聖典式の流れ
「く……、水がこんなにキラキラしていたら、何かおかしいと気づかれる。特効薬を保存しやすいように考案していた粉状にして、皆に配っていたら不自然すぎるし、あまりにも怖すぎる。うぅ、水として配るのは難しいかな……」
私は試験管で掬った特効薬を少し飲む。スポーツドリンクと言いたいが、ただの水の味しかしない。苦くも酸っぱくも甘くもないので、新しい飲み物として発売するのも難しそうだ。
試しに暗い倉庫の中に液体を持っていくと、ばっちり光っていた。もう、ペンライトかよってくらいキラキラだ。夜、こんなに光る液体を配っていたら怪しまれる。配るなら朝か。
私は試験管二本に特効薬を入れ、蓋を閉める。ネオンライトのようなぼんやりとした明るさではなく、太陽光のようなはっきりとした明るさで機械製じゃないと思うと凄い明るさだ。
オタ芸をして体を動かし、脳に酸素を与えると良い案が浮かぶわけでもなく、ただただ疲れた……。
透明じゃない、牛乳パックや牛乳瓶に入れてみても、お洒落な照明器具のように淡い光を放っていた。どうやら、光を遮るのは難しいらしい。少し厚めの入れ物にしたら光は通さなくなったが飲みにくさが尋常じゃなかった。
「はぁ、どうしよう。皆に不審がられずに光る液体を飲めるようにするには……、何かいい方法ないかな」
「ん~、普通に信用されている人が配れば皆、飲むんじゃない? あの人が飲んでいるなら大丈夫って言う心理を利用するんだ」
ライトは顎に手を置きながら言った。
「信用されている人……。リーズさんとかかな。病院の先生が大丈夫ですよ~って進めてきたら、さすがに皆、信用してくれるよね」
「そりゃあ、自分達よりも各段に知識が豊富な相手で街のために尽力してきたリーズさんなら、信頼に十分値すると思う」
「じゃあ、リーズさんにお願いして聖典式に参加してくれる人に温めた光る特効薬を配ってもらう。何かしら、うたい文句を着けて渡していけばすぐに広まるはずだ。そうすれば、街の中で病気に掛かる人が物凄く減る。ただ……」
私は街に王族がいるという状態に危機感を覚えていた。
――ベスパ、明日は聖典式だけど、アレス王子たちは街にまだいるの?
「どうやらそのようですね。王都でも、同じ時期に聖典式が行われますから、多くの人が集まります。流行病が蔓延している国内に、次期国王が残っている方が危険と言う判断でしょう」
ベスパは私の頭上を飛びながら言う。
――そうだよね。多分、国の内情が納まったら戻るんだろうな。私が歌って踊っている姿は普通に見られたくない。絶対に面倒なことが起こるとわかるし。でも、どうにかするとしても、アレス王子に寝ていてもらうくらいしかないよな。
「『ハルシオン』の効果を長くして聖典式の間は眠っていてもらうと言うのはどうでしょう?」
――一番堅実的かな。アレス王子以外は脳筋っぽいから、深く考えないと思うけど、一応、全員眠ってもらったほうが身のためかも。
「ただ、いきなり全員が眠ってしまうのは不可解すぎますよね。明日の朝、眠ってもらい、一日眠り続けてもらうと言った作戦に出るしかないかと」
――何か、寝込みを襲う暗殺者みたいな考えだね。でも、無駄に話を大きくしないためにはしかたないか。私が歌って踊らないと言ったら聖典式が行えない。
私は歌って踊るしか選択肢が無い。村の人以外に見せてどういう反応をされるだろうか。楽しんでくれたらいいけど、変な人に絡まれるのも嫌なんだよな。その時はベスパに何とかしてもらうしかないか。
「はぁ、考えていても明日になってみないとわからない。準備はほぼ完璧だし、明日、何か別の問題が起こっても、冷静に対処する。それしか明日を乗り切る方法が無い。ベスパ、気を引き締めていくよ」
「了解です!」
ベスパはびしっと立ち、翅をブンブンと鳴らす。
――ライトとシャイン、お父さん、お母さん、子供達諸々、総出で明日は聖典式を支えなければ。成功はない。最後の最後に大仕事が残っているなんて……。でもやっぱり、ライブ公演って多くの人が頑張ってくれてたんだな……。自分で準備してみて大変さがしみじみわかったよ。
私は夕食中に明日の聖典式の流れを家族に話す。
「聖典式は午前中に行われます。午前九時から教会でスキル付与が始まる予定なので村を午後四時過ぎに出発します。街の到着予想時刻は午前七時過ぎ。この時は私達と村の子供達で一斉に移動するのでそのつもりで」
「わかった。移動手段はバートン車でいいんだな?」
お父さんは頷き、質問してくる。
「うん。雪は最近降っていないし、除雪と道路の地固めは事前にやっておくから、バートンでも十分移動できるはずだよ。荷台の点検も終わってるし、問題はない」
「そうか」
「午前七時過ぎに街に到着しだい、聖典式が行われる教会に直行します。その場で天幕を張り、雨の場合でも決行できるよう準備を進めていき、聖典の儀を受ける子供達の誘導と記念品を渡す。ライトとシャインは不審者が現れても対処できるようにすぐ動けるようにしておいて。大人の騎士が守るより、子どもの方が油断されやすいからね」
「了解だよ、姉さん。警備と補助をするなら、服装はなるべく子供っぽい方がよさそうだね」
「わかったよ、お姉ちゃん。悪い人は片っ端から捕まえちゃうからね」
ライトとシャインは共にやる気十分。風邪も引いてないし、体調がよさそうだ。
「お母さんと私、街で病院の先生をしているリーズさんに教会と村の子供達には訪れた人たちに温かい飲み物を渡す。飲み終えた紙コップを捨てるゴミ箱も設置する予定だけど、確実に街にポイ捨てする人が現れるから、ベスパやビー達は街の警備と美化に努めて」
「了解です!」
「ここまでが午前九時までの流れだよ。もう、明日は大忙しだから、時間厳守で行動してね」
「了解」
皆は同じ拍子に頷いた。
「聖典式の時間は人数の点から考えておよそ三時間。その間も私達は温かい飲み物を配り続ける。聖典式が正午に終わる予定だから、その後、私の公演の準備があって盛上りが最高潮になった時。私の予想だと多分、大人にお酒が入って子供達が遊びだし、飽きて来たなと思うくらい。何かを欲していると感じた瞬間を狙う。ま、ここら辺は全部私とビー達で行うから、皆は観客たちの誘導をお願い」
「了解」
「私の公演は出来れば一時間、最低で五分。体力と天候、場の雰囲気で変わるから、そのつもりで。あと片付けはビー達がしてくれるから、私の公演が終わったら村に即座に戻る。村に帰ってくる時間はわからないけど、多分暗くなっていると思うから、団体行動を重視して」
私は明日の流れを簡単に説明した。もちろん、全て完璧に行く可能性は限りなく少ない。でも、何をするのかを知っていた方が流れを変えやすいはずだ。
「ふぅ……。明日は大変な一日になると思う。皆で乗り切れば、団結力も上がるし、街での知名度も上がる。牛乳がもっと売れるようになれば牧場の拡大も進めて行ける。頑張ろう」
私は牛乳瓶を持って掲げた。皆も同じように掲げ、一斉に飲む。喉に流れてくる優しい甘みが心の緊張をスーっと溶かしてくれた。
「ぷは~。美味しい。やっぱり、牛乳はいつ飲んでも美味しいな」
私はおじさんのように呟く。中身は三十路のおばさんだけどね。
私は夕食を得たあと、体をしっかりと拭いて習慣の勉強をしてから眠る。疲れは残さず、完全回復を目指す。
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