リーズさんのもとへ急げ
「はぁはぁはぁ…」
――ようやく、街まで半分の所まで来た。
私は未だ止まることなく走り続けている。
地面がカラカラに乾燥し、レクーが走りやすい状態であったため体力の続くまで走り続けてきたのだ。
普通のバートンならば水分補給なしに、長い道を全速力で走るのは、どれほどの体力が有ったとしても尋常じゃなくキツイ事なのだが…。
しかし、レクーは普通のバートンではない。
この巨体にどれだけのエネルギーがあるのか…私にも測り知れない…。
だが今はこの体力に救われている節が大きいだろう。
「キララさん!レモネ下さい!」
「!…わ、分かった」
レクーのサイドバックに手を入れ、レモネを取り出し、レクーに食べさせる。
「このレモネ酸っぱいですが…元気が出ますね!まだ走れそうです」
「よし!あと半分頑張って行こう」
未だにレクーの足は止まることなく走り続ている。
――もうだいぶ日が傾いてきてた。このままだと夜になっちゃう。日が暮れるまでに街に着けたとしても…今日中に動いてもらえるかどうか。
「キララ様!ギルドか医療機関のどちらに向われるのですか?」
ベスパも私の後方にずっと一定の速度で飛び続けており、周りの警戒をしてくれていた。
「ギルドには、伝手が無いから…リーズさんのいる病院に行こうと思う」
「なるほど、リーズさんなら信用できますね」
結局私たちは日が暮れるギリギリの時間帯に街へ到着した。
「ちょっとお嬢ちゃん!そんなスピード出してたら危ないだろ。速度を落としなさい!」
門番をしている兵士のおじさんに止められてしまう。
しかし…止まっている時間など無い。
「ごめんなさん!私、今凄く急いでるの、安全に行きますから!」
「あ!ちょっと!」
私たちは門番のおじさんを一気に振り切ると、一直線にリーズさんの病院へと向かった。
周りには人が居ない、こんな時間帯のせいか、レクーが通りやすい一本道がそこに作られていたのだ。
――丁度人が居なかったのは不幸中の幸いだけど…。もう既に日暮れが近い、思ったより時間がかかっちゃった。
これでもノンストップで走り続けている…、実際レクーじゃなければ、もっと時間が掛かっていただろう。
リーズさんの病院に着くや否や、私はレクーから飛び降り、木の扉を勢い良く開ける。
『バン!』と
扉が破裂したかのような壁との衝突音を慣らしながら中に入ると…。
周りの患者さんや、看護師さんたちが、何事だと言った顔で驚きこちらを振り返る。
「あの!リーズさんはいませんか!聞きたいことがあるんです!」
――こっちは一刻を争っているんだ、今いる患者さんには悪いがここは譲ってもらおう。
「何だなんだ…!いきなりどうしたって言うんだ…」
診察室の方からリーズさんが看護師さんに連れられてやって来た…。
「て…!キララちゃんじゃないか、こんな時間にどうしたんだい?」
「リーズさんお願いです、少し見てもらいたいものがあって。もしかしたら多くの人の命に関わる物かもしれないんです!」
ここで大抵の大人は子供のいたずらやなんやらと言って追い返すのが普通だが…。
リーズさんはやはりできる大人だった。
「そうなのかい、なら話を聞こう。こっちの別室に来てくれ」
「あ、ありがとうございます」
私は別室に連れていかれ、ソファーに座らせられる。
その部屋は看護師さんたちの休憩スペースだろうか、ソファーと机が置かれただけの部屋に私は今いる。
大分良いソファーだ…一瞬で眠ってしまいそうになるくらいフカフカで気持ちがいい…。
私のベッドの何倍眠りやすいだろうか…。
「それで、見てもらいたい物って何だい?」
――は…危ない、寝そうだった。それに何も聞かずに、本題へ入ってくれるのはありがたい。
「これです…」
牛乳パックを机の上に出しリーズさんに見せる。
「何だいこれは…紙でできた入れ物かな」
「いえ、見てもらいたいのはこの中に入っている物です」
私は牛乳パックの口をゆっくりと中身がこぼれないように開けた。
「ん…これは!!!」
リーズさんはそれを見るや否や私の口を手で塞ぎ、魔法を掛ける。
「『アンチバチルス!!』」
「!!」
私は驚き、後ろにのけぞってしまった。
そのままのけぞり続け、終いにはソファーからひっくり返ってしまう。
『ドン!』
と強めに背中を床に打ち付けてしまった。
「痛たた…。な…何をするんですか!びっくりしちゃいましたよ」
リーズさんは私に魔法を掛けた後、自身にも同じ魔法を掛け牛乳パックに手を翳す。
「『アンチルーム』はぁ…これでいい」
「リーズさん、いったいどうしたんですか?いきなり…魔法なんか掛けて…」
「キララちゃん、いったいこれをどこで見つけてきたんだ…」
リーズさんの顔は先ほどとは打って変わって、険しい顔を浮かべていた。
「え…私が住んでいる村の山1個隣にあったネ―ド村です。ネ―ド村から山を登って川の水源辺りで見つけました…」
「キララちゃん、これは『瘴気』と言うんだ。しかも水に溶け込んでしまっているなんて…相当ひどい状態だな。そのネ―ド村は大丈夫なのかい?」
「いえ、…とてもひどい状態でした。このままだとみんな死んでしまいそうです。ですから、私が助けを呼びに来たんですよ…。このままじゃ山も動物たちも、その周りの森だって…きっと酷い影響を受けてしまいます」
「動物たちも死んでいるのかい!」
「はい、動物たちも腐っていました。このままだと病気まで広まっちゃうかもしれません…」
「なるほど…だからここに来たのか。よし!僕からギルドの方に伝えてくるよ。この『瘴気』の状態から見ると、相当ひどいからね。早くしないと手遅れになりかねない。キララちゃんは休んでいるといい、後は大人に任せるんだ」
瘴気を持ってリーズさんはその部屋を後にした。
「良かった…これで何とかなるはず…」
先ほどまでの疲れが一気に小さな体に押し寄せてくる。
私はソファーに寝転がり、少し仮眠することにした。
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