街での聖典式
「お姉ちゃん、神父様がまだ来てないよ……」
人々の誘導をしていたシャインは私のもとに駆け寄ってきて伝えてくる。すでに聖典式の開催五分前なのだが、神父はいったいどこにいるのだろうか。
「わ、わかった。探すよ」
――ベスパ、神父様を探して。大至急ね。
「了解しました」
ベスパは他のビー達と街の見回りを行っていたが、八割のビー達を神父の捜索に当てる。
「姉さん、一八〇人全員が教会内に集まったよ。もう、いつでも開催できる」
ライトも私のもとにやって来た。教会の中を入口から覗くと、子供達が今か今かと楽しみに待っていた。
「ど、どうしよう……。あと二分……。間に合わなくなる」
――ベスパ、神父様は見つかった?
「はい。街の中で迷子になっていました。今すぐに教会に移動させます」
どうやら神父様は方向音痴だったようだ。だから、私達と一緒に移動したほうがいいと言ったのに……。
神父様はビー達に掴まれて教会の方まで一直線に飛んでくる。もう、服装はグチャグチャだ。
大きな時計台の針が午前九時を指そうとしている。
「うわあっわあわわわっ!」
神父はスカイダイビングをしているくらいの風圧を受けながら教会内に突っ込んでいった。ベスパがギリギリで減速させてくれているので命に別状はない。
神父様が教会に入った時刻は午前八時五九分五二秒。残り八秒で今までの全てが無駄になるところだった。
教会の長椅子は聖典式を受ける子供達で埋まっており、観客者は教会内で立っていた。もう、ほぼパンパン状態で密にもほどがあるのだが、全員私の魔力入り特効薬を飲んでいるので病気に罹らないだろう。
「えぇ……。今回、聖典式を行うに際しまして誠にお慶び申し上げます。私は代理として参りました神官ですのでほぼ初めましての状態ですね。カトリック教会の神官であったマザーが亡くなったと聞き、急遽代理として惨状いたいました。今日は皆さんの栄えある聖典式。精一杯努力いたしますので、どうか緊張せずに楽しみましょう」
神父はぐちゃぐちゃになった服装を直しながら挨拶を行い、小さな眼鏡をぐっと上げて緑色の髪を治す。
「では改めまして、皆さま、この日を迎えられた奇跡を心より感謝いたします。聖典式は子供たちの成長を喜び、祝い合う、大昔からある、ルークス王国の風習です。周りの皆さんも昔、この日を迎えられたでしょう。今日は一八〇人の聖典式となります。親族の方、女神からの感謝を女神の代わりに私からさせていただきます」
神父はお辞儀をする。
「それでは始めさせていただきたいと思います」
そう言って、神父は何かを唱え始めた。
「えまたえたあをいうょちにりたふのこよれらいまにちのこらかいかんてまいよみか」
唱え終わると、ロウソクとキャンドルに付いていた小さな火がすべて一気に消え去った。すると、子供達が持っているロウソクに火が付く。
服装が綺麗にった神父の後方にあるステンドグラスから八色の陽光が差し込んできた。
私は自分以外の聖典式を見るのは初めてなのでワクワクドキドキと言った子供っぽい感情を抱いていた。
「では、最も年上の者から名を呼ぶ。呼ばれたら私の前に来なさい」
私が聞き覚えのある声が神父の口から発せられた。
「メリー・ポーシャ。前へ……」
「は、はい!」
今回、一番年上だったのはメリーさんだったようだ。一三歳のメリーさんは椅子から立ち上がり、緊張しながら歩いていく。その姿に大人っぽさは微塵もなく、中学生そのもの……。まだあどけなさを残した少女の姿が見られた。
「メリー・ポーシャにスキル『包容力』を授ける」
メリーさんの持っているロウソクについた火に神父が息を吹きかける。すると火がメリーさんの胸の中に入っていき消えた。
メリーさんは一礼してもといた位置に戻る。
――『包容力』って……、メリーさんの個性そのまんま。ま、まぁ。性格にすごくよくあっているスキルだ。使い方は知らないけど……。
「続いてセチア・サスリエ。前へ」
「は、はい!」
続いて一二歳のセチアさんが呼ばれ、右手と右脚、左手と左脚が同時に出ており、ガチガチに緊張した表情を晒しながら歩く。持っているロウソクの火が消えそうになると慌てて止まり、勢いが戻るとそのまま歩き出す。
セチアさんは神父の前に到着し、軽くお辞儀をした。
「セチア・サスリエにスキル『武器使い』を授ける」
神父様がセチアさんの持っているロウソクについている火に息を吹きかけると、火がセチアさんの中に入っていく。
セチアさんは頭をペコリと下げて、もといた席に戻っていった。
そこから多くのスキル付与が行われたが『剣聖』などの化け物スキルは与えられなかった。
全ての人がスキルを受け取り、神父の目が光っていたのが元に戻る。
「ふぅ……。女神がお戻りになりました。では、一言私の方から言わせていただきましょう。皆さん、長い間お疲れさまでした。この場にいる方、全てにスキルが無事付与されたことをお慶び申し上げます。今、女神から頂いたスキルですが、スキル名だけでは良いスキルか悪いスキルはわかりません。例え不必要なスキルだと思っても、これから、皆さんと共に成長していくのです。スキルで人は変わりません。是非、己の信じた道を突き進んでください。その道に、今与えられたスキルが必ず役に立ちます。では、私からは以上です。これから、宴に入りたいと思います」
神父様が一礼すると教会の外で大きな声が上がり出す。神々へのお供え物を送る時間だ。
スキルを貰った子供達は教会の外に出て用意されている食べ物や飲み物が街の人々によって振舞われる。今回は人数が多いので人の誘導が大変だったが、お父さんやお母さん、トラスさんにスグルさん、ライト、シャインなどで喧嘩が起こらないよう配慮しながら人々の流れを動かす。
「キララちゃ~ん! やった~、スキルを貰ったよ~」
私のもとに胸をバインバインと跳ねさせながら真っ赤でキラキラ光って見えるメリーさんが走って来た。そのまま、私に抱き着いてくる。
「ふぐぐぐっ!」
私の顔は大きな大きな胸の谷間に挟まり、窒息しそうになった。だが、いつもと少々違う……。
「ん? なんか疲れが飛んだ……。もしかしたらスキルの効果なのかも……」
「私のスキルは『包容力』って言うらしいね。抱き着いたら相手が回復するのかな?」
「どこまで効くんでしょうね……」
私は自分で試してみるかどうか迷った。どこかに調子の良い相手がいないだろうか……。
「キララー。お~い。何してるんだよ」
私が実験台を探していたらいい所にレイニーがやって来た。
――ベスパ、レイニーの脚を持ってこけさせてくれる。
「了解です」
ベスパは走ってくるレイニーのズボンを持った。すると、レイニーは盛大にこける。加えてズボンが脱げた。
「レイニー! 大丈夫~!」
私はいかにもな芝居を打ち、駆け寄った。
「いたた……」
「レイニー、おっちょこちょいすぎだよ~」
メリーさんはレイニーのもとに寄って来た。胸もとがガバッといた赤いドレスを下から見上げると美しいの一言しかない。レイニーもメリーさんの綺麗な姿に目を奪われていた。
「どう、レイニー。私も少しは大人らしくなったかな……」
メリーさんは少々乱れた長い髪を耳に掛けながら言う。
私は「メリーさんはすでに大人らしいです」と言う突っ込みはせず、レイニーの言葉を待つ。
「あ、ああ……。そうだな。大人らしいんじゃないか……」
レイニーはメリーさんから視線を背け、膝を隠す。どうやらすりむいてしまったようだ。メリーさんがレイニーの手をどけさせると膝から血が出ていた。
「もう、すりむいたのなら言わないと駄目でしょ……」
メリーさんは体を光らせながらレイニーに抱き着く。すると膝の出血が止まり、傷が癒えた。回復魔法と近しい効果があるようだ。どこまで治せるのかわからないが、とりあえずメリーさんは回復魔法を手に入れた状態に近い。
「ふぐぐ! メリー、は、離せ。もういいって!」
レイニーはメリーさんに抱き着かれて下半身まで元気になってしまったらしく頑張って隠そうとしている。
「もうちょっとこうしていたいー」
メリーさんはレイニーの生理現象に気づいておらず、大きな乳を彼の顔面に押し付けていた。
可愛そうだと思った私はズボンをレイニーに返し、さっきの生理現象は見なかったことにした。
「たく……。その抱き着き癖は直せよな……。って、キララ。いつまで教会の中にいるんだよ。早く外に出て、人の誘導を手伝ってくれ」
レイニーはズボンを履き、ベルトの金具をしっかりと閉める。
「わ、わかったよ」
私はレイニーについていき、教会の外に出た。すると、あまりの人の数に目が回りそうになる。教会の前が東京のスクランブル交差点状態で、人酔いしそうだ。
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