好意を勝ち取る
「ライト、この建物内を二五度に調節できるように、魔法陣の構築をしてくれる?」
「おやすい御用だよ、姉さん」
ライトはお父さんが作った高級な紙に魔法陣を描いていく。
「イーリスさん。野菜を育てるためには温度管理が大切になって来るので、この建物内の温度を一定に保つよう調節するための魔法陣をライトに描いてもらっています。デイジーちゃんが魔力を扱えるので、毎日この建物に来て温度調節をしてもらってください」
「わ、わかりました」
「デイジーちゃん。毎日この建物に来て、ライトが描いている魔法陣に魔力を流してくれる?」
「はい! 毎日しっかりとお世話します!」
デイジーちゃんは良い笑顔で返事をした。私はデイジーちゃんをぎゅっと抱きしめて感謝する。
――ベスパ。鳥と盗人の被害が出ないよう、警備を厳重にしておいて。盗人が種の凄さに気づくわけないと思うけど、万が一の事態が起こらないよう、配慮しておいて。
「了解です。麦畑の警備をしているビー達以外にこちらの建物の周りにも警ビーを配置しておきます」
ベスパが光ると、体長八センチメートルほどの大型なビーが数匹飛び始める。いや、もう怖すぎるよね……。八センチって……。大きくすればいいって話じゃないよ。八センチの蜂がいたらさすがにだれでも驚くよ。
ネード村はビー達が警備しているおかげで、盗みがゼロに抑えられている。盗みがないと言うだけで、とても穏やかな生活が出来るそうだ。盗賊が栄えている村を狙って現れる可能性があるそうだが、悪さをすればライトの魔法陣が発動してすぐに捕まるので、安全度が増している。
これを突破する者がいたら相当凄い。是非とも仲間になってほしいね。まあ、突破する者がいたら盗賊と言うことだけど……。
「じゃあ、皆。もうすぐ、麦の収穫時期だから、その時にまた見に来ようか」
「は~い」
麦の状態はとてもいい。大粒の種が出来始めており、少しずつ下に向って垂れてきている。七〇から八〇パーセント下を向いたら収穫時期なのであと三〇日くらいで収穫できるはずだ。
一月と二月頃に少しでも強く大きく育ってもらうために麦踏を行った甲斐があった。
私達は仕事を終え、デイジーちゃんの家に帰る。そのまま村に戻り、明日の仕事に備えるのだ。
「うぅ、ガンマ君。もう、行っちゃうんですね……」
デイジーちゃんはガンマ君の手を握り、寂しそうな表情を浮かべていた。遠距離恋愛をしている恋人同士のように見えて少し微笑ましい。
でも、周りにいるライトとシャインは悔しそうな顔をしている。
何でもできてしまうライトにとって恋だけは上手くいっていないようだ。でも逆に、上手くいかないからこそ、熱しているのかもしれない。
シャインは不器用だから、少し空回りしている気もするけれど、成長の過程で恋が出来るなんてとても幸運だ。
「ガンマ君、また来てね。私、待ってるから」
「はい。また、お手伝いしに来ます。それまで、デイジーさんは元気でいてください」
ガンマ君の優しい笑顔がデイジーちゃんの瞳に映り、萌え萌えキュンキュン状態に突入していた。ここから心を奪うのはなかなか至難の業だろう。
超絶イケメンのお兄さん系と超絶イケメンの幼馴染系だとすると、お兄さん系の方が、人気が出そうだ。
デイジーちゃんに顔の良しあしがあるかどうかわからないが、顔で選んでいる訳ではなさそうなので、外面で勝負することはできない。
なんせ、どちらもカッコいいから。
姉フィルターが掛かっているかもしれないが、ライトは最高にカッコいい。でも、ガンマ君も同じくらいカッコいい。二人組のアイドルなら、人気はきっと二分するだろう。どちらも甲乙つけがたいのだ。
デイジーちゃんの憧れている男性はカッコいいお兄さんなので、お兄さん系のガンマ君の方が好みという点で上回っている。ただ、ライトにお兄さん系の色気を出すのは難しい。もう、見るからに弟なのだ。そのせいで、デイジーちゃんに子供っぽく見られているのかもしれない。
私はライトとデイジーちゃんの仲をどうすることもできない。なので、この問題はライト自身が解決しなければならないのだ。
「はぁ……。ガンマ君のにおい、うっとりしちゃう。この匂い、好き……」
デイジーちゃんは別れ際に、ガンマ君に抱き着き、においを嗅いでいた。うん……、デイジーちゃんは中々に肉食系だな。加えて甘え上手だ。
あざとさ具合が鼻に突かず、しっかり者なのに天然の甘えんぼう。そんな、言葉が似合うかもしれない。
しっかり者の甘えん坊なんて可愛いに決まってる。
デイジーちゃんは天真爛漫なテリアちゃんのような性格なので、妹大好きなガンマ君の心にいつぶっ刺さってもおかしくない。
ライトとガンマ君の雰囲気が真反対なことと同じように、シャインはテリアちゃんと正反対の印象を持っている。
シャインは姉気質に強気、意地っ張り、ちょっと弱気になると凹む。そんな、ちょっと面倒臭い性格のせいか、べらぼうに可愛いのに男人気は少なそうだ。まぁ、胸が大きいのでその分、変態野郎共の気を引いていると思うが、大人の色気はゼロ。
はてさて、私をどう楽しませてくれるのやら……。どう転んでも、精一杯祝福しようじゃないか。
私はガンマ君とデイジーちゃんに抱き着いた。これ見よがしに、ライトとシャインも二人に抱き着く。先ほどは恋人同士の別れ際だったのに、今では親友同士の別れ際へと変化した。これで少しは気分が変わったんじゃないかな。
「も、もう、皆さん。どうしたんですか。また、会えるのに……」
鈍感主人公系のガンマ君は察するのが下手だ。ま、そう言うのも悪くないだろう。
「二人が抱き合っているのを見たら私も抱き着きたくなっちゃったんだよ~」
私は笑顔をガンマ君に見せて全員の不審な行動を誤魔化す。
私は荷台の前座席に座り、ガンマ君とシャインは走る。ライトはしくしく泣きながら私に抱き着いていきた。天才少年もこういうだめだめっぽい所があると、愛らしく感じちゃうよね。
「じゃあ、イーリスさん。デイジーちゃん。また、三〇日後に会いましょう」
「はい。お待ちしております」
「キララさ~ん! バイバ~い!」
デイジーちゃんは手を大きく振って私に別れの挨拶をして来た。ガンマ君やライトではなく、私にだ。つまるところ、分け隔てなく皆が大好きなんだろうな。
「バイバ~い。また今度ね~」
私はデイジーちゃんに手を振り返し、ライトの頭を撫でながら手綱を持つ。
デイジーちゃんの姿が見えなくなってすぐ、私達はネード村を出た。
「はぁ……。デイジーさん、うぅ……」
ライトは目の下を赤くしながら未だに泣いていた。
「もう、ライト。何を泣いているの。そんなんじゃ、もっと弟っぽく思われちゃうよ」
「そんなこと言われても……、僕は姉さんの弟だし、仕方ないじゃん……。ガンマ君はもとからお兄さんだし、体格はどんどん良くなってる。僕はひょろいままだ……」
ライトは力こぶを作ろうとするも、私同様にひょろひょろだ。もう、完全に魔法使い体質になっている。
「お父さんがゴツゴツしいから、ライトも将来は大きくなるよ。逆に、今の状態はいい傾向かもしれない。幼馴染が初めから好かれている状態なんて滅多にないんだからね」
「よくわからないけど……、まだ希望はあるのかな?」
「あるある。希望しかないよ。そもそも、ガンマ君はデイジーちゃんのことが好きという訳じゃない。デイジーちゃんは好きになっているみたいだけど、まだわからない。でも万が一、二人が好き合ってしまったら大人しく身を引かないとね」
「うぅ……。そんな未来が訪れたら、僕は……」
ライトは身から禍々しい魔力を発する。何とも嫉妬深い子だ。
私はライトの濁った魔力を転移魔法陣で吸い込む。すると、ライトは気が抜けたような表情を浮かべた。
「も、もう。いきなり魔力を吸わないでよ……。ビックリしたじゃん」
「ライトが、性悪な魔力を発するのが悪い。自分を磨きまくってデイジーちゃんの心を手に入れるの。ガンマ君に嫉妬している時間なんてないよ」
「そ、そうだね……。僕が嫉妬するなんて情けない、自分の力でデイジーちゃんの好意を勝ち取るんだ!」
ライトはやる気になり、とても元気になった。ほんと、沈むのが早ければ立ち直りも早い奴だ。
――ライトと丁度二人っきりだし、お願いしてみようかな……。
私は王都に行って学園の雰囲気を味わって来たいとライトにお願いすることにした。
「ライト、私の悩みを少し聞いてくれる?」
「え? 姉さんの悩み……。う、うん。聞かせて聞かせて」
「えっと……、恥ずかしい話、私はすごく怖がりなんだよ。だからね、王都がどんなところかわからないから、すごく恐怖を感じてる。学園に行くのだって、未だどこに入学しようか決めていない。だからさ、私、王都に一度行ってみようと思うの」
「姉さんが怖がり……」
ライトは「そんなバカな……」と言いたそうな表情を浮かべる。
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