大人びた一四歳児
「ぼ、僕は小貴族なので大貴族のリーファさんとは食事できません。失礼します」
マルティさんはリーファさんに頭を下げて逃げるように去っていった。
「…………」
リーファさんはマルティさんを引き留めるわけでもなく、ただただ後ろ姿を見ていた。そのまま、振り返り、食堂に戻ってくる。
「あっ! だ、大丈夫ですか!」
リーファさんは私の姿を見て、心配してくれたのか駆け寄ってきた。面倒見がいい方なのかもしれない。
得体が知れない私にも手を差し伸ばす優しさ。カイリさんが天使と言っていたからそれ相応の態度ではあるようだ。
「か、顔にソラルムのソースとエッグルが……べっちゃりと……。でも、服の方は問題なさそうですね。さっきの男達が放った魔法の影響を受けちゃったのかしら。すぐに綺麗にしてあげますからね」
リーファさんは杖を取り出し『ウォーター』で顔を洗って『ウィンド』で乾かしてくれた。
「ぷはっ……。ありがとうございます。助かりました」
私は眼を開けてリーファさんを肉眼で見る。この時には視覚共有が外れており、自分の眼に戻っていた。
「え……、か、可愛い……」
リーファさんの瞳は髪色と同じで黄色っぽい。顔立ちはもちろん良いの一言に尽きる。近づくとわかる花の香り。香水でも付けているのだろうか。肌は白く艶々で綺麗すぎる。
「か、可愛いだなんてそんな……。あ、あなたも美しいですよ」
リーファさんは私の一言で照れてしまい、顔が熱っている。可愛いと言われ慣れていると思ったが、案外初心なのかも……。
「えっと初めましてラッキーと言います。今日はドラグニティ魔法学園に見学しに来た者です。よろしくお願いします」
私は手を胸に置いて少し会釈しながら自己紹介した。
「は、初めまして。リーファ・クウォータと言います。ドラグニティ魔法学園二年の援護学科です。よろしくお願いします」
リーファさんは制服の黒っぽいスカートを摘まみ、少し持ち上げて会釈をした。
「クウォータ……。大貴族のクウォータ家の方でしたか。大変、失礼しました」
私は膝をつき、リーファさんの右手を取って甲にキスをする。
「そ、そんな。ここは学園の中ですし、階級など気にしなくてもいいのですよ」
「私はまだ入学している身ではありませんから、そのような失敬は出来ません」
私はカイリさんの妹さんになるべく悪い印象を持たれないように接する。なんせ、相手は大貴族だ。潰せと言えば家がぺっしゃんこになりそうなくらい格差が離れているのだから下手に出なければ……。
「えっとラッキーさんの性は……」
「えっと、私は貴族ではないので名乗る必要もありません。なんなら、名前の方も忘れてください」
――なんせ、私の名前はラッキーではないのだ。顔と名前を一致させられると困る。
「いえ。例え平民の方であったとしても一度名前を聞いたら忘れません。名前を忘れるなんて貴族の娘としてあるまじき失態です。あと、ラッキーさんはとても顏と名前が一致しますのでもう一生忘れることはないかと」
「あ、あんまり記憶されると困ると言いますか……」
私はリーファさんに名前と顔をしっかりと覚えられてしまった。大丈夫だろうか……。
「うむぅ……、やはりエッグルの料理がいいか、はたまたボアの肉にするか……」
用務員のおじさんは未だに悩んでいた。優柔不断すぎだろ……。
「ラッキーさん、せっかくですから一緒にお食事をしましょう。その方が楽しいですし、台無しになってしまった料理は私の品を分けて差し上げます」
リーファさんは私の手を取り、人が集まっているテーブルに移動させた。
いやぁ、場違いにもほどがあるよ。あまりにも貴族の方達が多すぎてと言うかほぼ全員が貴族らしく、背後にメイドさんがついている。ただ、リーファさんの背後には誰もいなかった。
――大貴族なんだから一番危ないんじゃ……。なのに、メイドや執事がいないなんて。自信があるのかな。
「ささ、どうぞどうぞ」
リーファさんは椅子を置き、私に座らせる。面倒見がいいお姉さんのような立ち回りだ。食べていた料理は一番高い品で、何かの肉だった。ナイフとフォークで半分に切り分け、綺麗な皿に盛り、パンと共に私の前に置く。
「食べ掛けで申し訳ありませんが、よかったらどうぞ。もし、お腹が空いているのでしたら、私が新しい品を買ってきますよ」
「お、おかまいなく。私はパンさえもらえれば十分ですから」
私は白パンを手に取り、モグモグと食べる。――いや、白パン、うっま。
「そうですか……。なら、皆さんで楽しくお食事を再開しましょう。あ、皆さんに紹介しますね。この方はラッキーさんと言って今日はドラグニティ魔法学園を見学しているそうです。仲良くしてあげてくださいね」
リーファさんは両手を合わせ、満面の笑みで周りの者に伝える。あまりにもしっかり者すぎて逆に怖い。大人の雰囲気が若干一四歳で漂っている。高校生……、なんなら大学生くらいに感じる。まあ、こっちの世界では一五歳から成人って言うし、これが普通なのかな? いや、そんな訳ない。
「ラッキーさんはどこからいらしたの?」
とある生徒から質問された。
「えっと……王都から南の方に行ってさらに南東の方に進んだ場所から来ました。土地と村に名前がないので何といったらいいかわかりません。でも、遠くから来たというのは確かです」
私が田舎者だと知ると皆ざわつく。どうも、他国の貴族か何かだと思われていたようだ。
「えっと……、失礼かもしれないけど、ラッキーさんって男性? 女性? どっちなの」
「わ、私は男ですよ。なので、美女の皆さんに囲まれてとてもとても緊張しています。これほど麗しい花君達に囲まれた経験などありませんから……」
――き、気持ち悪い発言をしてしまった。でも、皆女性なんだからお姫様扱いされた方が喜ぶはず。
「きゃぁ~! も、もぅ、ラッキーさん、美女だなんて、そんなそんな~!」
貴族の少女たちは顔を赤らめ、声色を甘くして話す。
――あれ? 思ったよりも反応がいい。キザっぽい方が人気なのか。
私は隣の席を見ると、リーファさんが苦笑いをしていた。
「えっと、リーファさん。どうかしましたか?」
「あ、いえ……、すみません。私のお兄様が言いそうな言葉だなと思ってしまって……」
――確かに。カイリさんなら言いそう。そんで、ここにいる女子達を皆メロメロにしちゃうんだろうな。気色悪い。花食い虫かよ。
「不快にさせてしまったのなら謝ります。申し訳ありません」
「いえ、不快と言う訳じゃなくてお兄様は今頃どうしているかなと考えてしまっただけですから」
リーファさんは考え込むように視線を下に向け、苦笑いを渡しに見せてくる。
「リーファさんのお兄さんはどのような方なんですか?」
「えぇ……。そ、そうですね……」
「リーファ様のお兄様はもう、超絶カッコよくて強くて最高なんです!」
とある女子生徒がオタク口調で話す。まあいわゆる早口だ。
「へ、へえ……」
「ドラグニティ魔法学園を次席で卒業され、正教会や王城からの誘いを断り、クウォータ家の当主となるために冒険者として日々や精進されているのですよ!」
「ぼ、冒険者……」
「ルークス王国に五組ほどしかいないSランク冒険者パーティーの一つに組みし、フロックさんと言う相方他と共に国のために戦っているのです! カイリ様を見た者は皆メロメロになり、近づいて行ってしまう、まさに花のようなお方ですわ……」
「はぁ~、カイリ様……」
女子生徒は目を蕩けさせ、完全に上の空になっていた。
「は、はは……、ま、まぁ……。大体あっていると思います、面側は……」
リーファさんはあまりにも恥ずかしそうに呟いた。まあ、自分の兄が有名人だからかな……。いや、違うな。本当の彼を知らない者達を見て呆れている表情だ。
「カイリさんと言う名前なんですね。聞いた覚えがあります。田舎の場所でも名が轟いているのですから、さぞ有名な冒険者さんなのですね」
私は知らない振りをしてリーファさんに接する。
「Sランク冒険者になることはとても名誉なことなんですが、私は仕事が危険になってしまうと思い、心配で心配で……。お兄様は少し抜けているところがありますから、フロックさんに毎回お世話になってしまって申し訳ないなと……」
――確かに、カイリさんにもどこか抜けている部分があるよな。フロックさんが優秀だと言いうことをリーファさんも知っているんだ。そりゃそうか。カイリさんの妹さんだし、フロックさんの過去もいっぱい知っているはず。話を聞きたいけど、聞いたら、絶対に怪しまれる。
私は聞きたい気持ちをぐっと堪え、パンと水を飲み込む。
話を聞いていくとカイリさん人気は学園を卒業した後も続いており、ファンクラブなる、カイリさん愛好会があるようだ。リーファさんはもちろん入会していない。恥ずかしすぎるそうだ。
「ううむ……。白パンか黒パンか……。パンパン……ほほぅ」
用務員のおじさんは未だに昼食を決めあぐねていた。ここまで来たら病気なのではと疑う。
だが、翌々見ていたら、調理場で働いている女性の胸や尻を舐めるようにガン見していた。
――ただのエロ爺じゃねえか!
私は大声で叫びそうになったが、いかんいかんと冷静になる。本当に悩んでいるだけかもしれないじゃないか。
私は貴族の方達と交流し、色々訊いた。普通に人当たりがいい方達ばかりだ。と言うのも、人当たりが悪いのは男子の方で、女子は立場上へりくだる場合が多く皆優しい方が多い。
まあ、近くにリーファさんがいるし、会わせないと、と心の奥底で呟いている子も中にはいるだろう。なんせ、女子の集まりなんて所詮浮かないようにするためのつじつま合わせみたいなもので、裏でコソコソ話をして気持ちよくなろうとしている場合が多い。なので、信用しきるのも危険だ。
「あ、いけませんわ! もう、こんな時間!」
女子生徒はメイドさんから懐中時計を見せてもらい、椅子から立ち上がった。すると昼休憩の終わりを告げる鐘が丁度鳴り、皆、慌てて講義に向かう。
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