神様の加護を分ける玉
「メリーさん、セチアさん。頑張っている二人にお年玉を送ります」
「お年玉……?」×メリーさん、セチアさん。
「お年玉と言うのは神様にお供えしていた……って、説明しても意味ないか。えっと神様の加護をお金に変えて分け与えるというありがたい行事です」
「そ、そうなんだ。じゃあ、一生大切に保管しておくよ」
セチアさんは何て尊い心を持っているんだろうか。お金は使わないと意味がないのに……。
「いえ、使ってください。神様の心を世に回すという考えでパ~っと好きなことに使えば良いですよ。じゃあ、私は子供達のもとに行ってお年玉を配ってきます」
私は家の横に置いてある手押し車に小袋を入れ、運ぶ。ベスパ達にお願いしてもいいが、今は仕事で忙しいと思うので自分で出来ることは自分で行うのだ。
手押し車を使い、金貨を運んだ私は子供達の家に到着した。
扉を数回叩く。そのまま自分の名前を答えた。
「皆、キララお姉ちゃんだけど、開けてくれる?」
私が声を掛けると廊下を走るドタドタ音が聞こえてくる。この軽快なステップ音は天使の踊り子こと、テリアちゃんだろう。
「キララさん! こんにちは! こんな寒い日に来てくれたんですか!」
やはりキラキラ可愛いテリアちゃんだった。
「こんにちはテリアちゃん。ちょっと中に入るね」
私は小袋を纏めて入れてある麻袋をグググっと持ち上げ、家の中に運ぶ。そこまで重くないがずっと持っているとしんどい。
私は居間に入り、手洗いうがいをする。窓を開けて換気を行い、部屋の空気を新鮮にした。
「ひゃぁ~、寒いぃ~」
テリアちゃんは居間に置いてある薪暖炉に張り付く。テリアちゃんの頬が炎の赤色に染まり、燃えているようだ。
「空気の入れ替えは必須だよ。風邪を引く確率が上がっちゃうからね」
「うぅ……。寒いのは嫌いですぅ……」
「そりゃあ、皆寒いのは嫌いだよ。でも、一時我慢すれば風邪で長い間苦しまずに済むんだよ。少しでも楽しい時間が増えるように換気は絶対にしようね」
「は、はいぃ……。わかりました」
テリアちゃんは寒さで身を縮め、シュンとしてしまった。落ち込んでいるテリアちゃんも限りなく可愛い。
私の方が罪悪感を受けてしまうほどの愛らしさに胸を苦しませながらも、ここは心を悪魔にして甘やかしたい気持ちをグッと押し殺す。
「えっと、テリアちゃん以外の子供達は?」
「皆、外で遊んでいます。私は寒いのが苦手なのでカイト君と家でお留守番をしてました」
「そのカイト君が見当たらないんだけど……」
「カイト君は薪を取りに行ってくれています。家の裏側だと思うんですけど、少し遅いですね……」
――まだ四歳の子に薪を運べるのだろうか。シャインならまだしも、難しいはずだ。
「ちょっと見てくるよ」
私は裏庭に向かい、薪置き場を見る。すると、カイト君が大量の薪を積み上げ、一気に持ち上げようとしていた。
「ちょ、ちょちょ、ちょっと待って。カイト君、いきなり多すぎだよ!」
「あ、キララさん。テリアちゃんに温かくなってもらおうと思って、これくらいあれば一日中薪暖炉を使っていられるはず……」
カイト君は高さ一.八メートルほど薪を積み上げていた。どうやってそこまで積んだんだと思うが、薪が倒れてきたらひとたまりもない。
「カイト君、いったん離れて。倒れてきたら危ないよ。私が手押し車を持ってくるから、それで運ぼう」
私は家の前に置いてあった手押し車を裏庭に移動させた。魔法でてっぺんの薪を降ろしていき、手押し車に移動させる。パンパンになったら二人がかりで部屋まで運び、木の籠に並べていく。
「はぁ、はぁ、はぁ……、疲れた……」
私は椅子に座ってテーブルにへたり込んでいた。
「ごめん、テリアちゃん。薪、沢山持ってこれなかったよ」
カイト君は小山座りをしながら呟いた。
「ううん、いいの。カイト君が私のためにしてくれてすごく嬉しかったよ」
テリアちゃんはカイト君の手を握りながら言う。
「テリアちゃん……」
「カイト君……」
二人はそのままキスでもするのかと言う雰囲気でギュッと抱きしめ合った。
――どこのバカっプルだよ。ちっ! 四歳児に負けるとは……、早熟すぎるでしょ。って、何四歳児に張り合ってるの。あれはきっと遊び、幼稚園、保育園の頃のおままごとと一緒だ。多分……。
私は子供達が戻ってくるのを待った。三〇分ほどして汗だくの子供達がぞろぞろと家に帰ってくる。皆、覚えたての魔法を使い、水球を出して手洗いうがいを行った後、居間にやってきた。
教室に生徒たちが詰め込まれたような状態だが、授業をするわけではない。
私は小袋を子供達に渡していく。お金を貰えるという行為は何にも代えがたい快感だろう。働かずしてもらえるお金なんてお小遣いとお年玉くらいしかない。
「キララさん! ありがとうございます!」×子供達。
多くの子供が笑顔で私に感謝をくれた。子供から感謝されるというのはとても嬉しい。そもそも感謝されるという行為が嬉しいのだ。なので、何か嬉しいことをされたら大きく感謝しよう。
嘘臭いなと思われるくらいでちょうどいい。彼女からいらない財布を貰ったとしても「うわぁ~! ありがとう! 滅茶苦茶嬉しい! ずっと大切に使うよ!」くらい言ってもらえた方があげた方も嬉しい。
その点、子供達は万点だ。もう、文句の付けようのないくらい盛大に喜んでくれている。金貨の入った小袋を握りしめて飛び跳ね、近所迷惑なくらいワイワイしている。
周りに人はほぼいないのでどれだけ大きな声で騒いでも苦情が来ることはない。でも、これだけの数が騒ぐと少なからず風邪が蔓延する可能性がある。こまめな換気をしないとな。
私は窓を開けて空気を入れ替える。子供達は風の子と言うくらい寒さに強い。なら多少の寒さは気にしないだろう。換気を始めても子供達の騒ぎ用は変わらず、夕方でも活力が有り余っているようだ。
そりゃあそうか。ずっと牧場で働いていたのだから、体力は付いているよな。その体力を持て余しているのももったいない気がするけど、休養は大切だ。
「皆、楽しくお休みを過ごしてね。他の人に迷惑を掛けないように、自分がされたら嫌なことを他の人にしないこと。わかった?」
「は~い!」×子供達。
子供達は大きく手を上げて、返事をした。小学校の子供達みたいで可愛らしい。ま、皆、ライトとシャインから英才教育を受けている訳だから、そこそこ学力と体力を兼ね備えている。お金さえあれば学園にも行けるんじゃないかとかってに思っていたりするくらいには優秀な子供達だ。
私は子供達の家から出る。すると、セチアさんとメリーさんが帰って来ていた。同じように、ガンマ君も戻ってきている。シャインと手を繋いじゃって……、ラブラブじゃん。
「セチアさん、メリーさん。髪飾りの方は順調ですか?」
「まぁ~、ぼちぼちかな。あと六日で完成させないといけないと思うと大変だけど、頑張るよ」
セチアさんは両手を握りしめ意気込む。
「いや~、家の中でも練習しないと間に合わないよ~。私、手先がぶきっちょで大変大変。ほんと自分で髪飾りを作りたいと言ったのが失敗だったと思いたいくらい難しいよ」
メリーさんは珍しく弱気だ。いつもはイケイケお姉さんなのに、今回はシュンと肩をすぼめて弱弱しい。
セチアさんとメリーさんは家の中に入っていった。
「しゃ、シャインさん、手はもう握らなくてもいいですから……。これ以上握られると照れてしまいます……」
「さ、寒いんだから仕方ないでしょ。握りあっていないと手が悴んじゃうんだもん……」
シャインとガンマ君は付き合いたてほやほやのカップルのようなやり取りをしているが、そう言う関係ではない。
さっさと付き合っちゃえよ~とは思うが、互いに八歳児だ。小学二年生から三年生くらいの子供が付き合うとか、意味がわかるわけない。
こっちの世界だとそうでもないのかな……。いや、年齢と精神はほぼ比例する。ならば、二人はまだまだ若い子共だ。こうやって愛を知っていくんだろうか。ドキドキする気持ちを育んで心が成長するのかも……。あぁ~いいなぁ~。私もドキドキしたいな~。
私が心の中で叫んでいると、ガンマ君とシャインが私の姿に気付き、手をさっと放してしまった。先に手を放したのはシャインだ。私がお邪魔だったかな……。
「シャインがガンマ君を送りに来たの?」
「そうだよ。だって、ガンマ君より私の方が強いんだもん」
「ま、まぁ、そうかもしれないけど……」
――シャイン、そう言うのははっきりと言うことじゃないんだよ。男の子にも誇り(プライド)があるからさ。
「えっと……、シャインさんは僕と出来るだけ長くいたいからって言う理由でついてきたんですよ」
「ちょっ! ガンマ君、何で言うの!」
「え? 言ったら駄目でしたか。すみません、ちょっと嬉しかったのでつい言ってしまいました」
――なになに、ただのラブラブカップルやんけ。男っぽい性格のシャインに好意を抱いてくれるのは幼馴染と言ってもいいくらい年の近しいガンマ君くらい。この先、仲が悪くならないことを祈るか。
私はシャインとガンマ君の邪魔をしまいとさっさとお暇して家に帰る。
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