下心が無い男
「リーズさん、俺が倒れた理由はいったい何だったんですか?」
「レイニー君が倒れた理由はただの疲れすぎです」
「え? 疲れすぎ……」
「はい。疲れすぎて体調を崩していたんです。私が飲ませたのはソウルがほんの少し含まれた水ですよ。寒くても水分補給をしないと危険ですからね」
リーズさんは回復魔法の緑色の光をレイニーの頭部に当て、静かにしている。
「うん、熱が引いています。もう、退院できそうですね」
「あ、ありがとうございます……。えっと、もう一人の方は」
「重症ですね。回復魔法でも熱が下がらないので、少女の気力の勝負かと……」
――気力って。まぁ、結果的に気力なのはわかるけど、そうだよな。特段効く薬とかないよな。抗生物質とかもないだろうし、死ぬ可能性も十分ある。
「リーズさん、少女の寝ている部屋に案内してもらえますか」
「え……。でも、キララちゃんにも流行病が移る可能性があるんだよ。危険だ」
「私の体は丈夫なので問題ないです」
「いったいどの口が言うんだい。キララちゃんは昔からよくこの病院で入院していたのを忘れたの?」
「あはは……。そうでした……。じゃあ、水分補給の時、水の代わりにこの液体を少々の飲ませてください。そうすれば辛い症状を押さえられるはずです」
私は試験管をリーズさんに渡した。
「これは? 光っていますし、ただの水ではなさそうだね。この光加減……。エリクサーとかかな?」
「エリクサー? って何ですか? 私はエリクサーがどのような液体なのか見た覚えがないのでわかりません。でも、嗚咽や吐き戻しを抑え込めますし、腹痛などにも効きます。なので、少量でいいので飲ませてあげてください。その試験管一本で二リットルくらいの水が薬になると思います」
「えっと、私はこれでも医者ですよ。こんな得体のしれない飲み物を患者に出すわけにはいかない。例えキララちゃんの作った品だとしても……」
「その液体はライトが作り出したものです。研究者さん曰く、聖水とほぼ同じ効果があるらしいです。なので病気にも使えるはずですよ。別に信じてもらわなくてもいいですけど、重症患者には使ってあげた方が楽になると思います」
「せ、聖水と同じ効果……。いやいや、ライト君がどれだけ天才だとしてもただの子供だ。聖職者のスキルを持っていないのに聖水が作れるわけがない。で、でも一応中身は預かっておきます。誰にも言いふらさないから、安心してください。もしこれが本物なのだとしたらキララちゃんとライト君は重罪人として捕まってしまうかもしれない。ほんと天才すぎるのも考えようだね……」
リーズさんは苦笑いをしながら試験管の中身を別の試験管に移し変えた。
「この試験管は返すよ。にしても良い品だね。キララちゃんが買ったのかな?」
「いえ、研究者の方に誕生日の贈り物としてもらいました。もう使わないという、試験管用のホルスターも貰ったので……」
私は後ろを向きローブを捲る。ホルスターには試験管が七本刺さっており、六本に特効薬が入っている。今受け取った試験管を右から二番目にしまう。
「これは……冒険者用のホルスターだね。これもいい品だ。私が冒険者をしていた時にも同じような品を使っていましたよ」
リーズさんは懐かしそうに私の腰に付けているホルスターを触っていた。はたから見たらスカートの中を覗き見る変態なのだが……。
「リーズさん、そろそろ次の……って! なにをしているんですか! 少女のお尻に近づきすぎですよ!」
案の定、病室に入って来た看護師さんの方が、リーズさんが中腰になって私のお尻に顔を近づけている姿を見て怒鳴る。
「え、い、いや。これは断じて違うくて……」
「もう! キララちゃんが可愛いの分かりますけど、大人としての節度を守ってください!」
看護師さんはリーズさんの耳を引っ張りながら退室する。
「いたた! 耳! 耳が千切れる!」
「もう! 早く次の患者さんのところに行きますよ!」
看護師さんとリーズさんは病室の扉を閉めた。
「行っちゃった……」
私達がいる病室に不穏な空気が流れる。時が止まったような、よどんだ空気だ。
「あ、換気しないと」
私は木製の窓枠に手を添えて、ガラス窓を横に動かし、室内の空気を入れ替える。すると二階に病室があったので風を遮るものが無く、冷たい風が室内に無条件に入ってくる。
「うわぁ……、さっむ……」
メリーさんはローブをぎゅっと羽織り直し、身を縮める。
「ちょ、キララ。窓を閉めてくれ。さすがに凍えちまう」
レイニーは布団を体に巻き付けて寒さをしのいでいた。
「駄目駄目。空気の入れ替えは必須なの。部屋はもとから寒いんだから我慢して」
私はローブの裏に『ホット』の魔法陣が張り付けられているのでとても暖かい。
「結局レイニーは仕事のし過ぎで倒れたんだってね。バカなの?」
「ば、バカって言うな。俺はバカじゃない。頑張り屋なだけだ」
「まぁ、確かにそうなんだけど……。でも、熱が出るまで頑張るのはバカすぎるよ。周りの子に病気を持ってきたのはレイニーの可能性が高いし、疲れている時はしっかりと休まないと命にかかわるよ」
「うぅ……。そう言われると面目ない……」
レイニーは落ち込み、しずんだ。
「もう、レイニーはしっかりしないと駄目でしょ。子供達が待ってるんだから、体力をしっかりと戻して元気になるのが今のレイニーの仕事だからね」
「ああ、そうだな。ありがとう、キララ。助けてくれて」
「ん? 助けたのは私じゃないよ。すぐ隣にいる子だよ」
私はメリーさんの方に視線を向ける。
「ん? あぁ、そうだったな。さっきまで頭がボーっとしてて誰か分からなかった。だが、メリー本当に大きくなったな……、色々と」
レイニーの視線は完全にデカパイへと向かっていた。なんせ、ローブの上からでもはっきりとわかるくらい飛び出している。これを見ない男はいない。そう断言できるほどの大きさで、破壊力も抜群。
――レイニーほどの年頃なら、確実に食いつくはず……。
「うん。しっかりと食べられてるんだな。よかったよかった。当時はガリガリだったもんな。ここまでふくよかになってくれて俺は嬉しいぜ」
「ほえ……?」
レイニーはメリーさんの胸を素通りして全体像を見渡しただけだった。どうやら、レイニーにメリーさんの美貌が通用しないらしい。
――いったいなぜ。メリーさんは世界が度肝を抜くほど可愛くてボンキュッボンなのに……。
「キララ様、忘れていませんか? 女神のことを……」
ベスパは何かに祈るように手を合わせ、伝えてきた。
――はっ! 思い出した! 超絶美貌を持つ女神の化身……。レイニーのすぐ近くにいたお母さん的存在……。マザーがいたよ。そうか、マザーか。それじゃあ仕方がない……。
日本でトップアイドルに君臨していたこの私ですら初見で負けを認めざるを得ないほどの美貌を持った女性、それこそマザー。
そんな人を間近で一三年も見続けていたら目が肥えるのも仕方がない。逆に言えば、どんなにかわいい子でも平然と接せられるという側面もある。
私の観察眼からすれば、レイニーの好きな人はどう考えてもマザーだ。こうなると、メリーさんの勝ち目が九九パーセント無い。
マザーが眠っているからこそ、レイニーは死に物狂いで頑張っている。つまるところマザーのために死力を尽くしている訳だ。そんな中、メリーさんが何をしても振り向いてもらえる可能性はゼロに等しい……。
「れ、レイニーも前より少し大きくなったんじゃない……。身長とか」
メリーさんはレイニーと会話する。
「そうか? 自分じゃ違いがわからねえからな。でも、メリーは昔と変わらず可愛いままだな。なんならもっと可愛くなったんじゃないか?」
「か、可愛いって連呼しないで……。な、なんか恥ずかしい」
私の目の前で繰り広げられていたのは、眼が肥えまくった高身長イケメンの優男と多くの男と一夜を共にしてきたナイスバディな超絶美少女がイチャツク天国だった。
「特にこの胸とか、昔はぺったんこだったのにな~。いつの間に育ったんだよ」
レイニーはメリーさんの下乳に手をおいて重量を測るように持ち上げる。結構破廉恥な行動をしているのに下心なく笑っていた。
――下心無く巨乳を触れる男がどこにいるんだ……。
「目の前におられますが……」
ベスパは苦笑いしながら突っ込んできた。
「ちょ、もう。勝手に触らないで。レイニーの変態……」
メリーさんはなぜか、ほんの少しだけ嬉しそうな表情で呟く。
「変態呼ばわりするなよ。昔はメリーだってマザーのおっぱいを触っていただろ? 何が違うんだよ」
「お、男の子と女の子じゃぜんぜん違うの。手を早くどけて」
「あ、あぁ。すまん……。そうだよな。もう、子どもじゃないもんな……」
レイニーは潔く手を引いた。純粋すぎるゆえに、下心が一切無い。もう、僧侶の息子かってくらい。いや、僧侶の息子の方が性欲あるだろ。
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