環境にいいモノづくり
「うむ。どれどれ、見せてもらおうか」
マルチスさんは左手を差し出してくる。私はその手に印を置いた。
「な、なな……。なんじゃこりゃあ!」
マルチスさんは度肝を抜かれたような声を出し、ひっくり返りそうになっていたので、私が椅子を押し、ひっくりかえるのを防ぐ。
「ど、どうしたんだよ、親父。そんなに驚く印なのか?」
ケイオスさんはどんな印なのか早く見たいようで、立ち上がってマルチスさんの元に向かう。
「こ、これはいったいどうなっているんだ……」
マルチスさんは傷見ルーペを右眼に付けて印を舐めるように見ていた。
「ら、ラッキー、また何をしたんだい……」
ルドラさんは苦笑いをしているが、眼が笑っておらず、額に静脈が浮かぶ。
「わ、私はもっと精巧な印を作れば、模造できないと思って……」
「確かにこの作りを人の手で模造するのは不可能だ……。どう考えても出来やしない。だが、ラッキーは印をどうやって作ったんだ?」
マルチスさんは目を細め、訊いてきた。
「えっと、手先が物凄~く器用な友達がせっせと作ってくれました。人ではないんですけど、すごい技術ですよね~」
「こんな芸当が出来るなんていったいどんな友達なんだ……。是非とも合わせてほしいものだな。こんな素晴らしい技術を持っていたら王都でも十分有名になれる。この品と同じ要領でブローチでも作れるのか?」
マルチスさんの食いつきはすごかった。肉を見つけたハイエナの表情をしており、きっとにおいで金が稼げるとわかるのだろう。
「ま、まあ……、頼めば。でも今はお金儲けの話合いじゃありません。どうやって敵からマドロフ商会を守るかと言う路線から離れないでください」
「そ、そうだったな。すまない。とりあえず、ケイオスも見てみろ」
マルチスさんはケイオスさんに印を渡す。
「うわぁ……、こりゃやっべえな……。何がどうなっているのかさっぱりわからない」
ケイオスさんは苦笑いをしながら、奥さんのテーゼルさんに印を渡す。
「あら……、御父様の顔がはっきりとわかるほどの彫刻……。この奥行き感……。とんでもない印ですわね……」
テーゼルさんも舐めまわすように見て驚きを隠せていない。最後にルドラさんのもとに印が渡った。するとルドラさんは印を壊すほどの力で握り締める。そのままテーブルに叩きつけ、テーブルを破壊した。私は思わず、眼を丸くしてしまう。
ルドラさんってあんなに力が強かったっけ? と頭の中に疑問符が浮かび上がっていた。
「ルドラさん、いったい何を……」
「ここまでしても罅一つ入っていない……。この素材は本当に木材なのか?」
ルドラさんは印の強度を測っていたようだ。
――ベスパ、あの印は木材なの?
「ええ。木材ですよ。ただ、キララ様の魔力を大量に流した後の木材なので、耐久力は鋼並です。何なら、もっと硬いかもしれません」
ベスパは腰に手を当て、自信満々に言う。
――また、私の魔力を勝手に使って……。まあいいんだけどさ。
「木材だそうです。ただ、魔力が大量に含まれているそうで、ガッチガチになっていると言っています」
「なるほど……。壊そうとしても壊せない印と言う訳ですか」
「ルドラ様、服に木くずがついてしまっています。料理にも埃が……。『フロウ』」
クレアさんはルドラさんのもとに向かい、腰に付けていた杖ホルダーから魔法の杖を取り出してゴミを浮かせる。
「ありがとう、クレア。でも、テーブルが割れて危ないから、あとは私達がやるよ」
「そうですか。なら、ルドラ様。お食事、私と一緒に分け合って食べませんか?」
クレアさんはルドラさんとイチャイチャしたいようだ。もう、瞳が少々エロティックなんですもん。
「わ、わかった。じゃあ、一緒に食べよう」
ルドラさんはクレアさんの席に移動し、二人で食べさせあっていた。あ~んをしあうなんてどこのバカップルだよと言いたかったが、すでに夫婦なので言えなかった。
――にしても超高級そうな長テーブルを壊してもよかったんですかね。なんかもったいなすぎる……。ここの一家、汚れたら新しい品を買えばいいかって言う思考が強すぎて何も動じてないよ。
私はルドラさんがぶっ壊した位置に向かう。木材の質を調べてみようと思い、ベスパにお願いした。
――ベスパ、この木材の質を調べて。もし質がよかったらマドロフ商会の印の材料にしよう。
「了解しました」
ベスパは木材の断面に移動する。
「では、調べさせてもらいます。はがががががががががが」
ベスパは木材を勢いよく齧り始めた。もう馬鹿な子共としか言いようがない姿で、私は少し引く。
「もぐもぐ、くちゃくちゃ…………。ん~、ん~」
ベスパは木材を口の中に含み、よく咀嚼して両手を組みながら考えこんでいる。
数回咀嚼した後、口からどろどろの木材を取り出し、手で練り込んでいた。
もう、気持ち悪い。と言うか、お行儀が悪い。ベスパが口から取り出した木材は粘土のようになっており、とても粘りがあった。両手で伸ばしたり捏ねたり、切り離したりして検討している。
その後、ベスパは木材の上にいるネアちゃんにどろどろ木材を渡す。ネアちゃんは六本の脚で眼にも止まらぬ速さで何かを作っていく。
ネアちゃんの手が止まると花柄のブローチが超精巧に作られていた。大きさは足の小指の爪程度。あまりにも小さいのに花弁の一枚一枚、花粉、雄蕊雌蕊などが本物の花かと思うほどで、マドロフ家の皆さんに見せるわけにはいかないと優にわかる一品に仕上がっていた。
「ん~。いい木材ですね。これならもっといい印が作れそうです」
ベスパは出来上がった花を両手で持ち、見る。
「はい、先ほどの木材よりも造形しやすかったです。長い間大地と触れあっていたおかげで魔力の流れ具合も抜群ですし、このテーブルを使うのはありですね」
ネアちゃんもベスパと同様にいい素材だと答える。
――じゃあ、この壊れたテーブルを使って印を必要な数作ろう。
「えっと、マルチスさん。この壊れたテーブルを使って印を作ってもいいですか?」
「なんと……。壊れた品を別の品に作り替えるというのか……」
「その方が環境に優しいですし、壊れた品をただ破棄するのはもったいないじゃないですか。今の世界はすごく綺麗かもしれませんけど、このまま行ったらどうなるかわかりません。今の内から、世界に優しい物づくりをして次の世代にこの綺麗な土地を残しましょう」
「はは……。ラッキーはあまりにも常識はずれな考えをしているのだな……」
――まあ、温暖化現象なんて言っても確実に理解してもらえない。なんせ、地球でも温暖化現象が騒がれ出したのは西暦二〇〇〇年代ごろだからね。その頃までほんと環境のことなんて考えてない政策だったよ。
私はこの綺麗な世界が油と化学物質、その他諸々の人工物で汚れていく姿を見たくなかった。だからこそ、なるべく環境に優しい物づくりを目指している。なんか教育番組っぽい? そりゃあ、私はもと教育番組のレギュラーだったから仕方ないよね。
「理解してもらわなくても結構です。ただ、ここまで良い木材をただ捨ててしまうのは少しでももったいないなと思っただけです」
「まあ、ラッキーのしたいようにしてもらって構わんよ」
私はマルチスさんからの許しを貰った。
「ありがとうございます。では、ルドラさん、何個の印を作ればいいですか?」
「そ、そうだな……。とりあえず、五個お願いするよ。私と父、母、祖父、弟の分だ」
「わかりました。では、五人分作りますね」
――ベスパ、さっきはマルチスさんの顔だったけど、今回は全部違う顔で、証を持つ本人にしてくれる。弟さんの分は後で作ろう。
「了解しました。五名それぞれの顔を印に彫り込みます。確かにそうすれば、本人の印だとわかりますもんね」
ベスパは思考をフル回転させ、印をどのように扱えばいいのかと言う部分まで考慮したらしく、証であればいいという発想から、マルチスさんには歩くために必要な長い杖の持ち手の頭に印が彫り込まれている品、ケイオスさんにはネックレスの飾りが印になっている品。テーゼルさんには指輪の装飾が印になっている品、ルドラさんには魔法杖の持ち手の頭が印になっている品、の四点を作りやがった。
「言葉が出ない……。いったい何者なんだね……」
マルチスさんは質の良すぎる杖を手に取り、苦笑いをしながら脱帽していた。毛はしっかりと生えており、白髪だが若々しい。
「いや……、何者とかそう言う段階じゃないだろ……」
ケイオスさんは首にネックレスを付け、家紋(車輪)の奥に見える自身の顔を見て苦笑いしている。
「あら~、私の顔がこんな美しく彫刻されているなんて~、もう、いくらお支払いすればいいのかしら~」
テーゼルさんは指に印を嵌め、車輪の奥に見える自分の顔を凝視し、惚れ惚れしていた。
「…………はは」
ルドラさんは魔力伝導率(八〇パーセント)が高い杖を貰い、笑っている。もう、飽きれ笑いだ。
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