ライト式嘘発見法
「王から中級へと昇格するよう言われていますが、位が上がれば平民上がりの一家と言うことで不評を買います。正教会との関りも増えるでしょう。そうなれば祖父との因縁がある正教会がマドロフ商会を攻撃してくるのもわかりますね」
ルドラさんは腕を組みながら苦笑いを浮かべた。
「ほんと、面倒な輩ですね……。えっと、めぼしは付いているんですか?」
「それが……、私は商会の人間とほぼ会っていないのでわからないというのが現状です。父と母が商会の人間を管理しているので、何とも言えません」
「ん~。マドロフ商会の中に正教会の手が掛かった者がいる。その者を捕まえたところで正教会の攻撃が止まるんですか?」
「止まらないでしょうね。でも、私達も精一杯の抵抗をするつもりですよ。一家をみすみす潰すわけにはいきません。クレアを危険にさらすわけにもいかないですし、後手に回る羽目になると思いますが、正教会の機嫌を取りながら鎮静化していく予定です」
「ルドラさんの腕に見せどころですね。最悪、王様に力を借りることはできないんですか?」
「王の後ろ盾があるのはとても大きいです。ただ、王は国の代表であり、絶対的な権限を持つ者ではありません。まあ、正教会と同じほどの力を持ってはいます。でも五大老なんかと正教会が組まれると、王でも覆すのは難しいですね」
「なるほど。なかなか多くの権力が絡み合ってルークス王国が成り立っているんですね。最悪、ルドラさん達のお金を雇っている方達にばらまいて破産したあとに、一からやり直すという手もあります。なんせ、お爺さんの代から始めて三代でここまで大きな商会になったんですから、その手腕があるのは確かなんです。死ぬこと以外かすり傷なんて言葉もありますし。私はマドロフ家の味方ですから、正々堂々と戦ってください」
「キララさん……。ありがとうございます……」
ルドラさんは涙ぐみながら頭を再度下げた。
「でも、正々堂々と戦うと言っても具体的にどう戦えばいいのでしょう……」
「相手の攻撃を躱しまくればいいんです。どれだけ酷い攻撃をしてきても全て知らぬ顔で躱し、敵が大きな隙を見せた時に叩く。そう思わせておけば、相手も嫌がらせ程度にしか攻撃できません。その間に、大貴族にでもなれば、逆に手を出しづらくなるんじゃないですかね?」
「なるほど……。攻撃を躱しながら相手の懐に飛び込んでいくわけですか……」
「まあ、一歩間違えれば、一家消滅でしょうけど、王の後ろ盾と地面に這いつくばってもぶり返せるだけの力量がマドロフ家にあると思います。なら戦えなくないはずです」
「そうですね。家が消滅しようとも、命さえ残っていればやり直せます。こうなったら、正教会の嫌がらせを躱す方法を随時考えないといけませんね。加えて中級貴族への昇格。ただ、大貴族への昇格は中級になるのとは比較にならないくらい難しいんです。でも、やれるだけやってみます」
ルドラさんはやる気に満ち溢れていた。昨晩のクレアさんとチョメチョメしたのが効いているのかもしれない。
こうなると、クレアさんがルドラさんの心を制御しないと彼の心が重圧に押し潰される日が来るかもな。
「じゃあ、ルドラさん。私は確かめたいことがあるので、一度失礼します」
「わかりました。キララさん、私にも出来ることがあれば何でも言ってください。マドロフ家総出で手を貸します」
ルドラさんは立ち上がり、私に握手を求めて来た。
「はい。もちろんです」
私はルドラさんと手を合わせ、試しに聞いてみる。
「ルドラさん、昨晩は楽しかったですか? はいかいいえで答えてください」
「い、いいえ……」
手の平から魔力の乱れを感じ、ルドラさんが嘘をついているとわかった。
――ライト式嘘発見法は広く知られていないのかな、簡単に握手してくれたよ。まあ、あんな便利な魔道具があれば危険を冒してまで触ろうとしないか。
「ありがとうございました。えっと聞きたいんですけど、その魔道具はどういった効果があるんですか?」
私はルドラさんから手を放し、水晶体を指さす。
「これは、肌から滲み出ている魔力の乱れを感知する魔道具です。人は嘘を着くと汗を掻き、魔力が乱れると言われています。その性質を使った魔道具です」
――ああ、魔力が乱れると知られてはいるのか。でも、体の表面しか判断しないなんて少し制度が心配だな。もし手に魔力を纏わせたまま話をしたらどうなるのだろうか。
「なるほど……。じゃあルドラさん、試したいので私に男か女かと質問してください」
「わ、わかりました」
私はまあまあ得意な魔力操作で右手の表面に魔力を纏わせる。すでに体から放出された魔力なので、乱れたりはしない。
「キララさんは男性ですか?」
「いいえ」
私は本当のことを言った。だが、魔道具は反応しない。
「そ、そんな……。キララさん、本当に男だったんですか!」
「ルドラさんはバカなんですか? ちょっと細工しただけですよ。手の平に魔力を纏わせただけです。これで、今までの時間が無駄になりましたね」
「は、はは……。完璧に書き上げたと思った書類のあら捜しをされている気分になります……」
ルドラさんは苦笑いを浮かべた。
「でも、この魔道具に信頼性は失われました。ここで気づけて良かったですね。次からは別の方法で試した方がいいです」
「別の方法……」
「ま、人に教えたら心が廃れそうなので、いいたくないんですけど、言わざるを得ません。ルドラさん、人が嘘を着いたら魔力が乱れるのはわかっているんですよね」
「ええ。学会でそう言われています」
「この魔道具は乱れた肌の魔力しか感知してくれない。なら、内部の魔力も感知しなければ意味がありません」
「ですが、そんな方法、どうすれば……」
「握手をして体を触れさせながら質問すれば、体内の乱れを感知できます」
「え……。手を握って感知……。えっと、私達は魔道具ではなく人間ですよ。そんな行為、無理に決まっているじゃないですか」
「…………え?」
私は耳を疑った。
「ん? 出来るわけないじゃないですか」
「いや、二回も言わなくて結構です。え、出来ないんですか?」
私は逆の反応で驚いてしまった。誰でもできると思っていたが、出来ないと返されるとは。
「キララさんは人の血流の乱れを、手を触っただけで感じ取れますか?」
「あぁ~、血流は無理ですね。でも魔力なら……」
「魔力も同じですよ。なんなら血流なら血管の位置で何となく流れているかどうかがわかります。ですが、魔力はどこを流れているのか正確にわかっていないんです。体内のマナから発生した魔力は体を随時循環し、古くなったら汗や涙、尿などと共に排出される。と言うことくらいしか研究が進んでいません。なので手を触って魔力の乱れを感じ取るなんて荒業は魔力を知覚できるライト君くらいにしか出来ません……よ。え?」
ルドラさんは私の行為に気づき、眼を丸くした。そもそも、ライトと言う名前が出てきている時点で私が想像されるのも無理ないだろう。
「えっと……。なんで、皆さん手を合わせて嘘を見抜かないのかな~って思っていたんですけど、単純に難しいからなんですね。なるほど……」
「さ、さっきの質問……。嘘かどうかを見抜いていたんですか……」
ルドラさんの表情が赤くなっていく。
「ま、まあ。ちょっとばかし、試しただけですよ。あはは~」
私は視線を背けながら笑った。
「な、なら。もっと試してください」
ルドラさんは私に手を差し出してきた。私は手を握り、ルドラさんに質問する。
「クレアさんが好きですか?」
「い、いいえ……」
ルドラさんの体内の魔力が乱れる。
「嘘ですね」
「せ、正解です」
「まあ、はいかいいえの二択なので、五割の確率で当たります。じゃあ、連続で八回やってみましょうか」
私はルドラさんに八回質問した。
「ぜ、全問正解……。五割が八回……、〇.〇〇四になりますから、一〇〇〇回に四回しか起こらない」
「あ~、一〇〇〇回に四回も起こるのなら、結構起こりえますね。じゃあ、あと一〇回して一八回連続で正解しましょうか」
私は一〇回連続で正解し、一八回を終わらせた。
「こ、これは……。信じざるを得ませんね……」
「ふぅ~。何とか成功しましたね。では、私はもう一度この方法で全員と話してきます」
「よ、よろしくお願いします」
ルドラさんは私に頭を下げる。
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