三本勝負
「乗バートン、バートン術、競バートンの三種目で勝敗を決めましょう」
「競バートン?」
ファニーとイカロスは仲がいいのか、発言が被る。
「競バートンは三〇〇〇メートルの距離を走って一番に到着出来た者が勝ちと言う競争です。もちろん、背中に騎手を乗せてもらいます」
「なるほど、駆けっこってわけですか。面白そうですね」
ファニーは女の子ながらやる気満々だった。
「長距離を走るだけなんざ、俺に罹ればちょろいもんだ。ぜってー勝つ!」
イカロスさんも自信満々だ。
二頭のバートンは話しが全く進んでいないリーファさんとマルティさんのもとに走って行く。
「うわ、ちょ。ファニー、どうしたの? いま、マルティ君が話そうとしてくれてたのに」
「イカロスも、どうしたんだ。今、頑張って話そうとしてたのに……」
私はリーファさんとマルティさんのもとに走る。
「すみません。ファニーとイカロスが戦いたいそうです。お二人に騎手をお願いしてもいいですかね?」
「戦いたい?」
リーファさんとマルティさんも息がぴったり合った。
「はい。二頭がなんやかんや言い合って勝負しようと話しになりました。そこで三本勝負をしてもらって勝った方の言うことを聞くと」
「えっと……話しが全然見えないんだけど」
リーファさんは頭に疑問符を浮かべ、首をかしげる。
「マルティさんとリーファさんも勝負をして何か懸けてみたらどうですか?」
私はマルティさんの方を見てウィンクしながら言う。
「はっ! な、なるほど……。あ、あの。リーファさん。お願いがあります。三本勝負に僕が勝ったらリーファさんもバートン術部に入ってください!」
マルティさんは小さな切っ掛けから一気に話す。
「え……? バートン術部に入ってと言われても、私は乗バートン部だし……」
「別に本命で入ってもらわなくてもいいです。武神祭のバートン術大会に出たいんです。一人じゃどうしても出る気が起きなくて……」
「なるほど……。じゃあ、私が勝ったら昔みたいにリーファちゃんって呼ぶようにすること、あと柄の悪い同級生と喧嘩しないこと、休日は私ともっと遊ぶこと、それからそれから~」
――リーファさん、物欲が多い……。
「ちょ、リーファさん、一個だけなんじゃ……」
「一つのお願いが小さいことなんだからいいじゃない。もう、リーファさんなんて硬いし、なんかそっけないじゃん……」
リーファさんは腕を組んで頬を少し膨らませながらマルティさんを見る。ものすごく可愛い。
「だ、だって……、僕は小貴族だし……、リーファさんは大貴族で……位が全然違う」
マルティさんは指先を突きながら弱々しく呟く。
「もう、関係ないっていつも言ってるのに……。うじうじしてて情けない。そんなんじゃ、勝てる試合も勝てないよ!」
リーファさんは結構熱血系の人なのか、勝負には勝ちたいと言う強い意思を感じる。
「それで、ラッキーさん、三本勝負って言うのはどういう競技をするんですか?」
リーファさんは私の方を向き訊いてきた。
「今回の種目は乗バートン、バートン術、競バートンの三種目です。競バートンは聞きなれないかもしれませんけど、この広い芝を三〇〇〇メートル走ってもらいます。どちらが先に走り切れるかと言う勝負です」
「なるほど、どちらも有利不利があって最後は力勝負ってわけですね。面白いじゃないですか。マルティ君、早速戦いましょう!」
「は、はい。わかりました!」
マルティさんとリーファさんの三本勝負が行われる。あまりにいきなりなので、多くの貴族たちが戸惑っているが、リーファさんが教授からの許可を取ったので問題ないだろう。
「乗バートンってどんな感じなんだろう……」
まず初めに歩いてきたのはイカロスだった。マルティさんが背中に乗っている。周りに審査員替わりの貴族たちが見ていた。
「ブルルル……、ブルルルル……」
(はぁ、はぁ、はぁ……滅茶苦茶見られてる……。俺、こんなに見られてる場所で歩くなんて無理なんだが……)
「イカロス、落ちついて。ゆっくり歩けばいいんだ。堂々と歩いて凛とした姿をって、うわ!」
イカロスは回りからの視線に耐えられず、疾走。多くの者は頭を横に振り、減点となる。
「ブルルルー」
(ふっ、口ほどにもないわね)
「さ、ファニー、ゆっくりと歩いてあなたの綺麗な姿を見せるのよ」
続いて歩いてきたのはファニーとリーファさんだ。ランナウェイのようなスマートな歩き姿に惚れ惚れする。体の曲線美、動きの滑らかさ、頭の揺れ具合まで芸術と言ってもいいくらいの完成度。皆、首を縦に振り、リーファさんが圧倒的に勝利した。
――綺麗に見える風に歩けばいいのか。レクーでもできないかな。
大敗したイカロスとマルティさんは次のバートン術で勝つため、本気で挑みにかかる。
私達はバートン術用のバートン場に移動した。生憎観客はおらず、リーファさんが持つ懐中時計でどちらが早いかを計測することになった。
こちらの先行はリーファさん達だ。そもそもリーファさん達が出発地点まで戻って来れるのかと言う不安があったが、やはり勝気な二名は初めから飛ばす。
「ブルルルルルルルルルゥウ!」
(イカロスに出来て、私に出来ないなんておかしいわ! ここでも勝って、イカロスを顎で使ってやるんだから!)
「ファニー、ちょっと焦りすぎ。そんなに序盤から突っ走ったら、後半で持たないよ!」
ファニーとリーファさんの指示がかみ合わず、初めはいい速度だったが、どんどん失墜していく。最後の直線に入るころにはドロドロになり、ゆっくりと歩くことしか出来なくなっていた。
「ブ、ブルル……。ブルルルル……」
(はぁ、はぁ、はぁ……。き、きっつぃ……。なにこれ……、バカな競技すぎるでしょ……)
「大丈夫、ファニー? だから、あんなに飛ばしちゃ駄目だって言ったのに」
ファニーが一六〇〇メートルを走った時間は三分三八秒。バートンにとっては遅い。まあ、障害物があるから仕方ないとはいえ、体力を一気に消耗しすぎたようだ。
私はファニーの体を洗って綺麗にする。
「ふぅ……。イカロス、自分の力を出せば勝てる。行くよ」
「ブルルルルルッツ!」
(おうよ! 俺のイカした姿をファニーに見せてやるぜ!)
イカロスとマルティさんは同じ速度を保ち、最後の最後で溜めていた脚を解放し、加速して先ほどよりも時間を縮めた。
――一日に二回も全力で走るなんて……。心臓が相当強いんだな。
イカロスの今回の時間は二分一八秒。ほぼ一分以上の差がついた。
「ふ、ふんっ、なかなかやるじゃない。でも、これで五分五分。最後の競技で決着を付けようじゃない!」
「望むところだ。ファニーの前にい続けてやるよ。一度も抜かさせねえから!」
ファニーとイカロスは頭をぶつけあってメンチ切っていた。ほんと、仲がいいのか悪いのか。
最後の競バートンは乗バートン場で行われることになった。一周一八〇〇メートルのコースがあり、一周と八分目まで走れば三〇〇〇メートルになる。貴族たちが観客席に移動し、多くの者が試合を見ていた。なぜこのようなことになったのか。私にもわからない。
貴族御用達の乗バートンと対するバートン術の戦いに惹かれて集まったのかもしれない。
でも、これだけ人が集まると、イカロスの様子がおかしくなった。尻尾が丸まり、足がすくんでいるように見える。マルティさんの方も過呼吸気味だ。
――まずいな。会場の空気に飲まれちゃってるよ。あのままじゃ、何もできずに負けそうだ。どうしたものか。魔法を使って足の速度を上げるのはドーピングと同じだから駄目でしょ、精神面の方だから、少しでも克服してくれないと試合にならない……。
「はぁ、はぁ、はぁ……。ここで勝たねえと……」
「はぁ、はぁ、はぁ……。ここで勝たないと……」
過呼吸気味のイカロスとマルティさんはやる気があるものの、全身ガチガチで試合どころではない。
――ここはアイドルホースの出番かな~。なんて、私はバートンじゃないし、アイドルくらいカッコいいバートンを用意しよう。ベスパ、レクーを連れてきて。イカロスの緊張を解きたい。
「いいのですか? 一方に肩入れしたら公平な戦いじゃなくなるのでは……」
――片っぽじゃなくてリーファさん達の方にも同じことをすればいいんだよ。だから、連れてきてくれる。えっと覆面をかぶせてきてくれるとありがたい。
「なるほど、了解しました」
ベスパはバートン場から出ていき、八分もしないうちに黒い仮面を付けたレクーがやって来た。
「きゃぁあああ~! 誰、誰~! あの方、顏を隠しててもカッコよさが滲み出ちゃってる!」
雌バートン達がレクーの姿を見ただけで飛び跳ね、尻尾を振っていた。眼元を仮面で隠しているのにすごい人気だ。フェロモンがむんむんなのかな。
「キララさん、どうかしたんですか?」
レクーは私の周りを一周回ってピタリと止まる。
「ちょっと、二組のバートン乗りに言っておきたいことがあってさ。並走してくれる」
「わかりました」
レクーはしゃがみ、私が背中に乗りやすいように配慮してくれた。私はレクーの背中に乗り、ベスパの持っていた手綱を受け取って二組がいるバートン場の芝に入る。
「はわわわわわ……、す、すごい……。か、カッコよすぎる……」
ファニーはイカロスと合った時と全く違う反応を見せた。尻尾がブンブンと振られ、鼻息が荒い。
「えっと、初めまして。レクティタと言います。レクーと気軽に呼んでください、綺麗なお嬢さん」
「きゃぁあああああああああああああ~!」
ファニーは暴れまわり、リーファさんを驚愕させていた。
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