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『ゴミ』スキルだと思われている『虫使い(蜂)』が結構使えるんですけど!<異世界冒険食べ物学園ダークファンタジー(仮)>  作者: コヨコヨ
王都の学園 ~学園の雰囲気を味わいに行っただけなのに編~

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用務員のおじさんのスキル

「では、前回の記録、一分五八秒を越えたら合格だ。リーファ、準備はいいか?」


「はい! いつでも大丈夫です!」


「よし。では、三秒後、笛を吹いたら走り出すように」


 教授は笛を手に持ち、呼吸を整える。


「三、二、一」


 教授は呟き、笛を咥えて息を吹きかける。甲高い音が鳴り、リーファさんは飛び出す。


 ――あんなに大きな音を出しても驚かないなんて、バートンの方もだいぶ落ち着いているんだな。バートンと人の信頼関係が強いおかげか。


 リーファさんは低い姿勢を保ち、移動している。

 脚だけで体を支えないと、バートンの体を制御できない。上手いジョッキー(競馬の騎手)は体がほぼ動かないのだ。その点から考えると、リーファさんは相当うまい。頭から腰までほぼ動いておらず固まっているように見える。


 走っている位置も悪くない。道の中央よりだ。あの位置を保ちながら走れたら相当いい記録が出る。通常の大きなバートンなら内側に入り込むのが難しそうだが、小回りが利きそうなバートンに乗っているので心配なさそうだ。


 半分を切ったころ、私の体内時計によると五八秒。少し遅いかもしれない。でも、足を溜めているのだと思う。四〇〇メートル走の選手だってずっと本気で走っている訳ではない。それと同じだ。


「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ……」


「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ……」


 リーファさんとバートンの呼吸はほぼ同じ。もう、一緒に走っているようだ。あそこまで心が通い合っていれば、扱いが上手くなるのも必然だ。


「はぁ、はぁ、はぁ……。ここ!」


 リーファさんは杖を使ってバートンのお尻を叩いた。最終コーナーを抜け出し、直線になったころ、溜めていた脚を解放し、全力を出させる。


「ブルルッ!」(しゃっ! 行くわよ!)


 姉さん(レクーの母親)みたいな性格なのか、走るのが好きな雌バートンだった。私がレクーに乗る練習をした時の光景を思い出す。


 脚が四本のはずなのに、脚の回転が早すぎて地面から浮かび上がっているように見えた。


 リーファさんが出発地点に戻ってくると、教授は懐中時計を見て微笑む。


「一分四八秒。うん、しっかりと早くなっているな。合格だ」


「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ……。やった。やった~!」


 リーファさんはバートンの首に抱き着き、頭を撫でる。おしとやかな性格をしているのかと思ったが、意外と体育会系の人なのかな。人は見かけによらないな。


 リーファさんが終わると、他の生徒たちも続々と走り始めた。だが、リーファさんが上手すぎたのか、他の生徒はまだうまく乗れていない。


「えっと、用務員のおじさん。バートンに乗る講義って二年次から行われるんですか?」


「いや、一年のころから行われる。一年のころはバートンに乗り、共に仲を深め合っていく。二年で初めて本気で走らせる。三年次で試合といった具合だ。一年のころにバートンを新たに選ぶ者もいれば、リーファのように家から連れてくる場合もある」


「三年間もバートンに乗る単位があるなんて……。そんなに学ぶことがあるんですか?」


「当たり前だ。日々の世話から、走行方法、信頼関係の構築など、さまざまある。まあ、一番大きいのは生き物と触れあって日々の鬱憤を晴らしてもらうというのがあるな」


「なるほど……、勉強漬けじゃ疲れちゃいますよね」


 私はバートンの動きを見て、やっぱりお爺ちゃんと姉さんはすごいんだなと改めて知った。私とレクーはお爺ちゃんと姉さんの組みによく勝てたな……。


 九〇分が過ぎ、四限目が終わった。


「ん~、五限目か。キララ君、何か見たい講義があるかね?」


 用務員のおじさんは私に質問してきた。


「そうですね……。三年生の講義が見たいですね」


「三年生か。わかった」


 用務員のおじさんは私を連れて大きな円形の建物に来た。見かけはコロッセオ……。加えてドーム。高さは五〇メートル近くあり、明らかに戦う場所だった。


 私と用務員のおじさんは鉄製の扉から建物の中に入ると、通路に出る。階段が目の前にあり、登っていくと観客席が広がっていた。野球観戦をするような場所だ。


 私は一番前の観客席に座り、広間の中で準備運動をしている少年少女たちを見る。

 雰囲気はジュニアアスリートのようで眼がギラギラだ……。年齢が一五歳ということもあり、高校に入る前の中学生たちを想像してもらったら早い。でも、ただの中学生ではなく戦いを本気で勝ちに行こうとしている強者の顔をしている。


「彼らが三年の中でも特に優秀な者達だ。八月にある武神祭の時、他の学園と行われる総合試合で恥じぬ戦いをするよう猛練習中だ。武神祭でいい結果を残せた者はあとあと大きな成果を得られると言われている」


「へぇ~、武神祭……。そんな祭があるんですね」


 ――文化祭みたいなものかな。まあ、どんな形であれ、他の学園と交流する機会はあるのか。


 三年生の人達は教授を待っているかと思ったら、普通に組手を始めた。


「あの、なんか普通に始めちゃってますけど、いいんですか?」


「まあ、構わんよ。ここに監視がおるからな」


 用務員のおじさんは自分に指を指す。


「えっと……、わけがわかりません」


「大人が見ておれば、組手を始めるくらい構わんて。何かあれば止めればいいだけじゃ」


 用務員のおじさんは杖を左手に持ち、クルクルと回す。用務員のおじさんがそんな権限を持っているのかな。というか、学生の人達も何でこんなおじさんに監視を任せているんだろうか。


「『一閃』」


 とある生徒が叫ぶと、スキル特有の光が放たれ、他の生徒に木剣を打ち込む。


「は、早……」


「剣聖の系列スキルだ。剣を鞘から抜くさい、斬撃を放てる」


「へ、へぇ……。強そう」


「『粉砕』」


 またしてもスキル特有の光が放たれ、相手の武器を粉々にした。


「あれは勇者の系列スキルだ。当たった物質を粉砕する」


「はは……、粉々……」


「『ヒールエリア』」


「『グラビティ』」


 連続してスキル特有の光が放たれ始めた。


 地面が緑色になり、女性の動きが活発になる。


 いっぽう、敵を地面にヘたらせている。


「聖女の系列スキルに賢者の系列スキルを持つ者も使い出したな」


「剣聖、勇者、聖女、賢者……。四強スキルの上位系列スキルを持った人、多くないですか?」


「多いと言ったら多いかもしれないな。やはり強力なスキルを持つ者は大成しやすい。逆に悪の道に進む者も多い。そのような事態にならないよう、しっかりとした教育機関で手ほどきをする。さすれば、優秀な生徒がドラグニティ魔法学園卒業者という学園の株も上がる」


「生徒側、学園側、民側にとって、全てにおいて良い面があるんですね……」


「そうなるな。ん~、ラッキー君のスキルは強いスキルなのかね?」


「わ、私のスキルは最弱と言ってもいいですよ……。使役スキルなので……」


「使役スキルと言っても使役する生き物の強さによって変わるぞ。Sランク冒険者の中にも使役スキルを持つ者がいる。彼女はフェニクスを使役しているがな」


「フェニクス……。燃え盛る不死鳥ですか?」


「不死でもなければ、通常は燃えてもおらんよ。ただただデカい猛禽類を想像すればいい。怒りが頂点に達すると、燃え盛るがな」


「猛禽類。わかりました。逆に、用務員のおじさんのスキルはいったいなんなんですか?」


「わしか? わしはな……」


 用務員のおじさんは私の頭に指をあてた。


「ふむふむ……。こりゃ、すごい。ものすごく良い杖を持っているのだな……」


 用務員のおじさんは魔力伝導率がほぼ一〇〇パーセントの杖を手に持ち、日に掲げていた。


「え? いったいいつ……」


「キララ様、この方のスキルはちょっと普通じゃありません」


 ベスパは苦笑いをしながら、翅を動かしていた。


 ――いったい何が起こったの?


「キララ様の周りの時が止まっていました」


 ベスパは信じられないと言った表情で呟く。


 ――は? 何言ってるの。


「私はキララ様から離れ、俯瞰していましたが、用務員のおじさんがキララ様の頭に指をあてた瞬間にスキルが発動しました。その後、キララ様は固まり、おじさんがキララ様の杖を抜いてスキルを解除しました。すると、キララ様が動き出したんです」


 ――私の時間が止まっていたって言うの。ちょ、ちょっと待って。そんなスキル……、こんな変態爺に渡しちゃ駄目でしょ! 駄女神!


「いや、怒るところ、そこですか……」


 私は用務員のおじさんから杖を奪い取り、杖ホルダーに指し込んで蓋をする。


「人の者は勝手に取らないでください。犯罪ですよ」


「はははっ、すまないすまない。杖を二本も持っているのが気になってな。で、わしのスキルはわかったかな?」


「推測するに、あなたのスキルは対象の時を止めている」


「うむ……、惜しいな。わしのスキルは時を止めているのではなく、遅くしていると言ったほうが正しい。自分に掛けられないのが残念でならないな」


 用務員のおじさんは自身にスキルを付与しようとするも、スキルは発動しなかった。


「時間を遅らせる……。十分強力なスキルですね。ただ、そんな強力なスキルを使ったら代償が大きすぎるんじゃないですか?」


「まあ、それ相応の魔力量が必要になる。数秒遅らせるだけでも、魔力が枯渇してしまうほどの消費が激しい」


「やっぱり。連発出来ないのが弱点ですね」


「はははっ、まあそうだな。複数人相手は面倒臭い」


 用務員のおじさんは大きな口を開けて笑う。いい人なのはわかるが、得体が知れなすぎて不気味だ。

最後までお読みいただき、ありがとうございます。


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