神々からのアンコール
私は舞台袖に力なく歩いていき。誰にも見えない所でぶっ倒れた。
その後の記憶が無く、意識が完全に落ちてしまったようだ。本来なら、アンコール対応もしなければならなかったのに……。
まぁ、今のところこの世界にアンコールの文化はない。そのおかげで命拾いしたよ。
「うぅ……。はっ! アンコール!」
「アンコール! アンコール! アンコール!」
私の目の前に広がるだだっ広い空間に綺麗な方達が、ドーム会場の客数かと思うほど集まっていた。中央の最前列には駄女神こと、最高神がおり、黄色に輝くペンライトを持っていた。
「はは……。ほんと、おいおい寝させてもくれないんですね……」
私は神々が勢ぞろいしている天界の舞台でアンコール対応をした……と思う。何だろう、夢現で現実味がない。頭の中で勝手に行っている私の妄想かもしれない。
「あなた達が誰か知らないけど! 私のファンってことはわかる! そんなに楽しみたいなら、とことん付き合ってあげるよ!」
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!」
神様だろうが、知能ある生き物は皆、娯楽が大好きなのだ。全員まとめて私が幸せにしてやんよ。
「神々の皆さん! スキル付与、お疲れさまで~す! 今日は楽しんでくれましたか~!」
「いええええええええええええええええええええええええええい!」
神々と思われる者達は叫びながら日々の鬱憤を発散していた。
「なんかよくわからないけど、疲れが無いから、キララ、超頑張っちゃうよ~!」
「いええええええええええええええええええええええええええい!」
どうやら神々の方が、乗りが良いらしい。さすが、娯楽を求めていただけのことはある。
その後、私はどれだけ歌って踊っていただろうか。背中に翼が生えた可愛らしい生き物たちが私の衣装替えや照明の暗転など、全て行ってくれた。まるでビー達のようだが、あまりにも可愛らしいので全くの別者だろう。
私が公演を終えると神々が全員満足したのか、感無量で泣いていた。
「うわ~ん、キララちゃ~ん。お仕事疲れたよぉ~。でも、でも、超可愛いキララちゃんの神がかったライブのおかげで、疲れが全部吹っ飛んじゃった~。本当にありがとう~。もう大好き~、ちゅっちゅっ!」
駄女神は私に抱き着き、頬にチュッチュとキスまでしてくる。そんなにライブが好きなら、他の人のライブでも見ていればいいのに……。なんて思ったが……。
「超大好きなアイドルとちょっとはまっているアイドルじゃぜんぜん違うでしょ! あとあと、やっぱりこの眼で見なきゃ! 画面越しじゃつまらないわよ!」
「私の心を勝手に読まないでください……」
「あはは……、ごめんごめん。ありがとうね、キララちゃん。これで皆、今年もお仕事を頑張れるよ。目覚めた後も世界をよろしくね」
駄女神は私の眼に手を当てて優しく撫でる。すると、驚くくらい眠気が襲ってきた。
「そんな……。身勝手な……」
「キララちゃんなら大丈夫。仲間がいるじゃない。あと、流行病の影響で正教会たちは手一杯の状態よ。今なら王都に行っても大丈夫。悪魔の方は正教会が捕獲し、完全に拘束しているから、逆に安全よ」
「うぅ……。何、その情報……。私に何をさせようと……」
「キララちゃんは皆を笑顔にするんでしょ。私はそのお手伝いがしたいだけ……。頑張ってね、キララちゃん」
「うぅ……。神様なら……、世界をいいように、ちょちょいと弄ってくださいよ……」
「それが出来たら苦労していないわよ。あ、そうそう。癒しの女神が言うにはね、ラルフ君はいずれ目を覚ますそうよ。だから、セチアちゃんに祈り続けるようにお願いしてくれる」
「うぅぅ……、しゅぴ~」
「あらら……、うん、寝顔も可愛いわ~!」
私が目を覚ましたのは病院の病室だった。何度目の病院での目覚めだろうか。もう、数えてない。とりあえず、家の布団の方が寝心地が良くなってしまったので、体が痛い。
――いや、この痛みは動きすぎか。
「姉さん。大丈夫?」
私が目を覚ますとライトがいの一番に顔をせり出す。
「ライト……。ごめん、全力を出し過ぎた……」
私は視線をライトに向け、苦笑いをしながら言った。
「ほんとだよ、全く……。ベスパが知らせてくれなかったら、姉さんが舞台裏でぶっ倒れているなんて気づかなかったよ。最後の最後まで皆に手を振って凄く元気だったのに……」
「はは……、私は元プロだからね……。最後の最後まで手は抜かないの」
「また訳のわからないこと言って……。あの後、大変だったんだからね」
「なにかあったの?」
「もう、どんちゃん騒ぎの範疇を超えていたよ。街中の食べ物を食い尽くすんじゃないかって勢いの宴会が再開された。まあ、僕やシャイン、父さん、母さん、子供達の元気が八〇〇倍くらいになっていたおかげで乗り越えられたけどさ、姉さんは自分をもっと大切にしなよ」
「はは……。ごめんごめん……。ちょっと張りきりすぎちゃったよね……。あんなに多くの人がいるとは思わなかったからさ、興奮しちゃったんだよ」
「全くもう……。ところで、リーズさんはどこにいるの? 看護師さんに病院の中にいないって言われたんだけど。姉さんの場合は体力の使い過ぎだと思ったからベッドを貸してもらえたけど、今日はリーズさんも休みなのかな?」
ライトは頭をかしげていた。
「リーズさんは別の用事があって病院にいないんだって」
「そうなんだ。でも、リーズさんももったいないな~。姉さんのあんなすごい舞台を見れなかったなんてさ。まあ、年に数回見れる機会はあるか」
ライトは後頭部で腕を組み、安心したように伸びをする。
「ライト、他の皆はどこに行ったの?」
「今は片づけをしているよ。舞台を取り壊そうと思ったら、レイニーさんが残しておいてほしいって言ってたから、そのままにしてある。垂れ幕は取ったけどね」
「そう……。えっと、今の時刻は……」
私は病室の時計を見た。午後六時。どうやら夢の中と現実世界では流れる時間が違うらしい。夢の中で一日以上歌って踊った気がするけど、実際は一時間三〇分くらい。寝ていた方が時間を有効に使った気がして変な感じだ。
「そろそろ帰れると思うけど、姉さんはどうする? 病院で泊っていくか、家まで帰るか」
「私は疲れたから寝ていようかな……。あとはライトたちに任せても大丈夫だよね?」
「了解。じゃあ、父さんと母さんにも姉さんは病院で一泊していくと伝えておくよ」
「よろしく」
ライトは病室を出て行き、私一人になって少々虚しい気分になった。
「はぁ、今日は疲れた~。ベスパ、いる?」
「はい、何でしょうか、キララ様」
ベスパはスッと現れて私の視界に入って来た。
「お腹が空いたから、私の料理を持って来て」
「了解です」
ベスパはさっと移動し、お盆に聖典式で振舞われた料理を乗せ持ってきた。昼は忙しすぎて食べそびれてしまったので、昼食と夕食を同時に終わらせることとなった。
私は冷えた料理を『ホット』で温め、食べやすくしてから口に運ぶ。
食べた覚えのない肉の感触に懐かしい牛肉の風味が口に広がった。どうやら、モークルの肉らしい。複雑な気持ちだが、こんなに美味しい肉だとは思わなかった。
魔物の肉よりも柔らかく、油が乗っており、高級感がある。ほんと美味しい……。ご褒美と思えば物凄くありがたい食事だ。
私はあっという間に完食し、皿をベスパに返したらベッドに寝ころぶ。
私自身がモークルになってしまいそうなほどぐうたらしていたが、今日は頑張ったから別に構わないだろうと自分に言い訳をしてだらける。
『ウォーター』と『クリーン』で口内を綺麗にした後、汗まみれの体を拭きたいと思い、病室の鍵を閉めてから、全裸になって体を拭いた。
『クリーン』で綺麗にしても良いのだが、汗っぽさが残ってしまうので、しっかりと拭いたほうがさっぱりする。
服の方は汗っぽさが残らず、綺麗になるので『クリーン』で汚れを落とした。
「ふぅ、さっぱりした~。あとは日課をして寝るだけ~」
私はベスパに用意させた寝間着を羽織り、病室の机に紙を広げ、勉強を二から三時間ほどしてからベッドに寝ころんだ。
午後九時頃。外がすでに真っ暗になっており、東京のギラギラ輝く夜景とは雲泥の差だった。もう、ほぼ闇と言っても過言じゃない。逆に吸い込まれてしまいそうだ。
「ふわぁ~。眠たくなってきた……」
私はベッドでゴロゴロしていると眠気に襲われる。このままねてしまおう。そう思っていた時だ……。
「キララちゃん! キララちゃん!」
「うわっ! え、ええ。誰ですか……」
病室の扉をどんどんと叩く音と私の名前を叫ぶ聞き覚えがある声がした。
魔力を使って鍵を開けられ、扉が動かされる。
暗くてよく見えないが、緑色の髪が特徴的ですぐにわかった。
「リーズさん。こんばんわ……。こんな夜遅くにどうしたんですか?」
「よ、よかった。帰ってなかったんだね」
「?」
リーズさんは綺麗な服のわりに、髪と服装がぐちゃぐちゃになるほど急いで走って来たのか、ものすごく慌てていた。
「キララちゃん、頼みを少し聞いてくれないかな」
「頼み? リーズさんの頼みならいくらでも聞きますよ」
「ありがとう。なら、すぐに着いてきてほしい」
リーズさんは私を抱き上げて子攫いをするように猛ダッシュで病院の中を移動した。
「ちょ、リーズさん。落ち着いてください。何をそんなに慌てているんですか」
「説明は後。今すぐ見てもらいたい人がいるんだよ」
――な、なんか嫌な予感しかしない……。
私はリーズさんに抱かれながら、バートンに乗り、騎士団に移動した。
最後までお読みいただき、ありがとうございます。
続きが気になると思っていただけましたら、ブックマークや評価をぜひお願いします。
評価はこのページの下側にある【☆☆☆☆☆】をタップすればできます。
毎日更新できるように頑張っていきます。
これからもどうぞよろしくお願いします。




