好きになってはいけない理由
「レイニー、調子はどう……って、メリーさん、何をしようとしていたんですか?」
「き、キララちゃん……。どうしてここに……」
メリーさんは眠っているレイニーの顔の前で停止していた。いったい何をしようとしていたのだろうか。
「私はリーズさんに教会に来てもらおうと思って一度戻ってきました。でも、人が増えだしたので待っている途中です」
「な、なるほどね……。えっと、見てた?」
メリーさんは顔を赤くし、私の方を見てくる。特に何も見ていないのだが「見てた」と言ったほうが面白そうだ。でも、今は病院の中、無駄な長話も人の迷惑になるだろう。
「見てませんよ。まぁ、恰好であらかた何をしようとしていたのかはわかりますけどね」
「そ、そうだよね……。あはは……恥ずかしいな~」
メリーさんは年相応のはにかむ表情を見せた。いつも大人ぶっているのに、今日はやけに子供っぽい。胸が特質しすぎて子供に全然見えないのに仕草と顔、声の高さで全然変わるのだな……。
「何でレイニーにキスしようとしたんですか?」
私はメリーさんのもとに歩いていく。
「そ、それは……。その……」
メリーさんは指先をチョンチョンと突き合わせ、私から視線を逸らす。先ほどセチアさんがラルフさんにキスをしていたところを見てドキドキしてしまったがゆえに、近くにいる男で適当に済ませようという軽い考えでもなさそうだ。
「二人の関係は長いんですか?」
「まぁ……、そうだな~、私が普通に生活していたころからだから、ざっと八年くらいの中かな。幼馴染ってやつだよ」
「へぇ~じゃあ、メリーさんが五歳くらいの時に知り合ったんですね」
「うん。私の両親がプロテスタントの信者で、昔は綺麗だったんだけど、今はボロボロの教会に通っていたの。その時、レイニーにあって仲良くなったんだよ。レイニーの方が一つ年上だから、私のお兄ちゃんみたいな存在でさ。毎日のように遊んでたよ」
「教会で出会ったんですね。えっと、メリーさんはいつぐらいから孤児になったんですか?」
「ん~っと、五年前の九歳くらいの時かな。ドリミア教会が街にいきなりやってきて正教会以外の信者を失業させたの。そのせいで私の両親も共倒れしちゃって……私は孤児になった。初めはマザーの教会で面倒を見てもらっていたんだけど、孤児が増えたせいで食料が足らなくてね……。歳が上の者は出ていくって言うのが当たり前になった。聖典式はドリミア教会の方で行われるから、私達はスキルを持ってなかったの。レイニーはギリギリ取得できたみたいだけどね」
「レイニーのスキルはバートンと友達になれるスキルなんですよね。本人は嫌がってますけど」
「そうだね。本当は強いスキルを貰って冒険者になってお金を稼ぎたかったんだと思うよ」
「なるほど……、メリーさんは一〇歳になって教会を出た。その後三年間は大変でしたでしょうね」
「もう、想像を絶する辛さだったよ。毎日泣いてたもん。特に冬なんて何度死ぬかと思ったか……。レイニーがローブを持って来てくれなかったら私は死んでるよ」
「レイニーがローブを……、盗品でしょうね」
「うん……。でも、盗まないと使えないし。使わないと死んじゃう。ひもじい生活をしてたのに胸は膨らんでくるし、お尻も大きくなってきて、履ける下着が無くなった時はローブで無理やり隠しながら生活してたな……。あれじゃあ、野犬とかといっしょだよ」
メリーさんは穏やかな表情で言うが、ほぼ半裸状態で生活していたという。どんな精神状態なのだろうか。でも、三年間も生き残ったのはそれなりの理由があるはずだ。
「三年間も放浪者として生きられた理由は何だと思いますか?」
「ん~? やっぱり助け合いだよ。私は本当にお金が無い時、大人の人の話を聞くって言う名目でお金を貰いながら家の中で一晩止めさせてもらってたんだけど、皆、辛そうだったんだよね。ほんと、私に抱き着いて泣きじゃくるんだよ。私の方が子供なのに……」
売春ならぬ買冬……か。大人も泣きたい夜があるよな。辛い世の中の時は特に。
「私は辛そうな人を見ると放っておけないたちでね。お金も貰ってるし、おっぱいでパフパフしてあげると皆、喜ぶんだよ。そのおかげで嫌悪感はちょっとなくなったかな。ま、酷い人もいたんだけどね~。でも、その人達のおかげで、今、私は生きている。だから助け合いは必要だよ」
メリーさんは私よりも大人すぎて話についていけなかった。あれだ……夜のお店で働く人と昼に働いている人とでは話がかみ合わないという現状がいま起こっている。まぁ、助け合いと言う部分にだけは共感できた。
「なるほど、助け合いですか。にしても、メリーさん、さっきからレイニーの手をずっと握っていますけど……、レイニーがそんなに心配ですか?」
「こ、これはその……久々に触ったら大きくなってて男らしい手になっているなって思って……」
レイニーは身長が高いので手も大きい。まだ一五歳にもなっていないのに一七〇センチ近くある。もしかしたら二〇歳の時には一八五センチメートルくらい育ってしまうのではないかと思う。
この世界の平均身長はわからないが、子供の身長は結構高めだ。多分、日本の平均身長の五センチ増しぐらい。
女の胸の大きさも一サイズ、二サイズ上くらいか……。
栄養が偏っているのに、遺伝子が優秀なのかな。まぁ、神のご加護が貰えるのだから神に愛されているのは間違いない。でも、教会で聖典式を受けないとスキルを貰えない。
本来はどんな人でもスキルを貰えるはずなのに、正教会やドリミア教会が金儲けのため、人々からお金を取っているので聖典式が受けられない人がいるのが現実だ。
「女性は男性の手に惹かれやすいって言う傾向があるんですよ。知っていましたか?」
「え……。う、嘘……。わ、私はレイニーに惚れてないよ。全然これっぽっちも惚れてないよ。私の初めてのキスはレイニーが良かったなんて思ってないよ……」
メリーさんは嘘が下手なのか、顔の表情と体の動きが全然あっていない。両手を前に出してブンブン振りながら否定しているせいで大きな胸がバインバインと揺れ、いやらしい。
「そんなに否定しなくてもいいじゃないですか。好きなら好きでいいと思いますけどね」
「わ、私はレイニーにとって妹みたいな存在でしかないし、迷惑ばかりかけてきた。私がレイニーにしてあげたことなんて何もないの。私は馬鹿で、ドジで脚が遅いから、盗みも下手でさ……。レイニーにいつも助けてもらってた。ほんとカッコよかったんだよ……。い、今もカッコいいけど……」
「メリーさんがレイニーを好きになってはいけない理由がよくわからないんですけど」
「レイニーは何でもできるの。頭は悪いかもしれないけど要領はすごく良いんだよ。だから、何でもぱっとこなしちゃう。きっと将来は大物になって教養がある清楚で綺麗な人と結婚すると思う。私なんて眼中にないし、好きになってもどうせ叶わないなら好きにならない方がいいでしょ」
――何を言っているんだ、この超純粋ビッチ。自分がどれだけ化け物みたいに可愛いのか知っていて言っているのか、あぁ~んごら~!
「キララ様、口調が頭悪くなっていますよ」
――ん、んん。はぁ、メリーさんのことを嫌いって言う男の人がこの世に指の数いるのかって疑うくらい可愛くてエロいのに……、自分は妹補正付きでレイニーの眼中にないだなんて……。レイニーが起きたら聞いてみるか。メリーさんをどう思っているのか。
私が考え事をしていると、レイニーがバッツ! と上半身を起こし、辺りを見渡す。
「ど、どれだけ寝てた。いっ!」
レイニーはいきなり上半身を起こしたからか、頭痛によって苦しんでいた。それを見た途端、メリーさんはレイニーにムギュっと抱き着き、停止する。
「メリー、まだいたのか。こんなところにいたらお前にも風邪が移るぞ。風邪になったら無駄に金が無くなるからな。加えて辛くて稼げなくなる。金を貰っても風邪はひきたくないぜ」
「そうだね……」
レイニーの表情を見るに、本当に妹に抱き着かれているくらいの感情しかなかった。あんなに大きな胸に抱かれているのに何も感じないのか。ま、まぁ。今はそんな話している場合じゃない。
「レイニー、子供達の応急処置をしておいたから、もう大丈夫だよ。あと、レイニーの表情が軽くなっているけど、何で?」
「え? 何でだろうな。何かを飲まされたような気がするけど、記憶にねえな」
レイニーは体の熱が抜け、気分がよさそうだ。風邪ならそんな簡単に治らないと思うのだけど、いったいなんで風邪が治ったんだろう。リーズさんの回復魔法かな。
「おや、もう起きたんですか。回復が早いですね」
病院を巡回してたリーズさんはレイニーの病室にもやってきた。




