レモンに酷似した何か・・・
「ん~、なんかすごいパワフルなおじさんだったなぁ…」
「キララ様、良かったのですか?あんな約束をしてしまって」
「私もちょっとやりすぎた気もするけど…おじさんの気持ちを考えたら、私も何かできないかなと思ってさ。それに、この街へ牛乳を売りに来るのは、ちょっと前から考えてたことだし。ここまで運ぶ手段も思いついたんだ、ベスパにはまた協力してもらうから、よろしく頼むね」
「はい!いくらでもお手伝いいたします!」
「よし!それじゃあようやく本題に向いますか!」
私はレクーのサイドバックへおじさんから貰ったパンを詰め込み終えると、背中に乗り、意気揚々と出発した。
「ねえ、ベスパ…。その果物が売られている場所は何処なの?」
「はい…それなのですが、今日は昨日と違う場所に移動しているみたいです」
「そうなの?まぁ、出店なら場所を移動する事くらいあるでしょ。それで、何処に移動したか分かったの?」
「いえ、今探してもらっている途中です。ちょっと待っていてください」
「うん、分かった。まだ朝早いしゆっくりでもいいよ」
日もだいぶ顔を出てきて、人が活発に動く時間帯になってきた。
私はベスパが調べている間、道路で催されている芸能を見て暇をつぶす。
「へ~、この世界でも音楽があるんだ。しかもちょっとギターに似た楽器もあるし。音楽の種類だと…ジャズっぽいかな」
こんな早朝から場所を取り、入念にリハーサルしているのだろう、プロかアマかは分からないが…どちらにせよ、こんな朝早くからご苦労様です。
早朝という時間帯を超え、次第に人々が増えだし始めた。
今日も街では、生誕祭が行われている。
その影響なのか分からないが、色々な人が目まぐるしく行き来し合い、それに伴って様々な催し物が各場所で行われていた。
腕相撲大会みたいな物や、剣をカッコよく振り回している人、火の玉を手で作りお手玉の様にして見せている人もいる。
そうこうしている間に、日は私たちの真上に来ていた。
――ベスパにしては遅いな…どうしたんだろ?
「キララ様…申し訳ございません…」
珍しくベスパが浮かない顔で戻ってきた。
「あ、ベスパ遅かったね?どうかしたの」
「昨日は確実に、キララ様の探している果物を売っている方が居たのですけど…今日はどうしても見つけらず…」
「そうなんだ…でもベスパたちが調べてこの街に居ないということは、今日この街に来てないのかも…」
――でも、売るなら生誕祭が開催している時間帯に来た方がいいよね、儲かるし…。何で今日は来ないんだろう。事件にでも巻き込まれたのかな…。
「ん…キララ様!連絡が入りました。目的の物が発見されたらしいです!こちらです!」
「あ…ちょっと!ベスパ待って!」
ベスパは猛スピードで行ってしまった。
「そんなに早く向かってもこっちは人ごみを縫って追いかけないといけないんだから!」
私とレクーは何とかベスパに追いつこうと、行きかう人の波を縫って移動する。
何とか最も人の多い大通りを抜けることが出来た。
「ふう…ここまで来たら一気に進みやすくなったよ…」
すると、飛んで行ったはずのベスパがこちらに戻ってきた。
「キララ様!すみません、焦りすぎてしまいました…」
「もう!そんなに急がなくてもいいんだから。さ、その出店に案内して」
「はい、こちらです」
ベスパの示す方向に向かっていくと。
大通りとまでは行かないが、そこそこ人通りの多い道に出る。
レクーの上から私の眼に見える範囲で出店を見渡すが、レモンらしき果物を売っている出店は見当たらない。
「ベスパ…何処にあるの?見当たらないんだけど」
「いえ…そこにありますよ」
「え…どこ?」
ベスパが飛んで行き、ある地点で停止し人々の頭上で8の字を描くように飛ぶ。
「え…そこ」
私はベスパの飛ぶ下の方をゆっくりと見下ろしていく。
すると、そこにはどれだけ着ているのか分からないほど、ボロボロになった服を着た少女が立っていた。
右手には黄色い何かを持ち、左腕に掛けているバスケットにはその黄色い何かがいっぱい入っている。
行きかう人たちに話しかけ、どうにか黄色い何かを買ってもらいたいような…切羽詰まった表情で、人々に話しかけていた。
私はレクーから降り、その少女のもとへ歩いて行く。
「あの!これ買ってくれませんか!銅貨1枚です。酸っぱくてスカッとしますよ…あ、あの!買ってくれませんか!お願いします!あ…あの!…はぁ」
その少女は行きかう人々に声を掛けるが…全く相手にしてもらえず、次第には。
「おい!邪魔なんだよ!そんな所に突っ立ってるんじぇねえ!こっちは時間がねえんだ!」
「す…すみません」
怒号を叫ばれる始末だ…。
誰も少女を見ようとはせず、ただ歩いて行くだけ。
行きかう人々の表情は何処か、余裕のない表情だった。
「あ!」
少女は大きな男性にぶつかり、派手に転んでしまった。
左腕に掛けていたバスケットの中身が散らばってしまう。
扇上に広がった黄色い何かは、道行く人々に潰され…蹴られ…地面に液体が沁み込んでいく…。
爽やかな香りが一帯に広がり…かつての記憶が蘇る。
黄色い何かが…私の足もとに1個転がってきた。
転がってきたものを手に取り、見て…触って…嗅いで…確信する。
――このテニスボールくらいの大きさ…この楕円形、鮮やかな黄色、爽やかな匂い、間違いないレモンだ!まだ食べてないから分からないけど…ここまであっていて逆にレモンじゃないわけがない。
私は地面に散らばっているレモンの中で何とか踏まれていない物をかき集め、少女に手渡す。
少女を真正面から見たが、中々に可愛らしい子だった。
綺麗なブロンド色の髪に透きとおった肌、ブロンズの瞳は全てを吸い込んでしまいそうな深さを秘めている。
身長から見て、双子たちと同じくらいの年齢だろうか。
しかし、ちゃんと食べ物を食べているのか、服で隠れてはいるが腕や足はかなり細ばっている。
顔いろも悪く、何処からどう見ても体調が悪そうだ。
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