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パン屋のおじさん

ほどよく時間が経過し、ちらほらと屋台が出店しだした。


この時間は冒険者たちが買う食料や、新鮮さが重要な食べ物、朝食やちょっとしたお弁当のようなものが売られている。


「キララ様!私たちも何か食べましょう」


「そうだね…ちょうどお腹もすいてきたし。ここの街でどんな食べ物が食べられているか調査しよう」


私たちはレモンに似た果実を売っているお店に向いつつその間に出ているお店を回ることにした。


軍資金は結構持ってきてあったし、それにさっき幸運にも多くの軍資金をゲットできたため、私の財布の口は緩くなっていたのだ。


「ん~いい香り…あ!パン!」


屋台を歩いていると何処からか香ばしくも、優しくいい匂いがしてきていたのだが…その正体がまさかの


『パン!』


「黒じゃないパン!白パンだ!そりゃあ黒パンがあるんだから白パンだってどこかにあると思ってたけどまさかこの街にも売っていたなんて…でもどうやって作ってるんだろう。発酵とかできるのかな…」


フラフラと花に集まる蜂のようにそのお店に吸い寄せられていき…私はお店の中に入ってしまった。


店に入ると、結構おしゃれな感じだ…。


主に白パンと黒パンが売っている。


――うわ…ふわふわだ…こんなパンにまた巡り合えるなんて…。


白くこんがりときつね色に焼きあがったパン…どうやら出来立てのようだ。


とりあえず私はその白いパンを食べてみることにした。


「え~と、1個銀貨1枚!…結構高いな。でも食べてみない事にはどんな感じか分からないよね」


私は、パンを作っているおじさんに話しかけた。


「すみません!この白いパン1個ください」


「銀貨1枚だ」


私は持って来ていた小さな袋から銀貨1枚を取り出し、おじさんに渡す。


おじさんは紙袋に白パンを1個入れ、黒パンを1個入れてくれた。


「はいよ、黒パンはおまけだ。これからもご贔屓に」


「ありがとうございます!」


私は店を出て白パンを紙袋から取り出す。


「うわ…軟らかい、出来立てでアツアツだよ…」


私は大きな口を開け、白パンを一口食べる。


「うううぅぅぅ…おいじぃぃ…」


久々に食べたその触感風味はあの頃を思い出させる…


一瞬で平らげてしまった。


「この白パン…黒パンの値段が1個銅貨1枚だから。10倍の値段だけど…納得の味だわ」


私は、もう1個の黒パンにも手を付ける。


「あれ…この黒パン、いつもより柔らかいな…出来立てだからなのかな」


私の知っている黒パンはもっと硬い、歯で噛み千切るのは難しく手でちぎって小さくしてから食べるといった方法をずっと行ってきた。


しかし…今手に持っている黒パンは随分と柔らかい。


「これならそのまま食べられるかも」


そう思い、私は白パンと同様大きな口を開け黒パンに齧り付く。


「うん…美味しい。やっぱり出来立てだからかな、いつもより柔らかくて食べやすい。香ばしくて良い匂いもするし…。その所為か、食欲をそそられるし、白パンよりも中身が詰まっているからすごい食べ応えがある。これで白パンの1/10の値段ならすごいお得だよな…」


何時もより早口でパンの紹介をしてしまった…。


それくらい今の私はテンションが上がっている。


しかし…私は疑問に思った…、この白パンと黒パンの材料はいったい何なのかと…。


――思い立ったらすぐ行動!


それが私のもっとうなのだ。


すぐさま店に戻り、おじさんに話を聞く。


「おじさん!少しいいですか?」


「お…なんだ、さっきの嬢ちゃんか。どうしたんだい?」


「その白パンと黒パンの材料って何なの?」


「材料…材料を聞いてどうするんだ?」


おじさんは不思議そうに聞き返す。


「い…いやぁ、単純に気になっただけです」


「そうか…変わったお嬢ちゃんだ、別に減るもんじゃねぇし教えてやってもいいぞ」


「本当ですか!」


「ただし…」


おじさんは白パンを指さす。


「はい!もちろん買わせていただきます!」


私は白パンを4つ買わせてもらった。


家族にもぜひ食べてもらいたかったのだ。


「それじゃぁ教えるぞ…はっきり言っておくが俺の作っているパンは言わば偽装パンってやつだな」


「偽装パン?どういうことですか…」


「その名の通り、パンに似せた食べ物ってことさ」


「え!これ…パンじゃないんですか!!こんなにおいしいのに!」


――驚きだ…これがパンじゃないなんて。


「お嬢ちゃん…本物のパンを食べたことが無いな…」


「ほ…本物のパンとは何なんですか…」――ゴクリ…。


「俺は一度だけ、王都で本物のパンを食べたことがある。その時の味が忘れられず、この街で王都のパンを何とか作れないかと試行錯誤してるんだが…いまだにあの味には足元にも及ばねぇ」


「そ…そうなんですか」


――いや…私さっき此処のパン食べて泣いてきたんだけど…。


「この偽装パンの材料は主に白麦と黒麦だ。黒パンの方は王都に売っている物と此処で売っている物も大して変わらん。だが…、白パンは話が別だ」


「白麦と黒麦…フムフム…王都とどう違うんですか?」


「それこそ材料が全く違う。俺がこの白パンを作る時に使っている材料は、白麦と植物から摂取した油、そして水。この3つだ」


「え…たったその3つだけでこの白パンを作っているんですか…」


「そうだ…そこまで作るのに15年かかっちまったがな」


「15年…長いですね」


「俺が3つの材料で作っているのに対し、王都で作られているパンの材料は白麦、ウトサ、ソウル、エッグ、モークルの乳、モークルの乳から作った油、そして魔法の粉の7つだ」


「全然材料が違う…」


「材料も全然違うが、値段も全く違う。俺のパンは材料がこれだけですんでいるから銀貨1枚で利益を出すことが出来る…。しかし、王都のパンは金貨1枚から数10枚までバラバラだが、確実に金貨1枚以上の値段で売ってる。まぁそれ相応の価値があるんだがな」


「そ…そうなんですか」


おじさんはすごく悔しそうな顔をしている。


「でも…私おじさんのパンすごく好きです。初めてこんなにおいしいパンを食べました。ええっと、私…この街から離れた村で牧場を手伝ってるんですが…その、モークルの乳を売っているんです。何とかしてこの街まで運んで持ってこようと思うんですけど、買ってくれますか?」


私は何をいきなり言い出しているのだろうか…。


しかし、今私に用意できそうなものは牛乳とまだ作ったことは無いけど、バターなら作れる可能性はゼロじゃない…このおじさんの頑張りに私も答えてあげたい。


そう思い、私はこの提案をしてしまったのだ。


「何!モークルの乳を売っているのか!!い…いったいいくらだ。金貨1枚か!それとも…」


「そ…そんな高くないですよ、ええっと…」


――ベスパ!今すぐ牛乳パック作れる?


「了解です!すぐにお持ちします」


私の足もとに、ベスパが牛乳パックを持ってくる。


その牛乳パックを拾い


「このパック1本で銅貨4枚です…あ、これは村で売っている価格なので、街まで運ぶ手間を考えると、高くて銀貨1枚…て所ですかね」


「嬢ちゃん…買った!!!」


ものすごい勢いでおじさんは叫ぶ。


「嬢ちゃん、とりあえず100パックお願いできるか?」


「100パック!!そ、そんなにですか!1度に100パックは難しいです。それなりに村でも人気があるので…」


「そ…そりゃそうか、それなら7日に10パックずつならどうだ?」


「は…はい!それなら全然可能です!」


「今日はなんていい日なんだ…ああ神よ、神のみ心に感謝いたします」


――おじさんが神に祈るとなんかすごく気持ち悪い気がするのは私だけでしょうか…


「え…えっとおじさん…?」


「あ…ああすまない。今までの15年を思い出してたんだ…俺の戦いはここからってことですか。そうだ嬢ちゃんいつからそのパックを持って来られるんだ?」


「いつからでもいいですけど…」


「それじゃあ、明日からお願いできるか?」


――明日か…明日も皆に仕事替わってもらわなきゃいけないけど…。


「はい!分かりました。明日に10本ですね。料金の支払いはお届けした時で構いませんので」


「そうか…なら料金にプラスして…この白パンを…」


おじさんはそう言うと紙袋いっぱいに白パンを詰めて渡してくれた。


「わわわ…こんなにいっぱい貰ってもいいんですか!」


「ああ!構わん!嬢ちゃん、この白パンの味を覚えておいてくれ、この味からどれだけ進化するのか…それを見届けてはくれないか!」


「はい!もちろんです!私を泣かせた味なんですから決して忘れたりなんかしませんよ」


「そうか…俺の名前はオリーザ・サティバ、これからよろしくな嬢ちゃん!」


そう言っておじさんは手を刺し伸ばす。


「私の名前はキララ・マンダリニアです。こちらこそ、パン作り頑張ってください」


おじさんと少女が握手をする。


合法的な握手なので犯罪ではない。


「では…私はまだ行かないといけない所があるので」


「ああ、気を付けてな。モークルの乳を楽しみにしてるぞ」

最後まで読んでいただき、ありがとうございます!


もし少しでも、面白い、続きが読みたいと思って頂けましたら、差支えなければブックマークや高評価、いいねを頂ければ幸いです。


毎日更新できるように頑張っていきます。


よろしければ、他の作品も読んでいただけると嬉しいです。


これからもどうぞよろしくお願いします。

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