ルドラさんに伝える
「キララさん、顔が怖いけど、どうしたの?」
ジリオン先輩は私の顔を見ながら言う。
「最悪の事態です……。このままだと、王都が危険な場所に変わってしまいます」
「最悪な事態って?」
「金が生る街になり、最後はかれはてます。残るのは壊れた王都のみです」
「え、ええ……。な、何を言ってるの。そんな訳ないでしょ」
「可能性は多いにあります。敵の動きを少しでも止めないといけません」
「敵?」
「ジリオン先輩は聞かなくても結構です。ただ、甘いお菓子を食べるときは十分に注意してください。一度燃やして大量の瘴気が出るかどうか確かめてから食べるようお願いします」
「キララさんは一体何者なの……。何をしようとしているの?」
「先ほども言いましたけど、私は学園を見学しに来ただけです。なので、気にしないでください」
私はジリオン先輩を巻き込まないよう、心の距離を取る。
――被害を出さないために必要なのは魔造ウトサが危険だと周囲に知らせたあと、大量の瘴気がお菓子から発生するという危険性を見せないといけない。でも、そんな大事にしたら、私の身が危険に陥る。マドロフ商会の力を借りるしかないよな……。
「私もそう思います。彼らの信頼度は今のところ高いです。加えて商人であるため、悪質な品を見分ける目が超えていると強く思わせることが可能になります。その点に関しても信頼度が上がるはずです。菓子職人や料理人が魔造ウトサの危険性を知れば被害は一気に減ると思われます」
ベスパは私の頭の中に話しかけて来た。
――そうだね。マドロフ商会と正教会の悪人を戦わせるわけじゃないけど、王都と商会を守るに殴り合わせるしかない。
私は手紙をすぐに書く。夜まで待つなんて時間がもったいない。運ばせる仕事をさせたら私のスキルは相当優秀だ。バートンよりも早く確実に届けてくれる。
――ルドラさんへ。午後一二時二八分現在にこの手紙を書いています。
私はフリジア魔術学園にいます。そこで魔造ウトサ入りのお菓子を発見しました。状況は酷くありません。でも魔造ウトサ入りのお菓子を売っていた菓子職人はウトサが悪質な品だと知らずに購入したもよう。
ただ、一番の問題は「マドロフ商会の商人が売ってきた」と言われた点です。正教会と繋がっているマドロフ商会の人間がどこかにいます。なので敵に悟られないよう内部情勢を調べてください。加えて菓子職人にウトサを売る時に悪質な品は燃やすと瘴気が出ると言って魔造ウトサを買わないよう自然に促してください。
今回の件から考えると、マドロフ商会は正教会に目を付けられているようです。慎重に行動し、敵の攻撃をかい潜りましょう。この手紙を読んだら燃やしてください。キララより。
私は長文で手紙を書き、ベスパに渡した。
――ベスパ、ルドラさんのもとにこの手紙を送って。
「了解しました!」
私が書いた手紙を持ったベスパは光のような速度で移動し、ルドラさんのもとに向かう。
「よし……。これで王都の崩壊を少しは止められたはず……」
「うわっ、や、やばい。もう一二時三〇分だ。キララさん、三限目が始まっちゃうよ。早く行こう!」
ジリオン先輩は私の手頸を持って走り出した。
「ちょ、ジリオン先輩。いきなり引っ張らないでください」
「ごめん。でも、キララさんが深刻な顔をしてたから……。今日はフリジア魔術学園の見学に来たんでしょ。なら、楽しまないと!」
ジリオン先輩は満面の笑みを私に向けてくる。もう、驚くほど美少年で嫉妬しそうだ。
「そうですね……。楽しみましょうか」
私は嘘をつく。現状を知ってしまったため、もう楽しめる心境じゃない。でも、楽しめるように努力をしなくては。
私が連れてこられたのは普通の教室で算数の勉強をした。内容は小学校六年生くらいかな。いきなり解けと言われたら困ってしまう問題ばかりだったが、勉強をしている私にとっては普通に解ける。まあ、大っぴらに頭がいいですよ感は出さず、途中まで行けるよってくらいで止める。
私が講義を受けていると、ベスパが戻って来た。
「キララ様、ルドラさんからの返事が届きました」
ベスパは長机の上に降り立ち、手紙を渡してくる。
――ありがとう。
私は律儀に封筒に入れられた手紙を取り出し、内容を確認する。ものすごく達筆な文字で私が送った手紙が小学校低学年の書いた文字だとすると、書道家の方が丁寧に書き連ねた文字と言うくらいの差があった。でも、所々文字が間違っており焦りが見受けられる。
「キララさん、手紙の方ありがとうございます。まさか手紙のような内容が水面下で起こっていたと知りませんでした。私の方ですぐに動きます。裏に正教会がいると思うと脚がすくみますが、すでに何度もはむかってきた相手です。潰される限度はわかっているつもりなので、安心してください。キララさんはこれ以上動かないようお願いします。あとは大人に任せてください。ルドラ・マドロフ。追憶、この手紙は読み終えたら自動で燃えます」
私が読み終わると、紙の裏に描かれている魔法陣が発動し、燃えた。ボロボロに崩れ落ち、塵になる。もう、シュレッターよりも確実に再生できない。
――ルドラさん、もう動き出してくれるんだ。やっぱり仕事が早い。鼬ごっこになる気もするけど、イタチが遊び合っている間は王都の中で被害が大きく広がったりしないはずだ。
「はぁ。よかった……」
「キララ様、安心するのはまだ早いですよ。少しでもぼろが出れば敵に気づかれてしまいます。ルドラさんが言う通り、キララ様はなるべく動かない方が先決です」
ベスパは翅を動かし、注意喚起をしてくる。
――わかってるよ。私もなるべく動かないようにする。正教会の動きが鈍いのはすでに裏で暗躍していたからなのか。こりゃあ、ますます動きにくくなったな。
私は羽ペンをクルクルと回しながら頭の中で考え事をしていた。案の定、教授から怒られてしまい、頭を何度も下げると周りから笑われた。どうやら、頭を何度も下げた行為が面白かったようだ。
三限目が終わり、一〇分の休憩を経て四限目が始まる。午後二時二〇分から始まった講義は言語学だった。
ジリオン先輩はプルウィウス語を専攻しており、ルークス語をプルウィウス語に翻訳すると言った内容で私でも少しは出来た。ただ、ビースト語ばかりを練習していたので、難しい問題が出ると解けなかった。
「はぁ……。はぁ……。はぁ……。五限九〇分授業きつい……。なんで、こんなにきついの。まだ五限目が始まってすらいないのに……」
「はは。まあ、慣れるまでは辛いよね。でも、慣れてくれば少しは緩和されるよ。じゃあ、最後の講義に行こう」
ジリオン先輩は私を体育館のような広い場所に連れて来た。どうやら五限目は実技のようだ。
「五限目は魔法実習場で魔法の練習。魔法学実習だよ」
「魔法学実習……。実際に行いながら練習する行為。なるほど」
私達がやってきた魔法実習場はフリジア魔術学園の中で魔法を使ってもいい場所らしい。すでに何人かの生徒が杖を使って魔法の練習をしている。
――皆、表情が硬いな。試験でもあるのかな?
「今日は魔法学実習でちょっとした試験があるから、皆、張りきってるみたいだね。キララさんは見学していていいよ」
「そ、そうですね。私は少し疲れたので壁際で見ていようと思います」
――学生達の実力を少しばかり拝見させてもらうとしましょうか。まあ、まだまだ学び始めて日の浅い一年生たちだから、すごい魔法をバンバン放つとかではないと願いたい。
私は魔法実習場の壁際に移動し、小山座りで五限目が始まるのを待つ。
すると、魔法実習場の入り口の扉が重く大きな鉄板が吹き飛ばされたかと思うほどの力で開く。私はちびりそうになり、股をすぼめる。
魔法実習場に入ってきたのは風紀委員長のポリシスさんだった。白い制服と言うか、軍服と言うか……、清潔感が溢れる姿が凛々しい。
「え~、今日の魔法学実習は教授が不在のため、フリジア魔術学園三年、ポリシス・カリサルが担当することになった。実習の内容は教授から話しを聞いているので心配しないでくれ。今日は魔力操作の軽い試験があると聞いている」
どうやらポリシスさんが教授の代わりをするらしい。教育実習の一環だろうか。でも、学園が認めているのだから、私が口出しするところではない。
「魔力操作は魔法や魔術を使うさいに必要不可欠な技法だ。今日は魔力を使って渦巻きを作ってもらう」
ポリシスさんは剣を抜き、先端から魔力を出し、渦潮のような形を作った。
「では、自信がある者からやってもらおうか」
ポリシスさんが剣を振ると渦潮は消え、魔力が散り散りになった。
「はい! はい! はい!」
ジリオン先輩は大きく手を上げてポリシスさんに訴える。
「じゃあ、威勢がいい君」
「はい! じゃあ、魔力操作をします」
ジリオン先輩はローブから杖を出し、集中し始めた。すると杖の先から魔力が出て、回転していく。少しずつだが渦巻きを作った。
「うん、合格だな。十分うまく出来ている」
「あ、ありがとうございます!」
ジリオン先輩は見事一発で合格を貰い、次の生徒に移っていった。どうも、皆、魔力操作が苦手なのか、上手く行かない子が多い。やはり魔法に触れるのが遅いと魔力操作が難しいのかもしれない。
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