暖かい季節
「うわぁ~い! 雪だ、雪だ~!」
街に住む子供達も元気になっており、ソリを持って遊んでいた。子供が子供を乗せたソリを引いて移動していく。私はその姿を見て閃いてしまった。
「ソリを使えばいいんだ」
「なるほど。名案ですね」
「ベスパ、私とレクーが乗れるソリを作ってきて」
「了解です」
ベスパは森の方に飛んで行き、数分で木製のソリを持ってきた。バートン車くらい大きいソリだが、安定しそうなので問題ない。
「よし、レクーは座って乗ってね。私も座るけど」
「は、はい」
レクーはソリの中に入り、ゴロンと寝転がるようにして座る。私は前側に腰を下ろした。
「じゃあ……」
私はディアたちにソリを引いてもらおうと思っていたのだが、ベスパが今か今かと待ちわびており、ビー達の方が飛んで移動するため雪の影響を受けずに済むと思い、彼らにお願いする。
「はぁ、ベスパ。ソリを引いてくれる」
「お任せください!」
ビー達が大量に集まり、ネアちゃんが作り出した糸を使ってソリを引っ張る。
「速度の出しすぎは危険だからね。しっかりと配慮してよ」
「もちろんですとも! では、出発します!」
大量のビーは光学迷彩で消え、ベスパの姿だけが映る。翅音が少々聞こえるのは仕方ない。私が我慢しよう。
「おぉ……。動いてる」
ソリはベスパ達によって引かれ、動き始めた。ソリの構造として、サンタさんが乗っているソリを思い浮かべてもらうとわかりやすいだろう。スキー板が二枚ソリの裏から吐出しており、接している表面が少ないため、滑りやすいのだ。
「おぉ、引っ張られる感覚ってこんな感じなんですね~」
レクーは白い雪と同化しながら、綺麗な鬣を靡かせている。
「案外気持ちいいでしょ。ちょっと寒いけどね」
私はレクーの筋肉質な体に抱き着いて暖を取る。どこを触ってもムキムキでさすが姐さんの息子だなと分かった。
ベスパに引かれながら、移動していると東門に到着した。案の定、兵士のおじさんが手を擦り合わせて立っていた。
「おじさん、おはようございます」
「おお、嬢ちゃん。街で泊まっていったのか?」
「はい。昨日、疲れすぎてしまったので、病院で休ませてもらっていました」
「そうかそうか。いや~、昨日はすごい盛上りだったな。聖典式に俺は仕事で行けなかったが、家内と子供が大はしゃぎで話してくれたよ。キラキラ・キララという子が歌って踊っていたらしくてな。物凄く楽しかったそうだ。あんな元気な顔は久しぶりに見た。名前からして嬢ちゃんだと思うが、違ったらすまない。ありがとうと伝えておく」
「はは、どういたしましてとだけ答えておきましょうか。キラキラ・キララと私は別人なのでね」
「はは……、そう言う設定か。なら、聞きすぎるのも悪いな」
おじさんは私の気持ちを汲み取ってくれたようだ。子供心がわかるいい大人だよ。
――はぁ~。仕方ないな。おじさんにだけ特別大サービスをしちゃおうかな。なんせ、毎日毎日、街を守るために兵役をしてくれているんだから。
私はソリから降りておじさんの冷たそうな手を優しく包む。
「ど、どうしたんだ?」
「聖典式も、頑張ってお仕事をしてくれた、おじさんにキラキラ・キララからのご褒美をあげます。おじさん。寒いかもしれませんけど、お仕事、頑張ってくださいね。いつもありがとうございます」
私は一二〇パーセントの笑顔をおじさんに見せた。
「はは……。こりゃ、家内達が、元気になっていたのもわかるな。ありがとう、嬢ちゃん」
おじさんは照れくさそうに笑いながら、感謝してくれた。握手会の時みたく、嬉しさがこみ上げてくる。
私はソリに乗り、東門から村に向かって移動した。
「じゃあ、おじさん。さようなら~」
「ああ、風邪を引かないようにな~!」
ソリで移動すると雪道でも難なく移動できた。犬ソリならぬ、ビーソリ。ダサい名前だ。
レクーに乗っている時と同じくらいの速度が出ている。簡単に止まれないと思っていたが、後方にもビーが待機しており、引っ張って止めてくれるそうだ。
振動も少なく、なんなら荷台に乗っている時よりも心地良かった。
三時間ほど移動し、村に到着する。
子供達がすでに仕事を始めており、楽しそうだった。何だろうな、仕事が好きなのかな……。休み明けの仕事を満面の笑みでしてくれるほど、経営者として嬉しい状況はない。そんな仕事は中々無いと思う。
昔の私は休みがほぼ無かったから、会社をずっと恨んでいたものだ。当時の私に休み明けの一発目の収録で子供達ほどの笑みを浮かべられるだろうか。確実に出来ないと言えるな。
「ベスパ、牧場まで移動してくれる」
「了解です」
村にも雪が積もっていたので、ソリで移動した。冬の間はソリで移動した方が楽かもしれない。
牧場に移動した私達は仕事状態にさっと移りかわる。頬をパシパシと叩き、仕事場を点検して回った。
昨日の聖典式で主役だったセチアさんとメリーさんはてきぱきと働き、嬉しそうにしている。もう、仕事をする気持ちが出来ているようだ。
私はセチアさんのもとに向かい、今日見た夢の話をした。
「セチアさん。いきなりで悪いんですけど、伝えておきますね。夢の中に現れた神様が言うにはラルフさんに祈り続けてくださいだそうです。そうすれば、眼を覚ましてくれるそうです」
「はは……。キララちゃん。気を使ってくれて、ありがとう。でも、もう大丈夫だよ。私はこれからもずっとずっと祈り続ける。昨日、キララちゃんに沢山元気を貰ったからね、私もくよくよしてたらいけないなって思ったの。だから、もう心配しないで」
セチアさんは私の話をうのみにしてないようだ。そりゃあ、夢の話をされても困るか。でも、セチアさんの表情はとても明るかった。もう、心配する必要はない。そう思わせてくれる凛々しい顏をしている。
――セチアさん、強くなったな。皆も昔に比べたら本当に明るくなった。よかったよかった。
私ははにかみ、仕事の意欲が爆増した。
「よ~し! 今年も仕事! 頑張るぞ!」
「おおおお~!」
私の声があまりにも通ったのか、全員が大きな声をあげてしまい、動物達が驚いてしまった。
一月九日から、二月までの間に、厩舎の拡大を進め、前以上に広々とした空間へと生まれ変わる。このおかげで牛乳パック一〇〇〇本の献上品は達成できそうだ。ただ、ブレーブ平原の方でも動物達が育てられないか検討中である。
二月の下旬、私は以前残しておいたトゥーベルを種芋にして、畑に植えることにした。そうすれば、以前よりも大量のトゥーベルが手に入るのだ。
だが、ナス科の野菜は連作障害が発生しやすい。なので、以前と同じ場所には植えられなかった。でも、小さな範囲だったので何ら問題なく、新しく作った畑に植えていく。今年の夏ごろには大量のトゥーベルが手に入るだろう。
三月は春になりかけの時期であり、少し寒いが仕事がしやすかった。街の方では流行病が一切発生しなくなり、健康的な人ばかりのせいで去年の七月に起こったブラックベアー事件の傷跡も癒え始めていた。ただ、王都の方では人が多く、聖典式によって感染がさらに急拡大したそうで、危険な状態が続いているらしい。
今年、一二歳児で学園の受験をしようとしている生徒たちはあまりにも可哀そうだ。貴族だろうが平民だろうが、関係なく病気になる。
皆、辛い状態で受験を行ったそうで、泣いている子が多かったとルドラさんから話しを聞いた。ほんと、病気は悪魔と同じくらいたちが悪い。結局、多くの学園が合格者の定員に達さず、再試験を行うそうで学園側も流行病に罹った生徒に配慮しているようだ。
四月上旬になり、温かくなってきて春の訪れを感じる。日本人だったころ花粉症が酷かった私は毎年辛い季節だったが、今は花粉症など一切気にせずに過ごせている。杉の木が少ないのかな。
「ふぐぐぐ~。ふわぁ……。なかなか暖かくなって来たなぁ~」
「キララ様、魔力体の方が増えすぎのような気もします。森の方に移動させたらどうでしょうか」
ベスパは天井を見て毎日毎日増やし続けていた魔力体のミツバチたちの巣を指さした。ミツバチたちの巣は直径一メートルほどになっており、もう、木の塊にしか思えない。私に攻撃を一切加えてこないので無視し続けていたらいつの間にか巨大な巣になっていた。
「確かにね。家の中でブンブン飛ばれてもうざったいし、移動させようか」
私は魔力体の巣を森に移動させることにした。壁にべったりとくっ付いている巣は魔力で剥がし、ベスパに巣を持ってもらう。中から、大量の魔力体が現れて来た。黄色っぽい魔力体は妖精のようで恐怖感はない。ただ、蚊柱の中に入っているような感覚になり息をしたら鼻に入ってきそうなくらいの数になっている。
「ベスパ、森の方に移動させて」
「了解です」
ベスパが巣を移動させると魔力体は巣を追って家の中かから外に移動していく。朝っぱらから蛍の大移動を見ているような感覚になり、得した気分だ。
部屋の中が一気に広くなったように感じ、心が躍る。前以上に勉強に身が入りそうだ。
「今日は休みの日。あと、デイジーちゃんの家があるネード村に行かないとな」
今日の休みはイーリスさんと種植えの約束をしている。以前、取ったSランクの種を使って苗を作りに行くのだ。加えて、大麦、小麦の状態も調べに向かう。
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