黒紫色のヘドロ
「よし!レクー川の上流に行ってみよう、ここからなら比較的早く上って行けると思うから」
「はい!分かりました」
「気を付けてくださいね…、キララさん」
デイジーちゃんはやせこけた状態にもかかわらず、相手の事を心配してくれるいい子だった。
「うん!デイジーちゃんは私の置いて行った紙袋の中にあるパンを出来るだけ皆に分けて行って。それからレモネ汁を一滴でもいいから村人に無理やりでも良いから何とか飲ませて」
「分かりました!私頑張ります!」
――デイジーちゃんの体は痩せているが、眼は死んでいない。きっとこの子はやり通すだろう。
「それじゃあ、行ってくる!」
「気を付けて!」
私達は川の上流を目指し、山を登っていく。
「ベスパ!ここから2手に分かれよう。何か分かったら連絡して!私はこのまま川の上流を目指す。ベスパは私よりも見渡せる範囲が広いから、広範囲から原因を探して!」
「了解しました!」
ベスパは私とは違う方向の上空へと飛んで行く。
「あんまり長居はできなさそうな空気をしてるよね…」
昼間を過ぎてはいるが…それにしては暗すぎる…。
草木が枯れ、遮るものは何も無いというのに、日の光は全くここまで届いていないようだ。
上流に向かうにつれ、私達の吸う空気は次第に吸い込むのも難しくなる。
木々も草花もほとんどが枯れてしまっているようだ。
レモネを齧りながらなんとか進む、確かにこのレモネを齧っていると少し気が楽になった感覚がした。
レクーにもレモネを齧らせながら、走ってもらう。
すると、今までよりも速度が格段に上がり。さっきよりも断然早く山を登っていく。
この速度なら、すぐ川の水源を確認できるはずだ…。
うねる山道を何とか乗り越えていく、柔らかい土がレクーの足をもつれさせるが、私の体は動かない。
レクーもすぐさま体勢を立て直し、速度を元に戻していく。
一心不乱に走り続け、何とか川の水源らしき場所までたどり着いたのだが…。
「なにこれ…酷い…」
川の水はヘドロの様に真っ黒なドロドロとした液体で埋め尽くされていた…。
液体からは黒紫色の煙を放ち…鼻が曲がりそうな悪臭を放っている。
「どう考えてもこれが原因だよね…息をするのも苦しい…。でも、何とかこのヘドロの正体を突き止めないと」
私はヘドロをさっきパン屋さんでベスパに作ってもらった、牛乳パックへ少量入れて、持ち帰る作戦を思いついた。
さすがに手を汚すのは危険だと思い、誰かの家から持ち出したスプーンで少量掬い取り、牛乳パックに入れていく。
「え…スプーンが解けてる…この牛乳パック大丈夫なの…」
金属製のスプーンは牛乳パックに入れている途中に溶けてしまった。
しかし、牛乳パックは何ともない。
「牛乳パックは解けなさそうね」
半分くらいしか入れられなかったが、十分だと思い、上側をしっかりと閉じる。
この上側を閉じるのはライトの仕事なのだが…確か、『グルー』だったかな…。
呪文を言いながら牛乳パックの上側を閉じ、ゆっくりなでると、しっかりくっ付いて離れなくなった。
「良かった…私でもできた…!」
「キララ様!!大変です!」
いきなり耳元で大声を出され、一瞬体がびっくりしてしまったが、すぐさまべスパの声と判断し、耳を傾ける。
「どうしたの?ベスパ、こっちも相当やばそうなのを見つけたんだけど!」
「森の動物たちが腐っています!このままだと病気の原因になりかねません!」
「そうなの!それじゃあ…どうすれば」
「今すぐにギルド又は医療機関に報告するべきだと思います!」
べスパから真面な返答が返ってくる。
――そうだ…確かに私たちの力で何かをするにも限界がある。
「そうだよね…私たちに出来る事はこの状況を専門の人たちに教えることくらい…。レクー!相当キツイレースになると思うけど…付き合ってくれる?」
「はは…上等!!キララさんが付いてれば負ける気がしねえ…」
――こういう時は凄く頼もしい性格なんだよな…!
「それじゃ…GO!」
ヘドロが飛び散らないように腕と脇でしっかりと抱えながら、レクーの物凄い走りに耐える。
地面を蹴る回数も、身をばねの様に伸び縮みさせる回数も先ほどとは圧倒的に違う。
蹴り上げた土は私の後方で土煙となって巻き上がり、その速度を物語っている。
山を登ってたときの約2分の1で村まで降りてくることが出来た。
私達は村に立ち止まることなく、街に直行する。
「あ!キララさん!どうでしたか!」
「デイジーちゃん!絶対に山に近づかないで!今から街に状況を話してくる!出来るだけ山から離れたところに避難指示を!」
――ちゃんと聞こえていただろうか…でも立ち止まったらダメだ。
「キララさん…よし!分かりました、私もしっかりとお役に立ちます!」
デイジーにはしっかりとキララの声が届いていた。
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