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『ゴミ』スキルだと思われている『虫使い(蜂)』が結構使えるんですけど!<異世界冒険食べ物学園ダークファンタジー(仮)>  作者: コヨコヨ
流行病と聖典式 ~街で公演ライブ編~

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紙コップ一杯金貨五十枚

「うわ、もの凄い舞台……。あと天幕の数……。これ、キララちゃん達が全て行っているのか?」


 スグルさんは聖典式に来る予定が無かったのか、教会周りを見渡して驚いていた。


「はい。私達の牧場で働いていている従業員総出で準備をしています。もともとは村で行う予定だったんですけどね。聖典式に出る人数が少なかったので街の方でまとめて行うようにしたんですよ」


「なるほど……」


 スグルさんは規模の大きさに震えていた。そりゃあ、五年間もドリミア教会のしゃばい聖典式を行ってきたんだから当たり前だ。


「あ、スグルさん。お久しぶりです。なるほど、姉さんはスグルさんを呼んできたんだね」


 聖典式の準備をしていたライトが私たちのもとにやって来た。


「ライト君。すごく決まった格好をしているね……。と言うか、周りの人、全員決まってるな……」


 スグルさんのよれよれの白衣が浮いてしまうほど私達の衣装が洗礼されていた。


「ま、スグルさんはその方が落ち着くと思うので別にいいんじゃないですか。あと、姉さん。隣にいる獣族の綺麗な女性は誰なの?」


 ライトはトラスさんの方を見て私に聞いてきた。


「えっと、こちらの方はトラスさんと言って街のギルドで受付嬢をしているんだよ。物凄く強くて街の人や冒険者さんから人気があるの。だから、手助けしてもらおうと思って」


「なるほどなるほど。ハジメマシテトラスサン。ボクノナマエハ、ライト・マンダリニアトイイマス。ネエサンノオトウトデス。イツモネエサンガオセワニナッテオリマス」


「にゃにゃ! ビースト語……。しかもすっごく流ちょうにゃ……」


 トラスさんはライトの語彙力に驚いていた。


「ライト君はビースト共和国に行った覚えがあるのかにゃ?」


「いえ、教本で覚えました。発音はあっていましたかね? 文章を読む際、型に一番はまった喋り方をしてみたんですけど」


「…………て、天才にゃ。今の流暢さなら、どの獣族が聞いても絶対聞き取れる喋り方なのにゃ」


 トラスさんは目を丸くして驚いていた。


「はい……、天才なんです」


 私とスグルさんの声が重なり、場が静まる。


「トラスさんのルークス語、とてもお上手ですね。すごく聞き取りやすくて話しやすいです。僕、獣族の方と話すのは初めてなのでとても新鮮です」


 ライトはイケメンスマイルでトラスさんと会話をした。


「にゃ、にゃあ……。そんなに褒められると照れるのにゃ……」


 トラスさんは八歳児に手玉にとられていた。まぁ、ライトの本心だと思うので口出しはしない。


「話したいのはやまやまですけど、今は聖典式の準備があるのでまた後で。では失礼します」


 ライトは地面に魔法陣を発動し、浮き上がる。そのまま、他の仕事場を見て回って指示を出していた。


「う、浮いてるのにゃ……」


「はは……。浮いてますね。色々と……」


 トラスさんはライトの姿を見てぽかーんと口を開けたまま、固まっていた。思考停止してしまったようだ。


「トラスさん。大丈夫ですか? 意識ありますか?」


 私はトラスさんの大きな胸を突きながら言うと、トラスさんははっと我に帰り、頭を振る。


「ニャーの馬鹿な頭で考えてもわからないのにゃ。それで、ニャーたちは何をしたらいいのかにゃ?」


「二人は街の人たちに紙コップに温かいキラキラ光る水を入れて渡してほしいんです」


 私はトラスさんとスグルさんを天幕の下に移動させる。その場には給水器があり、コックを捻ると水が出てくる仕組みになっていた。まぁ、出てくるのは特効薬なんだけど……。


「私が一度やって見せるので、覚えてくださいね」


 私は逆さに積まれた紙コップを一個手に取り、給水器のコックを捻って特効薬を出す。液体を紙コップで受け取り、一杯分溜まったらコックをもとに戻す。


「これだけです。あとは来た人に配って行ってください」


「き、キララちゃん……。それ……」


 スグルさんは見た途端に気づいたのか、震えていた。


「シーですよ。スグルさん。今、流行病が蔓延しているんですから、これくらいしないと押さえられません」


「そ、そうかもしれないけど……。さすがに……」


 スグルさんは給水器の大きさを見て大量の特効薬が中に入っているとわかってしまったらしく、苦笑いしか出来ていなかった。


「はい、トラスさん。一杯ぐぐ~っといっちゃってください」


「わ、わかったのにゃ」


 トラスさんは特効薬を天然水で薄め、温めた液体を飲む。


「ぷは~! 美味しいのにゃ~!」


「あぁ……。金貨五〇枚……」


「スグルさん。静かに……」


 スグルさんは特効薬と聖水がほぼ同じだと知っている数少ない人物なので、私がとんでもないことをしているとわかっている。

 紙コップ一杯で二〇〇から二五〇ミリリットルくらいだ。つまり、試験管一本とほぼ同じ。金貨五〇枚相当の液体を無料で配っている。

 こんなやばい状況があるだろうか。ちなみに街の人の平均月給は金貨一八枚程度だと言う。ま、知らぬが仏と言いますからね~。


 トラスさんは金貨五〇枚相当の水を飲み干す。


「はぁ~、なんか。頭が痛かったのが素っと引いた気がするのにゃ。なんでなのかにゃ?」


「た、多分水分不足だったんですよ……」


 私はいかにもそうでありそうな発言をする。


「確かに、朝っぱらから水を飲むの忘れてたのにゃ。冬でも水分補給は大切なのにゃ~」


 トラスさんは良いように解釈してくれた。


「えっと、見てもらったように紙コップに水を入れてこの場に訪れた人達に渡して行ってください。それだけです」


「簡単なお手伝いなのにゃ。聖典式を皆で行うのも久々にゃ~」


 トラスさんはグ~っと伸びをして脱力する。猫が背中を伸ばすような緊張感のほぐし方だった。


「スグルさんもトラスさんと同じように手伝ってくださいね」


「はいはい……。わかったよ……」


 スグルさんはもう考えないようにしたのか、了承してくれた。


 午前八時三〇分になると一気に人が集まり始めた。


 午前九時から開催なので残り三〇分しかない。まあ、一〇歳の子供達が集まってきているのとメリーさんやセチアさん達と同じようにスキルを貰えなかった一〇歳以上の子達が集まって来た。


 衣装は私達が用意し、提供している。


 人生で一度の聖典式なのだから、綺麗な服装で気持ちよくなってもらいたい。


 お金は布代と革代の合算だが、ルドラさんが安い布や革を集めてくれたおかげで一人銀貨八枚ほどに抑えられた。


 今の街なら子供でも頑張って働けば稼げる額なので皆、大喜びで服を買っている。私たちの儲けはあまりないがルドラさんの儲けはあるっぽい。

 やはりあの人は商売をするのが上手いなと思わざるを得ない。今は別の場所にいるので会えていないが、聖典式の成功を願っていると言っていた。


「どうぞ~。お水です~。あと花飾りもどうぞ~」


 私は子供達やベスパ、ネアちゃんなどに作ってもらった花飾りを、聖典式を受ける子供達に渡していく。花飾りと言っても布で塗った花っぽい飾りだ。でも、皆喜んでくれている。それだけでもうれしい。


「あ、温かいお水です……。どうぞ……」


「スグルさん、顔が険しいですよ。もっと笑顔で配ってくださいよ」


「い、いや……。そう言われてもな。この紙コップ一杯で二カ月以上暮らせると思うと……、なかなかわたせないんだ……」


 社畜のように働いてもスグルさんは月金貨二五枚くらいだそうで、紙コップ一杯がお金に見えて仕方がないらしい。


「考えないようにしてください。これはただの水です。光ってる水なんですよ」


「そ、そうだよな……」


 スグルさんとは真逆の何も知らないトラスさんはいつもの仕事が生きているのか、流れるように紙コップを渡していく。


「はいにゃ~、はいどうぞにゃ~、はいこっちもにゃ~」


 特攻薬を飲む前の子供達は無理やり笑顔を作っている感じがあったのだが、飲み終わった後はすっきりとした表情で笑いながら教会の中に入っていく。


 皆の気分が少しずつ改善していき、街では実に五年ぶりの盛大な聖典式が行われようとしていた。

最後までお読みいただき、ありがとうございます。


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