『聖者の騎士』
「どうしてこんなものが…とりあえずギルドに行かなければ。丁度患者さんがいなくなった時間帯でよかった…」
リーズは入り口から外に出た。
「君も瘴気を吸っているだろ」
厩舎で疲れ切っているレクーに魔法を掛ける。
「よし、これでいい。まだ魔法で何とか出来ると良いんだが…」
リーズはバートン車を道で拾いギルドへと急ぐ。
既に日が落ち、暗夜を照らす街灯が光の筋を発しながら輝いていた。
リーズはギルドへと到着すると、料金を多めに払いバートン車を急いで降りた。
無我夢中で走り、雰囲気など考えずに勢いよくギルドの扉を開けた。
「おお!リーズじゃないか、久しぶりだな。どうしたんだ…こんな時間に?」
そこにはガタイの良い強面のおじさんと数名の若い冒険者らしきグループが酒を飲んでいる。
リーズはカウンター席に駆け寄り、強面の前に立つ。
「はぁはぁはぁ…すまない、だが急用なんだ。すぐにある場所に聖職者と冒険者を送ってもらいたい!」
「おいおい、いきなり何言ってるんだよ。もう日が大分落ちてるだろ、明日にしてくれ」
羽虫を払うように、強面はリーズを振り払い奥の方へ向かおうとする。
リーズは瘴気の入った牛乳パックをカウンターに出し、叫んだ。
「明日じゃ遅いかもしれないんだ!今既に大変なことが起こっている!」
「おい!なんてもんをカウンターの上に出してんだ!」
「心配しなくてもいい、このパック上は魔法で覆っている」
「いや…そう言う問題じゃないだろ。これ…瘴気だよな…しかもこんなどす黒いもん…初めて見たぞ…」
強面の表情は、更に彫りが深くなり暗明がハッキリと分かれ怖い顏が強調される。
「ああ、私も初めて見た。この瘴気はネ―ド村で発生しているらしい。このままでは、ネ―ド村の村人が全滅するぞ…」
「だが…今から瘴気担当の者を呼んだとしても、時間がかかるぞ…」
「そうかもしれないが、今動くのと後から動くのとでは今動いたほうが早くなるだろうが!」
「わ、分かった。すぐ手配する。トラー!聖職者ギルトと瘴気専門の冒険家に連絡を頼む!」
「はいにゃ~!」
強面と受付嬢である猫獣人はギルドの裏へと急いで掛けていった。
「はぁ…」
リーズは一息つき、深く椅子に腰かける。
「あ…あの…もしかして、リーズさんですか?」
既に飲んでいた若い冒険者がリーズへと話しかけてきた。
装備からしてまだ新米だろう…。
使いやすそうな剣と左手には小さ目の盾。
髪は短めにしており、周囲が良く見えるような状態にしてある。
「え…あ、はい。そうですがどうかしましたか?」
「やっぱりリーズさんですよね! Aランクパーティー『聖者の騎士』に所属していた元有名な『ヒーラー』リーズ・カバリーさんに、こんなところで会えるなんて!僕たち最近学園を卒業して冒険者になったばかりなんです!何かアドバイスを貰えませんか!僕たちもいずれAランクパーティーいや、Sランク冒険者になりたいんです!」
若い冒険者はリーズへと詰め寄り、顔と顔がくっついてしまいそうだ。
「私なんかがアドバイスなんて大層なことはできませんよ…」
リーズは落ちつかせ、近くの椅子へと座らせる。
「何言っているんですか!僕は『聖者の騎士』を見て冒険者になろうと思ったんです!『聖者の騎士』を支えていたのだってリーズさんじゃないですか!リーダーさんの冒険記事を僕読みました。『リーズが脱退したのは大変悲しい事であります。彼にはとても助けられていましたから。しかし、我々には彼を止めることはできません。彼が自分でやりたいことを選んだのです。私たちは彼の意見を尊重します』って、こんなこと普通、信頼してなかったら言えませんよ!」
「はは…まさかこんな所で熱狂的なファンにあってしまうなんて…。では、恐縮ながら1つアドバイスをいたします」
「はい!お願いします!」
リーズはカウンターに置かれていた一杯の水を少し口に含んだ後…答えた。
「死なないこと」
「へ…『死なないこと』それがアドバイスですか?」
「はい、そうです。『死なないこと』何事にも注意を払い、自分の命を最優先に考える。危険なことはできるだけ避け、確実な方を選ぶ。それが『死なないこと』です」
「え…でもそれじゃぁ…」
「はい、きっと死なないように冒険者を続けていても、よくてBランク止まりでしょう。しかし、『死なないこと』が出来れば、どこに行っても重宝される冒険者になれます。私はランクを上げるよりもこの『死なないこと』を忠実にできる冒険者の方が凄いと思っています。しかし…これを容易く行いながら、とんでもない力を持った者たちが『Sランク冒険者』と呼ばれるのです」
「そ…そうですか」
若い冒険者は露骨に落ち込んでしまった。
「酷なことかもしれませんが…。しかし、今諦めるのは早いですよ。冒険者となったものの多くが不意に突然亡くなります。いつ死ぬか分かりません…。ですが…生きていれば、いつでもやり直すことが出来るんです。失敗してやり直す…やり直している途中に失敗して…またやり直す。これの繰り返しで『聖者の騎士』は『Aランクパーティー』にまで上り詰めました。決して『聖者の騎士』1人1人のスキルが強いわけではありませんでしたが、それぞれを高め合うよう努力してきた結果が今の彼らだと私は思っています。なので、努力は決して怠らないでください」
「は…はい!ありがとうございました!」
若い冒険者はリーズへ深くお辞儀をした後、その場を立ち去ろうとしたが…
「待ってください…1杯奢りますよ。冒険者になったお祝いに」
「リーズさん…はい!いただきます!!」
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