国の歴史
「こんにちは、ルドラさん。今日も性が出ますね」
兵士のおじさんがルドラさんに挨拶をした。加えて、私の方を見て事情を聴いてくる。
「この子はいったいどうしたんですか? ルドラさんのお子さんにしては顔が似ていませんね……」
「この子は私の弟子です。名前は……、ラッキー君というんですよ」
ルドラさんは名前が思いつかなかったのか、キララを逆にしてラキ、もじってラッキーと命名してきた。
「は、初めまして……、ラッキー・ラキラキ……と言います」
――や、やばい。糞みたいな名前だ。どうしようもない名付けの才能の無さが滲み出てる。
「ラッキー君か。いや~、にしてもすごく美形な少年だな。俺の知り合いにも超絶可愛い子がいるんだが、雰囲気がそっくりだ」
「は、はは……。そうなんですか~。いや、あってみたいな~」
私は兵士のおじさんに適当に合わせた。場所をすぐに移動し、バートン飼育場という場所にやって来た。
「懐かしい……。一年ぶりくらいに来た。レクーは覚えてる? ここで牧草を食べさせてもらったよね」
私はバートン飼育場の看板を見ながらレクーに話かける。
「覚えています。パン屋さんに行く前の朝食で牧草をいただきました」
レクーは口をもごもごさせてお腹が空いたと言わんばかりに地面の雑草を食べる。
「すみませ~ん、イキュースさん。バートンを休ませてもいいですか?」
ルドラさんの声が建物内から響く。イキュースさんとはバートン飼育場の飼育員さんだ。
「はい、もちろんいいですよ。じゃあ、案内しますね」
建物の入り口からルドラさんとイキュースさんが現れた。
イキュースさんはもの凄くやつれていた覚えがあるのだが、今は肌艶もよく、少し長めの焦げ茶の髪を後頭部で縛っており、カッコイイ美青年に見える。
「ん、んん? 君、どこかで見た覚えが……」
イキュースさんは私の前に近寄ってきて顔を覗き込んでくる。
「は、初めまして……、ラッキー・ラキラキぷっ、……。えっと、ラッキーと言います。よろしくお願いします」
私はダサすぎる名前に吹き、イキュースさんに偽名を伝え、頭を下げる。
「初めましてイキュース・カバロウズと言います。いや~、すみませんね。恩人の女の子にそっくりで……。あれ? あれあれ……」
「ブルブル……」(き、キララさん、イキュースさんの視線が僕に……)
「はっ! こ、この子は……」
「み、見間違えるわけがない……。君はレクティタ君……」
イキュースさんはレクーの顔を掴み、マジマジと見つめる。その次に私の方を見て来た。
「つまり君は……、キララさんですね」
私の偽名と変装は一瞬で気づかれた。
「あ、あはは……。よくおわかりで……」
私は結んでいた髪を解く。
「うぅぅ、ようやく来てくれたんですね。ありがとうございます!」
イキュースさんは大きく頭を下げて私に抱き着いてきた。バートンの飼育を行っているお爺ちゃんのようなにおいがして安心する。
「ちょ、ちょっと。私は女の子なんですから、同意も無く抱き着いたら犯罪ですよ」
「はは、そうでしたね。すみません。えっとえっと、話したいことがいっぱいあってですね、一体何から話しましょうか」
イキュースさんはてんぱってあたふたしている。
「イキュースさん、とりあえずバートン達を厩舎に移動させてもいいですか?」
ルドラさんがイキュースさんに申し出る。
「あ……。そ、そうですね。案内します」
私とルドラさんはバートンを引き連れて厩舎に移動させた。餌と水をしっかりと与え、休憩させる。
「ルドラさん、たった三時間走っただけで休憩させるんですか? レクーなら一日中走っても大丈夫なんですけど……」
「キララさんが乗っているバートンは規格外だから普通のバートンと一緒にしない方がいいですよ。通常のバートンは一時間おきに休憩を取らせるのが基本です。三時間走れる個体は中々良い個体なんですからね」
「へ、へぇ~。そうなんですか……」
――私たちの牧場にいるバートン達は普通に長時間走れるんだけど……。お爺ちゃんの育て方がいいのかな。それとも、私の魔力の影響か……。
「にしてもイキュースさんが育てているバートンは質が一気に向上しましたね」
ルドラさんはバートン場を走っている個体を眺めていた。
「そりゃあ、キララさんに強いバートンを生み出す秘訣を受け取りましたからね」
「え? なんですって……」
ルドラさんの商人の勘が言っているのか、イキュースさんの発言がお金になると悟ったようだ。
「その話なんですけど、見てください、キララさん。バートン育成の功績が称えられ、ルークス国王からの勲章が頂けたんですよ」
イキュースさんは賞状ほどの大きさの額縁に拳ほどの大きさの勲章がはめ込まれた板を見せてきた。勲章の上に「第八八六回バートン育成大会、優勝」という文字が刻まれている。
「へぇ~。一年前に言っていた国王に献上したバートンが良い線まで行ったんですね」
「良い線なんてものじゃないですよ、キララさん!」
ルドラさんは大興奮していた。どうも、イキュースさんが取った賞は大変名誉なものらしい。
「バートンはルークス王国が長年愛用している移動手段の一つです。もう、ルークス王国の礎を築いたのはバートンと言っていいほど、昔、活躍しました。もちろん昔だけではありません。今もですけどね。なので、バートンはルークス王国の国獣に認定されているんです!」
「なるほど……。有名な動物だから、多くの好敵手がいる中で一番になるのはすごく難しいと言うことですね」
「その通りです。いやはや、まさか、私がこんな名誉ある賞をいただけるなんて思ってもみませんでした。えっと、国王へのバートン納品と大会の品は違う個体なんですが、両方に賞金が貰えてですね。キララさんに渡そうと思って半分とってあるんですよ。持ってきますね」
イキュースさんは建物の中に走って行ってしまった。
「な、なんか嫌な予感がするなぁ……」
「キララさん……。なぜですか……」
ルドラさんは物凄く震えていた。私が何か悪いことでも言っただろうか。
「キララさん、なぜ私に強いバートンの生み出し方を教えてくれなかったんですか!」
「え、えぇ……」
ルドラさんは私の肩を掴み、揺すってくる。
「そんな大切な秘訣を多くの者に売れば、移動手段のバードンの能力が向上して国がもっと豊かになるじゃないですか!」
「い、いや。私は大した助言をしていませんよ。ただただ、強い個体と強い個体を掛け合わせたら同じく強い個体が生まれやすいと教えただけです。誰でも知っていると思っていたんですけど、そうじゃないんですか?」
「強い個体と強い個体を掛け合わせる……。交配させると言うことですか?」
「そうなりますね。レクーも、もの凄く強いお母さんから生まれた子なんです。なので、屈強な体と強い心臓、分厚い骨、などが受け継がれました。まぁ、当然と言えば当然ですよ。優秀な貴族と貴族を合わせて結婚させるのだって同じ理由だと思いませんか?」
「な、なるほど……。貴族の場合は権力争いが主な要因だと思いますが、優秀な者から生まれる子に優秀な者が多いのはそう言う理由でしたか」
ルドラさんは顎に手を置いて考えていた。
「美味しい牛乳を作るモークルと環境の変化に適応しやすいブーバルスを交配させたら美味しい牛乳を作り、環境に強い個体が生まれる可能性があると言うことですか?」
「まぁ、ブーバルスが何か知りませんけど、可能性はあります。おすすめはしませんけどね」
「なぜです?」
「えっと……、ルドラさんはオークと子供を作れと言われて嬉しいですか? まぁ、相手は魔族ですけど可能と言えば可能ですよね」
「…………」
ルドラさんの表情が青ざめる。
「原則、同種族じゃないと嫌悪感を抱きます。無理やり交配させて生まれてくる子がどうなるかわかりませんし、良い個体が傷つく可能性もあります。無駄に新しい種族を増やすのは危険です。えっと私の知り合いに人族と森の民(エルフ族)の混血がいるんですけど、当の本人は親のどちらの良い性質も受け取れなかったと言っていました。上手くいくかは運しだいなので、強い同種族同士を交配させるのが安全かつ確実に成果が出ます」
「なるほど……。興味深いですね」
「昔から人同士の間でも行われてきたんじゃないんですか? 勇者と賢者とか」
「えっとですね、子が出来ると言うのは神からの授かりものという風潮がありまして、計算された子作りは原則禁止とまでは言いませんが、毛嫌いされていると言いますか、正教会の教徒は親が決めた結婚相手との子を授かるのが幸せだと言う教えを受けているんですよ。なので不倫や婚約前の妊娠などが発覚すると多くの者が激怒します。動物だと教えが適用されないので、そこまで毛嫌いされる心配はないかもしれませんね」
「えぇ……、厳しいんですね。いやまぁ、不倫は嫌ですけど、婚約前の妊娠は比較的あり得ますよね」
「はい。神からの授かりものを産む前に捨てる行為は悪とされています。なので、ひっそりと産んでから子を神のもとに戻すために川に流す者や土に埋める者がいるのもまた事実……。王都では子と共に別の領土に飛ばされますね」
「なるほど……。正教会の教えは国の安寧のためにあるのか、はたまた人を縛るためにあるのか……、わからないですね」
「国が違えば全く変わってくるんですよ。ビースト共和国では子は宝と言われるくらい皆、大切にします。どれだけ生活が厳しくても絶対に見殺しにしません。周りの者で協力し合って子を育てるんです」
「へぇ~、もの凄く良い国ですね。好感がもてます。でも、ルークス王国はビースト共和国と仲があまり良くないと聞きましたけど……」
「えっと国王はビースト共和国が大好きですよ。ただ、正教会や五大老と言った国を動かす者達が、ビースト共和国が大嫌いなんです」
「また権力者の影響なのか……。協定が結ばれているのは国王がいるからっぽいですね」
「はい。長らく戦争を行っていましたが、国同士が平和協定を結びました。現在のルークス国王の功績が大きいですね。ほんと、八〇年くらい前まではどこの国も戦ばかりだったそうですよ。その時もバートンが大活躍したそうです」
「国の歴史……、なかなか興味深いですね」
私とルドラさんが会話に集中しているとイキュースさんが小箱を持ってきた。
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