクーに挨拶させる。
「初めまして。レクティタと言います。レクーと呼んでください」
「ちっ! 俺の名前はイカロスだ……。たく、奪う気がないなら最初っから言えよ」
「今、会ったばかりですし、二方の関係を知らないので、誤解をさせてしまったのならすみません」
レクーは頭の悪いクレーム対応をするように冷静になって話した。
「じゃあ、マルティさんにも同じことを言いますね」
「お願いするよ」
私はリーファさんに言ったことと全く同じ説明をマルティさんにした。一周走り、両者共に競バートンを理解してくれたようだ。
「では、ただいまより、マルティ・マドロフさんとリーファ・クウォータさんの競バートンを開始します。両者、開始位置に移動してください」
私はベスパに頼み、ゲートを作ってもらった。ただの柵だが、あったほうが雰囲気が出る。互いに集中できると思ったのだ。
「ドラグニティ魔法学園乗バートン会場、第一回ラッキー杯を開催します!」
どこからか金管楽器の甲高い音が響き、雰囲気がますます出てくる。
「出場バートンの説明をしましょう。左から一番、ファニーシア。今回初めての競バートンに出走します。気合いは十分。軽い身のこなしが得意なバートンです。体力の方にやや難有りのようです。馬場は芝、一周一八〇〇メートルのコース。今回の距離は三〇〇〇メートル。体力の使いどころが重要になって来るでしょう」
「キララ様……、その喋り方は何ですか、」
ベスパはバートン場の外にいる私の前に飛んで来て呟いた。
「い、いや、戦いの雰囲気が出るでしょ」
「まぁ……、雰囲気が出てますし、ノリノリですね。私も手伝います」
「ありがとう」
ベスパは私に乗っかって来てくれた。バートン場の空中に巨大な映像が流れ、ビーの視線が映しだされる。今はファニーとリーファさんの映像が流れていた。
「騎手はリーファ・クウォータさんです。Sランク冒険者であるカイリ・クウォータさんの実の妹さんと言うことだけあって潜在能力は随一でしょう。初めての競バートンですが、すでに名騎手の片鱗を見せております。今回の対決にも本気で挑みます」
「うぉ~」
会場の貴族たちはリーファさんを見て、気分を上げていた。やはり美人が出ると男性が盛り上がる。
「左から二番、イカロス。こちらも今回初めての競バートンに出走します。鼻息からもわかるように気合いは十分。力強い走りが得意なバートンです。体力はありますが、小回りがやや効きにくく、あがり症と言う性格を持っています。今はあがり症の症状は出ていないようですので、このまま走ればいい記録が出るかもしれません」
ベスパはイカロスを映し、映像を出す。
「騎手はマルティ・マドロフさんです。マドロフ商会会長の実子であり、兄、ルドラ・マドロフさんを尊敬してやまない次男坊。バートンに懸ける思いは兄にもまけやしません。バートン術で磨き上げた騎乗を見せてもらいたいです。今回の試合に何としてでも勝ちたいとおっしゃっていました。その気持ちをバネに躍進してもらいたい!」
私の実況に熱が入る。
開始位置にいる両者共に私の実況が耳に入っていないのかと思うくらい顏が集中しきっていた。
ベスパはビーを集め、赤色に発光。信号の用意をしていた。
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