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『ゴミ』スキルだと思われている『虫使い(蜂)』が結構使えるんですけど!<異世界冒険食べ物学園ダークファンタジー(仮)>  作者: コヨコヨ
流行病と聖典式 ~街で公演ライブ編~

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根性論

「じゃあ、ウシ君。オリーザさんのお店に行ってくれる」


「わかった」


 今日、私は最後にオリーザさんのパン屋さんに向った。


 お店の前は開いており、普通に入れる。さすがに午後五時を過ぎていると人の通りも落ち着くようだ。ベスパにクーラーボックスを持ってもらい、お店の中に入る。


「いらっしゃいませ……。ゴホッゴホッ……。あ、キララちゃん」


 オリーザさんの妻のコロネさんが風邪っぽい咳をしながら接客をしていた。


「コロネさん。体調が悪いのなら無理に働かず、寝ていた方がいいですよ」


「はは……。そ、そうだよね……。でも、働いてないとソワソワしちゃって……」


 コロネさんも仕事人なのか、何か作業をしていないと逆に体調が悪くなるという。


「なら、私があげた特効薬を飲みましたか?」


「いや、あれは本当にきつい時に飲もうと思って取ってあるの。どんな大病に掛かっちゃうかわからないでしょ」


 ――あぁ、完全にエリクサー症候群になっていますね。コロネさん。使いどころが無くなって結局後悔するやつですよ……。


 エリクサー症候群とは高級な物は何かあった時のために残しておきたいという人の心理現象である。簡単に言うと、どんな敵でも一撃で倒せるアイテムを魔王に使わずずっと持っているような状態だ。なんせ、魔王の上の敵が出てきた時にアイテムを使ったほうが有意義だから。

 でも、出てこなかったらどうするのか……。

 使いどころを失った最強のアイテムほど無価値な物も無いだろう。


「コロネさん。今すぐに使ってください。どんな風邪だとしても体内の赤子にとっては悪影響です。全部飲む必要はありませんから、数滴を水に混ぜて飲むだけでも効果はありますよ」


「そ、そうなんだ。わかったよ、キララちゃん。私、良いお母さんになるために貰ったポーションを飲むね! ゴホッゴホッ……」


 コロネさんは布で口を押え、飛沫感染は防いでいた。まぁ、普通に空気感染しそうだけどね。かくいう私も風邪を引かないようにしないと。

 ドジな私だ。どうせ、何か失敗するに決まっている。その時のために対策を考えないと。って、今は仕事中だ。


 私はコロネさんにお店の中に入れてもらい、料理場の方へと歩いていく。


「おお、嬢ちゃん。来たのか。いや~、最近は売れ行きが上々で笑いが止まらないぜ。ゴホッゴホッ! ゴホッゴホッ!」


 ――いや、それは笑いじゃなくて咳だから。どういう感覚してるんだ。


「えっと、オリーザさんも特効薬を飲んでください。病気かもしれないと思った時に特効薬を飲んだほうが辛くなった時より楽ですよ」


「俺は生まれてから一度も風邪を引いた覚えのない健康体だ! 風邪なんて気合いでどうにでもなる! ゴホッゴホッ、ゴホッゴホッ」


 ――はぁ……。こういうバカな人が風邪を蔓延させるんだろうな……。


「風邪は人を殺します。赤子の死因の殆どが風邪、又は栄養失調です。大人だって病気で死ぬことが多いと思いますし、なめていたら苦しんで生を全うすることなくあの世行ですよ」


 私はオリーザさんを威圧しながら言った。

 なんせ、オリーザさんのすぐ近くにお腹に子を身ごもったコロネさんがいるのだ。

 これから父親になる男が根性論を垂れ流しているのはあまりにも恥ずかしい。

 まぁ、この世界の男の人はこんな感じの人が多そうだとは思う。致し方ない。

 でも、私の眼が黒いうちは見逃したりできない。


「オリーザさんはいきなり咳が出始めた。子供のころから健康体だったのなら喘息持ちという訳でもないし、今の季節は冬。花粉もあまり飛んでいないでしょう。これだけで風邪の初期症状なのは明白です。無駄な意地は捨てて風邪を治してください。オリーザさんは体力があって耐えられるかもしれませんが、子どもやお年寄りは違います。自分以外のことも考えた行動をしてください」


「は、はい……」


 私の長々とした説教が堪えたのか、コロネさんとオリーザさんは特効薬を飲み、たちまち回復した。ほんと強いな、特効薬。


「すまなかった、嬢ちゃん。本当は頭が痛すぎてどうにかなりそうだったんだ……。あのまま意地を張っていたらきっと倒れていた。その前に叱ってくれてありがとうな。この歳になると叱ってくれる相手がいないんだ」


 オリーザさんは私の頭に手を置き、グシャグシャと撫でてくる。私の綺麗な髪が乱れるからやめてほしい。でもまぁ、褒められるのは嫌いじゃないので、多めにみよう。


「はぁ。でも、子どもの話しを真面目に聞き入れられるオリーザさんはすごいと思いますよ。普通は聞く耳を持たないか、罵倒するのが落ちですから」


「ま、俺は嬢ちゃんに今までいろいろと世話になってるからな。素直に聞き入れられたよ。レイニーに言われていたら切れていたかもな」


 オリーザさんは苦笑いをして頬を掻く。


 私はオリーザさんから金貨が五〇枚入った袋を貰った。バターと牛乳を合わせ、一割引きの価格で販売している。


「確かにいただきました。では私はこれで失礼します。オリーザさんは三日後の聖典式に参加しますか?」


「俺はパンを出すからな。早朝から仕込んで一日中、パンを無料で配る予定だ」


「なるほど。他のお店の方々も同じことをするんですかね?」


「どうだろうな……。店の宣伝になるから、やるんじゃねえかな」


「わかりました。じゃあ、聖典式の日が晴れた時は楽しみにしていてください。楽しい舞台を披露します」


「楽しい舞台……?」


 オリーザさんとコロネさんは首をかしげる。


「まぁ、見てからのお楽しみと言うことで」


 二人は顔を見合わせて頷いた。


「じゃあ、私はこれで失礼します」


 私はオリーザさんとコロネさんに頭をさげ、お店を出た。


「はぁ~。疲れた……。でも、私の仕事は終わったし、あと二日間は体の調整に使える。ふぐぐ~。よし、頑張るぞ~!」


 私は伸びをして気合いを入れる。


 ベスパはお金の入った革袋を持って私の後ろを飛んできていた。


「キララ様。ウロトさんの様態が悪化しました。意識不明の重体です」


「え?」


 今朝、喋っていた感じだとただの風邪に思えたけど、危険な状態に陥ってるの……。でも、レイニーは一日以上経ってから倒れていたし、働きすぎによる身体能力の低下が原因だとリーズさんは言っていた。


「ベスパ、ここからウシ君で移動しても五分以上かかる。ウロトさんに特効薬を飲ませてからリーズさんの病院に連れて行って」


「了解しました」


 私は試験管ホルダーから試験管を一本手に取り、ベスパに投げる。ベスパは試験管を持ち、ウロトさんのお店に向かう。


「病状が変わった……。もう、病原菌の突然変異が起こったのか。遅効性から速効性へ……、重い症状は変わらずか。これは鎮圧するのが難しそうだな……」


 私は病気が街中で蔓延する可能性を危惧していた。なんせ、聖典式は街の人々がほぼ集まる。密集状態になる可能性だって十分ありえる。

 そんな状況を作り出したら、オリーザさんみたいな根性論を持っている人が盛大に病原菌をまき散らすに決まっている。

 本当は中止にしたいところだけど、今、やっと街がぶり返してきたところなんだ。今は聖典式を行ってできるだけ街の活気を上げたい。


 私は前座席に乗り、ウシ君を東門に移動させる。

 今日のところは一度帰る。

 街がどのような状況に陥るのか、ずっと見ている訳にはいかない。ビーを数匹待機させておけば見られるのだから、私も出来るだけ街から離れた方がいいだろう。


「『クリーン』」


 私は手や口内、体、服を綺麗にする。ライトの『クリア』ほどの効果があるとは思えないが行わないよりはマシだろう。


 私が東門に到着すると兵士のおじさんが頭に手を当て、違和感を覚えていた。


「こんにちは。おじさん、どうかしたんですか?」


「いや、なんか少し風邪っぽくてな……。早く帰って寝ないと、と思っていたところだ」


 ――おじさんもか。ここら辺は人通りも多いし、風邪を貰うのも仕方ないか。


「おじさん、この試験管に入っている水を飲んでください」


 私は試験管を手に取り、おじさんに手渡す。


「これは何だ?」


「風邪予防になる飲み物です。少なくとも頭の痛みは消えると思います」


「そうなのか。じゃあ、遠慮なく……」


 おじさんは試験管の蓋を開けてことなく、口を試験管に付けることなく傾け、特効薬を飲み切った。


「くはぁあ~! 美味い水だな。体に染み渡るようだ。うぉ、視界が一気に広がったぞ。額の熱も下がってきたようだ。ありがとうな、嬢ちゃん。まさか、こんな水があるとは知らなかったぞ」


 おじさんは試験管の蓋を閉めて私に返してきた。私は試験管を受け取る。『クリーン』で綺麗にした後、試験管ホルダーに戻した。

最後までお読みいただき、ありがとうございます。


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