輝くお湯
「え、えっと……。服を脱ぐところを見られないといけないんですか?」
私は周りにいるメイドさんに訊く。
「ラッキーさんは女性と言うことなので、別に気にする必要はないと思いますが?」
「そ、そういう問題じゃない気が……」
とりあえず私は上着を脱いだ。黒い上着はメイドさんに取られすぐさま洗濯担当のもとに送られる。ズボンを脱ぐ。またしても奪われ、洗濯担当のもとに送られる。
私はカッターシャツを脱ぎ、内着のみとなった。周りにいるのが全員女性だとしても普通に恥ずかしい。何たって周りの人たちがほぼほぼ巨乳なのだ。
――やっぱりこの世界の巨乳率はおかしい。全員ホルスタインかよ。私だけ何で闘牛なんだ。
「やはり、華奢で綺麗な体……。素晴らしい……」
メイドさん達は内着姿の私を見て口々に言う。この姿が綺麗とか感覚がずれている気もするけどな。
「ぺったんこな胸に小さなお尻、細身ながらすらっと長い脚、小さくも細長い腕と指。加えて小顔に美しすぎる容姿……。まるで妖精のようだわ……」
――半分悪口みたいなんですけど……。まぁ、妖精みたいと言われて悪い気はしない。
「は、恥ずかしいのであまり見ないでください……」
「す、すみません!」
メイドさん達は口々に謝る。どうやら、ついつい凝視してしまっていたようだ。皆さんは深く頭を下げてくる。
私の履きすぎて少々汚い下着とキャミソールも取られ、私は結んでいる髪を解く。ブラウン色の髪が綺麗に靡き、頭を動かして絡まりを梳く。
「きゃぁ~! 可愛すぎる~!」
メイドさん達は可愛いものが好きなのか、頬を赤らめながら私の姿を見ていた。
「やはり何も着ていない姿が最も美しい……。これぞ究極の美……」
メイドさん達の眼が血走り、可愛いはずの女性たちが逆に怖い……。
「皆さん、落ちついてください。皆さんも十分可愛いじゃないですか。私なんて田舎者の芋娘ですよ。少し大人っぽいだけですって」
私の精神年齢は三〇歳を超え、おばさんの域に足している。相手のメイドさん方はまだまだ若い高校生か、高くても大学生程度。メイド長辺りは三○代くらいだと思う。可愛いものが大好きな年代が多いようだ。
「じゃあ、私はお風呂に入りますね」
私はお風呂場の扉を開け、中に入る。すでに隠す必要が無いので布は持っていない。解放感溢れる浴槽が私を待っていた。
木製の桶を持ってお湯を掬い、体に掛けて綺麗な花々が浮かぶお風呂に足先を入れる。温度は三八度適温だ。
「ふぅ……。気持ちいい……」
私は肺に空気を入れて体を浮かせる。頭を低い縁に乗せて雲の上に乗っているような感覚を味わう。
「ここまで広いと自分がお姫様にでもなった気分だよ~」
「キララ様はお姫様ではなく女王ですからね。最も上の存在ですよ」
ベスパはお湯に浮いている花に座り、優雅に漂っていた。姿と花の相性が良すぎて違和感が無い。
私が寝そうになると、ほぼ全裸なメイドさん達がやってきてお風呂の中に入ってくる。そのまま、私の体を揉み始め、あまりにも心地よかった。もう、全身按摩されてお風呂に入れるなんて最高過ぎないか……。
「では、ラッキーさん。髪の方を洗わせていただきます」
「は、はぁ~い」
すでに気持ちよくなりすぎていた私は、抵抗する気もなく、メイドさんに尽くされる。
メイドさんは私の髪を櫛で梳いた。余計なゴミを始めに取っておくのは有効だ。続いて木製の大きな桶にお湯を入れ、その中に髪を浸す。私の頭はメイドさんに持っていてもらっているので辛くはない。美容院で頭を洗われている感覚と同じだ。
「ラッキーさんの髪、すごい艶がありますね……。一本一本がすごい綺麗な膜につつまれているような……」
「はは……、まあ、水が無い時は魔法で洗うので髪に纏わりついてしまうんですよ」
「なるほど。今回は石鹸で洗っていきますがよろしいですか?」
「全然かまいません。もう、好きなようにやっちゃってください……」
私の意識は遠くに飛んで行きそうだ。今まで自分で行ってきた作業をメイドさん達が全てやってくれるなんて楽すぎる。こりゃあ、貴族の女性がグダグダになるわけだ。
しっかりと濡れた髪に泡立てた石鹸を揉み込まれ、爽やかな香りが立ち昇る。石鹸の良い香りなんて久方ぶりだ。この香りが好きな男の人は多い。何とも清潔感溢れる香りだからかな。
なので、私は有名な香水をつけるよりも、石鹸の香りがする香水をつけていた。そのせいで、周りから、熱い視線を受けることが多かったが、誰も話しかけてこないという悲しい結果に終わっていた。
「う、うぅん……。あ、あれ……。私は……」
「お目覚めですか、ラッキーさん。心地よさそうに眠っていましたね」
私は脱衣所の椅子に座り、メイドさん達に髪を乾かしてもらっていた。寝間着がすでに着させられており、ふわっふわで鳥の羽のように軽い。見かけはワンピースに似ているが、締め付けが無く伸びがある。特殊な編み方でもしているのか。スカートの丈を持ち、めくってみるとあれよ純白のおパンツを履いている。
ここまで白いと蚕の絹かと思ってしまうじゃないか。どれもこれも綺麗なので、さぞお高いんだろうな。
「あの……。これ一式でいくらですか……」
「ざっと金貨八〇枚です」
「はは~」
私は高すぎて笑った。着ていると言っても下着とワンピースだけ。三枚で金貨八〇枚は客人に出す品じゃないでしょ……。もう、私が一度履いたパンツなんて誰も履きたがらないよ。
「私は頭からかぶりたいですね~」
ベスパは鏡の前の台に座り、気持ち悪い発言をする。こいつが私の分身だと思うだけで腹立たしい。燃やしてやろうかと思ったが、もう疲れたくないので見逃した。
私は白い服を着ているので、ますます妖精見が増す。何なら天使と言っても差し支えない。髪が金髪なら、もう天使だ。自分で言うのも何だが、私ってかわいいな~。
「ありがとうございました。体の疲れが一気に取れたようです」
私はメイドさん達にお礼を言った。
「いえいえ。私達の方こそありがとうございました。可愛いいを詰め込んだようなラッキーさんに触れられて運気が上がった気がします。あと、体調がすごくよくなりました。お湯が光り出したのも驚きましたが、いや~、もう肩が軽くて軽くて」
巨乳のメイドさんが呟くと、皆さんがウンウンと頷く。
「お湯が光り出した……?」
私はお風呂場に入る扉を開け、滑らないようにゆっくりと歩く。すると、大きな浴槽に入っているお湯が、キラキラと輝いていた。まるで光を反射するラメを入れたような輝き具合。加えて、下から光源をたき、光を放っているようにも見える。
「な、なにこれ……」
「キララ様から漏れ出した魔力が混ぜ込まれた水が輝くのは辺り前じゃないですか~。余分な魔力は汗などにも含まれて対外に排出されます。キララ様の汗入りお湯の効能は『クイーンラビンス(女王の輝き)』と近しい効果があります。飲めば万能薬にもなりえるでしょう」
ベスパは小さな手で輝いているお湯を掬う。
――き、気持悪いからやめてよね! お湯を温め直して何度も入るならまだしも、飲むのは倫理的に駄目だから! さすがに気持ち悪すぎるから!
「ん~? ですがキララ様、肉や野菜、魚の煮込み汁は飲みますよね? なぜ、キララ様の汗入りのお湯は飲んではいけないんですか?」
――そ、そりゃあ、人と他の生き物は別でしょ。ベスパだってビーの子やビーの煮込み汁を飲めなんて言われたら嫌でしょ。同族嫌悪ってやつだよ。
「まあ~、確かに嫌ですね。人の間にもこのような感情があるということですか。わかりました、大変気持ち悪い発言をしてしまい、申し訳ありません」
ベスパはペコリと頭を下げる。
――まあ、謝ってくれるなら許す。でも、私がお風呂に数分入っただけで回復の泉になっちゃうのか……。どんな魔力量してるの。と言うか、汗だけでここまでの魔力が出るのかな?
「キララ様は眠っている間に、心地よさと水を飲み過ぎたことが原因で、ほうにょ……」
「『ファイア!』」
「ぎゃわあああ~っ!」
ベスパはさらに倫理に反する発言をしようとしたので、私は即燃やした。
「み、皆さん。このお湯はさっさと捨ててください! あと、もう入らないでください!」
「ええええええええええええ~」
メイドさん達は同じ反応をした。
「あとでゆっくり浸かろうと思っていたんですが、駄目なんですか?」
――わ、私の老廃物が入ったお湯に、入浴させるわけにはいかないでしょ。
「だ、駄目です。ものすご~く汚いので絶対に入らないでください!」
私の後方に、キラキラと輝くお湯がある。もう、汚いという言葉をどこに付け加えればいいのかと言うくらい、神秘的な光りすら放っているのだ。
「わかりました。浸かりはしませんしません。でも、体を拭く用のお湯として使わせていただきます」
「そ、それも駄目です~!」
私の排泄物入りお風呂はメイドさん達のオアシスとなり、全身の疲れを癒してしまった。そのせいで彼女達は浸かっているお湯が私の排泄物入りだとも知らずにお湯に浸からずとも髪に掛けたり、石鹸を洗い流すために使っていた。何か悪影響がないかと思っていたが皆の肌年齢が八歳くらい若返っていた……。
私はメイドさんに連れられて部屋に戻った。勉強の続きを鈍った頭でやり遂げる。
「はぁ~、さっき少し寝たおかげで勉強ができた~。よかったよかった」
私はエルツ工魔学園の問題集を閉じる。
「もう、キララ様。酷いじゃないですか。いきなり燃やさないでくださいよ」
ベスパは復活し、私の頭上に現れる。
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