子供達の病状
「セチアさん。まずは室内の換気をします。教会の窓をできるだけ開けてください。寒いかもしれませんが、病気の素を外に出します」
「わ、わかった」
セチアさんは教会内にある扉と窓を開け、風通しを良くした。
子供達の汚物が処理しきれずに地面に広がっており、臭いが酷い。加えて不衛生だ。この状況じゃ、誰でも病気になる。
「『転移魔法陣』」
私はブラットディア達が入っているサモンズボードを手に取り『転移魔法陣』の出口とつなぐ。『クリーン』で綺麗にする前に汚物を処理しないと意味がない。
『転移魔法陣』から黒々と光る一〇〇〇匹のブラットディアが教会内に解き放たれた。
私はブローチになっているディアを手で掴み、脳内で伝える。
――ディア、教会内の汚物を全部食べつくして。
「了解です。ついでに私達の唾液で瘴気の発生を食い止めます!」
ディアたちは床に落ちたゴミを綺麗にしてくれるロボット掃除機のように床を這いまわりながら汚物を食い尽くし、綺麗にしていった。
――ベスパ。教会内に『ヒート』の魔法陣を数枚張り付けて室温を上げて。
「了解です」
ベスパは魔力を使って『ヒート』の魔法陣を壁に転写し、発動させる。すると室温が体感で一度に満たなかったのが、二〇度ほどに上がり、快適な空間になる。
「セチアさん。私達は子供達の体を拭きましょう。体が汚いとそれだけで気分が滅入りますから、少しでも気持ちを上げさせてください」
「う、うん!」
――ベスパ、紙と布をできるだけ大量に持って来て。あと、大きめの桶と袋もお願い。出来れば手袋も作ってきて。
「了解です!」
ベスパの仕事の速さは尋常ではなく、私がお願いして一から二分後には完遂してくれる。そのため、早急な手当が可能だった。
子供達は教会の中で雑魚寝をしており、薄い布を敷いて寝ているだけだった。どこの戦場だよと思うが、お金がかつかつなんだから仕方がない。
私はベスパが持ってきた布の端を持って口に当てながら後頭部で縛り、簡単なマスクを作る。まぁ、何の効果もないけど、しないよりはましだ。加えてネアちゃんが作った浸透性が少ない手袋を嵌めて、準備完了。セチアさんも私と同じように準備をして子供達の応急処置を行っていく。
私とセチアさんは子供達の服を脱がせ、汚れを紙で拭き取り、袋に入れる。肛門や陰部も徹底的に綺麗にして感染症やら粘膜にくっ付いて増える細菌の感染病を防ぐ。最終的に天空まで持って行き、塵になるほど燃やすので細菌とて死滅するはずだ。何なら『転移魔法陣』に入れて一生出てこれないようにしてもいい。
子供達の体を紙である程度綺麗にした。私は『ホット』と『ウォーター』でお湯を作りベスパが持ってきた大きな桶に注ぐ。タオルをお湯に浸し、しっかりと搾って子供達の体を再度拭いていった。
子供達の体は細張り、筋肉があまりない。とても弱弱しい体で健康的とはとても言えない状況だった。子供達を綺麗にしたあと、ベスパとネアちゃんお手製のダサい下着と分厚く暖かい服を着せる。病院の入院着のようだが見かけは悪くない。バスローブと言ったほうがいいか。
汚かった床はディア達のおかげでツルツルのピカピカになり、瘴気の黒ずみ一つない。
私は汚れている布を取り換え、ディア達に食べさせた後、ベスパが作った新しい布を床に敷き、子供達を寝かせる。これだけでも、だいぶ顔色が良くなった。加えて、先ほど用意しておいた冷えピタもどきを子供達の頭に乗せて置き、熱を少しずつ吸収してもらう。羽毛布団は容易出来なかったが、毛布のような毛深い布をネアちゃんに作ってもらい、子供達の体に掛けて行く。
すると熱にうなされていた子供達が意識を取り戻した。
「はぁ、はぁ、はぁ……。キララお姉ちゃん……なの?」
「そうだよ。辛いかもしれないけど、もう少し我慢してね。すぐに良くなるから」
「う、うん……。レイニーも大丈夫だって言ってくれたから……私も大丈夫なの……。レイニーはどこなの……?」
少女の弱弱しい手が私の手を握る。
――レイニーは皆に慕われているんだな。まぁ、皆の兄のようでありお父さんのような人だからな。今、レイニーが倒れてるとか言わない方がよさそうだ。
「レイニーは病気の酷い子を病院に連れて行ったよ。すぐに戻ってくるから安心してね」
「そうなんだ……。私もレイニーと一緒に病院行きたかったなぁ……」
「大丈夫。レイニーにすぐ会えるよ。だから、ゆっくりと休んで」
「うん……。ありがとう、キララお姉ちゃん……」
少女は目をつぶり、再度眠につく。
「あとはこれを飲ませるだけだ……」
私は腰に巻き着けてある試験管ホルスターから試験管を一本取り出す。
スグルさんに貰ったガラス製の試験管内に入っているのはライトが作った魔造ウトサの特効薬だ。でも、スグルさん曰く万能薬としても使えるらしい。
実際に使った例がないのでどのようになるのか不明だが、スグルさんはライトが作成した特効薬を『聖水のようなものだから副作用なく使用できる』と言っていた。本当なら凄いけど……。
「全部飲ませる訳にはいかないから、薄めて飲ませよう」
――ベスパ、私の脳内で想像した物を作ってくれる。
「了解です」
私は吸い飲みを想像する。急須のような形で注ぎ口が少し長い道具だ。看護の時によく使い、ドラマ撮影のさい、看護師の役をした時に使った覚えがある。
ベスパは私の脳内を見て作れると判断し、外に飛び出していった。少しして、私の想像していた通りの吸い飲みをベスパが作ってきた。
「このような形で構いませんか?」
――うん、完璧だよ。これをもう一個作ってきて。
「了解」
私はベスパから吸い飲みを受け取り、試験管に入っている特効薬を半分注ぎこむ。
ビーに命令して荷台から真水の入った牛乳瓶を数本持って来てもらい、吸い飲みに水がいっぱいになるまで注ぎ、特製の薬が出来た。効果の保証はないが、瘴気に効くのだから病気にも効くはずだ。
私は少女の頭を少しだけ持ち上げ、口に飲み口を当てて吸い飲みを少し傾ける。水がゆっくりと口内に入り、少女は嚥下を繰り返す。
「よし……。特効薬を付けた布で飲み口を拭いて衛生にしないと……」
私はアルコール消毒をするように特効薬を含ませた布で飲み口を拭く。
ベスパが戻って来たので、セチアさんにも同じ工程を行ってもらった。子供達の人数は四六人ほどおり、全員の応急処置を行っていたら三時間ほど掛かってしまった。でも、特効薬を飲ませたあとから、うめき声をあげる子供がいなくなり穏やかに眠っている。
これだけの数を荷台で運ぶのは無理があり、リーズさんをこの場に呼んだ方が早いと判断した。
「セチアさん。窓を閉めて少しの間この場で待っていてもらえますか。私はリーズさんを連れてきます」
「うん。その方がいいと思う。後は私に任せて」
私は部屋の中をライトのように『消滅』で全ての病原菌を消したかったのだが、生憎『クリア』を使えない。そのため下位互換の『掃除』で見かけだけでも綺麗にしておく。
私は教会を出て袋にパンパンにつまっている使用済みの紙と布をベスパに受け渡す。
「ベスパ、空気がある出来るだけ高度な場所に移動して。その後、私は汚物を拭いた紙と布、汚い服を燃やすために『ファイア』を『転移魔法陣』で送る」
「了解です。燃やし残しが無いように魔力で永続的に燃やし続けましょう。塵も残しません」
ベスパは大きな袋を持って上空に飛んで行く。そのまま、ビー達が一キロメートル置きに並び『転移魔法陣』を発動した。八秒後、ベスパから声が聞こえる。
「キララ様。八八八八メートルまできました。『ファイア』を発射してください」
「わかった」
私は指先に展開している『転移魔法陣』に『ファイア』を打ち込む。すると、空で真っ赤に燃える光が現れた。八分ほど燃え続け、消滅する。八八八度以上の炎で焼かれればノロウイルスだろうが、インフルエンザウイルスだろうが消滅する。細菌なら、熱によって体のタンパク質が変成し死ぬ。子供達を苦しめた罰を死によって償ってもらおう。
私は一等星のように輝く炎を後目にリーズさんの病院まで移動していた。荷台は置いて行き、レクーの背中に乗って移動している。この方が、小回りが利くし早いのだ。
私はリーズさんの病院に最速で到着した。先ほどよりも患者さんが多い気がする……。まぁ、病院なのだから病気の人が集まるのは当たり前か。
私は看護師さんに尋ね、リーズさんが暇ではないと知る。
――そりゃあ、これだけ人がいたら忙しいよな。リーズさんはこの病院の医院長だし……。こんな人が多い時に子供達を連れてきたら迷惑だ。落ちつくまで待つしかないか。生憎、子どもたちの病状は安定しているし、死にはしないはず。ベスパ、子供達の容体が変わったらすぐに知らせて。
「了解です!」
ベスパは敬礼をしながらはっきりと言った。
私は病院の患者数が落ち着くを待つ間にレイニーの様子を知ろうと思った。
看護師さんに尋ね、レイニーと言いう少年が寝ている病室を聞く。
私は病室を知り、現状がどうなっているのかを確認しに行く。
「ここか……」
私は病室の前まで移動し、扉を横にガラガラと開けた。
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